『異能力 -Soul to return home-』


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一通りの準備。
それは"最期の戦い"の準備だけではない、母親への小包を作っていた。
大事なものは、常に自分の側に置いておくか、自分の信頼する誰かに
預かってもらうのが良いと思っている。
しかし梱包して伝票に住所を書き込んだあと、本当にこれを送っていいのか迷った。
小包だけでは心配だろうと手紙も書いたが、下書きしてみたら遺書にしか
見えない内容になってしまったことで苦笑してしまう。

急いで清書をしてみたものの、結局内容は同じだった。
書き直したかったが、これ以上時間をとってもいられないのでそのまま封筒に入れる。

自分が子供らしくない子供であった事を思い出す。

普通の子供よりも大人として"養成"された事によって、早い老成を始めたのかもしれない。
今起こっていることが全て解決し、その時自分が本当に「銭琳」として生きて
いられたなら、母に会いに行こう。そして…父にも。

 "彼女"もやがては親と向き合わなければいけない。
 自分とは違う意味で、その時自分は、何かしてあげることは出来るだろうか?

銭琳は再び日本へ行くことを決意した。
国家権力執行機関『刃千吏』の任務ではない。自身の"業"のようでもあるが
全てにおいて「行かなければいけない」という観念のようなもの。

 李純の暴走は予期していなかった事ではない。
 だがあの人が彼女を止めるのは予想外だった。
 御神体を守る者としての責務は、自身にあると思っていたから。


i914の表情はまるで、機械の其れ。
全ての感情が拭い落とされているその顔。
無気力に見える黄金の目。
だが、一見虚ろなその瞳には、異様な輝きもまたあった。

視線は真っ直ぐに李純の目を見つめている。
彼女の眼球がめまぐるしく動いて周囲を見ていようとも、ただ静かに。
ぴくりとも動かない瞼に眼球。
瞬きというものをしていないようだった。

 李純の【獣化】による被害者は全てダークネスの構成員だった。
 まがいものの彼らは人間では無い。
 "人間ではないものを彼女は好んで殺していた"。

i914に対して彼女は落ち付かなさそうにしている。
まとわりついている鬱陶しいものを払おうとでもするように、大熊猫
の姿だった李純は笑ったように歯茎を剥きだす。
その虚勢にも似た笑いを浮かべ、彼女は動いた。
四本の足で地面を蹴ると、右手の爪にぐっと力を込めて、それを
i914の首筋に打ち込もうとした。

i914は手を上げてその爪を遮ったかと思うと、腕に巻き込むように掴んでくる。
何をされたのかもよく分からない内に、視界が一回転していた。
李純は自分が投げられており、このままでは脳天から地面に叩きつけられる
ということを理解する前に、背中から足へと力をこめ、無理やり上体を
起こして足から地面へ着地する。


殴り合い、噛みつき、引っ掻く、そういう戦いしか経験のない彼女にとって
先ほどのような『技巧的』に投げられたことが無かった。
i914が前進する。
歩いてくる。
李純も倣うように前進する、背丈は二十センチも違う二人が対峙する。

思考は無い。考える事の迷いなど、この二人の間には存在しない。
躊躇いは皆無。
大熊猫が噛みつく為に口を開けた瞬間、i914の拳がその中に飛び込む。
牙を突き立てようとしたが、その硬さがヒト型のそれではない。
岩や鉄よりも硬い、顎に力を入れても、その拳が勢いよく空へと掲げられる。
同時に『大熊猫』の肉体も軽々と持ちあがり、呻きが上がった。
腕が大きく後方へ振られる。

 「ジュンジュン!」

銭琳は思わず叫んだ。地面に叩きつけられる行動だったからだ。
その声が合図のように、大熊猫は口を開けるとi914の拳を放し
身体を捻って四肢を地面に向ける。
だがその時にはi914が眼前に入り込み、顎をつま先で蹴りあげられた。

がつ、という音が、顎の骨を伝わって耳に送りこまれる。
脳震盪が起こった様に視界が黒く塗りつぶされた。
そこに今度は肩先に蹴りが入り、更には頬骨を、そしてとどめとばかりに
高々と上がった踵が脳天を直撃し、意識を失いそうになって倒れ込まされる。
だがそれを許さずに胸を軽く掌底で打たれて仰け反る羽目になった。

以前、新垣里沙が見せてくれた運動性能に酷似した動きだ。
筋肉、関節、重心運動――― 人体という機械の性能を限界まで使用した体術。


大熊猫の頭をi914が掴み上げ、黄金の"光"が身体を包んでいく。
【光使い】と呼ばれた"あの人"の特徴であり、殺意の象徴。

 「i914はチカラを使えば使うほど強くなる。
 それが"経験"として蓄積され、感情エネルギーとなって行使できるからだ。
 田中れいなの【共鳴増幅】はかなり動力源になっただろうさ。
 まさに呪いだよ。原初の呪い、絆は線となり、お前らを縛りつけた。
 "共鳴"のチカラが、お前らを死に近づけて行く」

事実を、銭琳は認識する。
自分が弱く、目の前で李純と対峙するi914が強い。
この目の前に居るi914を、自分が殺すことが不可能に近いという事。
敗北。
死。
他者の死は酷く身近なものだった。ヒト型の存在をその手にかけてきた。
『刃千吏』の歴史もまた、血に汚れている。
i914、"あの人"と同じ顔を浮かべる存在は血に濡れている。

強い。だが、違和感があった。
その強さは、その破壊はどんな願いから生まれている?
人型として、精神を人外のソレまでに進化させ、深化させる為の目的はなんだ?
必ず意味がある。意味のない強さは存在しない。
特にi914が欲したのは、蓄積された感情なのだから。

生みだしたダークネスの心中に隠れた闇は、何だったというのか。






投稿日:2013/05/28(火) 07:51:56.11 0



高橋愛と初めて出会ったあの日、銭琳は聞いた。
貴方が追い求めている存在をどうするのかと。
高橋は一瞬、無表情になった。空っぽの中身を見るようだった。

 決まってる。決まってるよ、最初から、決まってる。
 あーしはそれだけに生まれて、それだけに死ぬ。
 この世界はな、そうなるように出来てるんよ。
 だから、リンリン、あーしはその願いを叶える為なら ――

選んでいる。選ばなければ、選んだ先の未来。
偽物の世界。でも誰かにとっては、本物の世界。
これを作り物の悪い夢なら、どれほど良かっただろう。

それでも高橋は笑っていた。笑っている。
自分を隠して、自分を偽って、笑うしかなかった。
狂うよりも笑うことで、自分を肯定したいと願っていた。
自分は人間だと、誰かに想っていてほしかった。

理想。妄想。想像。それでも。
高橋の手は白く、細く、そして、血の温もりを感じた。

 リンリン、あーしに命を預けることはないよ。
 あーしは多分、誰よりもワガママで、弱い人間だから。


だから、誰よりも強い心が欲しかった。


 ―― ―― ―

 「感情エネルギーを蓄積する、それがi914と呼ばれる疑似精神体だ。
 それをナノマシンと遺伝子操作で作り上げた肉体を合わせて、高橋愛が生まれた。
 だが、それによる人型の維持が出来ずに、最終的には消滅する。
 耐えきれないからだよ、生身にナノマシンを仕込まれて無事だと思うか?
 i914が発動すれば同時に限界値を越えてナノマシンが暴走する。
 これが今起こっている悲劇の引き金だ」

あの時、吉澤ひとみと二度目の会話を行った時の記録が蘇る。
生みの親である闇の帝王の心情を、問う。
吉澤は笑みを浮かべて、皮肉そうに答えた。

 「…ダークネスは何故、そんなことを?」
 「言っただろう?お前が言う正義なんてこの世には存在しない。
 するとするなら、それはお前の中にしかない。
 自分が思うことを誰かに共感されたことによって、勘違いしてるだけだ。
 高橋がお前達に声をかけたのはね、お前達がそれに固執してるのを知ったからだ。
 【精神感応】は便利だな、心を見透かし、利用する」
 「…っ、愛チャンはそんなヒトじゃなイ!愛チャンはそのチカラで気付かセテくれタ。
 独りじゃないッテ、私はトテモ、嬉しかったんダ」
 「人は闇を恐れる、人は救われたがっている。
 だから力を求める、だから群れを作りたがる。これは真理だ」
 「私、アナタのことは嫌イダ」
 「あたしはあんた達が嫌いじゃないよ。そうして反抗してくれるだけで
 お前達がまだ諦めてないことを実感する。頑張ってくれよ、自分のために頑張れ」


銭琳は【念動力】によってi914の身体を大熊猫から引き剥がし
【発火能力】で火球をその身体にぶつける。
が、i914は【瞬間移動】でそれを回避すると、銭琳に視線を向けた。

新緑の炎が纏われた銭琳の瞳は、ただ一つの決意を込める。
死ねない。死ねない。死ねない!死ねるものか!!

――― 重症を負いながらも、二人は喫茶店『リゾナント』へと帰ってきた。

瀕死の李純と同じく道重さゆみの【治癒能力】によって治してもらったが
李純の状態をすべて話し、銭琳は故郷へ帰還する。

喫茶店への常連客にはろくに挨拶もできず、新垣里沙や
田中れいな、道重さゆみ、光井愛佳達に別れを告げた。

 祈りの込められた言葉に包まれて。

二人が帰還した後、李純はすぐに軟禁状態となってしまった。
銭琳への尋問がいくつか行われてからは、また『刃千吏』での
護衛官として任務が始まり、1年ほどが経過する。
銭琳はそのまま流れに身を任せる、ということをする気は無かった。

 終わっていない。まだ何も、終わっていない。

銭琳は感じていた。繋がりを感じていた。"共鳴"が疼く。
李純を連れ出したことによって、もう帰ることは許されない。
だから帰らなければ、第二の故郷、日本へ。

短い旅だ、そしてこれが最後の旅になるのかもしれないと思った。


 ―― ―― ―

高橋は銭琳に問う。
どうして自分の味方をしてくれるのか。
ダークネスとの関係を何処から入手したのか。

無表情の高橋は言う。それは一歩間違えれば、敵とも捉えられる問い。
銭琳は片言の台詞で、答えた。
自分の組織のことを、自分が知る限りの異能のことを。
味方になりたいという想いが本物だということを。

 「リンリンは、優しい子なんやね」

思わず口走った様な言葉ではなかった。
静かに、落ち着いた口調で、穏やかな笑顔と、差し出された掌。
精神系異能者である高橋愛に嘘は通用しない。
それは組織の人間に褒められたものよりも、"認められた"気がした。

 その心が、あーしにもあったらな。

人間には僅かなチカラがある。異能ではない、誰でも保持しているチカラ。
それは願いのようであり、それは祈りのようでもある。

誰かは【呪い】と呼び、誰かは【共鳴】と呼び。
誰かは【言霊】と呼んでいた。




投稿日:2013/06/05(水) 10:32:50.92 0