(77)940 名無し保全。。。(伝えたい思い)


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――来ないはずがない
――来ないかもしれない

相反する思いが、ぼんやりとした頭の中でせめぎ合う。

いつもなら断言できる。
聖が自分を助けに来ないはずがないと。
でも――

今朝は売り言葉に買い言葉で、随分ひどいことを言ってしまった。
…ううん、それは言い訳。
自分が悪い。どう考えても。
できることならもう一度会って謝りたい。

だけど。

「遅いね、お友だ…ち!」
「――ッぐ…!」

言葉と同時に脇腹を蹴り上げられて、思わず呻く。
だけど、もうそれほどに痛みも感じない。
感覚が麻痺してきている。

会いたい。もう一度。
聖に会いたい。
会って謝りたい。

途切れそうになる意識の中で、そればかりが繰り返される。

会いたい。聖に。もう一度。会いたい。
聖に会いたい。聖に。聖に。聖………?


「約束のものは持ってきました。衣梨奈を返してください」

あれ?うそ?
聖の声がする…?
幻?本物?

「みず…き……?」
「えりぽん、もう大丈夫だからね」

聖だ。みずきだ。ホンモノだ。
本物の聖がいる。
来てくれたんだ。来てくれた。

「賢明な判断だね、友達思いのお嬢さん。じゃあそこにブツを置いて離れな」

そんな声が聞こえ、ずっと傍らにあったハイヒールが離れて行く。
代わりに、急いだようにこちらに駆け寄ってくる足音がして、流れた空気が顔に当たった。

「聖の…匂い…だ。いい…匂い…」
「バカえりぽん。そんなボロボロで最初に言う言葉がそれ?」

涙声でそう言いながら顔を覗き込んでくる聖に、ニヤッと笑ってみる。
でも、ちゃんと笑顔が作れていたかは自信がない。

「ひどい……」

聖は笑い返してはくれず、息を呑むようにしながらそう呟いただけだったから。
そう。ひどいんだ今のえりの状態。
両手も両足も折れてるし、アバラだって絶対何本か折れてるし。
顔だってきっとめっちゃ腫れて誰だか分かんないと思う。
だから本当は笑ってる場合じゃないんだよね。


「あ」

そのとき急に思い出した。
聖に会えたらしないといけないと思っていたこと。
謝らないと。聖にちゃんと謝らないと。

「あの…さ……みずき……みず……き…?」

話しかけようとしたその途中、聖の顔が歪んだ。
どうしたんだろう?
そう思うのと同時に、温かい何かが顔にかかる。

「確かにブツはもらったよ。ってことであんたらはもう用済み」

そんな声が聞こえた。
聖の胸からは、女が手にしていた紙切れが血に染まって突き出ている。

「“物質硬化能力”っていうのよ。便利でしょ?ただの服も無敵の鎧に早変わりなのよ」

聖の胸から引き抜いた凶器を、再びただの紙に戻してひらひらとさせながら、女が笑った。

そうだ。あの紙切れにえりは骨を折られたのに。
そのことを、聖に伝えないといけなかったのに。

「この廃ビル、爆弾が仕掛けてあんの。あたしが出てった後、これ押したら数秒でここ全部瓦礫だから。ま、最後の友情タイムを楽しんでよ」

バカにしたように笑いながら、女はスイッチみたいなものを掲げる。
そして、「じゃあね。ありがと」と言うと、階段に向かって歩き出した。

「…ペイン・バック」

聖がそう呟くのと、楽しそうに歩いていた女がバランスを崩したのは同時だった。


「な……?」

驚いたように振り返った女の胸から、みるみる血が滲みだして服を赤く染めてゆく。

「これ…は…?お前…何を……?」
「“傷の返却”っていうんです。便利でしょ?無敵の鎧も無意味なんですよ」

さっきの女の言葉をわざと真似しているのはすぐに分かった。
聖って意外と根に持つとこあるんだよね。
そういうとこもかわいいんだけど。

「ここからはえりぽんの分だから」
「………ッ!待――」

聖の手が、えりの右脚に触れる。
ふっと楽になったと思うのと同時に、ボギッという鈍い音と絶叫が女の方から響いてきた。

「ねえ、聖……。これって…亀井さんの最後の……?ダメっちゃん、聖!」

何度も何度も“ペイン・バック”が行われ、傷はもうほとんどその原因を作った女に“返却”された。
やっと戻ってきはじめた正常な思考の中、聖がやっていることの意味を今さら理解して慌てる。

「これだけは絶対使わんって聖言っとったのに!亀井さんとの思い出やけんって!」

亀井絵里さんの能力を“複写”した、最後の1枚。
お守り代わりに大切に持っておくと、いつも言っていたのに。

「亀井さんの思い出は大切だよ。でも、えりぽんとの今の方が……今の聖にとっては大切だから」
「聖……」

体に残っていた最後の痛みが消える。


「それに、痛みと違って思い出は消えないよ。ずっと」
「……そうっちゃね」

ようやく笑顔を向けてきた聖に、笑い返す。
今度は、絶対に最高の笑顔を返せた自信があった。


「ク……ソ……がぁ!」

そのとき、絞り出すような声が聞こえ、振り返る。

「死……ねッ……!」

這いつくばった女がボタンを押す動作とともに、ピッという電子音が響いた。
一瞬遅れて、衝撃が伝わってくる。

「えりぽん!」

聖の手が、えりの腕を掴む。

「帰り、おぶってよ」

その言葉と同時に、光がきらめく。

高橋さんの能力だ。
そう思うのと、視界が光に包まれるのも同時だった。

うん、亀井さんと高橋さんの能力を続けて使ったりしたら、確かにしばらく動けなくなるだろうなあ。
まあ、えりに任せとけ。

んー、でもおぶったまま謝るのってなんかやりづらい。
謝るタイミング逃しそう。




…ま、いっかもう。
こうやって来てくれたってことは、きっともう怒ってないってことだし。

…でも、聖って意外と根に持つとこあるんだよね。
そういうとこもかわいいんだけど。





   【長くなりすぎた保全】