『ゼロに戻すだけ』


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「・・・頭いたい」
そう呟く鞘師の目の前には背けたくなるほど散らかったリゾナントの姿

初代リーダー高橋の時代からつかわれていたテーブルの上はお菓子が占拠している
椅子は倒され、背もたれが無残にもジュースで汚れてしまっている
壁に掛けられた時計は誰がしたのかわからないがマジックでサインが入れられた
手書きのメニューは「今日から無料ですわ」と落書きが入っている
カウンターの上には靴の痕がつき、床には割れたビンの破片が散乱

「はぁ・・・こんなリゾナント高橋さんがみたらどう思うんじゃろうか?」
弱弱しく溜息をつく鞘師の背中が強く叩かれ、思わず倒れそうになる
「おっと・・・なにするんじゃ!床が瓶の破片だらけで危ないじゃろ!」
「あはは、ごめん里保ちゃん。でも里保ちゃんなら、破片くらいあっという間に刀で弾けられるでしょ?
 心配ないって信じているから、思いっきり叩いたのになんで怒っているんだろうね?」
いたずらの主は両手にサイダーの瓶をもった破顔一笑の鈴木
「こういう日くらい楽しもうよ。ほら、みんな笑っているんだから里保ちゃんも笑わないと損だよ」
「鞘師しゃんもいっしょにこっち来て、リゾリゾたべましょうよ~はい、お箸さんです」
鈴木の肩越しに佐藤が顔を出し、リゾリゾの盛られた紙皿とお箸を差し出す
「まぁちゃん、こんなに楽しい日は初めてですよ!何難しい顔しているんですか?
 終わったんですよ!全てが!何か問題があるんですか?」

そう終わったのだ・・・何もかもが

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

白銀の刃で貫かれたそれはこの世のものとは思えぬ深い声で叫んだ
それは身に染み渡るような憎悪の木霊
「死なぬ、我輩は死なぬ!!この世に負の感情がある限り、何度も、何度でも蘇ってやるぞ!!」
その声をきいたれいなはにやりと笑う
「それなら、その度殺るだけっちゃ・・・別に長生きする気はない
ただ、オマエより早く逝くことだけ神様から頼まれても笑って殴り返してやると」
「なにをする気だ!!」
「希望は時に絶望の中から生まれる、それを知らんかったのが敗因っちゃ」
れいなが白銀の刃に手をかざす
「れいながおらんくても、次の世代が待っていると。しばらく光の中でゆっくり休むと」
「やめろ、やめてくれ」
白銀の刃に共鳴の波動が注ぎ込まれ、辺りはまばゆいばかりの白い光で包まれる
「・・・そやった、一つだけ、感謝することがあると
れいなに、居場所を-仲間を見つけてくれてありがとう」
収束した白い光のなかにそれは閉じ込められ、淡い光となり、虚空のなかに融けていった

「さよならダークネス」

カラン、と小さい音がして透明な結晶が床に落ち、静寂が生まれた
れいなは何も言わずその結晶を拾い上げポケットにしまいこんだ

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

包帯で巻かれた左腕の感覚は未だ戻らない
道重も深い傷を負い、完全に傷を治せない状態であった
とはいえ、この傷を完全に消して欲しくはないと鞘師自身は思っていた
傷を完全に消してしまったら、夢幻か現実なのかわからなくなってしまいそうだからだ
「本当にやったんじゃろうか?」
「やったんだよ、里保ちゃん」
戦闘服が切り刻まれ、その隙間から同じく包帯が覗いている鈴木が微笑み返す

譜久村は持参したデジカメでこの日を忘れんと写真を撮り続けている
生田は奇声をあげてカウンターの上でサイダーの一気飲みを続けている
飯窪はおどおどしながら、奥のキッチンで料理を作り続けている
石田は生田の一気飲みを観て目に涙を浮かべながら心から笑っている
工藤は顔をテーブルに突っ伏して人目もはばからず大声で泣いている
小田はそうやってリゾナントを汚していく先輩に非難の声をあげているものの、目は誰よりも笑っている

「ほら、高橋さん、新垣さん、亀井さん、久住さん、光井さん、ジュンジュンさん、リンリンさん
 みなさんができなかったことを、今日、みんなでやったんだよ」
「・・・信じられない」
「信じるんですよ、鞘師しゃん!」
佐藤が鞘師のほほを思いっきりつねった
「痛い」
「現実なんだろうね。ほら、里保ちゃんも騒ごう」
「・・・うん」
鞘師はポケットに入れていた家宝の鞘をテーブルの上に置き、仲間達の輪に加わった
(今日くらい、戦いのことを忘れていいよね?ねえ、じっちゃま)


                ★   ★   ★   ★   ★   ★

リゾナントの隣町を見下ろす丘に二人は来ていた
「あ~あ、あの子達、リゾナントを破壊する気?帰ったら説教しないといけないかもしれないの」
そう呟いた道重の隣には「そうかもしれんとね」と苦笑いを浮かべるれいなの姿があった

「それよりいいと?さゆはあーいうバカ騒ぎすきっちゃろ?れーなにつきあわんくてもいいとよ」
大きく首を振って道重は答えた
「・・・いいの。さゆみは前から決めていたの。『その時』がきたらここにまず来たいと思ってたの
れいなはいいの?ヒーローなのにパーティーに参加しなくて」
「・・・騒がしいのは苦手っちゃ。別にれーなは特別なことはしていないっちゃ」
「れいならしいの」
「お互いさまっちゃね」
そういいお互い目を合わせて笑いあった

「もうずいぶんむかしのことになったとね。ここで三人の夢を語ったのは」
「絵里の風にのせて、さゆみの癒しの力を」
「れーなの能力で世界中の人に」
『「「幸せを送り届ける」」』

それは大切な仲間と誓い合った、最初の約束

「絵里は喜んでくれるかな?」
「・・・多分やね。絵里はまだ幸せじゃないとかいうかもしれんと」
「絵里はいつも幸せだなあ、って思っているからもう幸せなの。そんなこというと絵里に怒られるよ」
「そうっちゃね。おお、怖い」
そうして、二人の笑い声が二人以外誰もいないこの闇の中に響き渡る


「さゆ、これを持っていて欲しいと」
真剣な表情でれいなは道重にポケットから取り出したそれを手渡した
「これは何?」
大きめのビー玉くらいのそれを道重は月明かりにかざしてみた
中でもやもやした白い煙のようなものが渦を巻いている

「わからんけど、ダークネスが消えた後に落ちてきたものっちゃ
 れーな、難しいことは分からんけど、これがダークネスの本体やと思う」
「このなかでうごめいているものがダークネス?だったら壊してしまえば」
れいなは首を大きく横に振った
「壊してしまえば、また新たなダークネスの種が世界で生まれる
 中に渦巻いているの見えるっちゃろ?これがダークネスのパワーの源やと思うと
 愛ちゃんの言葉で言えば「恐れ」「欲望」といった弱い心。それが暴走したものがダークネス」

道重はその玉をポケットにしまいこみながられいなに訊ねた
「それをなんでさゆみに?」
「さゆはれーなが知っとうなかで一番強い人間やけん、それを守って欲しいと
 今度はそのダークネスをみんなで守るのが、戦いになると思うと
 誰よりも強い人に守られたら弱いダークネスも安心できるっちゃろ?」
「それなられいなでもいいと思うの」
かぶりを振ってれいなは答えた
「さっきいったっちゃろ?れいながいなくても次の世代がおるって。任せてみたくなったとよ」

「・・・ほんとうに行くの?」
「行くと」
「寂しくないの?」
「寂しいよ。また一人になるのは」
「それな「でもっ!」」
れいなはニカっと歯を見せて大げさに笑って見せた
「今度は自分で仲間を見つけてみたいって思ったとよ。待つんじゃなくて見つけに行くと」




「大丈夫やって!れーなは強いっちゃ。簡単には死なんし、死ねないっちゃ
 さゆはみんなをまとめてほしいと。正直、れーなはそういうのむかん」
道重はすでに泣きそうだ。体を震わせて、拳をぎゅっと握りしめている
「やけん、さゆにはみんなを任せると!」
「さゆみでいいの?」
「サユ以外に誰がいると?この世で一番信じられるのは仲間っちゃろ?」
一筋の優しい風が二人の間をさっと通り抜けた

「・・・任せて欲しいの。三人分頑張るの」
「約束っちゃ!」
二人の小指が組み合わさり、小さく約束が交わされた

「それじゃあ、れーなはもう行くと」
「荷物はいいの?」
「・・・初めにリゾナントに来た時も何もなかったと。またゼロから始めてみたいと」
道重はフフフと小さく笑い、れいなもつられて笑った
「れいなは最後までれいななの」
「それだけがれーなの取り柄やけん!」

そこに道重の携帯の着信音が響いた。届いたのは生田からのメール
『道重さん 早く帰ってきてください♪ パーティ終わっちゃいますよ』
付属された画像はクリームたっぷりの顔をカメラに向けた若き8人の笑顔の戦士の姿
「うわっ、酷い有様やね。早く、サユ戻らんと」
「ほんと、すごいね・・・ねえ、れいな」
「さよならはいわんと」
「うん、また、会おうね」
「またね」

そして、大好きだよ、といったのはどっちだったのか、どちらとも言わず二人は抱き合った
ダークネスにつけられた傷は涙で痛みを引き起こしたが、痛みは思い出となり心を刻む
それを知っているのは二人を包み込む優しい風だけ