『リゾナンター 特殊再殺部隊 episode1 里沙と衣梨奈』


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284 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2012/11/14(水) 17:17:25.10 0
<※注>

  • ステーシーズ×リゾナント世界
  • 設定は今回だけの唐突なものです(読み切りです)





「生田衣梨奈さんね」
「はーい!いくたえりなでーす。…あなたは誰?」

臨死遊戯状様(ニアデスハピネス)の屈託ない笑顔とともに、衣梨奈は無邪気に首を傾げた。

「…再殺部隊第一特殊分隊副隊長、新垣里沙」

無表情にそう答えた里沙に対し、再び衣梨奈の笑顔が弾ける。

「あー!じゃあもしかしてえりのこと再殺しに来たと?あははっ」
「……そう、私はあなたを再殺しに来た」

殺される方が楽しそうに笑い、殺す方が苦痛を湛えた陰鬱な表情で佇む――

今まで以上に倒錯したこの図式にも、これからは慣れていかなければならないのだろうか。
これを当たり前だと思うようになったとき……自分はまだ自分でいられるのだろうか。


それとも―――


 ――私はもう、とっくに私じゃないのかもしれない


自分の手を血に染めたあの日から―――


     ◆     ◆     ◆

「ホスピス」――

本来的にはいわゆる不治の病を抱えた患者のターミナルケアを行なう施設を指すが、今ではその意味合いで使用されることは一般的ではなくなっている。
現在では、ステーシー化する前の――ニアデスハピネス期の――少女たちをケアする施設を表す用語として、広く浸透していた。

とはいえ、“患者”がすべて14歳から16歳の少女であるという特異な部分を除けば、「終末期ケアの為の施設」という意味では、表面的にはそれまでとさほど変わらないかもしれない。
残された僅かな余命を……人生最後のひとときを、患者が安らかに幸せに過ごすための施設――現状も、一見「ホスピス」のその本来の理念からは外れていないように見える。

だが、その根底にあるものは以前とまったく異なってしまっている――そう里沙は思わざるをえない。

結局のところ、これは「隔離」であり「管理」であると。
もうしばらくすれば一度目の死を迎え、そして人を襲うゾンビ――ステーシーとなって甦ることが分かっている少女たちの、これは「収容所」なのだと。
表面上は死を目前にした少女たちの人間性を尊重しているようでいて、その実それを踏みにじる冷酷な措置である―――と。

もちろん、「ホスピス」のスタッフたちにそんな思いはないだろう。
少なくとも、“患者”に直接接している現場スタッフたちには。
里沙たち再殺部隊第一特殊分隊――通称「リゾナンター」――が、初めて乗り込むこととなったこの施設も、温かさと慈愛の空気が満ちているように感じられた。

そう、自分たちがズカズカと立ち入るその前までは―――

入口で最初に対応してくれた職員のやわらかい表情は、「リゾナンター」の様子から何かを悟ったのか、一瞬にして恐怖と絶望に歪んだ。
「収容」されている少女たちともほとんど変わらない年齢に見えたその女性職員――「飯窪春菜」とネームプレートには書かれていた――は、即座に踵を返し、施設の奥へと走った。
正確には、走ろうとした。

「みんな逃げて!」

元々高めだった声をさらに高くしながら叫びかけたその言葉は、素早く伸びた隊長――高橋愛の手によってほとんどが封じられる。
次の瞬間には、その意識はもう闇の中に堕とされていた。

「つい先ほど、決定が為されました。こちらに入院している患者の皆さんを全員再殺します。ご了承ください」

何事かと静まり返ったホールに、愛の淡々とした無感情な声が響く。
大きな衝撃と波紋が広がっていくのがありありと分かった。

呆然とした表情で固まっていたスタッフたちの中、一人が思わずと言ったように口を開く。

「再殺って…あの子たちはニアデスハピネスだ!まだステーシー化していない!何かの間違いだ!」

愛はそちらへ視線を向けると、静かに返した。

「知っています。ですが、間違いではありません」
「バカな……そんな……バカな!こんなことが許されるのか!許されていいのか!?」

激昂するその声にも、愛の表情は、そして声は僅かも揺らがない。

「これは決定事項です。もしも逆らう方がいれば、その方も再殺対象となりますのでそのつもりで」

冷たい愛の言葉に、声を上げたスタッフは拳を握りしめ、歯を食いしばりながら愛を睨み付ける。
その目から、悔しさゆえか、悲しさゆえか、涙が零れ落ちた。

「…では、再殺行動に移る。各員かねての作戦通り分散して任務に当たって。必ず一人残らず再殺するように」

その憎悪の視線を無造作に断ち切り、愛は何事もなかったように隊員を振り返る。
里沙を含めた「リゾナンター」のメンバー6名は、各々頷きを返して頭の中の計画通りに散ってゆく。

「気を付けてね」

愛の脇を通り抜ける際に小さく聞こえたその声は、愛の心中を察して余りある湿り気を帯びていた。

「あれー?でもえりまだステーシーになってないと。なんで再殺されるんですかぁ?っていうかそれって再殺って言うと?まだ一度も死んでないっちゃけど」


その声に、我に返る。
不思議そうに首を傾げる衣梨奈の明るい表情は、その言葉の通りステーシーの虚ろなそれからは程遠い。

里沙の胸がギリッと締め付けられる。

以前からその“声”はあった。
危険なステーシーになってから再殺するよりも、ニアデスハピネス期に“再殺”してしまった方が安全で確実ではないのか――という“声”が。

だが、保身を第一に考える閣僚から、表だってその声が上がることはさすがになかった。
おそらくは誰しもが心の中で思いながら、誰かが言いだしてくれないかと互いに牽制しあい、結果的にギリギリの線で踏みとどまられていた暴挙。
「倫理」という名の最後の障壁はしかし、一つの出来事によっていともたやすく崩れ去った。


「あなたたちは危険だと見做されたんだよ。“普通”じゃないから」


数日前―――他の施設から一人の少女が“脱走”した。
14歳の誕生日を直前に控えたその少女は、既にニアデスハピネスを発症し、一度目の死を目前にしていた。
そして、自身もステーシー化を目前にした身でありながら、少女はステーシーの再殺代行を違法に請け負い、大金を得ていた。

だが、過去に例を見ない事態であったとはいえ、それだけではここまで事態が大きくなることはなかっただろう。
問題は、少女が“普通”ではなかったということだった。

少女には、特殊な力が備わっていた。
それも、特別に凶悪な力が。

昨日――数件目の“依頼”を果たそうとした少女は、そこで“正規”の再殺部隊に囲まれ、最後は射殺された。
だがその際、少女はその身に備わった力で、自分を囲んだ再殺部隊員の大半を“爆殺”したのだ。

もしも彼女がステーシー化していたら……
もしもこの先彼女のような存在がステーシー化したら……

その恐怖の前に、倫理などという薄氷のような壁はもう存在しないも同然だった。
かくして、過去に例を見ないほどのスピードで、「特別再殺」の執行は決定されることになる。

ここのところ、ニアデスハピネス期にある少女たちの中に、特殊な能力を持つものが現れる例が何件か報告されていた。
不思議なことに、その現象は固まって発生している。
里沙たちが乗り込んだここもまた、一時期に数人がまとめて特殊な能力を発現した場所の一つだった。


「そっかー、そういうことかぁ。あははっ。でもびっくりしたと。再殺部隊って女の人もいるんですね」
「……ほとんどいないよ。私たちは……私たちも“普通”じゃないから」


たった一人の少女に部隊の大半を“爆殺”されたことに脅威を覚えた上層部は、「特別再殺」の第一陣として里沙たち「再殺部隊第一特殊分隊」を差し向けた。
「特別再殺」の対象となる少女たち同様、“普通”ではない能力を持った女性のみで構成される、通称「リゾナンター」を。

「化け物の始末は化け物にさせておけばいい」

はっきりと言葉になることこそなかったものの、常日頃からそんな類の偏見と中傷に満ちた空気の中、里沙たちは再殺の任務を果たしてきた。
そのことについてはとっくに慣れ、もう特に何の感情も抱くことはない。
なかった。

だが―――
今回のこれは、改めてそれを目の前に突き付けられたような思いを禁じえなかった。


「ふ~ん……あ、じゃ、えりと仲間ですね!仲間仲間ーイエーイ!」


テンションの高い衣梨奈の声に我に返る。


 ――何をやっているんだ、私は


唐突に、現在の自分の姿を認識し、里沙は愕然とした。

特別再殺の任務を果たそうとしていることに今さら疑問を抱いたわけではない。
再殺対象相手に、別に言わなくてもいいことまでバカ正直に喋っていることに対してだった。

ハイタッチの構えを無視されたことに数秒間しょんぼりした態度を見せた後、何事もなかったかのように衣梨奈は再び笑顔を里沙に向ける。


「にーがきさん…でしたよね?じゃあ、にーがきさんがえりを再殺してくれると?やったー!」
「………!」


笑顔のまま発された思いがけない言葉に、突き飛ばされるような感覚が里沙を襲った。
同時に、かつて自分の手にかけた一人の少女の笑顔が脳裏に浮かぶ。


 ――……さん、……の…と、にーがきさん……殺……ね………よ……だよ………


「どうして……?私はあなたを再殺しに……殺しに来たんだよ?」


思わず口にした言葉に、また自分で愕然とする。


私は何を言っているのだろう。
私は何をやっているのだろう。

再殺対象と必要以上に深く関わらないようにと他のメンバーに釘を刺したのは、他ならぬ自分自身であったというのに。


「だって、えりはにーがきさんのこと好きっちゃん。再殺されるなら、好きな人にされたいってずっと思ってたから嬉しい」
「好き……?私を……?だって……今会ったばかりじゃない」


 ――好きだよ。……、にーがきさんのこと好…だよ


「今会ったばっかりでも、好きなもんは好きっちゃん。一目惚れかな?運命かも。あはははは……」


 ――今だから言う…どさ、初めて会った…きからにーがきさんのこと好きだったよ。あ、生ま…たときからかもね。えへへへ………


「やめてよ……やめてよ!どうしてそんなこと言うのよ!」
「えー?何がですかぁ?」


笑顔を残した表情のまま、衣梨奈が首を傾げる。


「再殺してだなんて……言わないでよ……好きだから殺してほしいだなんて……言わないでよ!嬉しいなんて言わないでよっ!!」


 ――小春はさ、にーがきさんに再殺されるなら幸せだよ。大好きなにーがきさんにバラバラにされるなら、すっごく嬉しいよ……嬉しいよ……嬉しいよ……


「じゃあ……えりがにーがきさんのこと殺してあげる。それならいい?」
「……え?」


無邪気な衣梨奈の言葉が、すとんと里沙の胸に落ちてくる。
ああ、そうか。そうかもしれない。


「後悔してるんでしょ?大切な人を手にかけたこと。苦しんでるんでしょ?辛いんでしょ?もう解放されたいんでしょう?」
「あ…ぁ………」


里沙の膝が折れる。そうだ。その通りだ。私は。私は。


「赦してあげるよ、にーがきさんのこと、全部赦してあげる」
「赦し……てくれるの?私のこと………」


跪いた里沙に、ゆっくりと衣梨奈が *1 歩み寄る。
ニアデスハピネスの幸せそうな笑みを浮かべ、衣梨奈が *2 近づいてくる。


「うん、えりが *3 にーがきさんのこと、赦してあげる。赦してあげるね」


衣梨奈の *4 両手が里沙の首元へと伸びてくる。
衣梨奈の *5 笑顔が里沙の目の前に迫ってくる。

里沙の両目から零れ落ちた涙が、衣梨奈の *6 手に落ちる。
里沙の首にかけられたその指は、徐々に力を増していき――――

「あああぁぁぁーーーっっ!!!」


絶叫が響き渡り、衣梨奈の手から力が抜けた。


「生田さん、あなたの能力……強力だね。私以外のメンバーだったら、返り討ちにされたかもしれない」


衣梨奈の胸を貫いたアーミーナイフから血を滴らせながら、里沙は小さく呟いた。


“精神妨害―マインドジャミング”――対象の精神を混乱させ、崩壊状態に追い込む衣梨奈の能力は、想像以上だった。
精神操作のスペシャリストである里沙でなければ、完全に精神を焼き尽くされていたに違いない。


「やっぱり…すごい人っちゃ…にーがきさん。一目惚れした…えりの目は……確かだったと」
「……もういい。もういいんだよ、生田さん」
「えりなって……呼んでほしい……。にーがきさんのこと好きになったのは……嘘やないっちゃん……」


楽にしてやろうとナイフを構え直していた里沙の手が止まる。


「好き…。えり、にーがきさんのこと、大好きっちゃん」
「…さっき会った……ばかりなのに…?」
「…さっき会った……ばかりだけど」
「……そっか、ありがとう………衣梨奈」


小さく息を吐き、里沙は笑顔を衣梨奈に向ける。

「やった…えりなって…呼んで……くれた。ふふふふふ……」
「さよなら、衣梨奈」
「さよなら、にーがきさん。でも…また会えたら嬉しい」
「……会えるよ、きっと」


最後に嬉しそうに微笑み、そして力を失った衣梨奈を抱きとめた里沙の両手が、血に染まっていく。
かつて久住小春をその手にかけたときのように、赤く、赤く、赤く。


 ――あのまま衣梨奈に精神を焼き尽くされていた方が、幸せだったのかもしれない


唐突に、そう思った。


 ――それとも―――案外、もう焼き尽くされてしまったのかもしれないな


続いて、そう思った。

衣梨奈の最期の笑顔が、自分の中から消えることは二度とないだろう。
自分もまた、出会ったばかりの衣梨奈に惹かれてしまっていたのだと今さらのように気付く。

だが、衣梨奈はもういない。
小春と同じように、もう――――





この手を小春の *7 血で赤く染め。


この心を衣梨奈に *8 焼かれ、傷を刻まれ。


自分はいつまで自分でいられるだろうか。



いつまで――――



それとも――――