「さゆ、DTって何て意味か知っとーお?」
「は?」
お客さんもいなくなり、ちょっと早いけど閉店作業をしていた時、急にれいながそう言ってきた。
いや、何て意味かは分かる。それを答えていいものかどうか悩む。
れいなのことだ、本当に知らないのかもしれない。
でもれいなのことだ、私を困らせる為に知っててわざと聞いてるのかもしれない。
どっちにしろ、回答するには恥じらいが生じる。しかし、こういう時にはもっと安全なもう1つの答えがある。
「ダウンタウンのことじゃない?」
「え、でもゴールデンボンバーの曲よ?DT捨てる。ってあるやん。ダウンタウン捨てるってどういうこと?」
そう言うれいなの目が段々笑ってきている。
それに、なおさら曲名だったら歌詞を見ればだいたい察しはつくだろう。
間違いない。この子は意味を知ってて聞いてきてる。
「えっ、たぶんだけど、ダウンタウンより面白くなりたいからダウンタウンと同じことはしない、とかじゃない?」
なんとかひねり出したものの、我ながら苦しい解説。
そしてれいなは、困っている私に対して今にも笑いだしそうだ。
「もうわかったから!言えばいいんでしょ!?どう…」
「ストップ!」
その言葉を言おうとした瞬間、れいなの手が私の口を塞いだ。
「女の子がそんなこと言いよったらダメやろ」
そう言った瞬間、れいなは声を上げて笑いだした。
「はあ!?れいなが聞いてきたんやろ!?」
私はそう言ったつもりだったけど、言い切らないうちに自分も笑いだしていた。
ひとしきり二人で笑いあった後、ソファー席に横になった。
…まったく、相変わらず素直じゃないんだから。
ただキャッキャ言いたいのならもっと他にあるだろうに。
でも、こんな子供じみたからかい方。以前のれいなだったら絶対やらなかったと思う。
れいなとは長いこと一緒にいるけど、今が一番素直なのかもしれない。
ずっと一緒に戦い続けてきた。
長い間一緒に戦い続けてきた。
長い間には、いくつもの哀しみも苦しみもあった。
それらから逃れることはできない。
だけどその分、いくつもの優しさを知ることができた。
「こうしておれんのもあとどれぐらいっちゃろねー」
そう遠くないうちに、れいなもまた別の道を歩み出すらしい。
そう遠くないその日が来るまでの、時が過ぎる速さが愛しい。
一瞬より短い
永遠より長い
かけがえのない時代に、一緒に歩いてこれてよかった。
「んー、れいなが手がかからなくなるまでかな」
「ちょっとなんそれー」
「ほ~ら、そういうとこそういうとこ」
むくれた顔がまた笑う。
まだもうちょっと、手がかかりそうなの。
最終更新:2013年02月11日 23:32