『Sweet happiness』


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ケーキを食べる。モシャモシャと食べる。
フォークの先についたいちごを食べる。酸味がした。
サイダーを飲む。シュワシュワと小粒の泡が浮かぶ。

第三者の目線。傍観する視線。
何処となく自分は、そういう目をする事が多いのだろうか。
自分の誕生日だから嬉しい部分もあるのに。

生まれた日を大切にする、祝ってくれる仲間が居る。
この世界では、身近にそういう子達がたくさん集まっていた。
それに疑問は持たない。
ありがとう、それを呟けば皆は笑って、自然と空気が温まる。

お皿に詰まれていたケーキが無くなって、テーブルから
別のものを持って、モシャモシャと食べる。
隣から佐藤優樹の声が聞こえた、ゲームをしようと誘ってくる。
先ほどから工藤遥や小田さくらと一緒に遊んでいたのに。
その二人も自分を見て手招きしている。

食べてるから後でね、とやんわり断ると、今度は生田衣梨奈
が隣から話し始めた。
そこに鈴木香音が笑いながら低い声で突っ込んで、譜久村聖
が生田を宥めてそこへ佐藤と小田が皆も遊ぼうと誘ってきた。

隙間がないようにしようとでも言う風に、言葉の風が舞っている。
賑やかしい。うるさいほど騒がしい。
誕生日ではなくても見慣れた光景だ。
視界の中にはさまざまな色が彩る。心地は悪くない。

食べて、食べて、食べる。お腹がすいていた訳ではない。
大食らいという訳でもない。
ケーキの甘さが口に広がる、感じる。

何を感じたい。何を想っていたい。

 だって、いつでもって訳じゃないから

心の奥でそう呟く誰か。
皮肉な笑顔を浮かべた誰か。サイダーを飲む。
しゅわしゅわとした炭酸が広がる、ぶつぶつと消えていく泡を感じる。
消えていく。面影を消して、また一つ生まれ変わる。

それが自分なんだ。何もない水面の上で、佇んで、生まれ変わる。
それは自分?それとも鞘師里保と名前を付けられた誰か?

 みっしげさあん、やすしさんが寝ちゃいましたー

佐藤の声が遠くの方に聞こえる。
手の中にあった箸だったかフォークだかの感触とお皿の存在が消える。
眠った直後を鞘師は覚えていない。
意識を失うように瞼が落ち、闇が浮かんだ。

 悲しいときや気分が沈んだときは、甘いモノが良いんだよ
 だって、ほら、おいしいケーキやクッキーを食べるとなんだか
 幸せな気分になるでしょ?だから、幸せの味なんだよ

甘い匂いがする。
ケーキの味がする、自分の存在を祝ってくれた幸せの味がする。
サイダーの味がする。
しゅわしゅわと柔らかく、静かな時間を包んでくれる味がする。
手が伸びる、暗い底で、幸せの味を探るように。

 目が覚めた時、喧騒のあとの静かさがあった。

疲れて眠ってしまった後、寝息がそこら中から聞こえる。
むくりと起きあがって、周りを見渡す。
目が慣れてきて2階の住宅スペースということに考えが至ると
喉が渇いていることに気付き、1階へ降りると、電気がまだ付いていた。

見ると、カウンターの所で道重さゆみがパソコンを見ている。
慣れた手つきで操作する機械音が響く。
手で顔を支えるような仕草で、食い入るように。
途端、道重がこちらに気付いた。

 すみません、途中で寝てしまって
 いいよ、りほりほ、昨日も遅かったしね
 なにやってるんですか?
 撮ってた写真をちょっとね、あとで見せてあげるから寝てていいよ

甘い匂いが微かにした。
残照が残る店内。どこか歴史のある世界。其処は、居るべき場所。
道重が一人で佇む。そうなってしまった世界。

 道重さん、どうぞ
 え?あ、ありがとうりほりほ
 無理しないでくださいね
 どうしたの?なにかあった?
 いえ、私も、こうやって入れれるようにならなきゃって思っただけです

ココアの匂いが漂う。
生まれ変わるように別の幸せを浮かべる。
浮かべれることが自分のできることなら、やり遂げよう。



 やすしさーん、ほら、可愛く撮れてますよ

翌朝、道重の見せてくれた写真の中で、佐藤の持ってきた一枚。
顔面をクリームで真っ白にさせた自分。なんて不器用な笑顔だ。
口の中にまだ残っているような甘い匂い。
サイダーを一気に飲み干した。




投稿日:2013/05/29(水) 04:36:49.41 0