『リゾナンターЯ(イア)』


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円筒型の空間が、天に向かってどこまでも、伸びている。
ここは秘密結社ダークネスの地下会議場、通称「蒼天の間」。暗闇には相応しくない僭称だが、この場所を考案した人
間が名前をつけたのだから仕方が無い。もちろん「皮肉が利いててええんやない?」という首領のお墨付きではあるの
だが。

丸く囲まれた空間に配置された、13の席。
先頃復活した転移装置「ゲート」により地下深いこの場所に最初に現れたのは。

「何よ、まだ誰も来てないじゃない」

最初に席を埋めた女性が、厳しい顔をして周囲を見渡す。
時を操るものは、誰よりも時に対し正確である。ダークネスの幹部が一人、「永遠殺し」もまた機械の如くその身に時を
刻み続けていた。

「さすが『永遠殺し』!一番のりですね!!」

と思いきや、先客がいたようだ。ダークネスの幹部の中で一番の、新人。能力は瞬間移動、戦闘能力は取るに足りず、
また特筆すべき特徴も無い。なぜ彼女が幹部になれたのか、組織の七不思議の一つとして構成員の間で語り継がれ
るほどだ。

「あんたは確か…コバヤシ、コトミ?」
「あの全然名前が違うんですけど。小川、小さい川って書いてオガワです」
「そう」

「永遠殺し」はつまらないものを見た顔をしたあと、自らの席でゆっくりと瞳を閉じた。静寂な時間、しかしそれはす
ぐに破られる事になる。

「キャハハハハ!早いじゃん、『永遠殺し』。早起きが趣味のおばちゃんかよ!!」

彼女の登場によって、場が一気に下世話になる。
甲高い笑い声とともに現れたのは、「永遠殺し」と並ぶ組織の重鎮「詐術師」。だがその小さな体同様、彼女の言動に
は幹部らしい重さはまったくない。

「相変わらずね、『詐術師』。ビジネスがうまくいってるみたいで何よりだわ」
「いやホントホント。おいらが手がけた例の振り込め詐欺集団あるじゃん。あれが予想外に当たっちゃってさあ。上納
金が半端ないってーの!!」

下品に笑う「詐術師」。頭の中は金のことばかり、非常に判りやすい。
だが、彼女の働きが組織の大きな資金源となっていることもまた、事実。

再び、ゲートが開かれる。
現れたのは、黒いボンテージ姿の妖艶な女性。組織が誇る粛清人が一人、「黒の粛清」だ。

「あっ、お二人とも聞いてくださいよぉ!紺野のせいで、あたしひどい目にあったんです!もう頭にきちゃう!!」

言いながら、片方の足をぶらぶらさせる。
巻き付けられた包帯が、過剰なまでの痛々しさを演出していた。

「聞いたぜ?お前さあ、紺野にいいように利用された挙句待ち構えてたオマメに手酷くやられたんだってな」
「…自業自得ね」
「そんなあ…別にやられたって言うより、卑怯な手で騙されたって言うか。ちょっと何笑ってんのよオガワ!下っ端の
分際でむかつくわね!!」

先輩二人に冷たくあしらわれた腹いせに、下っ端のオガワに怒りをぶつける。
上に弱く、下に強い。ただし、下への当たりの強さはあまりにも苛烈だ。

「急いては事を仕損じる、ってやつ?紺ちゃんの話も聞かないでがっつくからそんなことになるんだよねえ」

そこに現れた、首に巻いた赤いスカーフが特徴的な、もう一人の粛清人。
「赤の粛清」は飄々とした、それでいて明らかに相手を見下した口調でそんなことを言う。
もちろん、言われた側が黙っているはずもなく。

「横からいきなり登場してきて、言ってくれるじゃない。あんただって始末できてないでしょ、勝ったリゾナンターた
ちを」
「そうだね。まあ、元を正せば今回は『リゾナンターへの干渉』は命令違反だけど。にゃはは」
「そ、それは!!」

「黒の粛清」は敗者である「ベリーズ」と「キュート」を。「赤の粛清」は勝者である「リゾナンター」を粛清する。
Dr.マルシェこと紺野博士の前で交わされた盟約はもともと二人の独断。成功すればまだしも、失敗しては声高に
宣言できるような話ではない。

377 自分:名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/06/01(土) 14:34:57.34 0
「それにお前さあ、あのガキどもをよりによって警察に奪われてんだろ。そっちのほうがかなりヤバくね?」
「粛清人が粛清の対象。笑えない冗談ね」

「詐術師」「永遠殺し」に立て続けにからかわれ、黒い顔を青くする「黒の衝撃」。
しかし、

「『黒の粛清』の粛清かあ。あたしが狩っちゃおうかな?」

という「赤の粛清」の一言で頭の血が一気に上る。
先輩である二人に比べ彼女はあくまでも同格、その上同じ粛清人としてのプライドがその言葉を許さなかった。

「へえ。面白いじゃない。狩ってもらおうかしら。あんたなんかに狩れるほど、この首は安くないんだよ!!」
「…粛清しちゃって、よいのかな?」

「赤の粛清」は笑っていない。
目に見えるような殺気と殺気が、衝突する。一触即発の状況を「永遠殺し」は傍観し「詐術師」は面白がりオガワはお
ろおろしている。そんな状況を変えるものが、一人。

「そこまでにしときな。ったく朝から女同士のヒスとか勘弁してくれって」

開いたゲートとともに現れた、金髪の青年、のような女性。
そんなものは見飽きたとばかりに、席にどっかと座る。


「『鋼脚』ぅ、ひどいんだよ。そこのピンクバカがあたしのこと…」
「それよりも、問題はあいつがうちらを制してまで仕掛けた策をしくじった。ってことだろ」

しなを作り寄り添うが如くの「黒の粛清」を無視し、「鋼脚」が言う。あいつ、とは言うまでもなく組織の「叡
智の集積」Dr.マルシェのこと。

「そんな人間が、再びあたしたちをこの場へ呼び寄せた。納得いかないわね」

「鋼脚」の言葉に重ねるように、不満を述べるのは。
幾重もの着物を重ね着した、長い黒髪の女性。その目で未来を見通す組織の守護神、「不戦の守護者」だった。

「みんなの前で謝罪でもすんじゃねーの?おいらだったら『たぶん何かがあったんだと思います』とか言ってし
らばっくれるけどな!キャハハハハハ!!」

何がおかしいのか、自分の言ったことで更に爆笑する「詐術師」。
お寒い所業ではあるが、室内の温度が急に下がる。ゲートとともに「氷の魔女」が現れたからだ。魔女は開口一
番、あんただったら知ってるでしょ、と言わんばかりの口調でこう訊ねる。

「『不戦の守護者』さんの目で、見通せないんですか?」

「氷の魔女」は知っている。先日、紺野と接触した時に彼女が「次に繋がる良いデータは得られました」と言っ
ていたことを。しかし、あえてそれは口にしない。それは彼女自身がこの場で説明するだろうし、第一面倒だか
らだ。


「今のところ、見えないね。つまり、あの子は組織にとって有用な物事を進めている。けど…」
「それが何か、ってことだろ」

「鋼脚」がため息をつく。元々彼女は回りくどいことが好きではない。紺野のやり方はいかにも遠回りで、必要
の無い複雑さに塗れているようにしか「鋼脚」には見えなかった。

「だいたい隠し事が多いのよ、あの子」
「どうでもいいけどね。楽しい戦いさえ提供してくれれば」

まるで正反対の意見を述べる、二人の粛清人。
互いの考えを聞くなり、黒はあからさまに顔を背け、赤は侮蔑の笑みを見せる。

「ま、それは本人が来てからゆっくり聞いたらええ」

円卓の中央。
開いたゲートから姿を見せるのは、ダークネスの「首領」。
この大組織を今の形に作り上げた組織の長だ。

「みんな思うところは色々あると思うけど、あの子は無駄なことは決してせえへん。必ず何らかの結果を掴んで
くる。せやから私も、あの子には全権の信頼を置いてる」

形はどうあれ、円卓を囲む9人の幹部が同意する。
それだけの功績を、紺野はあげていた。先代の科学部門統括より引き継いだ人工能力者の育成、転移装置「ゲー
ト」をはじめとした諸機器の開発、そして「銀翼の天使」にかつてのリゾナンターが壊滅寸前まで追い込むこと
を仕向けたこと。

13の席のうちの、4つの空席。
一つは、隔離施設に収容されている「銀翼の天使」のもの。
一つは、あまりの悪行の為懲罰的措置を取られている「金鴉」「煙鏡」のもの。
一つは、突如として消息を絶ってしまった「黒翼の悪魔」のもの。
そして最後の一つが、今回の会議の、主催者。

ゲートではない、本来の蒼天の間に設置された扉が開く。
気圧差で巻き起こされた風に、白衣が靡いていた。




投稿日:2013/06/01(土) 14:33:11.13 0


★★


いつものように、遅れての出席。
しかし、幹部たちがその遅刻を責める事は無い。
今回はただ一点、いつもと違うことがあったからだ。
白衣の女性、Dr.マルシェこと紺野博士の傍らには小さな少女がいた。

「おいおい、何の冗談だよ」

咎を責めることすら忘れてしまう、異常な光景。
「鋼脚」にとって、紺野が小さな子供を連れている姿はそれこそ冗談にしか映らなかった。

「紹介します。彼女の名前は『さくら』。i914のデータを元に作り上げた、人工能力者です」
「よろしくお願いします」

さくら、と呼ばれた少女がぺこりと頭を下げる。
i914、という単語に、その場に居た幹部たちは心のざわつきを抑えることができない。
光を使役する、という強大な能力を保有する、前任科学部門統括の最高傑作。そして、組織を裏切り組織に弓を引いた、最低の失敗作。

「おい、どういうことだよ!お前今i914って言わなかったか!」
「あんたもあいつについてはよく知ってるでしょ、何を考えてるの?」

「詐術師」と「永遠殺し」が紺野を責め立てる。
しかしそんな言葉は耳に入らないと言わんばかりに、話を先に進める。

「みなさんにお願いしたいのは、この子の教育についてです。さくらは、素晴らしい能力を持っています。いずれ組織を
支える大きな力です。そこで、幹部のみなさんにこの子の研修をしていただきたいのです」

突然の、依頼。
通常、ダークネスの一員となった能力者は専門の養成施設に入り、施設の教官によって研修期間を設けられる。
幹部が直接新入りの面倒を見ることはそうあることではない。

「めんどくさいから、パス」
「合コンの必勝法とか教えてやりゃあいいのか?キャハハハハ!!」

「氷の魔女」が肩を竦め、「詐術師」が小さな体を揺らし大笑いする。

「別に養成施設のような本格的な研修をしてくれとは言いません。ただ、さくらにはより多くの世界を見てもらいたい。
そのために少しでも力をお貸しいただければと思います」
「その子、力は確かなんやろうな」

「首領」が、確かめるように、訊いてくる。
紺野は「叡智の集積」の二つ名に相応しく、力強く頷いた。

「ほな、みんなもよろしゅう頼むわ」

組織において、首領の言葉は絶対である。
先ほどまで否定的な表情を浮かべていた幹部たちも、上からの命令なら従わざるを得ない。
こうしてさくらの実地研修の契約は、結ばれた。

紺野はさくらにあなたの用事は済んだので先に戻るよう指示する。小さく頷いたさくらはその場にいた幹部たちに一礼す
ると、再び扉を潜り外へと消えていった。

扉の閉まる、ずしりとした重い音。
紺野は、同時に宣言する。

「みなさんもご不満や不安はあることかと思います。しかしながら、彼女は今回の計画になくてはならない存在。そのた
めに、私は彼女を造ったのです」

今回の計画。
それが何を指しているのか知る者は、いない。
顔を顰めるもの、黙りこくるもの、つまらなそうに手鼻をかんでいるもの。だが、それ以前にある事実を問いただしたい
と思う人間が、いた。

「あんたの計画はともかく。前回あんたが仕掛けた戦いの顛末について説明が必要なんじゃないか?あたしたちを押しの
けてまで、実行した作戦のさ」

語り口は鷹揚だが、有無を言わせない迫力が「鋼脚」にはあった。返答次第では、ただでは済まさない。その意志が、彼
女の強い視線から感じられる。

先の会議において出されたリゾナンター討伐指令。
我こそはと立候補する「黒の粛清」「赤の粛清」「鋼脚」の三人を自前の理論で退け、その権利を得たのは紺野だった。

「彼女たちは…よく戦いました。結果負けはしましたが」
「勝った負けたはどうでもいい。ついでにそいつらの身柄が警察の手に渡ったこともな。でもさ、あんたが仕掛けた『ち
ょっかい』のおかげでリゾナンターたちが成長しちまった件について、どう言い訳してくれるんだ?」

紺野は答えない。
さらに「鋼脚」の追求は続く。

「先日、新生リゾナンターたちが『エッグ』のあぶれ者7人と交戦し、撃退した。能力自体はもちろん、戦い方に関して
も進歩が窺える。うちの部署の連中からの報告だよ」
「……」
「紺野、あんた言ってたよな。下手に強力な力でねじ伏せようとすると反動が来るって。けど、拮抗した力をぶつけた結
果はこれだ。この責任は、どう取ってくれるんだ?」

紺野は、静かな湖面のような瞳で「鋼脚」のことを見ている。
いささかも揺るがない、その水面。

「責任、ですか。私の記憶が確かならば、責任とは失態を犯した時に取るものだと」
「…何が言いたい?」
「ならば私が責任を取る必要はないですよね。『ベリーズ』『キュート』と彼女たちの戦いによって、貴重なデータを得
ることができた。彼女たちの成長はその代償としては、安い犠牲に過ぎません」

紺野の言葉で、会議場がざわつく。
自らの失態であるはずの襲撃失敗を、データの入手という功績にすり替えた。そう捉えられても、仕方ない。

「そのデータって、何なのよ。勿体ぶった言い方しちゃってさ。下らないものだったら、ただじゃおかないんだから!」

ここぞとばかりに、噛みつきにかかる「黒の粛清」。
例の一方的な密約を取り沙汰されるのを恐れていた粛清人に、この流れは渡りに舟。

「貴重、と自ら称するからにはそれなりのものなのよね?」
「まあ、組織に不利益なものではなさそうだけど」

ダークネスの重鎮たちも揃ってそう口にする。

「もし間男がその家のダンナにばったり出くわした場合の統計、みたいな下らないデータだったらおいら腹抱えて笑っち
ゃうけどな!!」

キャハハハハ、と甲高い不愉快な笑い声が吹き抜けの天井まで響き渡った。
もちろん、誰も笑わない。

紺野はふう、とため息を一つつき、それから口を開く。

「いいでしょう。今回みなさんをお呼びしたもう一つの理由をご説明します。私が採ったデータは…リゾナンターが引き
起こす、共鳴現象についてのデータです」

今度は別の意味で、幹部たちが色めき立つ。
それもそのはず、ダークネスが、たった10人程度の能力者集団を注視せざるを得ない事情がそこにあるからだ。

共鳴現象。
リゾナンターたちが心を通わせ、自らの力を共鳴させ増幅させ、そして一気に解き放つ。
個々の能力においては歴然たる実力差をつけていたダークネスの幹部たちが、9人のリゾナンターを前に悉く撤退を余儀
なくされた理由。

「ちっ。忌々しい」

「氷の魔女」が、不機嫌そうに掃き捨てる。ただ、彼女だけではない。この場にいるほとんどの幹部が、その力に煮え湯
を飲まされた経験があった。

「私がリゾナンターたちにキッズをぶつけたのには大きく分けて二つの目的がありました。一つは、新生リゾナンターの
戦力把握。そしてもう一つが、先に述べた共鳴現象のデータ解析です。そして『ベリーズ』に与えた擬似共鳴の能力はリ
ゾナンターの共鳴現象を引き出し、比較し、解析するにはちょうど良い存在だったのです」

言いながら、紺野が円卓中央に浮かび上がるモニターを起動させる。画面に大きく映し出されるのは、先代のリゾナンタ
ー9人の画像付き相関図。リーダーである高橋愛とメンバーの田中れいなの間に、太い双方向の矢印が記されていた。

「かつての共鳴現象の仕組みは、高橋愛、つまりi914と田中れいなの存在に大きく依存していました。簡単に言えば、i914が
エネルギー出力装置、田中れいながエネルギー増幅装置です。そして出力装置はその他のメンバー、言い換えるならサブ出力
装置に支えられていました」

言い終わると、愛の画像は消えてなくなり、同時に亀井絵里、ジュンジュン、リンリン。久住小春、光井愛佳。そして新垣里
沙の画像もフェードアウトする。入れ替わるように姿を現す、鞘師里保を筆頭とする8人の若きリゾナンターたち。
れいなとメンバーたちの間に、9つの細い双方向の矢印が結ばれた。

「ところが、i914がリゾナンターを離脱することでメインの出力装置は消滅します。その役割は、田中れいなを除く全員のリ
ゾナンターが力を合わせ、補っているのが現状です」
「つまり、i914がいなくなったところで状況は変わらなかったってことかよ」

「鋼脚」の問いに、紺野は首を横に振る。

「確かに現状でも共鳴の力を引き出すことは十分可能でしょう。ただし、『銀翼の天使』を退けるほどの共鳴現象を引き起こ
すにはi914クラスでないと不可能です。最も、我々としても『天使』の力を常に安全な形で行使することはできませんが」
「おいおい、ってことはナニか?今のガキンチョたちが使う不完全な共鳴能力に対しても今のおいらたちじゃお手上げだって
言うのか?」
「そうですね」

あっさりとした返答。
そうですね、の一言では納得できない面々が立ち上がる。

「じゃあさ、共鳴能力を使われる前に皆殺しにすればいいんだよね」
「もっと簡単な方法があるわよ。一人一人孤立させて、一人ずつ殺せばいいわ」
「いや、半分くらい殺っちまえば、共鳴現象の威力は落ちるはずだ」

「赤の粛清」、「黒の粛清」、そして「詐術師」。
許可さえ出れば、即実行に移しそうな三人。しかし紺野は再び、首を横に振る。

「そんなことより、もっと確実な方法があります。共鳴現象を引き起こす両輪、その片方を外すだけで、簡単に我々はその現
象を封じる事ができる」
「田中れいな、か」

首領が、れいなの名前を呟く。
それは、首領自ら「田中れいなの討伐命令」を下したに等しい。

「リゾナンターを打ち崩すには、田中れいなという共鳴現象の両輪を構成するうちのひとつを外さなければなりません。それ
さえ叶えば、彼女たちはたやすく自壊するでしょう」

紺野が、ゆっくりと視線を中央のモニターに移す。
れいなの画像がゆっくり消えてゆくと、他の9人のメンバーたちの画像はまるで散りゆく落ち葉のようにはらはらと画面の外
へと落ちていってしまう。

「なるほど。あたしたちはれいなちゃんを血祭りにあげればいいわけだ」

目を爛々と輝かせ、「赤の粛清」が嬉しそうな表情をする。

「申し訳ないんですが、ただ戦って潰す、というのは今回の計画の趣旨ではありません。あまり派手な動きはスポンサーの方
たちも望んではいないようですし」
「じゃあ、どうすんの?またあんたの極めて個人的な趣味を満たす作戦を実行するわけ?」
「我々は、罠を張ってただ待ち構えていればいい。獲物は勝手に飛び込んで来ますから」

「氷の魔女」の皮肉をかわし、紺野が言う。個人的趣味はあくまでも副産物なんですが、という言葉はとりあえずは止めてお
いた。

「もちろん、そのための準備は既に済ませてあります。みなさんにも、ご協力していただければと」

返事を聞くまでも無い。
田中れいなを落とす事。それはダークネスの幹部たちの望みの最大公約数。
そう紺野は確信していた。
自らの計画、「プロジェクトЯ」が必ず、成功すると。


会議は閉会した。
ゲートの作動によって、再び各々の持ち場へと戻る幹部たち。
自らも例の長い廊下を通って帰ろうとする紺野だが、ある人物がまだその場に残っていることに気がついた。

「…どうしました?『赤の粛清』さん」
「ちょっと、聞きたい事があるんだよね」

赤い死神が、にこりと笑顔を作る。
だが、紺野は知っている。彼女の表情、感情、全てがツクリモノであることを。
心を闇に食われたダークネスの幹部たちの中でもさらに異質な、存在。「黒翼の悪魔」が好奇心から、「黒の粛清」が残虐性
から人を殺めるのと違い、彼女のそれはただ単純に強い存在をねじ伏せる事を目的とした殺人行為であることを。

そしてそれは、ある一点の目的へと繋がっているに過ぎないことも。

「何でしょう。答えられる範囲でなら、お答えしますが」
「さっすが紺ちゃん、気前がいいね。じゃあ単刀直入にお聞きします。紺ちゃんの計画がスタートするまで、まだ時間があっ
たりするの?」


何を目的としているのか。
判りやすいと言えば、判りやすい。

「『勝者』へのごほうびですか?」
「まあね。『黒の粛清』だけ、ずるいじゃん」

赤いスカーフが、ゆらりと揺れる。
その緋色の軌跡を眺めながら、紺野は思う。
もし今、「赤の粛清」とリゾナンターたちがぶつかったら。
全滅か、あるいは。その結果は、実に興味深い。

ただ、目先の愉しみによって先の計画を棒に振るのはいささか愚か過ぎる。

「好きにしてください。ただし、あまりやり過ぎないようにお願いしますよ」
「りょーかい」

得られた回答に満足するかのように、ゲートの作用によって掻き消える赤い影。
紺野は眼鏡を外し、白衣のポケットに忍び込ませた布でレンズを拭く。

「もちろん、それなりの手は打たせていただきますが」

その言葉は、誰にも届くことなく静かに消えていった。




投稿日:2013/06/04(火) 05:40:26.72 0