『自分のカタチ』



能力複写(リプロデュスエディション)。

条件さえ揃えば、任意の相手の能力を複写・行使できる能力。
ただそれ故に、落とし穴があるのもまた事実。

リゾナンターとして2年の経験を積んだ譜久村聖もまた、その落とし穴にはまろうとしていた。


最近、自分の能力とはいったい何なのだろう。
そんな疑問が聖の頭の中を支配するようになった。

周りを見回しても、自分ほど不定型な能力の持ち主はいない。
里保なら水限定念動力(アクアキネシス)。
香音なら超聴覚(ハイパー・ヒアリング)。
そして衣梨奈は精神破壊(マインドデストロイ)。
いずれもはっきりとした、わかりやすい能力。

だけど、聖の力にはそういった”はっきりしたカタチ”がなかった。
自分の能力のカタチとはいったい……
その疑問が頂点に達した時。

聖は能力が使えなくなっていた。


慌てた聖は、リゾナンターのリーダーであるさゆみに相談した。
決して十分とは言えないメンバーの戦力の中で、聖が占めるウエイトは決して小さくなかった。

はじめは聖の話を聞き目を見開いていたさゆみだったが、やがて何かを悟ったような顔をして、

「大丈夫だよ、フクちゃんなら」

とだけ言った。

もちろん、当の聖には何が大丈夫なのかわからない。
そんな怪訝な表情から読み取ったのだろう、さゆみはこんな話をしてきた。

「昔の話なんだけど。そう、さゆみがリゾナンターになる前の話。自分の姿を自由自在に変えられる能力者がいて、その子は
色々な人に姿を変えて、周りの人たちの役に立ってたのね。けど、あまりに姿を変えすぎて、自分の姿を見失っちゃった。
そして本当の姿に戻ろうと無理をしているううちに、体が崩れてなくなっちゃったの。どうしてだと思う?」

聖は、ゆっくり首を振る。
確かにそのたとえ話の子は自分の境遇に似ていた。
似ていたからこそ、答えが出せなかった。


もちろん、さゆみは聖が答えが出せないことまで知っていた。
それは、”そういうものだから”。

「その子はね、自分に自信がなかった。だから、他人の姿を次々ととっていくうちに、本当のあるべき
自分の姿を忘れちゃった。そして、無理をして、最終的には自分の身を滅ぼした。けど」

さゆみはゆっくり瞳を閉じ、それから。

「でも、フクちゃんなら大丈夫。だって、フクちゃんは、本当の自分を持ってる。いつも見てるから、
さゆみにはわかるんだ。だから、無理に思い出そうとしないで。時が、解決してくれる」

なんだかさゆみにそう言われると、本当にそうなるような気がしてきた。
けれど、本当に自分は自分というもの、自分と言うカタチを持っているのだろうか。

その答えは、聖自身にしかわからないのだけれど。




投稿日:2013/04/02(火) 00:17:03.33 0









最終更新:2013年04月02日 08:03