(79)65 名無し募集中(夢のようなチカラ)


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喫茶リゾナントは今日も大忙し。
お皿を洗ったり、テーブルを拭いたり、玄関前を掃き掃除したり。
お客さん?あー…来たり来なかったり。でも、お店の質ってお客さんの数じゃないと思うの。レンジでチン
だけどおいしいお料理もあるし、たまに来る後輩たちも料理してくれる。極端に材料費が高くなったり安く
なったりだけど。
そんなこんなで、喫茶リゾナント三代目店主道重さゆみ、今日も頑張るぞ!

からんからん。

日も高くなってきてるけど、本日最初のお客さん。
高揚していたさゆみの気持ちは、肩まで伸ばした茶髪としゃがれた関西弁で急降下する。

「おー道重ー、ひさしぶりやなあ」
「何だ、つんくさんか…」
「何だって何や、失礼なやっちゃな」

まるで結婚式にでも行ってくるかのような白いタキシードが、相変わらず目に眩しい。
この人、つんくさんは先々代の店主、つまり愛ちゃんの知り合い。
胡散臭そうな顔してるけど、まあまあ信用できる人だ。


「あいつら…新人たちは元気でやってるか?」
「はい。最近はすっかりリゾナントに慣れていって」
「ま、ええことやな」

つんくさんは満足そうにそう言って、カウンターに腰掛けた。

能力者専門プロデューサー。
肩書きは聞こえがいいけれど、要するに能力者の斡旋業。
能力者を全国からスカウトしてきて、警察機関に紹介する。りほりほたちにこのお店のことを教えたり、愛
ちゃんやガキさんが警察組織にヘッドハンティングするきっかけを作ったりしたのも、つんくさんだった。

「今日はどんな御用ですか?そうだ、昔のメニューを復活させたんです。リゾリゾって言うんですけど、こ
れならさゆみにも作れ…」
「道重、これ、何やと思う?」


ノリノリで商売っ気を出すさゆみを無視して、カウンターの上に分厚い本を置くつんくさん。
わけがわからないので首を捻っていると、

「これな、ある筋から手に入れたスーパーアイテムやねん」

と、いつものどや顔を見せた。
いや、内容も言わないでどや顔されても。すっきりやで!とか親の顔が見てみたいとか言いそうになったけ
ど、さゆみは大人だから我慢した。

「スーパーアイテムって…」
「おう、よう聞いてくれたな。これはな、本に念じるだけで1日だけ、好きな能力が使えるようになる魔法の本。凄いやろ」

あまりにも漠然と、そして大きな話過ぎた。
そんなものがこの世に存在していいのだろうかと思うくらいに。

「まあ物は試しや。本の表紙に手え当てて、自分の欲しい能力を思い描いてみ?」
「あ、はい」

つんくさんの言ってることが本当なら、凄いことだ。
例えば史上最強の能力を手に入れたとしたら、今日中にダークネスの本拠地に赴いて組織全滅、なんてことが可能になるかもしれない。


けどどうしよう。
最強の能力って何だろう。
やっぱり愛ちゃんみたいに、全てを消し去る光の能力かな。
それとも、あの「銀翼の天使」が行使した、怖ろしい力。
いつか会ったいかつい顔をしたダークネス幹部のおばちゃんが使った、時を止める能力。
昔ガキさんから聞いた、愛佳よりも強い、数年先の出来事さえ予知できる神の能力。

あー、もう頭がこんがらがってきた。
ごちゃごちゃした思考を振り切って、思い切り手を本の上に叩きつける。
さゆみの欲しい能力、出て来い!!
そう念じつつ。

すると、本が一瞬だけ薄く光ったような気がした。
その様子を見て、つんくさんがにやりと笑った。

「成功したみたいやな」
「本当、ですか?」

半信半疑なさゆみに、つんくさんは本を開いて真ん中くらいのページを見せる。
そこには、キリスト教のマリア様みたいな人が、跪いた人の頭に手を翳している絵が描かれていた。

「これがお前の『治癒能力(ヒーリング)』の象徴や。本がお前の本来の能力を預かった、ちゅうことの証拠やな」

その言葉が正しければ、さゆみの中には1日限定で何らかの能力が宿っているはず。
でも、どんな能力なんだろう。
本に描かれた絵を見ながらそんなことを考えていると、再びドアベルが鳴らされた。


「こんにちは」
「りっりほりほ?!」

予期しなかった相手の登場。思わずさゆみはりほりほに向かって唾液の飛沫をかけてしまう。でも、りほり
ほはさゆみの顔を見るなり、明らかに「あれ、今日は田中さんじゃなかったんだ」的な表情になった。

「あれ、つんくさん。お久しぶりです!」
「鞘師か。しばらく見ない間に大きくなったなあ!!」

そしてすかさず話し相手をつんくさんにチェンジ。
地味に凹む。
そりゃスキンシップの行き過ぎはあったかもしれない。けど、最近はりほりほに引かれてるのが判るから控え
めにして遠くから盗撮してるくらいで我慢してるのに。

「あのつんくさん、折り入って相談が」
「おう、何でも聞いたるでえ」
「いや、ちょっとここじゃ」
「そなの?やったら外で話そか」

ちょっとここじゃ、の時にかすかにさゆみのことを見たような。
確かにりほりほのトレーニングウェアをこっそり拝借して枕に巻きつけて寝たのはやり過ぎだったと思うけど
、そこまで露骨に避けなくても。

和やかに談笑しながらお店を出て行くつんくさんとりほりほ。
一人取り残されたさゆみは、カウンターの中でうさちゃんピースをしながら泣いた。


●●●

とんでもないことになった。
確かにある意味最強かもしれないけど、でも…

さゆみが手に入れた能力が判明したのは、日も暮れかけた夕方の出来事だった。
どうせ暇だから2階の物置も掃除しようと思って、中の荷物の埃を払っていた時のことだ。
埃が鼻に入ったのか、くしゃみを荷物にかけてしまったのだ。
その飛沫を慌てて拭こうとしたその瞬間、さゆみはあるものを発見してしまった。

なにこれ。
最初は模様かと思ったけど、そうじゃない。
飛沫がついた場所に、目がある。
しかもこのかわいい完璧な形。間違いなくさゆみのものだった。
その証拠に、さゆみの頭の中のビジョンに、目から見えるさゆみの姿が。

さっそく実験開始。
すると驚くべき事実が発覚する。
唾液、くしゃみ。掛かった部分から出てくるのは目だけじゃなかった。
鼻、口、顔。試しに掌につけてみたら、人面瘡みたいになってしまった。

もしかしてこれが、さゆみが手に入れた能力?
こんなんじゃダークネスを倒すどころか、覗きくらいにしか使えないよ…

そこでさゆみは思い出した。
さっき、りほりほに誤って涎の飛沫をかけてしまったことを。
それはもう通学用のバッグから、靴から、制服から、あらゆる場所に。
一生懸命念じた結果がこれですか、というのはともかく。
どうせなら、とことん利用してあげようじゃないの。








見られている。
私の感覚が、そう訴えていた。

見ている何かに気取られないよう、電信柱のカーブミラーを確認する。
誰も居ない。
おかしいなあ。確かに、なめくじみたいなねちっこい視線を感じるんだけど。
ちょっと、疲れてるのかもしれない。
違和感を疲れのせいにして、私は帰り道を急いだ。

広島の片田舎から出てきた私は、両親の伝手でとあるアパートを借りている。
ただ、若い娘の一人暮らしが心配なのか、大家に私の保護者代わり、はっきり言えば監視者をつけていた。それが鬱
陶しくて仕方ない。
アパートの前に差し掛かると、早速ご本人の登場だ。

「里保ちゃん遅いよ!!」

甲高い、何かの機械で加工されたみたいな声。
これで地声だというのだからびっくりする。
このおじさん、名前は照訓。照くんではない。紛らわしい名前だ。


「最近さあ、門限守れてないんじゃね?」
「うるさいなあ」
「うわ。何か俺に対する扱い冷たくない?!前の住人は鬱で説教くさかったけどもうちょっと扱いが丁寧だったんだ
けどなー!」

ごきげんようのコロぞうみたいな声を上げて非難する輝訓を無視して、アパートの中に入る。
私の部屋は2階の一番手前。建物が南向きなので日当たりがいいので、そこだけは気に入っている。

玄関を開けてすぐに鞄をベッドに放り投げ、続けてそのままベッドにダイブ。
つんくさんに色々話しているうちに、疲れちゃった。
リゾナンターの次期エースとしてのプレッシャー、外部の人相手じゃないと中々話すこともできない。鞘師も大変や
なあ、せやけど高橋も田中もそれを乗り越えて来たんやで、なんて言ってたけど。
乗り越えるしかない、か。

スー

あれ?
何の音だろう。
私の呼吸の音じゃないよね。
何だか今日は気持ち悪いことが多い。その変にぬめった感覚を洗い流したくて、私は急遽シャワーを浴びる事にした。

衣服を脱衣籠に放り込んでいる時も、変な音は聞こえてくる。
スーハーうるさいし、誰かが喋っている声みたいな音も耳に入ってくる。同じグループでそんなことしちゃダメなの、で
もそれが逆にいいの、みたいな。
やっぱり私はだいぶ疲れている。
うな垂れつつ、シャワールームの扉を開けた。


コックを捻ると、ちょうどいい熱さの流れが私を包み込む。
何だか今日は調子が悪い。こんな日はさっさと寝てしまうに限る。
そんなことを考えながら髪を洗おうとシャンプーボトルに手を伸ばしたその時だった。

手の甲に、変な模様。
いや、これは模様なんかじゃない。目だ。
その証拠に、私と目線が合うとその目らしきものは明らかに視線を逸らした。
おもむろにシャワーを当てると、驚く事に「なにすんの、やめるの」などと喋りだした。

何なんだこれは。
と言うか、さっきの声はどこかで聞き覚えがある。
確証は持てないが、とりあえず実験することにした。
手の甲を、そっと胸元に近づける。

スーハースーハー

今私の中に、はっきりと事実が見えてきた。

「何してるんですか、道重さん」

すると明らかにうろたえたような目は、

「みっ道重さんとか誰なの?知らないの!」

としらを切り始めた。


眩暈がしてきた。まさか、仮にもリーダーが、こんなことを…
きっと問い詰めてもあくまでも否定し続けるに違いない。そこで私はやり方を変えることにした。

「もしかして、ダークネス?」
「え、いや」
「道重さんの声真似までして、私を監視しようなんて!」
「そ、そうなの!さゆ…いや私はダークネス、貴様を監視するために取り憑いたのだ!!」

水軍流の兵法に、口を割らないスパイには敢えて嘘に乗り、ぼろを出させるというものがある。それを試してみたわ
けだけど、まさかこんなすぐに乗ってくるとは。

「というわけでりほりほ、敵のデータを取るために色々調べさせてもらうわよ!」

そんなことを言いながら、手の甲の目が二つになり、鼻が現れ、口が現れた。口の斜め横には、ご丁寧にほくろまで
ある。道重さん…

「まずは敵のDNAを採取するの!!」

完全に正体がばれていないと勘違いし、本能の赴くままに行動する変態。
手の甲が引っ張られるように胸に寄せられる。まずい、このままではペロペロされてしまう!

変態フェイスが私の肌に接触するまであと5センチ、というところで動きが急に止まる。
それもそのはず。私が咄嗟に胸元に水の刃を作り、突きつけたからだ。


「水のあるところで私を襲おうなんて、考えが無さ過ぎですよ」
「か、顔はやめて!」

愛刀「驟雨環奔」は部屋に置いてきたものの、シャワールームはまさに私の武器だらけ。道重さん、観念してもらい
ますよ!!

ところが、肘のところから変な感覚。
手だ。手が肘から生えてきて、シャワーのコックを閉めてしまったのだ。

「これで水は使えないの!サユミーン!!」

まるではるなんが愛読してる漫画のスタンドのような鳴き声をあげて、喜ぶ道重さん。
でも安心するのはまだ早い。水の供給は断たれたけど、この空間には大量の水がある。今更シャワーを止めたところ
で…

ぱちっ。

何かのスイッチが入る音。
とともに、天井の吸気口から勢いよく空気が吸い出される。換気扇のスイッチ!?

「さゆ…いや私の体液を浴びた箇所から、私自身を出せるってことを知らなかったみたいね。脱衣籠の制服から、別
の私が生えてきて換気扇を回させてもらったの!!」
「そんな!!」


部屋の外からクンカクンカスーハースーハーという怖ろしい音が聞こえる。
今外で何が起こっているのか、想像すらしたくない。
手の甲からは、明らかに道重さんとしか思えないような顔、さらに手と胴体まで生えてきている。もうダメだ!私は
最後の手段を取ることにした。

「能力発動!!」
「え?」

シャワールームが、光に包まれる。
そして、部屋の外から聞こえる、そして手の甲の変態があげる、イタイノー、クルシイノー、という叫び声。

「なんなのこれ、体が、引き剥がされるっ!?」
「私も実は、つんくさんの本で新しい能力を手に入れてたんですよ」

目の前の変態を退治するのに、最も有効な能力。それは。
私の半径10メートル以内に、道重という名のつくものが近づくことを禁ずる。ストーカー法もびっくりの能力だ。

「いやなの、まだ堪能しきれてないのッ!!!」
「卑しい変態よ、この罪は何にも替えられぬ!!!」

私が最後の決め台詞を叫ぶと、断末魔のようなサユミーンという鳴き声をあげながら道重さんは消滅していった。


●●●

もう少しで、もう少しでりほりほのしゅわしゅわぽんを!!
りほりほの謎の能力で、全てのりほりほを遠隔監視する術を失ってしまった私は悔しさと悲しみに打ちひしがれてい
た。

りほりほが私のことをダークネスの手先と勘違いしてくれた。
それがきっかけで、天使のさゆみと悪魔のさゆみが耳元で囁き始めたのだ。

「ひっひっひ。やっちゃえなの。どうせ何やってもダークネスの仕業なの。本能の赴くままにりほりほの柔肌を堪能
するの」
「いけないの。同じグループでそんなことしちゃダメなの。相手はいたいけな子供なの」
「何言ってるの。子供だからこそ色々教え込まなきゃいけないんだろうなの」
「そう言えばそうなの」
「やっちゃえなの」
「やっちゃえなの」

意外と合意は早かった。
とにかくその瞬間にさゆみはビーストと化した。
それなのに、まったく楽しめないまま終わってしまった。
と思いきや…

ん?まだ遠隔でどこかと繋がってる感覚がある!
まだ、桃源郷への道は閉ざされてなかった!ラピュタは本当にあったんだ!!
私は神経をその一点に集中した。


鼻が、りほりほの体臭を嗅ぎ当てる。
スー
やっぱり最高なのこの香り、そう、脂ぎったような酸っぱいような加齢臭…え、加齢臭?

「あー、あかんあかん」

遠隔操作の耳が、どこかで聞いたような関西弁を捉える。
まさか。

「さっき食ったお好み焼き、生焼けやったせいで腹の調子めっちゃ悪いわ…」

声の主は明らかにつんくさんだった。
どうやらあの時の私の唾液の飛沫が、つんくさんの衣服にも掛かっていたらしい。

プス…プププゥ…

やだっ何これ、くっさ!!
あんまり想像したくないけど、まさか飛沫がついた場所って。

「あかんもうしまいや…まさか40超えて漏らすことになるとは、あっあああああああああああ」

ちょ、やめ、きゃああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!


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迫り来る怖ろしい雪崩にかっと目を見開くと、そこはいつもの喫茶店のカウンターだった。
もしかして、夢?
私は、ほっと胸を撫で下ろした。

お店の時計を見ると、まだお昼前。
どうやらお客さんが来なさすぎて眠ってしまったらしい。
ダークネスとの攻防の日々で疲れているのだろうか。
私は寝汗で張り付いた衣服を剥がすように、ぐーんと背伸びをした。

からんからん。

あら、お客様。
いらっしゃいませえ、と言おうとした私は、来客者の姿を見て明らかに笑顔が引きつってゆくのを感じていた。

「おー道重ー、ひさしぶりやなあ」
「げ、つんくさん…」
「げって何や、失礼なやっちゃな」

先ほどの悪夢が生々しく蘇る。
背中に温い汗が伝うのがわかる。いや、あれはただの夢。そもそも一日だけ好きな能力を手に入れられる、そんな夢
のような話があるわけ…

「ところで道重、今日はええもん持ってきたで」

つんくさんが懐から取り出す、分厚い本。
今までのことが走馬灯のように頭を過ぎり、さゆみの意識はぷっつりと途絶えてしまった。

「…そんなにこの本がイヤやったんかなあ。スーパーアイテムになると思ったんやけど。『おいしいカレーの作り方』」


                    --終--