(77)961 名無し保全。。。(しゅわしゅわぽん)


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「さやしすん、なにしてんですかぁ?」

カップを片手にした優樹ちゃんが、にこにことそう笑いながら正面の席にちょこんと座る。

「何してるって改めて聞かれると困るけど…」

何もしてない。
いや、してるんだけど。
意味のあることでは全然ない。

両手で包んだグラス。
その中でしゅわしゅわと細かい気泡を発し続ける液体。
要するにサイダー。

私はサイダーが大好きだ。
味はもちろんだけど、この、泡が立ち昇っていく様子がたまらなく愛しい。
その泡を見つめながら、集中する。

ぽこんっ

「わっ」

グラスからサイダーの塊が飛び出し、優樹ちゃんが少し驚いて仰け反る。

「こうやって遊んでただけ」
「おもしろーい!」

グラスの上空で球体になって浮かぶ透明な液体を、優樹ちゃんは無邪気な笑顔で見つめている。

中空に浮かんだ「サイダーボール」からは、気泡はもう出ていない。
いや、出てはいるけれど、グラスの中にあるときのように、どんどん上に昇ってはじけることはない。


無意識にため息を吐いて、サイダーをグラスに戻す。
“水念動能力(アクアキネシス)”の力から解き放たれた液体は、再び元のように気泡を立ち昇らせ始めた。

これが「自然」な姿。
私が大好きなサイダーの、あるべき姿。

そしてそれを捻じ曲げる、私のチカラ。
「自然」の摂理に反する「不自然」な存在。

自分の大好きなものの姿を、自分の力は台無しにする。
大げさな言い方かもしれないけれど、それはすべてに通じるように思う。
自分の大切なものを、自分自身がダメにしてしまっているのではないだろうか。
そんな不安が常にある。

「いーなー、さやしすん」
「え?」

優樹ちゃんの声で、我に返る。

「水って形が変わるのに変えられないじゃないですかー。だからうらやましい」
「……?」

優樹ちゃんの言っている意味がよく分からず、首をかしげる。

「まーちゃん丸いサイダーかわいくて好きです。売ってたらいいのにー」

ああ、そうかと思った。
そういう考え方もあるんだと。
というよりも、それが「自然」な考え方なんだと。


大好きなものを台無しにしていたのは、確かに自分自身だった。
でも、それは「不自然な力」のせいじゃない。
それを「不自然」だと捉えてしまう心のせいだ。

「じゃ、あーんして?」
「え?こうですかー?あーん」

素直に口を開いた優樹ちゃんに向かって、小さなサイダーボールを飛ばす。
狙いたがわず、それは大きく開かれた優樹ちゃんの口に飛び込んだ。

「やったー!丸いサイダーだ!まーちゃん丸いサイダー飲んだー!」

嬉しそうに手を叩く優樹ちゃんに、感想を聞いてみる。

「どうだった?丸いサイダー」
「えーっと……しゅわしゅわでした!」
「それ丸くなくても一緒じゃん」

思わず笑う。

そう、結局そういう事なんだろう。
そして、大げさな言い方かもしれないけれど……それはすべてに通じることなんだろう。

優樹ちゃんの楽しそうな笑顔が、何よりもそれを物語っていた。





   【目指せ完走保全】