『リゾナンターΧ(カイ)番外編・聖、ハートのチカラ』


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物体に残された残留思念を読み取る、サイコメトライズという能力。
この能力の派生として、大きく二つの種類が挙げられる。
一つは、読み取った情報を具現化する能力。主に「悪夢使い」と呼ばれる能力者が使役する。
そしてもう一つは。能力者の残留思念から使役能力を読み取り、自らの力とする能力。いわゆる、能力複写と呼ばれる能力だった。

譜久村聖。
あるきっかけから喫茶リゾナントに通うようになって、2年半が経とうとしていた。
今では後輩もできて、ちょっとした中間管理職的存在。しかし今の彼女の前には、それ以上の問題が立ち塞がっていた。

今も通っている高校で配布されたお知らせの裏に、大きな四角を三つ書いて、うんうん唸って考え事をしている。
そのうちの一つ、”亀井さん”と書かれた四角には、大きなバツが。

先日の、キュートとの戦い。
聖は、自らの中で使うまいと決めていた亀井絵里の能力を使ってしまった。勝つためには、仕方なかった。
そう自分に言い訳はできたが、周りはそうはいかなかった。

「みずきー、何しとう?」

先ほど学校から帰ったばかりのぽんぽんコンビの片割れこと、生田衣梨奈が聖のいるテーブルの向かいに座ってきた。
聖が書いている絵を見て、高校生にもなって落書きとか恥ずかしいとー、と相変わらずKYな言葉を投げかけつつ。

「違うよ。これは、聖の能力をどう生かすか考えてるの」
「そっか。亀井さんの力は禁止令が出たっちゃもんね」

特に二人の先輩からの叱咤は、耳を塞ぎたくなるほど。死んでも知らんとよ。とか。
絵里の力は体に負担が大きいの。フクちゃんの身にもしものことがあったら。水着を着せた時の楽しみとか色々。
最後のは意味がわからないけれど、要するに使うなという意志は伝わった。

複写、とは言えもちろん能力の100%を複写できるわけではない。
聖の場合、能力を三つまでストックできる。ゆえに、能力の威力も三分の一となってしまう。
絵里の能力で言うなら体の負担も三分の一になるが、それでも使わないに越した事はない。

「あーあ、せめてストックが四つに増えたらなあ」
「そんなの亀井さんの枠に別の能力を上書きしたらよかろ?」
「ダメダメ、これは聖と亀井さんの思い出なんだもん」

小さな頃からリゾナントの近所に住んでいた聖は、絵里と顔見知りであった。
聖は、絵里が元気だった頃の思い出を大切にしたいが故に、その時に複写した絵里の能力を今までずっと保有し続けていた。



からんからん、とドアの鐘が鳴らされる。
店主の道重さゆみは買出しに行っている。田中れいなは愛佳からの依頼で仕事に出ている。つまり、店内は聖と衣梨奈の二人だけ。

「どうしよう、お客さん!」
「ついに衣梨のスペシャルメニューのベールが脱がされる日が来たっちゃん」
「それ大丈夫なの?」

などとやり取りをしている間に、客はすたすたと店内に入ってくる。
その人物は、二人がよく知る顔であった。

「何や、今日はお前ら二人なん?」
「つんくさん!!」

よぉ、と軽く手を挙げる、派手な茶髪の中年。
身に纏った白いタキシードはまるで結婚式場の新郎のようだ。
しかしこの一見胡散臭い男、彼はこの喫茶リゾナントに多大なる貢献を果たした人物だった。

彼は能力者社会において”つんく”と呼ばれている。本名は誰も知らない。
しかし、「能力プロデューサー」を自称するだけあって、能力に対する見識は研究家の領域をはるかに超えていた。
また能力に目覚めていない少年少女の発掘から、能力開発、警察のエージェントまで、その仕事は多岐に渡っていた。
リゾナンターの初代リーダーである高橋愛がリゾナントを出店する時に、多額の資金援助を行ったのも彼だという。

「道重おらんかったらコーヒーも飲めんわな。またにするか」

諦め顔で店から出ようとするつんく。
そこへ衣梨奈が大声で、

「つんくさん待ってください!!」

と呼び止めた。
不思議な顔をする聖に、小声で聖、つんくさんに相談したら?と衣梨奈。

「えっ、でも悪いよ…」
「なに遠慮してると。つんくさん、聖が相談したいことがあるって!」
「ちょっと、えりぽん!!」
「おっ、青春の悩みか。おっちゃんに何でも相談してや」

しばらくまごまごしていた聖だったが、衣梨奈の押しとつんくの興味本位の好奇心に負け、能力についての悩みを打ち明けざるを得なかった。



「そしたら枠、もう一個増やしたらええやん」

つんくの出した回答は、単純明快。
ただ、それが簡単に出来たら苦労はしない。口にはしなかったものの、聖の不満は既に顔中に拡がっていた。

「でも…」
「偉い人も言うとったで。やっちゃえ、まずやっちゃえってな」

一体どこの偉人がそんなアバウトなことを言ったのだろう。
深まる聖の不安を他所に、衣梨奈などはそうですよねそうですよね!と妙に乗ってしまっている。
彼女の数分の一でも楽天的なところがあれば、と聖はさらに落ち込むのだった。

「それに、枠をもう一つ増やせても。行使できる力は四分の一になるんじゃないですか?」
「まあそうなるわな。そこで俺の出番や」

つんくはそう言うと、懐から一枚のカードを取り出す。
描かれているハートの絵柄。どう見ても、トランプのカードにしか見えない。

「何ですか、それ」
「これは魔法のカードや。人間の潜在意識に働きかけ、隠された力を引き出す」

言いながらつんくはそれを二本の指で挟み、そして器用に聖に向かって投げ飛ばした。
胸元目がけ飛んできたカード、しかしそれはまるで聖に吸い込まれるようにして消えてゆく。

「えっ?えっ?」
「これで下準備は終わりや。あとは、実戦あるのみ」

目を白黒させている聖が面白いのか、つんくは笑いながらそんなことを言う。
先輩であるさゆみやれいなからは、つんくは能力者ではないと聞いていた。しかし、聖が目にしたこの光景は一体。
横目で衣梨奈の様子を窺うと、別段驚いた様子もなくいつもの人をじっと見る時の顔をしている。


「ま、大丈夫やろ。ほな、カウンセリングは終了や。頑張るんやで」
「はあ…」
「つんくさんずるい!衣梨にもおまじないかけてください!!」
「よっしゃ。ちちんぷいぷい魔法にかーかれ」
「わぁ、かかっちゃった…じゃなくて!」

絡んでくる衣梨奈を適当にあしらいつつ、つんくは店を後にした。

「ねええりぽん。えりぽんには見えた?『魔法のカード』」

先ほどの一連のつんくの動作が気になった聖が、衣梨奈に訊ねる。
しかし、

「何言うとっと。そんなもの、なかったやん」

とそっけない答えが返ってくるのみ。
えりぽんには見えてなかった?
ハートのトランプ。聖はハートという図形に、大きな思い入れがあった。

それは子供同士の、他愛も無い遊びだった。
聖を含めた、学校の仲良し四人組。そして当時流行していた、四人のトランプの妖精が活躍するアニメ。聖は、ハートの女の子の役だった。
まだ能力に目覚めていなかった頃の、遠い日の思い出。

ただの偶然の一致、なのだろうか。
釈然としない思い。

「そうだ聖、聞いた?昨日里保たちが光井さんから受けた猛獣捕獲の仕事、衣梨だったら…」

しかしそれも、衣梨奈のとりとめない日常会話によって押し流されていった。



喫茶リゾナントの店の前。
そこに立つ、四人の少女。
身につけるのは赤、青、緑。そして黄色のTシャツ。
里保たちが先輩の光井愛佳から依頼された猛獣捕獲の仕事を強奪しようとしていたグループの残留組。
ただ黄色の少女に関しては回復が早く、既に戦線復帰していた。

「ねえ、今ならたった二人だよ」

緑Tシャツの少女が、意地悪そうな笑みを浮かべて言う。

「いや、待って。不意打ちなんかじゃ、上の人間は評価してくれない。増してや、警視庁の能力者特別部署に登用されるには」

赤いTシャツの少女が、首を振り否定する。
身長は四人の中で一番低いが、年長者ゆえの至極真っ当な意見を述べる。

「だよね。うちら選ばれなかった落ちこぼれだから」

ショートカットの最年少の青Tシャツが、子供ならではの空気が読めない発言をする。

「だからこそ、見せ付けてやるんだ。うちらの、選ばれなかったものたちの底力を」

黄色Tシャツの少女は、リベンジに燃えていた。
確かにあのパンダは強かった。だが、自分達が最初に対峙したあの少女たちとは決着はついていない。リ
ゾナンターである彼女たちを倒すことこそ、自らの評価を上げ、そして雪辱を晴らすことになると信じていた。

「出直そう。あたしたちが動くのは、あの子たちが四人揃った時だ」

赤Tシャツの言葉に、残りの三人が揃って踵を返す。
だが、決戦は近い。
それはその場に居た全員が、確信していた。




投稿日:2013/05/20(月) 21:20:09.85 0


☆☆


翌日。
たまたま学校が休みだった鈴木香音と手が空いていた飯窪春菜は、愛佳の受けた依頼によって住宅街の路地裏にいた。

「依頼主の人が言ってたのはここら辺だよね」
「はい。間違いないと思います」

辺りを見回しながら尋ねる香音に、春菜が答える。
今回の仕事は迷い猫の捜索。地味な仕事だが、仕事には違いない。
飼い主が心当たりのある場所を数箇所あげ、二番目の場所がこの路地裏だった。

不意にしゃがみ、瞳を閉じる春菜。
アスファルトに手をやり、意識を集中させる。
五感強化。春菜は全神経を聴覚に傾けた。人々の話し声、テレビの音、車のクラクション。そして、ついに探り当てる。

「鈴木さん、ここから東南東50m付近から猫の声が聞こえます!」
「おっけ、まかせて」

今度は香音が能力を発動させる番だ。
春菜が指示した方向に、ダッシュ。目の前に迫る壁、しかしまるで水の中に潜るように香音の体は壁の中に入ってゆく。
物質透化。香音の能力にかかれば分厚い壁も、鉄条網の張り巡らされた金網も、存在しないに等しい。
しかもその力は、至近にいる味方にも及ぶ。春菜は香音に置いていかれないように必死に後を追う。
物質透化中に能力の範囲から外れてしまったら、昔のゲームのネタのように壁にめり込んだまま抜け出せなくなってしまう。

ともあれ、二人はターゲットである子猫のいる民家の庭先にたどり着いた。

「この毛色にこの模様、間違いないです」
「やったね。さっそく捕まえないと」
「待ってください。私に、お任せあれ」

春菜が再び、神経を集中させた。
触覚に能力を集中させることで、わずかな風の流れにすら敏感になる。
子猫が逃げようとする方向を把握することなど、朝飯前。

「みゃあ?!」
「ほら、大人しくしなさい。やりましたよ、鈴木さん!」

子猫を抱き上げた春菜が、ガッツポーズ。
頼れる年上の後輩の活躍に、香音は満面の笑みで返すのだった。


迷い猫を飼い主に返した帰り道、香音と春菜は偶然、聖と衣梨奈に遭遇した。

「お、ぽんぽんコンビじゃーん。何やってんの?」
「聖たちは光井さんからの依頼の帰り。えりぽんたちは?」
「こっちも。もう終わったっちゃけど」
「せっかくだから、これからみんなでランチに行きませんか?」

女子も四人集まれば姦しい。
これから街に出て、おいしいと評判のバイキングに行こう。行動派の衣梨奈が提案しかけたその時。

「ランチの前にさ、あたしたちに付き合ってくれないかな」

何時の間にか。
四人は、前と後ろを派手な色のTシャツの少女たちに挟まれていた。
Tシャツに、赤チェックのスカート。特徴的な衣装が、衣梨奈にあることを思い起こさせる。

「あ、あんたたち!もしかして一昨日里保たちの邪魔をしたっていう!!」
「仲間たちが世話になったね。その事情を知ってるならうちらが今日何をするか、わかるでしょ?」

どこからともなく、赤いTシャツの少女が日本刀を取り出す。
斬られればもちろん、ただでは済まない。

「何かあんたたちさあ、あずたちが遭遇した四人より弱そうだね。こりゃすぐに片付くか」

背の高い、緑色のTシャツを着た少女が腕撫す。
青いTシャツの少女も、飛びかからんばかりの闘志を見せている。
そんな中、聖は黄色Tシャツがずっとこちらのほうを見ていることに気づく。

「…聖」
「え。もしかしてあなた…明梨?」

聖は黄色Tの顔に見覚えがあった。
幼い頃、一緒に遊んでいた仲良し四人組の一人。それが目の前にいる、明梨と呼んだ少女だった。

「まさかあんたが能力者、しかもリゾナンターになってるなんてね」
「佐保ちゃん、こいつ知り合いなの?」
「遠い昔のね。でも今は、そんなことはどうでもいい」

その言葉を形にするように、聖を睨み付ける明梨。
拒絶とも言うべき態度に、続けて声を掛けようとした聖の言葉は止まってしまう。

「聖、ぼやっとしてる場合やないと!!」

そんな聖を、衣梨奈の体当たりが突き飛ばす。
聖がいた場所の地面から、鋭い木の根がアスファルトを突き破る。

「惜しかった!もうちょっとで串刺しだったのに」
「森ティは詰めが甘いんだよ」

地団駄を踏む緑Tシャツを押しのけ、青いTシャツの少女が躍り出る。
主張の激しい目をかっと見開いた瞬間、視線の先にいた春菜が蹲る。

「はるなん!?」
「さ、さ、寒いっ…体が…寒いんです」

がちがちと歯の根を震わせ、ひたすら体を摩る春菜。
青Tの仕業ではあること間違いないが、理由がわからない。
しかし、一人だけその謎を解き明かすものがいた。

「はるなんしっかり!」
「あ、生田さん…」

衣梨奈が声をかけると、それまでの凍えるような寒さが嘘だったかのように、春菜の体に暖かさが戻る。

「あんた、精神感応系の能力者やろ。衣梨の目は誤魔化せないっちゃよ?」

青Tシャツの少女の能力。
それは相手の自律神経に働きかけ、体感温度を著しく狂わすものだった。
脳さえジャックしてしまえば、精神的に相手を凍死させることも可能。
ただ、同じ系統の力を持つ衣梨奈には早々と見抜かれてしまう。

「一人一人じゃ埒があかないね。全員でかかるよ」
「了解!!」

一進一退の攻防を嫌ったのか、リーダーらしき赤いTシャツの少女が指示を出す。
赤、緑、黄色、青の四人が一斉に襲いかかってきた。
こうなると不利なのは聖たちのほうだ。相手は全員が戦闘向きの能力を有しているが、こちらはサポート能力に適した能力者が多い。
一対一ではどうしても分が悪くなってしまう。

「そうはいかんけんね!!」

普段はKYキャラで通っているが戦闘ともなると意外と気が回る。
衣梨奈が両手のピアノ線を躍らせ、周囲に結界を張り巡らせた。迂闊に近づけは、ピアノ線に絡め取られ、精神を破壊されてしまう。

「でかしたえりちゃん!」
「今のうちに逃げましょう!!」

さあ反撃だ、とばかりに息巻く香音を春菜が冷や水をかけるが如くの一言。

「そうだね。聖たちにはあの子たちと戦う理由なんてないもの」

聖が、春菜の意見に追随する。
彼女たちがなぜ自分達を狙うのかはわからない。ただ、避けられる争いは避けるべきだ。
特に、明梨とは戦いたくない。その言葉は、胸の奥に仕舞われた。
ピアノ線の結界を壁に退避をはじめようとした四人。しかし、それは一陣の風によって遮られた。

「痛っ?!」
「香音ちゃん!!」

通り抜けた風、それは姿を現すことではっきりする。
風のように感じたのは、赤Tシャツの少女が結界を通り抜け、手にした日本刀で香音を高速で薙いだから。
脇腹を斬られ、崩れ落ちる香音に聖が駆け寄った。

慌てて香音の傷口を押さえる聖の左手から、力が溢れる。
リゾナントのリーダー道重さゆみから複写した治癒能力。幸い香音の傷は浅く、すぐに塞がった。

「侍魂、見せてあげるよ」

そんなことを言いつつ、刀を構える赤Tシャツの少女。
日の光を反射し、ぎらついた刀身を見せ付けるかのように。

戦うしか、ないのか。
揺らぎに揺らいだ聖の心、躊躇しつつもそれは戦いへと傾いてゆく。

「香音ちゃんとえりぽんはその赤い子を!聖とはるなんは後方の攻撃を迎え撃つから!!」

聖の予測は正しかった。
結界を隔てた向こう側から、何かを掘り進めるような轟音。そして。
らせん状に絡まった複数の根が、地面を突き破り襲ってきた。

「やっぱり!」
「あたしの植物操作能力なら、遠く離れた場所からでも攻撃できるんだよ!!」

結界の向こうで、緑色のTシャツを着た少女がにやりと笑っている。
自らの能力に相当自信があるようだ。

「譜久村さん、私に任せてくれませんか」
「はるなん、大丈夫?」

春菜が、大きく頷く。
そして、結界の向こうに大声で呼びかけた。

「植物を操れるなんて、凄いです!その力を、植樹活動とかに生かしてみたらどうですか?」
「あんた、あたしをバカにしてんのか!!」

何が気に障ったのかわからないが、春菜の言葉は少女を激しく苛立たせた。
次々と春菜に狙いを定めて突き生えてくる木の根。それを触覚強化で巧みに避ける春菜だったが、ついに一
本の根に捕まってしまう。
そしてあっという間に春菜を絡め取った根が、その細い体をぎりぎりと締め付ける。

「ざまあみろ!体中の骨を、ばらばらに砕いてやる!!」

しかし春菜は苦しみ悶えるどころか。
涼しい顔をして、緑色Tシャツの少女を見ている。

「次にあなたは、やせ我慢できるのも今のうち、と言う」
「やせ我慢できるのも今のうち…はっ!!」

言葉によって誘った一瞬の動揺を、春菜は見逃さなかった。
自らの五感を低減させる要領で、根へ自らの感覚を伸ばしている少女の五感を、奪う。

「え?暗い?目、目が、見えない!」
「今です、譜久村さん!!」

視覚を奪われうろたえている少女に向け、聖が親指と人差し指で作ったピストルが銃弾を放つ。
念動弾。キュートのメンバーである千聖から密かに複写した能力だ。

念動弾がピアノ線を掻い潜り、緑色の少女に命中する。
避けることもできずにまともに攻撃を受けた少女は、悔しげな表情を浮かべたまま仰向けに倒れた。




投稿日:2013/05/24(金) 12:26:46.09 0


☆☆☆


その一方で、香音と衣梨奈は赤Tシャツの能力によって翻弄されていた。
瞬間移動なのか。加速なのか。それとも。目にも止まらない動きによる斬撃に、衣梨奈と香音は防戦を強いられてしまう。

「香音ちゃん、あとどれくらいいけそう?」
「うん、あと1分くらい…」

香音の透過能力により何とか凌いではいるが、限界を超えてしまえば斬られ放題なのは目に見えている。
相手の能力を見抜き、攻略するには1分はあまりにも短い。

「厄介な能力を持ってるみたいだけど、我慢比べでもするつもりかな?」
「う、うるさいっちゃね!衣梨はもう、あんたの能力なんてお見通しやけんね!!」

胸を張り、相手を指差す衣梨奈。

「あんたの能力は、香音ちゃんと同じ物質透過!だから、衣梨奈のピアノ線で捉えられない。図星っちゃろ!!」
「でもそれじゃあの結界を一瞬ですり抜けた理由にはならないって…」
「え?じゃあ、プラス高速移動、アクセラレーションっちゃん!!」

やっぱり根拠のない自信だったか。
香音はがっくりと項垂れた。衣梨奈の言う事が真実ならば、目の前の少女は二重能力者 ― ダブル ― ということになってしまう。

能力は、個人の生い立ちや性質に影響されながら発現する。
その発現の仕方は様々だが、ある事柄においては共通項がある。それは。

一個人において発現する能力は、一つであるということ。

つまり、一人の人間が二つ以上の能力を駆使することはできない。
治癒能力と物質崩壊という二つの能力を持つさゆみは、精神の中に姉人格であるさえみを内包するが故のこと。
しかも、物質崩壊という力は基本的に治癒能力の延長線上にあるものだ。
また、聖が持つ能力複写はあくまでも複写が能力の主体であり、複写した能力を同時に使用することはできない。

それができるのが、「ダブル」と呼ばれる能力者。
ただし能力者の中にダブルが発生する確率は、限りなく低い。普通に考えれば、目の前の少女がダブルであるはずがない。

「びっくり。まさか、あなたみたいな子に当てられるなんて」

だがその前提をひっくり返す、少女の回答。
つまり、彼女は二重能力者。

「でも、あたしは『作られた』ダブル。詳しくは知らないけど、偶発的に発現した二人の双子みたいな能力者を再現する計画の副産物なんだって。だから選ばれなかったのかな」
「でも、あんたは一人…」
「ううん、あたしは『二人で一人』」

言いながら、高速移動と物質透過の複合技で香音に斬りかかる赤いTシャツ。
物質透過するはずの香音の右足に、薄く刀傷が走る。能力に限界が近づいて来ている証拠だった。

「ごめんね。あなたたちを倒さないと、上の人たちが認めてくれないんだ。あたしたちは『リゾナンターに勝った』勲章を掲げて、もう一度立ち上がる!」

姿を消しつつの、高速移動。
その軌道上には無防備の衣梨奈が。

「えりちゃんっ!!」

身を挺して衣梨奈の前に飛び込んだ香音が、凶刃の前に倒れる。
その行動、そしてその意味。
衣梨奈は自分を押し殺し、標的にピアノ線を絡ませる。

「こんなもの、すぐに物質透過で」

拘束から逃れようと、自らの能力を使おうとする赤い少女。
しかし、うまくいかない。何かが、頭の中に入り込んでバランスを崩している。

「へえ。あんた、本当に『二人で一人』やったんか」

二人で一人。作られた「ダブル」。
赤い少女は、元々双子だった。それを、科学の手によって「一人に」された。それを実現したのは、双子ならではの和合性。

「でも、衣梨は得意やけん。空気読まんで割り込むの」

衣梨奈が、ピアノ線に力を込める。
線を伝って少女の脳に達した精神破壊の力は、抵抗する暇も与えずに少女の意識を吹き飛ばした。

「みーこ!森ティ!!」
「くっ、この邪魔な結界さえなければ」

結界に阻まれ、二人の仲間が倒れてしまった。
ままならない状況に、歯軋りする明梨。
そんな時。青色の少女が、大声を張り上げて結界に向かって突っ込んでいった。

「まぁな、何を!」
「うおおおおおおっ!!!!」

まさに、捨て身の行動。
張られた糸を掴み、引きちぎり、そしてその糸に絡め取られる。
もちろん、糸に触れた瞬間に衣梨奈の精神破壊能力が走り、少女の脳は焼き切られるような痛みに襲われた。だが、その行動が、道を切り開く。

結界を無理やりな方法で打ち破った後に、青の少女がゆっくり振り返り、微笑む。
やってやったぜ、とでも言いたげな表情、しかしそれは与えられた精神的なダメージの底へと沈んでゆく。あまりにも、大きな犠牲。

残っているのは、自分一人。
けれど、勝利にたどり着く架け橋を仲間たちは作ってくれた。
その思いが、明梨に力を与える。

電光石火の攻撃とはまさにこのこと。
全速力で向かってくる黄色い影、聖たちは後方の結界に頼っていたせいで防御の体勢が取れない。
まずは厄介なピアノ線を再び張られる前に、衣梨奈の腹に正拳。突き抜けるような衝撃に、膝をつき倒れる衣梨奈。

その隙を突こうと横から襲撃する春菜だったが、正拳の姿勢からの手刀をまともに喰らってしまう。
緑の少女の攻撃により全身にダメージを負っていた春菜は、痛覚を消す間もなく痛みに悶絶し転げた。
弱っていたとは言え、僅かな時間で衣梨奈と春菜を倒してしまった。

「…空手、続けてたんだね」

最早、五体満足なのは自分しかいない。
戦うと覚悟は決めていても、どうしても目の前の相手との幼い記憶が邪魔をしてしまう。
それが、言葉にも表れていた。


☆ ☆ ☆


「じゃあ、あたしがアミュレットスペード!!」
「いろはねえ、クローバー!」
「えっと、ダイヤがいい」

年齢も学校も違うけれど、四人はいつも一緒だった。
集まると必ずやっていたのが、当時流行したアニメごっこ。トランプの柄を模した四人の少女が活躍するシチュエーション
は、まさにごっこ遊びにはぴったりだった。

「聖は、どうしよう」

裕福な家庭に生まれた聖は、環境のせいかこの三人が最初の友達らしい友達であった。
だからなのか、もともと遠慮気味な性格がさらに加速する。四人の中で一番目立つ、ハート役を自らやるということが言えなかったのだ。

「聖は、アミュレットハートやりなよ。だって何かせくしーだし」
「えっ、そんな…」

そんな聖を見かねて、一番の年長である明梨が助け舟を出す。
聖はと言うと、突如として言われたせくしーという言葉に顔を赤らめていた。

四人は近所の喫茶店の側で、必殺技を出しあったり、喫茶店から出てくる太ももが好きそうなおじさんを仮想敵に見立ててやっつけたりして一日中遊んだ。



☆ ☆ ☆

「よく一緒に、遊んだよね」
「もう昔の話だよ。あたしは能力研究所に引き取られ『エッグ』とかいう計画の中に組み込まれた。そして何でかは知らないけど、聖はリゾナンターになった。もう、昔の関係には戻れない」

やはり、突きつけられる現実。
覚悟を決めたはずなのに。聖はまだ、自分の心が揺れていることに気づいていた。
それでも、前に進まなければならない。

「なんで。なんで聖たちと戦おうとするの?一体何の意味が」
「意味ならある。リゾナンターと言えば、少人数であのダークネスに立ち向かった伝説の集団。警察の特殊部隊に入り損ねたあたしたちが目指すには格好の目標じゃないか」

問答無用。
その意志が、ヤァ!という掛け声とともに聖に向かってくる。
念動弾で応戦しようにも、その間合いすら与えない。

至近距離から繰り出される、中段蹴り。
咄嗟に腹を庇う聖だが、そのガードごと蹴り飛ばされる。
強烈な痛みと、腕に響く嫌な音。蹴りの威力で両腕が折れたのだ。だが、聖の治癒能力がそのダメージを回復してゆく。

それでも、聖の圧倒的な不利な状況は変わらない。
相手は、肉体強化能力を使用した空手の使い手。鍛え上げられた肉体に対して、近接攻撃に向かない聖が太刀打ちできるはずもない。
彼女に残されている攻撃のカードは、大きな間合いを必要とする念動弾のみ。いや、正確に言えば風を使う能力があるのだが、あくまでも「傷の共有」とセットの危ういもの。

使わないって、決めたんだから…

それは聖の意地でもあった。
絵里との思い出の絆をなるべくなら、人を傷付けることには使いたくない。

ならばどうするか。
今保有している「念動弾」を、別の能力に書き換える。問題は、何を上書きするかだ。
春菜の五感強化。威力を三分の一にされては意味が無い。衣梨奈の精神破壊。精神系の能力は複写のリスクが高い。
香音の物質透過。防御においては使えるかも知れない。ただ、彼女が倒れている場所は聖の位置から離れ過ぎている。

「もう立ち上がれない?でも、あたしは容赦しない」

こうしている間にも、明梨はとどめを刺そうとこちらへ近づいてくる。
この状況において取れる行動はただ一つ。至近の能力者の能力を複写するしかない。それが例え、敵の能力であったとしても。
聖はゆっくりと、倒れている対象へと手を伸ばした。

明梨が、走り出す。
倒れている聖に、確実に一撃を与えるために。
しかし振り下ろされた拳は聖の体を通過し、地面を抉った。

「なにっ!?」
「…危なかった。もう少し遅かったら、やられてた」

何事もなかったかのように、立ち上がる聖。
土壇場で聖が複写した能力の持ち主、それは衣梨奈に倒された赤Tシャツの少女のものだった。

「物質透過…所詮一時凌ぎの小手先の能力でしょ!」

再び明梨が襲いかかる。
聖の複写能力はオリジナルの三分の一しか威力を発揮できない。
しかし、他の力と連携させれば話は別。

聖の姿が一瞬、掻き消えたように見えた。
背後に強い衝撃。痛みで倒れそうになる体を、明梨は懸命に支える。
いつの間にか、念動弾を浴びせられていた。
捉えられなかったのだ。聖の、目にも止まらぬ動きを。

「うそ…聖、四つ目の能力が、使えてる?」

聖本人ですら予想がつかなかった、四つ目の枠の開花。
からくりは「作られた」ダブルである赤いTシャツの少女の能力を複写したことにある。
複写した能力は二つで一つのダブルが故の能力である「物質透過」「高速移動」。
本来ならば、そのうちの一つが元から保有している「念動弾」の能力を上書きするはず。
そうならなかったのは、あくまで上記能力が一つ分として聖に複写されたから。

ただ、あくまでも聖の中に入るのは二つの能力。
器は一つだが能力は二つ。必然的に一つは器から溢れ、もう一つの器があればそこに流れ落ちる。

「攻撃が当たったくらいでいい気になるな!!」

ダメージを抱えながらも、明梨の攻撃は止まない。
だが、その腕から放つ剛拳も、繰り出す足技も、聖の物質透過能力の防御を突き抜けることはない。その間も、念動弾による攻撃。
ヒット&アウェイを繰り返すことで、ついに明梨の片膝がついた。
それでも、彼女の闘志が燃え尽きる事はない。

「くそ・・・!!」
「ねえ明梨、もうやめよう?」
「ふざけるな!ここであたしが退いたら、倒れた仲間たちの意志を無駄にすることになる!!」

そんな姿を見て、聖は思い出す。
かつて自らが経験したことを。
心の中の、思い出を。




投稿日:2013/05/25(土) 07:24:45.11 0


★★★★


☆ ☆ ☆

ほんの些細な諍いだった。
いつもの遊び場ではじまった、聖と明梨の言い争い。
回りくどい聖の言葉は、かえって相手を苛立たせる。
ついに明梨が大声をあげて飛び出して行ってしまったのだ。
追いかけようとする聖、しかし途中で路上の凹凸に足を取られ、転んでしまう。膝は大きく擦りむけ、血が滲み出ていた。
傷の痛みと、心の痛み。聖は、大声をあげてわんわんと泣き始めてしまった。

「どうしたの?」

すると、背後から声をかけられた。
振り向くと、自分より年上のお姉さんが心配そうな顔をして立っている。
聖は、その女性に見覚えがあった。遊び場の近くにある喫茶店に出入りしている女性だ。

「うわ、膝擦りむいてるじゃん。うちに来なよ、手当てしてあげるから」

言われるままに連れて行かれ、例の喫茶店に入る。
こじんまりとした、けれども雰囲気の良さそうなお店。実は聖も一度この喫茶店に入ってみたかったのだった。
店内の人たちは、連れて来られた珍しいお客さんに興味津々。

「絵里。ねえ、その子は?」

カウンターの中で皿洗いをしていた女性が、物珍しそうに聞いてくる。

「えへへ、怪我してるから連れてきちゃった」
「連れてきちゃったって。あんたねー、ちっちゃい子を勝手に攫っちゃだめでしょうが」

カウンター席に座り帳簿らしきものをつけている女性が、呆れ気味にそんなことを言ってきた。

「まっさか。さゆじゃないんだから。って言うかさゆは?」
「お買い物。ちょうど食材切らしててさ」
「道重サンは、料理できナいかラ買出し係ダ」
「食っタラ、腹壊ス」

窓際の席に座っていた、大きい女性と小さな女性。
おかしなイントネーションで、楽しげにそんなことを言っている。

「そっかぁ。じゃあしょうがない。普通に手当てしますか。愛ちゃん、救急箱ー」
「あんた、もしかしてさゆみんの能力使おうとしてたってこと?」

呆れ顔をしている女性、しかしカウンターの中にいた店主らしき女性は店の奥から救急箱を取り出して、聖を助けてくれたお姉さんにそれを渡す。

「ま、そういうのも人助けのうちだからね」
「さっすがリーダー、話がわかるね。そいじゃ2階にいこっか。大丈夫、ドクター絵里に任せなさいって」

このお姉さんの名前は、えりって言うんだ。
小さい聖にとって、突如現れた年上のお姉さんはとても頼もしく見えていた。
それが聖と絵里の、最初の出会いだった。

絵里に連れられ、2階に上がる聖。
部屋の真ん中のソファーで、ヤンキー風の女性がヘッドホンで音楽を聴いていた。

「れーな、ちょっとこの子の手当てしたいから」
「…わかった」

ヘッドホンをしてるはずなのに、絵里の言葉はれーなと呼ばれた女性に伝わっていた。
気だるそうにソファーから起き上がり、ベランダへと出て行く。

「どうしてあの人はお姉さんの言葉がわかったんですか」
「んー、仲間だから。じゃないかなあ。あはは」

傷の手当てをされるがままに、聖は自らの身の上を絵里にぽつりぽつりと話してゆく。
絵里の可愛らしい声は、少女の心を開くには十分な魔力を持っていた。

「そっか。お友達と喧嘩しちゃったんだ」
「はい。けんかなんか、したくなかったのに」
「聖ちゃんは優しいんだね」

言いながら、聖の傷を消毒する絵里。
消毒液の、ひやりとした痛みが肌を伝わる。

「痛っ」
「でも本当の優しさは、痛みを伴うこともある」

得意顔で話す絵里。ただ、幼い聖にはそれが何を意味するかは理解できない。
ちっちゃい子にはまだ難しかったかなー、などと絵里が言っている間に誰かが階段を登ってくる音が聞こえてきた。

「さゆおかえり」
「絵里ただいまー、って!!何その子、かわいい!!!」

現れた黒髪の女性は、手にしていた買い物袋を放り出して聖にかぶりつく。
うわぁやっぱ子供の肌ってすべすべだねえ。
など妙な触り方をしてくる女性に多少の恐怖を覚えつつも、されるがままにしていると突然絵里が大声をあげた。

「そっか!わかった!!」

そしてやおら立ち上がり、ベランダにいた先ほどのヤンキーを引っ張り出す。

「ちょ、ちょっと絵里何しよう!」
「いいからいいから」

そして今度はもう一人の女性に近づき、無理やりその肩を寄せる。
もう片方の手でヤンキー風を捕らえているので、絵里は三人のちょうど真ん中にいることになる。

「ね、一見タイプが違う絵里たちだけど仲良しでしょ。それはね、三人がそれぞれ痛みの向こう側の本当の優しさを知ってるから」

279 自分:名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2013/05/26(日) 20:24:09.14 0
論より証拠。
嫌がる二人を無理やり引き寄せ「俄然強め?」などと悦に入っている絵里は本当に楽しそうだ。
他の二人も迷惑そうな顔をしつつも、満更ではない様子だ。

「だって、うちら最強だもんね」
「うーん、最強かって問われたらそうなのかも」
「ま、れなたち最強やけんね」

きっとこの人たちは痛みを乗り越えて、今の関係を築いてきたのだろう。その関係の中心に絵里がいるように、聖には感じられた。

翌日。聖は明梨にはっきり、自分の考えている事を伝えた。
まっすぐで、不器用な言葉だったけれど。
二人の仲は元通りになった。

それから、聖はことあるごとにその喫茶店に足を運ぶようになる。
ただ、喫茶店に集う女性たちの素性を知ることになるのは、それからしばらく経った日のこと。


☆ ☆ ☆


「次で最後だ!あたしは、あたしたちは絶対に負けられない!!」

明梨が、大きく叫ぶ。
そしてその勢いのままに、こちらへと突っ込んできた。
聖は避けることなくその場に立ち、そして。
物質透過で相手がすり抜ける瞬間に、ありったけの念動弾を放った。
体の内側から弾を受けた明梨は、体のバランスを崩してその場に倒れこむ。

地面に横たわってる明梨のそばに近寄り、しゃがみ込み聖。
そして、そっと左手を差し出した。
それを見た明梨が苦しげに、けれども大きな声で叫ぶ。

「何度も、何度も言わせるな!!あたしたちは」
「わかってるよ」

言葉の先を、聖の意志が塞ぐ。
相手の気持ちを受け止めるのもまた、優しさ。

「だから、待ってる。向かってきたら、戦う。でも、この手を握ってくれるまで、聖は待ってる」
「勝手に、しなよ…」

否定なのか、諦めなのか。
答えを出す事すら拒否するかのように、明梨は瞳を閉じた。


日が、傾きかけていた。
街に出て優雅なランチだったはずが敵の襲来を受けてぼろぼろの四人。
聖の治癒能力である程度のところまでは回復したものの、本格的な治療は本家本元に頼まなければならないだろう。

「私たちがリゾナンターである限り、名声目当ての人たちも襲ってくるんでしょうか・・・」

春菜の言葉は、現実的な問題を露にしていた。
Tシャツの七人組のように、リゾナンターに打ち克ったという功績を挙げたい団体は恐らく他にもいる。
彼女たちはダークネスという強大な組織に加え、そういった類の連中をも相手にしなければならない。

「それだけ、大きな看板を抱えてるんだろうね」
「大丈夫、大丈夫」

プレッシャーに苛まれる香音を、衣梨奈がお気楽に励ます。
リゾナンターになったばかりの衣梨奈はまだ、精神がひ弱だった。程なくして入ってきた後輩の佐藤優樹に励まされてしまうくらいに。
それから比べると、随分逞しくなった。自らもマイナス思考に走りがちな聖にとっては、そういう意味では非常に頼りになるパートナーだ。

「衣梨奈がいれば、リゾナンターは安泰やけんね」

お約束のエーイング。
何でよー、元気に抗議する衣梨奈を見て、笑いが起こった。

「でも、えりぽんの言うとおりだよね。だって、聖たちは最強だもん」
「最強、ですか?」
「聖ちゃん良い事言うじゃん」
「みずきー、おいしいとこ取りすぎ。でも、賛成!」

今は仲間内だけの合言葉に過ぎないのかもしれない。
けれど現に、聖は今回の戦いで少しだけ、自分を成長させることができた。
偉大な先輩たちのように、いつかは胸を張って言いたい。

自分達が、最強だということを。

そんな聖の決意を知ってか知らずか。
下がりかけた太陽は、力強く四人を照らし出していた。





投稿日:2013/05/26(日) 20:21:49.56 0