『異能力 -underdogs-』


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 refer to   異能力


 「もうすぐ、一つの時代が終わるのかな?」
 「時代なんて、私からしてみれば始まってもないわよ。だから終わりも有り得ない」
 「そう、でも、あの子達にとっても、何かにとっても、とても充実した時代だったと思うよ」
 「…私達が望んでたことが全く叶ってない状態なのに、終わりだと割り切れるの?」

今、確かに何かが終わろうとしている。
口に出したくはなかったが、そういう予感めいたものは間違いなくあった。
模倣とは言え、【予知能力】はオリジナルにも劣らない威力を持っている。

 「終わったら次が始まる。カオリン、また始まるんだよ。
 ただその時代の流れから私達は一歩退くだけ、ただ、それだけ」
 「呪いのような因縁が終わるなら、良いことね。
 だけど、あの子達にはあまりにも不運だわ、巻き込まれた子達にはあまりにも惨い」
 「いっそうのこと、全て終わって、また新しいものを作り変えてくれた方が
 まだ救いはあるってものじゃないかい?
 まだ歩いていける力がある子ならきっと、大丈夫」

多少の【言霊】が込められているからなのか強制的に理解させるようなその言動。
だが、納得はできない。

 「意外と私、あの子達のことは嫌いじゃなかったのよ」
 「私もだよ、ガキさんがあんな風に笑ってられたのは、あの子達のおかげだった。
 でも、それを理由にして良い未来を唱えてあげることは出来ない」
 「それは言い訳?」
 「分かってるクセに」


劣化コピーとしての彼女達ではあるが、人格や記録は全てオリジナルからの
上書きによってその存在を成り立たせている。
i914の抑止力として唱えた【精神干渉】の少女を知っていれば
その育ての親のような存在であった事も記録として残っていた。

新垣里沙と名前を与えたのも気まぐれのようなものだったが、それを彼女は
純粋で素直な笑顔と共に受け取ってくれた。
環境と育成方法によって様々な結果がでるという実験として、最初から
組みこまれていたのかもしれないが、その時期は【言霊】使いにとって
刺激のある楽しい日々だったのかもしれない。

 「結局、組織の中でそれなりにまともだったのは、あの誰よりも
 小さな女の子だけだった訳ね。考えてみれば、あの子もいろんな
 ものが混ざってるけど、唯一のオリジナルだったんだよ」
 「……でもあの子でさえも、i914を止められなかった。
 そして巻き込まれた子供達でさえも足掻いた結果、呑まれてしまった」
 「でもまだ間に合う。それとも、ガキさんはこれを狙ってたのかな」

ダークネスの計画を引っかき回してくれたのも新垣であり、裏を返せば
優秀であった証明のようなものだ。
目的のためにたゆまぬ努力、そして良き協力者とめぐり合えた強運。
次々と倒れていく同胞たちを見ても絶望せずに諦めない行動力。
天賦の才、とも呼べるだろう。

 「ふふ、なんだかんだ言って成長しちゃってるよ。さすがさすが」
 「その様子じゃ、あの子が敵になったことが嬉しいって顔ね」
 「その為に敵側になったこと、忘れてる?」
 「むしろ、あの子にとっても私達は本当の敵と変わらない立場だと思うわ。
 といっても、私達にできることはもう何もない」
 「なら、見ててあげようよ。あの子達がどう生きてどう死んでいくのか」


 ―― ―― ―

大通りからやや離れた、普通の街路。
道の脇には街灯が定期的に並び、既に日の落ちた夜の世界を照らす。
だが彼女が見ている道の先も人工の灯火が点いているはずなのに、其処には
底の見えない闇が見える。
背後からは、変わらない人の生きる気配が数多く漂っているのに、目の前からは
それが一切伝わってこない。
今、自分の目の前には"隔離"された領域が存在する。

後藤真希の【空間支配】から編み出された『結界』。
そこは彼女も何度か訪れたことのある、優しさと温かさがあった喫茶店。
喫茶『リゾナント』を中心とした一帯。

眉間に皺を寄せ、新垣里沙は傷だらけの身体を奮い立たせる。
通常の空間から拒絶された"中"へと入る術は持っていた。
【精神干渉】と仕組みは同じ。"中"に居る子供達の安否が心配だった。

その重圧は、常に新垣と共にあった。
幼い子供達を家に残して働いている親の心境とはこういうものなのだろうか?
親になどなったこともないし、思ったことすらなかったが。

新垣は思考を振り払おうとする。
まだ死ねない、自分自身と、皆のためにも死ねない。
なのに、明日の朝日を再び見られる自信が沸かなかった。
今までも、いつも生に対して不安はあったが、それは漠然としたものだ。
「明日も生きられていられることが出来るか」という、ありふれた恐怖だ。


今、新垣里沙は「明日にでも死んでしまいそう」な気がしていた。
それは予感、死の予感。
身体に不調があるわけでも、大怪我を負っているわけでもない。
病気など皆無。
戦いが始まっても、死ぬつもりは毛頭ない。

それでも感じてしまうのは。
生きたいはずの自分の、奥底にある、小さな、声。

 異能者は、自分の死をその前に悟ると言う。
 その原因は、自分の肉体と魂による認識不明の【異能による限界】らしい。

できそこないのまがいもの。
人間ではない自身が、間近に迫る死を伝えるように。
手が、震える。
恐怖が、包む。
これが、本当の死へ直面したことへの感情。
なんて、なんて悲しい。
必死に生きてきた自分が否定される瞬間。
それを懸命に励ましてくれたのが、『リゾナンター』だった。
だがあの頃のように声をかけてくれる者はいない。

 生きることはなんて、難しい。

気がつけば足は止まり、手で額を押さえた。特に意味は無い。
ただ、自分が今生きているということへの違和感。
それを抱えてでも、顔を上げることしか出来なかった。




投稿日:2013/05/19(日) 08:27:47.23 0



顔を上げた新垣の前に『リゾナント』のドアがあり、そのドアが押し開かれた。
漂ってきた血の匂いは、新垣に生を感じさせる。
鉄錆に似た臭いは強烈な生気を放つと同時に、人間であることを感じさせた。

 「やあガキさん、来ると思ってたよ」
 「…皆は?」
 「大丈夫だよ、生きてる。まだ、ね」

組織に所属していた時の名前はDr.マルシェだったが、その【ダークネス】はもう存在しない。
現在は後藤真希と行動を共にしているらしい。
新垣と『M。』の同期であった紺野あさ美、の、劣化コピー。
そんな彼女から放たれる生気は、人間のそれだ。

 「外傷は無いけど、意識が戻らない。起きる意志すらないんだから当然だけどね。
 呑まれた人間の肉体はこうしてただ眠り続けて、そのままだよ。
 エネルギーになるまでそう長くはない、もってあと2、3日だね」

紺野は淡々とそう言って、2階のスペースに寝転ぶ少女達を見つめる。
ベットが人数分ないため、毛布にくるまれた身体が雑に並んでいる。
数は8人。
久住小春、亀井絵里、ジュンジュン、リンリンが居なくなってしまったからの
『リゾナンター』のメンバーとしてはあまりにも幼い子達だ。
手前に眠り続ける生田衣梨奈の治療の痕に触れる。
彼女をここへ招いたのは新垣本人だ。

肌に微かな温もりがある。
他の7人も同じ状態のまま、"肉体を残したまま"なのだ。
一人ずつ、一人ずつ。
新垣は確かめるようにその顔を見て、頭に触れていく。

生田と同時期にこの喫茶店へと赴かれた3人。
譜久村聖は亀井絵里によって保護。鞘師里保は道重さゆみによって。
鈴木香音は光井愛佳によって。
ある異能者の構成した組織で傭兵としての養成訓練を受けていた
少女4人を引き取ったのは、それから数ヶ月と経たないある日。
飯窪春菜、石田亜佑美、工藤遥、佐藤優樹。

そこで新垣は、視線を紺野へと戻した。

 「佐藤は?」
 「れいなと一緒にi914へ接触しに行った」
 「そんな無茶なこと…」
 「あの子がついて行きたがったっていうのもあるけど、あの子の
 瞬間移動があれば何かと役に立つだろうから」
 「今のi914がどんな状況か分かってるでしょ?」
 「だからだよ。どんな小さな力でもないよりはマシ。
 れいなの生存の可能性を高めることにもつながる。それにあの子は
 傭兵経験だってあるんだから、臨機応変に動いてくれるよ」
 「……」
 「ガキさん、信用してないの?」

新垣は動揺した。
久住小春の離別、ジュンジュンの暴走、リンリンは彼女と共に国へ帰還。
そして亀井絵里は未だ眠り続けたまま。
高橋愛の言葉が、紺野の言葉と共に頭を揺らす。

 「自分の責任だと思ってるなら、それは驕りだよ。
 私達が何もしなくても、この未来はずっと以前から分かっていた。
 ガキさんが居なくなったあとも、さゆが『リゾナンター』をまとめていったのを
 私達は見守り続けてた。
 さすが共鳴のチカラ、ダークネスが求めただけの事はあるよ」

人の願いや祈りは、まさにセカイの命と言っても良い。
セカイを成り立たせるものが「誰か」の夢だと定義づけた学者も居た。
『リゾナンター』を中心に収束された様々な繋がりがエネルギーとして力を
持った時、それがi914の鍵だと闇の帝王は考えた。

闇へ堕ちた【悲しみ】の欠片を抱いて。

 「さてガキさん、君にはまだ、戦う力はある?」

紺野の言葉に、新垣は顔を上げる。
戦う力。それは理由か、意志か、それとも別の事柄か。
i914を消滅させる。
それに対する心情を計るかのよう。

 「ガキさんが一番あの子の闇を知ってる。弱点を知ってる。
 だけど、それが分かっていても、あの子を殺せる覚悟はある?」

生まれた闇が消えた今、止められるのは繋がりを生みだした少女達だけ。
そして終わりを告げろとセカイが言っている。
長い時間をかけて紡がれた呪いを解き放てと叫んでいる。
始めてしまったものを、自分達で終わらせろと願い、祈っている。
新垣は息を吐くように、呟いた。

 「もう迷わないよ。私は、そのために戻ってきたんだから」

見開かれた両目を見て、紺野は僅かに目を細める。
異能者は目の色素にそのチカラが映る。

遺伝子疾患によって元々目の色素が異常に薄く、血行が
良くなると唇と一緒で血の色が映るのと同じ。
アイコンタクトでも装着すればそんな事実を知られることもない。

だから異能者もまた、いろんな方法でその正体を隠して生きている。

 「…そっか、じゃあ、私はこの子達を部屋に移すよ。
 あそこなら肉体を保存する設備があるからね。
 この子達が死ぬのはあまりにも勿体ない」
 「コンコン」

新垣に昔の愛称で呼ばれ、紺野は顔を向けた。

 「コンコンの願いは、もう良いの?」

Dr.マルシェが自身の名前を偽ってまで叶えたかった願いがある。
【異能】の根源を統べていたダークネスに"蘇生"され、『リゾナンター』への
シナリオへの人形として利用されても尚、祈り続けたものがある。
解明の先にあった、紺野あさ美の願い。

 「ガキさんが背負う必要はないよ。これは私の願い。
 たとえ成就しなくてもそれは、私が背負うものなんだから。
 それに私が憎んでたのはチカラだけ。歪められた未来のためにこの子達を
 犠牲にする理由は、もう無いんだ」

 「でもコンコンのその研究によって、コンコン達が救われる可能性だって
 作れたはず、それを放棄したのは何故?」
 「何か勘違いしてるみたいだけど、これは私の自己満足だよ。
 それで私が救われようとしているようにガキさんは見えていたのかな?」
 「……コンコンは、本当に」
 「私のことより、ガキさんは自分の願いのために走って。
 時間がないのに、他の人のことまで気にしてるのはあまりにも愚かだよ。
 せっかく目的がハッキリしたっていうのに、バカだね」
 「…」
 「ふふ、ま、バカな私が言っても説得力ないか。行っておいで」

新垣がドアの外へ駆け出して行ったのを見送ると、紺野は溜息を吐く。
自分が思っていた結末とはなんてあまりにも呆気ない。
この日の為にどれだけの時間を費やし、どれだけの血が流れたか。
数ある世界の中で、これほど茶番なものは無いだろう。

 「それでもまだ希望があるというのなら、この世界はまだ続く。
 どれほど憎んで、どれほど悲しんだものだけど、あとは託す事にするよ。
 正直、そんなことに費やせるほど時間も無い」

そう、時間は、無い。
人形として"蘇生"された自身が、これから平穏な生き方が出来るとも思えない。
ダークネス亡き今、彼女達の役目は終わっているのだから。



投稿日:2013/05/21(火) 04:54:39.43 0