(79)88 名無し募集中。。。(ドッペルゲンガー)


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(※)

  • 過去にあった一部の話の設定を踏襲したりしていますが単発の話と思ってもらえれば幸いです
  • でも投稿は複数回に分けさせてください
  • メンバー構成と時系列が現実とリンクしていなかったりもしますがそのあたりはご寛容のほど・・・




「“ドッペルゲンガー”ってやつじゃない?その人が見たの」
「ドッペル……?何ですかそれ」

湯気の消えかけたカップを手にしたまま、工藤遥は小さく首を傾げた。

「くどぅーが今話してた通りだよ。“もう一人の自分”みたいに自分そっくりな存在」

遥の問いかけに、ミネラルウォーターのグラスを片手にした鞘師里保が答える。

「もう一人の自分?そんなのがいるんですか?」
「いや、本当にいるかどうかは知らないけど。そういう言い伝えはあるよ昔から」
「そうなんですか」

この喫茶「リゾナント」に来る道すがら、遥は女子高生風の2人組が軽い言い争いをしているところに遭遇した。
内容を漏れ聞いたところ、1人が「さっきどうして無視したんだ」と詰り、もう1人が「身に覚えがない」と困惑しているようだった。
要するに、片方が「あんたに会った」と主張し、もう片方が「会っていない」と反論していたということらしい。

ひとしきり話題が尽きた後、ふとそのことを思い出して里保に話してみたところ、返ってきた答えが「ドッペルゲンガー」だった。

「あー!衣梨奈それ知っとーよ。本人が見たら死ぬってやつやろ?」

里保と遥の会話に、生田衣梨奈が賑やかに割り込んでくる。

「そうらしいね」
「ええっ!?死ぬんですか!?マジですか!?」

当然のように頷く里保に、遥はギョッとした表情で思わず問いかける。

「いやだから本当かどうかは知らないけどさ。そういう言い伝えなんだって」
「そうそう、都市伝説ってやつっちゃん」
「…都市伝説とはちょっと違う気もするけど」


もう一人の自分―――そんなものに出くわすのは、考えるだにあまり気持ちのいいものではなさそうだ。
見たら死ぬなんていうことになれば尚更―――

 カランカランカラン

ちょうどそのとき、来客を告げる扉のベルが不意に打ち鳴らされ、遥は喉元まで出かかった悲鳴を何とか飲み込んだ。
思わずビクリとしてしまったのを誤魔化そうと、無駄に大きな動作で入口の方を振り返る。
そこには、青白い顔をした長い黒髪の―――

「どうしたのはるなん!?顔が真っ青だよ」

扉を開けてふらふらと店内に入ってきた飯窪春菜に、カウンターの向こう側から譜久村聖が驚いた顔を向ける。

「貧血みたいで…ちょっと気分が悪くなっちゃって……。あ、大丈夫ですありがとうございます。すみませんご迷惑をおかけして……」

慌てて駆け寄って体を支えた鈴木香音に感謝と謝罪の言葉を述べ、春菜は小さく頭を下げた。

新しく見つけたギャラリーで展示されていた現代画家の絵に一目惚れして鑑賞するうちに、急に気分が悪くなったのだという。
半ば意識を失ってしまい、事務所でしばらく休ませてもらってから帰ってきたらしい。

「大丈夫?家に帰らなくてもいい?」
「帰っても一人なんで心細くて。皆さんの顔を見る方が元気出ます」

心配顔を向ける香音に、春菜はそう弱々しく微笑む。

数日前、春菜はとある宗教団体から遥とともに逃げ出し――より正確には助け出され――「リゾナント」の仲間に加わった。
年齢は今この場で一番上だが、いわば“先輩”に当たる聖たちにはいまだに律儀に敬語で接している。
一歩間違えば卑屈にも映りかねないが、その姿はごくごく自然で、それが春菜の人となりを端的に表していた。

「2階で休む?香音ちゃん、はるなんについててあげてくれる?田中さんには聖から伝えとくから」
「分かった」


頷く香音に、自分も行くと遥が手を挙げかけたとき―――

 カランカランカランッ

再び――先ほどよりもやや激しく――扉のベルが鳴らされた。

「見つけたっ……!あなた何者よ!まーちゃんをどこに連れて行ったの!?答えなさい!」

集中した全員の視線の先で、一人の少女が仁王立ちしている。
水平に突き出された手は人差し指がピンと伸ばされ、真っ直ぐ春菜を指差していた。

「っていうかそっちこそ何もん?」

呆気にとられた空気が流れる中、衣梨奈が何故か対抗心を燃やしたように指を突きつけ返す。

「あなたたちもその人の仲間?何を企んでるのか知らないけど、この石田亜佑美に見つかったからにはおしまいだからね!」

その大見得に言葉を返す者は今度は誰もおらず、必然的にシーンと静まり返る。
遥の心中と同様、店内にはどうリアクションすればいいのか戸惑っている空気が満ちていた。

「あの……私に…何か?」

その中でも最も戸惑った表情ながら、指差された当事者としての責任感(?)からか、春菜が恐る恐る口を開く。
石田亜佑美と名乗った少女は、若干自分がスベったような空気を感じたのか、少しだけ気まずそうに水平に伸ばしていた手を下ろした。

「…とぼけないで!まーちゃんはどこって聞いてんの」

そして、その気まずさを取り繕うように両手を腰に当て、春菜を睨み付ける。
目つきと口調こそ鋭いが、どこかずれたような空気が相変わらずその迫力を削いでいた。


「まーちゃん…と言われても……どなたですか?」
「佐藤優樹!この子よ!知らないとは言わせない!」

言いながら、亜佑美が自身の携帯を掲げる。
そこには、楽しそうな満面の笑みを浮かべた一人の少女の画像が映し出されていた。
……が、今時あまりないくらいに画素数が低めの小さい写真であるため、はっきりとは分からなかった。

「う~ん……いえ、あの…すみません…お会いしたことはないと思うんですけど…」

それでも律儀に目を細めて懸命に写真を確認した後、春菜は申し訳なさそうに言った。

「あんたいい加減にしーよ!はるなんは今体調悪いんやけん大っきい声出さんで!」

衣梨奈が2人の間に割り込むようにして、負けずに大声を張り上げる。
その言葉に一瞬気後れしたような顔をしたものの、亜佑美はなおも食い下がった。

「私はこの目で見たの!あなたとまーちゃんが一緒にいるところ!」
「そんなこと言われても……」

 ―――ん……?

困惑の表情を浮かべる春菜に、遥はふと軽い既視感を覚えた。
あの表情、つい最近どこかで見たような―――

「…どうしても言わない気ね?じゃあこれならどう!?」

 ―――!!

一瞬の出来事だった。
扉の前に立っていたはずの亜佑美の姿は、いつの間にか香音の背後にある。
その手には、カウンターの上に置かれていたフォークが握られ、香音の首元に突き付けられていた。


 ―――能力者……!

緩んでいた空気が一瞬にして張り詰めた。

「“高速移動”……みたいだね、あなたの能力」

聖が静かな視線と言葉を亜佑美に向ける。
一瞬驚いたように見開かれた亜佑美の目が、その直後に警戒の色を強くする。

「まさか…あなたたちも何か特別な力を持ってるの?…でも私の“マッハスピード”には勝てないからね」
「ネーミングださっ!」

…張り詰めていた空気が一瞬にしてまた緩んだ。

誰もが心に浮かべたであろう思いを反射的に口にしてしまった遥に心なしか火照った顔を向け、亜佑美は手に持ったフォークを構え直す。

「う、うるさい!早くまーちゃんを返しなさい!この子が怪我してもいいの?」

赤くなった顔を店内の全員へ忙しく動かしながら、それでも亜佑美は強硬な姿勢を崩さない。
緩んだ空気に、再び微かな緊張感が漂う。

「あ、みんな、心配しなくていいよ。この人、私を刺したりする気ないから」

だが、それは他ならぬ“人質”の香音の、のんびりとした口調によって再び弛緩した。

「なっ……?い、言っとくけど私は本気――」
「無駄だよ。香音ちゃんがそう言うなら、そうなんだよ」

静かな声が、亜佑美の言葉を遮る。
その言葉の主――里保は、遥の前の席を立ち、ゆっくりと移動してゆく。
自分の方へと歩み寄る里保へと油断なく視線を注ぎながらも、香音に突きつけられたフォークを持つ手の力は明らかに緩んでいた。


「とにかく香音ちゃんを解放しなよ。そっちも話し辛くない?」
「…だからあなたたちがまーちゃんを返したらって言ってるでしょ!」
「う~ん…じゃあ、こうしよう。うちに勝ったら、そっちの言うこと聞いたげる」
「……!?」

里保の突然の提案に、亜佑美は意表を突かれたという表情を浮かべた。

「ちょっと里保ちゃん何言ってんの?」
「あの、鞘師さん、私ほんとに知らないんですよ」

戸惑いの反応を返したのは、亜佑美だけではない。
店内にいる里保以外の人間は、全員困惑の様相を呈していた。

「ま、いいからいいから。で、どうする?石田亜佑美さんとやら。私と勝負するかね」
「…望むところよ。約束は守りなさいよ」

いつになくふざけた口調の里保に、亜佑美は怒りの視線を向ける。

「もちろん。ま、うちが勝つけどね」

亜佑美の怒りに油を注ぐようにそう言い、里保は挑戦的な笑みを浮かべた。

「鞘師さん、大丈夫なんですか?あの人の能力結構すごいですよ」

思わず口を挟む。
遥の“眼”でさえ、なんとか追える速度だった。
常人の動体視力では、あの移動速度を捉えることはかなり難しいだろう。

「んー…なんとかなるんじゃないかな」
「なんとかって…」


しかし、自信があるのかないのか分からないその言葉とは裏腹に、顔には不敵な笑みが浮かんでいる。
何だか妙に嬉しそうだ――と遥は思った。

「里保ちゃん、お店のもの壊さないでよ。聖が田中さんに怒られるんだから」
「うん、できるだけ」
「……壊したら道重さんに言いつけるから」
「…絶対壊さないようにします」

近くのテーブルを衣梨奈に手伝ってもらって動かすと、里保は亜佑美の方に向き直った。

「お待たせ。いつでもいいよ。受けて立とうじゃあないか」
「…随分自信満々ね。絶っっ対負かしてやる!一瞬で終わらせるから」

闘争心を剥き出しに、亜佑美が里保を睨み付ける。
もはや当初の目的を忘れ、里保に勝つことしか頭にないようにさえ見える。
かなりの負けず嫌いなのだろう。

「くどぅー、試合開始の合図よろしく」
「試あ……分かりました」

いつから試合になったんだよと思ったが、亜佑美の方も別に違和感を覚えていない風なので、黙って頷く。

「ではお2人は向かい合わせに。関係ない人は離れて」

遥の言葉に、店内で移動が行われる。
手首や足首をブラブラとさせ、首を回しながら里保と亜佑美が向かい合う。

「レディー………」

高々と両手を挙げ、肩幅よりわずかに広げる。
遥のその合図を受け、里保と亜佑美は構えの姿勢に入る。


次の瞬間、遥は思い切り両手をクロスさせながら叫んだ。

「ファイッ!!」


そして―――

亜佑美の言った通り、勝負は一瞬でついた。


「勝者……鞘師里保!!」
「いえぃっ!」

ガッツポーズを決める里保に組み伏せられたまま、亜佑美は呆然とした表情をしていた。

「何が起こったと…?」

呆然としているのは亜佑美だけではない。
当事者たち以外で今何が起こったのかを理解しているのは、なんとか“眼”で追うことができた遥だけだろう。

「膜……ですよ生田さん。鞘師さんは間に水の膜を張っていたんです」

里保の能力により、気付かないほどに薄く張られた水のカーテン。
先ほどまで飲んでいたミネラルウォーターの残りを利用したのだろうそれを、高速移動中の亜佑美は突き破った。
その瞬間にできる、「移動経路」の軌跡。
それを元に亜佑美の攻撃方向を察知し、カウンターの投げ技を決めた。

…言葉にすればそれだけのことだが、それを実際に実行できるのはさすがというしかない。

「この前田中さんがやってたのをヒントにね。高速移動中に何かにぶつかったら、きっと驚いて反射的に動きが鈍るだろうとも思ってさ」
「……その通りでした。参りました。完全に私の負けです。こんなすごい人に挑んでた自分が恥ずかしいです」


先ほどまで闘争心の塊だった亜佑美の瞳には、いつの間にか純粋な賞賛と尊敬の色が浮かんでいる。

「や、そんなことないよ、全然そんなことない。亜佑美ちゃんもすごいって」

照れたように手を振ると、里保は立ち上がり、亜佑美に手を差し伸べた。
同じく照れたようにしながら、亜佑美もその手につかまって立ち上がる。

 ――「亜佑美ちゃん」ってオイ

心の中でそう突っ込んだのは遥だけではないだろう。

「あー、オホン。いいでしょうか」

わざとらしい咳払いとやや不機嫌な声が、和やかな雰囲気を破る。
全員の視線が向いた先には、声同様に不機嫌な面持ちの香音の姿があった。

「で、何か忘れてませんか?」

香音の問いかけに一瞬首を傾げた後、亜佑美はハッとした顔になる。

「そうだ!まーちゃん!まーちゃんを返して!」
「ふりだしか!何のための時間だったんだよ今の!」

思わず突っ込んだ遥に何かを言いたそうにしたものの、亜佑美は結局悔しげに黙り込んだ。
自分が負けてしまったことの意味をようやく思い出したのだろう。

「あのですね、鞘師さんが勝ったから言わないってわけじゃなくて、本当に私身に覚えがないんです。信じてください」

そんな亜佑美を見かねたように、春菜が弱々しく声を掛ける。
ばつの悪そうな……でも反論したいような複雑な表情で、結局何も言えずに亜佑美は唇を噛んだ。



「その人は嘘言ってないよ、みんな。まーちゃんって子のことすごく心配してるし、はるなんと一緒にいるのを見たっていうのも本当みたい」
「えっ?」

思わぬ“援護射撃”に、亜佑美は驚いたように顔を上げた。
他の視線も、再び香音へと集まる。

「香音ちゃんがそう言うなら……そうなんだね」

先ほどの里保の言葉をなぞるような聖の言葉に、全員の頷きが返る。

「やけど……はるなんは会ってないんっちゃろ?」
「うん、はるなんも嘘は言ってない」
「だったらどういう……」

首を傾げながらそこまで言ったとき、遥の脳裏で一つの言葉が弾けた。

「まさか……ドッペルゲンガー……?」

同じくそれに思い至ったらしい里保が再び口にしたその言葉に、背筋が冷える。


もう一人の自分―――
本人が出会えば死ぬという―――


思わず春菜の方を見遣る。
そこには、相変わらず幽霊のように青白い色をした春菜の、怯えたような表情があった。



                                            To be continued...(?)。















                                            To be continued...(?)