『暁の戦隊』(3rdシーズン-第3クール)


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第31話「葬送(前)」


ダークネス幹部チームを完全に葬り去ろうとした後藤真希を飛来した漆黒の矢が阻んだ。 その矢の放ち手は…。

  「せっかく助けてあげた命をわざわざ捨てに来るなんて馬鹿だなあ、藤本」

藤本の【凝縮】能力で大気中の窒素を固めて作り出した漆黒の矢は【重力操作】で尽く撃ち落とした。
その代償として小型のブラックホールの創成は一旦中止せざるを得なかった。

  「テメーが神を堕とす悪魔ならアタシは神をたぶらかす魔女。お似合いの相手だろうが」

次々と撃ち出される窒素の矢の威力や密度は先刻戦った時よりも威力を増している。
【時間停止】という現象を創り出すことは後藤にとっても楽なことではない。
ことに幹部チームとの戦いで一度時間を停止させている上に、小型ブラックホールを創りかけていた。
頭の奥底に軽い痺れを感じながら、それでも後藤は喜びを感じていた。

  ―― こうして戦ってるとこんなわたしでも生きてるって感じがするね。 このお礼に藤本には直接【重力操作】を叩き込んでやろう

【重力操作】の影響で電力会社からの送電がストップしている都庁付近のビル群が光で輝いている。 不規則な間隔をおいて、まるで文字のように。

決戦の場、都庁に赴こうとしていた美貴とリゾナンンターに間賀が随行を申し出たことから話が始まる。
間賀が勤務するという建物管理会社は都庁の一括管理を請け負っているという。
この夜も夜勤で泊まっているはずの同僚たちの身が心配だという間賀の同乗を美貴は許した。

藤本美貴の【凝縮】能力は、魔術の儀式というルーティンワークで脳内のスイッチを入れて発動する異能だ。
儀式の場が成立していれば、限界を超えた異能を発動することすら可能となる。
今、都庁とその付近のビル群は巨大な魔法陣と化して藤本美貴という器に魔力を注ぎ込んでいる。
間賀やその同僚たちが自家発電を稼働させ、藤本の指定した魔法言語を描いているのだ。

次回、暁の戦隊 第31話「葬送(前)」

  ―― さあ、来いよ。 勝ち誇ったテメーが自分の手で息の根を止めに来た時が終わりだ

          ◇          ◇          ◇

第32話「壮争(後)」


―― ちっ、どうしてもタイムラグは生まれるな

ビル群の壁面に描かれた魔法陣から創り出される魔力は強大で、最強のGすらたじろがせる底知れなさがある。
しかし、構築した魔法陣が巨大なことで藤本が【凝縮】能力を発動させるタイミングに若干のズレが生じている。
状況を見切った後藤が窒素の矢や炭素の槍を掻い潜り藤本に肉薄する。

  「藤本、お疲れ~」

破滅の力が込められた拳が藤本の身体に炸裂する。

  「…やっぱ、こう来ると思ってたぜ。 最後は自分の拳でカタをつけるとな」

藤本は相殺しきれないチカラに身体を蝕まれながら、勝利を確信した。
今、この瞬間、自分の周辺に存在する大気中の窒素を一点に圧縮する。
窒素爆弾。 核に次ぐ破壊力を有する兵器を作り出し、一気に決着をつける、筈だったが……。

  「テメー、何をした」
  「あぁ。 ごとーを道連れにしようと何か企んでたのが不発に終わっちゃったのがごとーの所為だとでも? でもそれは違うよ」

藤本美貴の異能の根源は魔術の術式だ。
そして、魔術の源流を遡れば呪詛に辿りつく。
他者への嫉妬、他者への憎悪、他者への憤怒を成就させるための歪んだ感情から生まれた闇の儀式こそが魔術の原始。

  「ごとーのことをやっつけちゃいたいって意識で突っ走ってるうちは良かったんだけど、最後自分を犠牲にしてでも誰かを守ろうとしたよね、藤本」

藤本美貴に自己犠牲の精神が生まれたとき、呪詛に根ざした魔術の効果は薄れていった。

  「愛されるより愛する愛が愛だと知った今の藤本は魔女でもなんでもないだたのつまらない人間。 "Jacob’s Ladder”に立つ資格は…無い!!」

強烈な波動が藤本美貴を天空に投げ出した。

  ぐわぁぁぁぁぁ!!

優に百メートルを超える高さから転落した藤本を緊急避難用の巨大な緩衝材が地上で受け止めた。
緩衝材の周りには黒装束に身を固めた男たちが群がっている。
どの男たちの身体もボロボロだ。

  「…テメーら、能無しの戦闘員どもはまとめてクビにしたはずだけどな」
  「だからフリーを満喫させてもらってますよ。 クソ生意気な女の負けっぷりを見物しに来たんですけどね」
  「じゃあ、今の無様なアタシを見て笑えよ」

次回、暁の戦隊 第32話「壮争(後)」

  ―― 笑えるはずがねえだろうが。 身体を張って戦った今のアンタを見て

言葉を失くした「俺」に藤本が声をかける。

  「なあ、アタシの身体を立たせてくんないかな。 まだやれる、まだやれるはずなんだ…」
  「アンタは十分に戦った。 ただの人間風情が鋼翼の悪魔とあそこまで壮絶に争ったんだから」

  「じゃあ、後はあいつらに任せるしかねえ…か」

          ◇          ◇          ◇

第33話「摩天楼ショー」


―― これはちょっといただけないな

新たに戦場に現れたリゾナンターの一手の猛攻をいなしながら後藤真希は思考する。
ジュンジュンにリンリン。 亀井絵里に道重さゆみ。 近接戦のスペシャリスト二人に回復役という配置は通常の敵一人に対してなら十分過ぎるが…。

  ―― 中国のお友達二人は私に敵わないことは身に染みて判ってる筈だけどな

【重力操作】で四人のリゾナンターを一気にを葬り去ることは可能といえば可能だが、しかし…。

一周前と一周後では世界の形や人の有り様は微妙に違っている。
一周前の世界では国会議員だった黒崎が一周後のこの世界では都知事を務めていたのには少し驚いた。
しかし、人の本質は変わらなかった。
黒崎という男は邪悪で卑小な存在だった。
飯田圭織という予知能力者は何を考えているか判らないようでいて、人間の深淵を視ていた。 だったら…。

  ―― 愛ちゃんの本質も変わらないよね

高橋愛は危険な使命を仲間に負わせて、自分の身を安全な場所に置くことを良しとするような人間ではない。

  ―― 愛ちゃんがごとーの息の根を止めに来てくれるんだよね。 この子たちはその機会が訪れるまでのj時間稼ぎか、ならば…

次回、暁の戦隊 第33話「摩天楼ショー」

  ―― この摩天楼ショーを少しの間楽しませてもらおうかな

拳の嵐、炎の嵐、風の刃に吹かれながら、後藤真希は踊る。

目の前の敵との交戦は反射神経に任せ、切り離した意識はあらゆる事態の変化に対応するために研ぎ澄ます。
高橋愛の意図する処を見破り、自らの命を危険に晒したギリギリの直前で打ち破る。

  ―― 胸が高鳴るねえ

          ◇          ◇          ◇

第34話「One・Two・Three」


獣化したジュンジュンの爪、懐に飛び込んで来るリンリンの拳と応戦しながら、後藤の意識は高橋愛との決着の時を待っていた。
彼女たちの攻撃は後藤には届かない。
逆に後藤が反射的に繰り出した一撃で負った傷を亀井絵里と道重さゆみが協力して治癒していく。

  ―― 傷は治っても痛みは感じるだろうし、恐怖も残るだろうにね。

今、自分と退治している四人が高橋愛を認め、未来を信じていることを痛感する。

  ―― 確か、こっちの世界の愛ちゃんは一周前の世界の愛ちゃんが持っていないチカラを持ってるんだよね

フォトンマニピュレイト。 光を操るという能力の実相を後藤は実は知らない。
一周前の自分の中の認識と一周後の世界のカタチとの間に生じていたズレを解明すべく、様々な情報を収集している間に知り得た事実だ。

  ―― もしかして目からビームでも発射するのかな、うふっ、カッコいい

もしも高橋愛が滅びの光を放ったなら回避する術はない。
最強のGといえど光の速さには敵わない。
小型のブラックホールを形成すれば光の進行を歪めることは出来るが、一定の威力に留めておくのは大変困難だ。

  ―― 愛ちゃんやれいなと拳を交えないうちに全てを終わらせるのは勿体ないからね

高橋愛が仕掛けてくる瞬間を見切って、【時間停止】を発動させる。
タイミングを見誤れば死に直面するという予感は後藤の心を浮き立たせた。

  ―― でも、愛ちゃんはどうやて強力な光を発生させるつもりなんだろう?。 ん、フォトンマニピュレイトってのは光を収束させて放つことなのかな。 だったら…

夜明けには遠いこの時間ではフォトンマニピュレイトは発動できないと後藤は考えた。 収束させるに足りうる太陽光が射さないこの時間では。

  ―― そっか、だから小春がこの場にいないのかな。 謎は全て解けた、なんてね

後藤は高橋愛や田中れいなについで気がかりだった存在の顔を思い浮かべた。
久住小春。 彼女の放つ雷撃の速さは脅威だと考えていた。
しかし、小春一人で発生させうる雷撃の威力には限界がある。 目標に命中させる精度の問題。 そして何より命を奪う覚悟の有無。

しかし、ここに顔を見せていないリゾナンターが力を合わせれば。

ビル群の電灯ぐらいしか光源のない夜の闇の中で殺傷力を有する光を作り出す唯一の手段を後藤は見出した。

One  鞘師里保の【水限定念動力】と生田衣梨奈の【気体操作】で水蒸気を上昇させ、電位差が生じやすい大気の状態を局地的に作り出す。
Two  田中れいなによってチカラを【増幅】された小春が自分一人では発生させられない規模の強力な雷を起こす。
Three 小春が起こした強烈な雷の光を高橋愛が【操作】して収束して標的を射抜く。

次回、暁の戦隊 第34話「One・Two・Three」

  ―― 大好き 大好き 大好き 大好き……だからわたしのことを殺しに来てよ

雷鳴が轟いている。

          ◇          ◇          ◇

第35話「足跡」


稲妻が走った。しかしそれ以外は何も起こらなかった。

  ―― 試し射ちだったのか、それとも稲妻の光を愛ちゃんが収束して放つっていうのは見立て違いだったのか、でも…

果敢に立ち向かってきたジュンジュンとリンリンが、距離を置こうとしているのは、雷が攻撃の起点である証のように思える。

最強同士の戦いで二転三転する白熱の攻防は有り得ない。
有利なポジションを取り、先んじた方が勝利を収める。
ほんの僅かな誤差が取り返しのつかないミスを呼ぶ遠距離からの射撃を高橋愛が行うとは思えない。

  ―― 愛ちゃんはもうすぐ私の命を奪うために “Jacob’s Ladder”にやってくる。 

共鳴という絆に全てを委ねた者たちの奏でる魂の鼓動は後藤真希にとって、本来不快な不協和音だ。 しかし今は敢えて耳を傾ける。
最初の雷からの間合い、そしてジュンジュンたちから感じられるリズム。

  ―― 来る。

後藤真希は闇の波動を全開放した。 極限に増大した重力に時間が絡め取られていく。

  ―― 思ったよりも遠い

ゼロ距離からの攻撃を仕掛けてくるのではと期待した高橋愛が数十メートル離れた地点で静止している。
そんな安全策をとった理由は愛のすぐそばにいた。

  ―― あの子、たしか予知能力者の光井愛佳

後藤真希が看破した通り高橋愛のフォトンマ二ピュレートは収束させた光で敵を射抜く。
光を収束させるために自らの目の水晶体をレンズとして用いるので、一時的に視力を失ってしまう。
後藤という最強の能力者相手に二の矢を放つ機会は訪れないことを予期した愛は、たった一度の機会をより確実に使うために未来を視ることのできる愛佳を自分の目の代わりにした。
自分一人なら後藤と刺し違えることすら厭わなかっただろう愛は、愛佳が一緒に行動することを考えて一定の距離を取らざるを得なかった。
収束光の速度を考えればそれは十分な至近距離といえたのだが…

  ―― 重い。 まさか自分のチカラにこんな風に足を引っ張られるとはね

静止した時間の中で唯一動ける存在である後藤真希が、愛との距離を詰めていく。
自分の拳で直接【重力操作】を愛に叩き込むことが後藤の設定した勝利条件だった。
巧みな操作で時間停止の状態を保ったまま移動する後藤だったが、極限を超えて強化された重力線の軛から完全に逃れることはできない。
確実で安全な対抗策は時間を停止するために増大させている重力のベクトルを減少に転じ、愛の射線から逃れて稲妻の放ち手である久住小春を倒しに行くことだとわかっている。
しかしそれはしない。

  ―― 愛ちゃんも他の子もあたしを倒すために、全てを失くす覚悟で向かってきている。 だったら私はそれを真っ向から潰してあげる。

いつまで時間を停止させられるかは自分でもわからない。
時間が動き出せば馬鹿正直に真正面から向かっていく自分のことを愛は光の槍で貫くことだろう。
二つの世界の自分が一つになってから嗅ぐことの無かった死の匂いが後藤真希を高揚させる。
喜びを得るために愛たちと同じだけの大切なものを差し出しながら、足跡を刻みつけていく。

  ―― ヤバッ、ちょっと間に合わないかも

時間が動き出す予兆を感じたが、愛との間にはいまだ十メートルばかりの隔たりがある。
後藤の脳裏にある光景が浮かんだ。
それは鈴木香音を救い出そうとした鞘師里保が、武器となる水の存在しない閉鎖環境で取った手段。

  ―― もらうよ、里保ちゃん

何のためらいもなく自分の手首を噛み切った後藤は、血液が噴き出そうとしている傷口を愛の顔面に向け振り下ろす。
動き出す時間。 夜の闇を走る稲妻。 愛の瞳を染める血の滴。変動する屈折率。そして…。

次回、暁の戦隊 第35話「足跡」

赤い光を潜り抜けた後藤の拳が愛に炸裂する。
愛の口から崩れ落ちる愛の口から真っ赤なものが…。

          ◇          ◇          ◇

第36話「Going On!」


最凶の一撃を受けた倒れ伏した愛を守ろうと躍起する愛佳。 一方後藤真希はというと…。

―― 愛ちゃんでもわたしをとめられないんだね。

最強の孤独を噛みしめながら、愛に止めを刺そうと動く。

 「んぁ? 君まだいたんだ。 ちょっとそこ退いてくれるかな」
 「なんで、あんたはそんなことするんや。 敵味方関係なく誰彼構わず潰してしまおうとする?」
 「確かめようとしただけさ。 ここがわたしの居るべき世界なのか」

後藤真希は自分の存在を受け止めることのできる者を捜していた。
だが誰も最強のGを止めることはできなかった。
銀翼の天使。 永遠殺し。 氷雪の魔女。

 「呪われた生体兵器i914が私にとって最後の希望だったんだけど、とんだ期待はずれだったよ」
 「高橋さんは兵器なんかやない」
 「スペック的には愛ちゃんは最強のはずなのに、つまらないきみたちなんかと仲間ごっこをやってるから、愛ちゃんまでつまらなくなっちゃった」
 「違うっ! 私たち一人一人は不完全で弱っちいかもしれんけど、お互いの足らないところを補い合って、助け合える私たちは最強やっ!!」

愛佳の悲痛な叫びを耳にした後藤の顔に妖しい笑みが浮かぶ。

「じゃあ守ってみなよ。 きみたちの絆ってやつで大事な愛ちゃんを、かけがえのない世界を守り通してみな」

後藤の掌の上に小型のブラックホールが形成され始めていた。

 「あんた、アホか。そんなものを創ったらあんたもただじゃすまへんで」
 「わかってる」

重力を歪めることで創り出されたブラックホールは、ある規模を越えるとその創造者である後藤ですら制御不可能になる。

「ブラックホールに吸い込まれた私はワームホールを通ってまた時間を一周するのさ。 そして今度こそ自分の世界を見つけるんだ」

次回、暁の戦隊 第36話「Going On!」

後藤と戦って時間稼ぎをしていたジュンジュンたちは疲労困憊して戦える状態ではない。
離れた場所にいるダークネスの幹部チームはもっとボロボロになっている。
特大の稲妻を起こすために別行動を取っていたれいなや小春達が合流してくるまでには時間がかかる。
今、後藤真希に立ち向かえるのは光井愛佳一人だけ。

  ―― 叶うはずがないなんて言わへん。 この女はうちらの絆を、正義を侮辱した。だったら…

俯きそうになる顔を上げ、明日へ向かってGoing On!

  ―― 諦めない限り、朝はやって来る

          ◇          ◇          ◇

第37話「時間よ止まれ」


“予知能力者”光井愛佳は傷ついた愛を守るため、単身で最強のGに立ち向かった。
妖しく光る後藤の目に射すくめられて、心が折れそうになりながらも、思いを込めた拳を繰り出す。

 ―― えっ、嘘やろ

後藤の端正な鼻筋から血が流れている。
幻でない証拠に、力一杯握りしめていた拳が痛む。
戦士とは認識していなかった愛佳の一撃を食らった後藤は唖然とした表情だ。
愛佳は辺りに転がっている瓦礫の中から、片手で持てる程度の大きさのコンクリートの破片を拾い上げて…。

 「待ちぃ、愛佳」

息絶え絶えの様子の愛が制止した。
愛佳の手は人の命を奪うためにあるのではなく、人を導き、救うためにあるのだと。

 「でも、この人をこのままにしておいたら、取り返しのつかないことに」
 「手を汚すなら、わたしが…」

ふらつく体で立ち上がろうとする愛だが、後藤に与えられたダメージは大きくて…。

 「ちっ、テメーら正義の味方は使えねえな」

愛の元に駆け寄った愛佳は、背の低いシルエットの女が自分たちを窺っていることに気づいた。
西部劇に出てくるガンマンのようなテンガロンハットを頭に乗せ、腰につけたガンベルトには銀色の銃。

 「せっかく、オイラがそいつの能力を【阻害】してやったのに、モタモタしやがってよー」

次回、暁の戦隊 第37話「時間よ止まれ」

女は銃を構えながら歩み寄ってくる。

 「【阻害】の射程に入ったからには、テメーの好きにはさせねえ。」

銃声が響き、後藤の肩から血が流れ出し…。

 「いつまでもこうして、テメーと時を過ごしたいところだがそういうわけにもいかねえ」

再び、鳴り響く銃声。

 「空に流れる星に何か願い事でもしてみろよ。 もう一度時間よ止まれとでも祈ってみろよ?」

ピースメーカーの撃鉄を引き起こした矢口真里は宣告する。

 「ラストキッスだ」

          ◇          ◇          ◇

第38話「ガラスのパンプス」


  「地を這う虫に悪魔は殺せないよ」

自らが噛み切った手首、矢口真里に撃たれた肩口から出血しているにもかかわらず、後藤の表情には余裕があった。
虫呼ばわりされて息巻く矢口に向かって、ニヤリと笑いかける。

  「裕ちゃんたちが戦っている間、虫ケラみたくこそこそ隠れてた知が、ごとーのことを殺せるわけないじゃん」

矢口は自分の別行動は、中澤の了承があってのことだと言った。

  「テメーとの戦いが乱戦に陥ったら、オイラの【能力阻害】は仲間の能力も打ち消す諸刃の剣になりかねないからな」
  「それは違うね。 アンタは怖かったんだ」

【能力阻害】は能力者の異能の発動を阻害する能力だ。
対能力者との戦闘では最強の武器となりうるが、異能によって引き起こされた現象を打ち消すことは出来ない。

  「アンタはごとーの【重力操作】で押し潰されることも、流れ弾に当たることも怖かったんだ」

矢口は自分の身の安全を図る為、【能力阻害】の波動の有効範囲と【重力操作】の射程距離を見極めようとした。
だからダークネスの幹部チームの戦闘にも加わらず、後藤が敢えて光井愛佳に仕掛けさせる状況に隙を見出して【阻害】の波動を撃ち出した。

  「【もしも能力阻害】を発動させたアンタが決死の覚悟で突っ込んできてたら、さっきの戦いもどうなってたかわかんないよ」
  「うるせえよ。 オイラが虫なら、その虫に殺されるテメーは何なんだ」

僅か、数メートルの隔たりから発射された銃弾が空を切った。
後藤が驚異的な身体能力で回避したのだ。

  「もっと落ち着かなきゃ、やぐっつあん。 表情の変化や筋肉の動きでどこを狙ってるか丸わかりなんだけど」
  「うるせえ、うるせえ」

冷静さを失った矢口が立て続けに放つ銃弾を後藤は華麗な動きで回避してゆく。
その様子はまるでガラスのパンプスを履いたダンサーのようだ。

  「もっと装弾数の多い銃を選ばなきゃ。 西部劇のカウボーイにでもなったつもり」

弾丸を打ち尽くした矢口の頸部を鷲掴みにした後藤は一気に握りつぶして…。
【能力阻害】者の口から吹き出した漆黒の血で手が汚れた後藤は顔をしかめる。

  ―― やっぱ、虫だ。 血の色も黒・・・黒・黒・黒

掌を汚した黒色はどんどん大きくなっていく。

  ―― この攻撃は・・ガキさんか。 いつの間にガキさんの創った幻の中に取り込まれたんだろう

腕から身体へと侵食を止めない黒色はやがて後藤の顔をも覆い…。

  ―― っていうかいつの間にガキさんは私の死角に回り込んで…。 ああ、そうか。かのんちゃんが連れてきたのか

次回、暁の戦隊 第38話「ガラスのパンプス」
後藤の目が最後に捉えたのは自分の足先。
ガラスのパンプスは履いていない。

  ―― あっけないなあ。 どうせなら、もっと華々しく戦って散りたかったけど・・まっ・い・いか・・・・・・

          ◇          ◇          ◇

第39話「手を握って歩きたい」


新垣里沙は後藤真希の精神を掌握することに成功した。
巧妙に作り上げた幻覚の中に閉じ込めた後藤の精神に、心臓が止まるイメージを送り込めば戦いは終わる…

  「モタモタしないでさっさとケリをつけちまえ」

里沙を急き立てるのは、銀色に光るコルトピースメーカーを手にした矢口真里。
この能力者殺と戦っている隙を突いて、後藤の精神に干渉することができた。
しかし、もう一人。 【物質透過】能力者である鈴木香音の協力なくしては後藤の死角に回ることはできなかったが…。

  「嘘つき。 ケンカを止めて後藤さんを助けるって言ったのに」

五感を遮断され、動きが停止した後藤の傍らに蹲り、その手を握っている。

対後藤戦に臨む直前の作戦会議で、愛は後藤を撃ち落とすと力強く言った。
しかしその言葉の裏に潜む不安を感じ取った里沙は自分も戦場に向かうことを決めた。
後藤真希の【重力操作】の前には、里沙の【精神干渉】はちっぽけな力だ。
しかし後藤真希の死角に周り、その懐に飛び込むことが出来れば勝機を見い出せると思った里沙は鈴木香音の力を借りた。
香音が後藤に対して複雑な感情を抱いているらしいことを見て取り、それを利用したのだ。

  「聞いて、香音ちゃん。 こうするしか仕方なかったの」

結果的に香音に嘘をついてしまったことを里沙は詫びた。

  「いや。 お前の言ったことはまんざら嘘じゃねえ」

矢口によれば後藤真希が常に戦いを望んだのは、自分自身の命を奪ってくれる存在を求め続けてきたからだという

  「そんなこいつの願いを叶えてやったわけだから、こいつを助けてやったってことに違いはねえ」

したり顔で話す矢口は里沙に決断を促す。

  「【能力阻害】の波動をぶち込んだ時の手応えで思ったんだが、こいつが強いのはこいつの存在自体が一周前と現在を繋ぐゲートだからだ」

後藤という異界の門を破壊しない限り、世界の危機は免れないという。

  「違うっ。 この人は私に優しくしてくれたんんだよ」
  「それは気まぐれだ。 そいつは気まぐれで人を救えるが、気まぐれで世界を壊せる悪魔だ」
  「悪魔なんかじゃないよ。 こんなに苦しそうにしてる人にそんなひどいことなんてできっこない」
  「それは能力で精神に干渉しているからだ。 干渉を止めて目覚めればそいつはまた同じことをする」
  「そんなことない。 わたしにはわかる。この人は、この人は…」

次回、暁の戦隊 第39話「手を握って歩きたい」

  「この人は友達と手をつなぎたいだけなんだ」

香音の訴えに心が張り裂けそうな里沙は天を仰ぐ。
暁の明星を己の道しるべにしようと…。

         ◇          ◇          ◇

第40話「Be Alive」


  「矢口さん。 今の状態をキープして後藤さんを救う方法を見つけられませんか」
  「温いぜ。 何人の人間が死んでると思う。 それにこいつは圭織を手にかけてんだぞ」

暗い情念を燃え上がらせる矢口に里沙は訴える。

  「無力化されて無防備な状態の今の後藤さんの命を奪えるんですか」
  「くだらねえ。正義の味方ってのはホントにくだらねえなあ」

吐き捨てた矢口は手にした拳銃の撃鉄を起こす。

  「オイラは殺せる。 仲間を殺した奴なら、それが誰であろうと殺せる」

躊躇いもなく後藤に銃口を向けると、その傍にいる香音に警告する。

  「さっさと退きな。 そいつを庇うならガキだって容赦しねえ」

香音の答えは両手を広げて、銃口の前に立ちはだかることだった。

  「テメーは【物質透過】能力者だそうだが、オイラの前じゃそんなチカラ、屁でもねえ」
  「最初からチカラを使うつもりなんてないんだから。 だって使ったらこの人を守れないから」
  「世界の敵をどうあっても守るって…」

矢口が言いよどんだのは、後藤を守る壁に新手が加わったからだ。

  「わしは世界の敵を守るつもりなんかない。 でも香音ちゃんが世界の敵を守るなら、わしは世界の敵を守る香音ちゃんを守る」
  「フォーゼの弦太郎は自分を殺そうとした流星も、親友の賢吾を殺した我望のことも許してダチになったけん。衣梨奈もこの人とダチになるっちゃ」

苛立ちを隠せない矢口は【能力阻害】の波動を香音たちに向けて放出した。
最強のGと命懸けで対峙したことで強化された負の波動を浴びても三人は揺ぎもしなかった。

  「オイラの前じゃお前たちのチカラなんて何の意味もない。 なのになんで歯向かう?」
  「チカラの有る無しじゃないんです」

大人びた風貌の少女が香音たち三人の仲間に加わった。

次回、暁の戦隊 第40話「Be Alive」

  「守りたいものがあるなら人は誰だって戦士になれる。 わたしは仲間たちと生きる今を守って明日に繋げたい」

          ◇          ◇          ◇

第41話「風をさがして」


決戦の場に能力者達が集まってきた。
リゾナンターとダークネス、どちらの陣営に属する者も激戦で傷つき疲弊している。
矢口と香音たちの対峙を目の当たりにした彼らは、たちどころに状況を理解したようだった。
その一人、ダークネス幹部チームの中澤裕子が、矢口の元へ…。

  「なあ矢口、ここはひとつ矛を収めてくれへんか」

リゾナンターと限定的な休戦をした上で、双方の空間系能力者で創造した亜空間に、一時的に後藤真希を隔離するという。
本当に後藤真希が一周前の世界と現在を繋ぐゲートの役割を果たしているなら、その謎を解明してから処置を決める必要があるという。

  「問題の先送りと言われればそうかもしれんけどな」

銃声が響き、矢口に脚を撃たれた中澤の体が崩れ落ちる。

  「はぁ? 寝言は寝てから言えよ、裕子。 こいつは圭織の命を奪ってんだぞ」
  「しゃあけど、それは」

能力を阻害されているとはいえ、歴戦の強者達が動けずにいるのは、目にうっすらと涙さえ湛えている矢口の決意が伝わったからだ。

  「お前らは許せんのか。 こいつは仲間を手にかけた奴なんだぞ」
  「しかし、それは後藤が自分のチカラが強化されていることに気づかなかったから…」
  「黙れよ、圭ちゃん。 そんな世迷いごと信じるのかよ。 いや、それが事実でもオイラは許せねえ」

矢口はこれから自分がしようとすることを邪魔されないように、極限までに強化した負の波動を一斉に放出した。

  「お前らにとっちゃ圭織はもういない人間なのかもしれねえけど、オイラは違う。 オイラの胸の中じゃ、今も圭織が仇を討ってくれって…」

不意の強風が矢口を見舞う。
【風使い】亀井絵里の攻撃だと思ったが、【能力阻害】の効果は破られてはいない。
目を開けているのがやっとの状態の矢口に誰かが囁く…。

  …何、熱くなってんのよ。 矢口のくせに。 バカじゃないの?
  ―お前の仇を討ってやろうとしてるんだぞ。バカとは何だ。
  …圭織、そんなこと頼んでないけど。 それに私、あんたのことを仲間だと思ったこと一度も無いわ
  ―そりゃないぜ。 オイラ何のためにこんなに必死こいてよ

声が途絶えた。
もう一度、その声が聞きたい矢口は風をさがした。

次回、暁の戦隊 第41話「風をさがして」

  …あんたは友達よ。 腐れ縁の悪友だけどね…

  ―くそっ、この風はオイラの涙を乾かせるどころか、逆にあふれさせちまう。

  「ちくしょーーーっ!!」

矢口真里が天に向けて放った銃声が、激戦の終わりを告げる号砲となった。

          ◇          ◇          ◇

第42話「暁は光と闇とを分かつ」


戦いは終わった。
新垣里沙の【精神干渉】で幻の中に精神を閉じ込められた後藤真希の身柄はダークネスが預かることになった。

  「暫くは鎮静剤と筋弛緩剤を常時投与しながら、チカラの根源の解明に務める。 その上で後藤の精神とコンタクトを取りたいんやが」
  「その点については私と里沙ちゃんで協力します」
  「亜空間の創造についても考えておいて欲しい。 あっ、そや。 何やったらこれを機会に合流せえへんか」

何気ない態度で為された中澤の提案を愛はきっぱりと拒絶する。

  「私たちが決して一つにはなれないことはあなたもわかっているでしょう」
  「そうは思わへんけどな。 うちらが目指すものはそんなに違ってへん。 ただそこに至るまでのやり方が違うだけや」
  「あなたたちがかなしみを利用して人の心を一つにしようとするなら、私たちはかなしみの連鎖を断つ」

愛の宣言を聞いた中澤は不敵な笑いを浮かべた。 最初から愛の答えはわかっていたと言いたげに。

  「おい、人型松葉杖」

慌てて駆け寄った矢口真里に肩を預け、愛たちに背を向ける。

  「そやっ、これを渡しておく」

中澤はボロボロの布を残していった。
それはMの隊旗だった。
かつて中澤たちが掲げ、愛や里沙が夜を徹して嵐から守った旗には、暁の明星・【モーニング・スター】が、天に向けて突き上げられた拳の如く染め抜かれていた。

一方、安倍なつみは…
自分の手首に話しかけている。
まるで通信機を装着しているかのようなその姿を、ドクターマルシェこと紺野あさ美が気遣わしげに見守っている。

  …ずいぶん、無茶したわよね。 私の未来視無しで【シャイニングバタフライ】を発動するなんて
  ―後藤のチカラの所為で発生する被害を抑えるためにはああするしかなかったんだよ
  …こっちに来ない? 一人じゃ寂しいんだけど
  ―もうちょっとこっちにいさせてよ。 そしてあの子たちの描く未来の続きを視させて欲しい

安倍なつみの脳裏に一つの光景が浮かんだ。
厳重に封鎖された施設の一室。
ベッドの上で様々な計器を取り付けられ、鎮静剤と筋弛緩剤の点滴を受けながら長い眠りにつく後藤真希の姿。
厳重なセキュリティが施されたその部屋に一人の人間が侵入する。
壁を潜り抜けてきた制服姿の女子学生は固く目を閉ざした後藤真希に、私立中学への編入が決まったことを報告すると小さなクマのぬいぐるみを後藤の顔の傍に置く。
警報が鳴り響く中、舌を出しながら壁を潜り戻っていく少女。
後藤の口元がほんのわずかだけ緩み…

  …これは私が視た未来の可能性の一つ。 訪れるかもしれないし、訪れないかもしれない
  ―ねえ、圭織。 私たちはいつまでこんな戦いを続けなきゃならないの
  …永遠によ。 私たちのどちらか一方が正しくて、どちらか一方が間違ってるなら戦う必要なんてないわ
  ―でも、辛すぎるよ
  …私たちはどちらも間違ってるかもしれない。 どちらも正しい道を歩んでるかもしれない。 だから永遠に戦い続けるのよ、でも…
  ―でも?
  …また共に戦う可能性も存在する。 光と闇の境目、暁の刻に
  ―ありがとう、圭織

圭織からは返事の代わりに、外国語の歌曲がなつみの心に響いた。

L'alba separa dalla luce l'ombra,    夜明けは 光から暗闇を分ける
E la mia volutta dal mio desire.     そして私の欲求から 逸楽を分かつ
O dolce stelle,e l'ora di morire     ああ 愛しい星よ いまが滅び行く時
Un piu divino amor dal ciel vi sgombra.  さらに神聖な愛が空からお前たちを取り除く

次回、暁の戦隊 第42話「暁は光と闇とを分かつ」

          ◇          ◇          ◇

第43話「女が目立って なぜイケナイ」


東京都庁一帯を壊乱状態に陥れた戦いは、耐震検査の不正と建築業者の手抜き施工によって起きた不幸な人災として処理された。
その強引とも思える情報操作の裏に、政府に侵食している闇の存在を意識する者もいたが、今のところ打つ手はない。
首都の人的、物的な象徴を同時に失ったことによる日本への悲観的な観測は、株価や為替の全面安という現象をもたらした。
しかし命を落とした犠牲者の数が二桁に留まったことや、テロの可能性が否定されたことで、社会に広がる自粛ムードは最小限に抑えられた。
失ったものを取り戻そうという心理が働いたのか、経済活動は反発の動向を示し、その一環として各種イベントも活発に執り行われる傾向にあった。
『日本に元気を』というスローガンや、都庁の崩落事故の犠牲者への黙祷はついて回ったが。

そして、今日も…。

  ― やれやれだぜ

ティーンズ向けファッションショー『青春コレクションin神戸』の楽屋で、久住小春は一人ため息を吐いた。
一連の戦いに参加した代償として、モデルとしてのスキルが明確に退行しているのだ。
リゾナンターの一員として戦うことに何のためらいもない。
もしも今、この瞬間、喫茶リゾナントに集う仲間の身に危険が及んだら、仕事に穴を空けても駆けつけるだろう。
だが…

  「さっきからため息ばっかりついてますよ、久住さん」

小春に声をかけてきたのは、イベントに参加しているモデルの一人。
名前は聞いたはずだが…覚えてはいない。
他人に弱気なところを見せたくはない小春だが、今目の前にいるほとんど初対面に近い相手。
一連のイベントが終了すれば顔を合わすこともない彼女になら、少しぐらい話しても差し支えないだろう。
モデルとして大成したいという望みと仲間を守りたいという思い。
リゾナンターのことは伏せた上で今の自分の心の内を明かす。

  「任務は遂行する。 仲間も守る。 両方やらなくっちゃあならないってのが、幹部のつらいところだな」

話口調や立ち居振る舞いが急変した様子に目を丸くしていると…。

  「私の好きなマンガの登場人物のセリフなんです~」

  ― まっ、こんな年下の子に話してみてもしょうがないよね、実際

結局は自分のことだ。
モデルとしてのスキルが退行したなら、進歩すべくレッスンに励むしかない。
二つのことを同時に極めることは大変なことだろうがやってやる。
それにはまず、今、やるべきことをやりきるだけだ。
覚悟ができたら、背筋が伸びてきた。

次回、暁の戦隊 第43話「女が目立って なぜイケナイ」

そうと決めたなら目の前のこの子にも、あの子にも差をつけよう。
ショーという戦場に赴く前に携帯の新しくした待受画面を眺める。
そこにいるのは自分を除いた12人のリゾナンター。
小春にとってかけがえのない青春コレクション。

  ― 離れていたって一人じゃない。 私には仲間がいる。

          ◇         ◇          ◇

第44話「ピョコピョコ ウルトラ」


その日のランチタイム、喫茶リゾナントは貸切だった。
“ディフェンダー・オブ・ア・フラッグ” ―― 街の守護者を詐称する無法者たちからリゾナントを守ったヒーローへ、マスターの愛から感謝の気持ちが込められたランチが振舞われたのだ。
ヒーローの一人、タクシーの運転手が早々に業務に戻ったため、店内は間賀時夫と愛の二人きり。
間賀の心臓は期待で高鳴るが…。

  「今回は本当に助かりました。 リゾナントがこうして無事なのも、間賀さんたちのおかげです」
  「いやあ、マスターの笑顔を守るためなら、この間賀時夫33歳、地球の果てでも駆けつけるつもりです」

愛の口からは新たに加わった仲間が一人前に育つまで、今まで以上に自分は頑張らなければならないという決意が語られた。
今回の事件でも自分は助けられてばかりで、他の仲間に負担をかけた分も含めて頑張るという愛の言葉を耳にした間賀の顔が曇る。

  「またそうやって他の人のために頑張るわけですか。 自分のことは放っておいて」
  「他の人だなんて。 わたしにとってはみんなかけがえのない家族のような存在なんです」
  「確かに家族は他人ではありませんが、それでも別々の人格ですよ」

一人一人に別々の人格があるように、それぞれが自分の夢を追い求めるべきだと間賀は語るのだが…。

  「あーしの夢は、みんなの夢を守ることで…」
  「それは違うと思いますよ」

間賀たち常連客は知っていた。
愛は舞台に立ち、歌い、踊り、演じるという夢があるということを。

  「それはあれだけ宝塚とかミュージカルの話を楽しそうにされてるんですから、わかりますよね」
  「だって、わたしもう二十代の半ばなんですよ。 こんなオバサンが舞台に立つ夢なんてちゃんちゃらおかしくて」
  「おかしくなんてない!!」

つい言葉を荒げてしまったことを詫びた間賀は愛に語りかける。

  「心に夢を抱く限り、人には羽ばたく翼があるんだ」
  「でもわたし、ほんとにそんな夢を語る資格なんてないんです」
  「私はあなたにどんな過去があるなんて知らない。 でも未来を見つめるあなたの横顔がキラキラ輝いていることを私は知っている」
  「でも私がいなくなったら、新しい子たちに負担がかかりすぎて。 あの子達ホントにまだひよっ子だから」
  「あなただってそんなひよっ子だったでしょう。 信じてあげましょうよ、ひよっ子たちを」

立ち上がった間賀は店の一角にあるマガジンラックから1冊の雑誌を手にとった。
それは演劇の専門誌で、ある舞台のオーディションの告知を空き時間に愛が熱心に見ていたことを間賀は知っている。

  「自分の夢を諦めたあなたに守られて、あなたの仲間は喜ぶでしょうか。 でも自分の夢に向かって飛び立つあなたを仲間のみんなが祝福すると思いますよ」
  「間賀さん…」
  「今回の事件だってそうです。 離れていたって、久住さんや中国のお仲間は駆けつけたじゃないですか。 あなただってそうすればいい。 羽ばたきなさい、高橋愛さん」

次回、暁の戦隊 第44話「ピョコピョコ ウルトラ」
諦めかけていた夢に向かって、勇気を振り絞って愛がジャンプする。
そんな愛を見て笑う者は、誰もいない。

          ◇        ◇         ◇

第45話「涙一筋」


高橋愛が喫茶リゾナントを出ていくことになった。
そのことを愛の口から聞いたれいなは冷静に受け止めて、愛に自分の夢を掴んで欲しいと笑顔で告げた。
れいなの猛反対を予想していた愛は少し拍子抜けした様子だったが、リゾナンターは新垣里沙が率いて、リゾナントはれいなが引き継ぐことになった。
身寄りのない鞘師里保と鈴木香音は当面、リゾナントに住みながら学校に通うことになる。
色んな準備が進められていくある日、れいなは里沙にリゾナントの地下のトレーニングルームに呼び出された。

   「まだ誰にも話してないけど、愛ちゃんのいない体制が固まったら、私も第一線から退こうと思う」

亀井絵里が次期リーダーになるべきだが、病気を抱えていることを考えると道重さゆみとれいなの二人でリゾナンターを率いて欲しいという里沙の言葉はれいなの怒号で遮られた。

   「そんなん、勝手やろ。 愛ちゃんが出ていって、またすぐガキさんまで辞めるなんて言い出すなんて」

愛がリゾナントを出ていくことを笑顔で受け止めたれいなが、自分の脱退を聞いて怒りを露わにしている。
そのことに里沙は驚きながらも、第一線を引くといってもリゾナンターを見捨てたわけではなく、リゾナンターを守る為なのだと言葉を尽くした。

   「今回の都庁の一件の処理のされ方から考えても、ダークネスの勢力が公権力に影響力を持ってるってことは田中っちもわかるよね」
   「やけど、後藤さんの件であいつらとは協定を結んだんじゃなか?」
   「それで油断しちゃいけないよ。 あいつらは私たちを統合することを諦めたわけじゃない」

強いチカラを求めることで心を焼き尽くし闇に堕ちたダークネスにとって、リゾナンターを闇に引き入れることが、自分たちの正当さを証明する唯一の手段なのだ。

   「あの人たちはこれからもリゾナンターを襲ってくる。 そのことによってリゾナンターが強いチカラを手にしたら、普通の人たちがリゾナンターを恐れ、拒絶すると考えてる」

単なる力攻めではない狡猾な手段を用いてくるだろうダークネスに対抗する手段として、里沙は戦いの表舞台から去って、側面から援護に徹する。

   「どうやらそういう戦い方の方が私には合ってるみたいだからね」
   「もしかして後藤さんを倒した時に、香音ちゃんに言われたことを気にしとう? でもそれならもう」
   「香音ちゃんが許してくれても、私が私のことを許せない」

里沙の強い口調にその決心が揺るがないことをれいなは悟った。

   「悩んでないで話してくれてうれしかったっちゃ。ガキさんのいなくなった分もれいながカバーするけん」

次回、暁の戦隊 第45話「涙一筋」
れいなの頬を一筋の涙が走っていることに気づいた里沙だったが、そのことには触れない。

   「れいながだらしなければ退くのも止めるかもしんないけど」
   「いや。 ガキさんなんか今すぐやめてもいいっちゃ」

          ◇          ◇          ◇

第46話「大阪 美味しいねん」


ジュンジュンとリンリンが日本を離れる前日、光井愛佳は二人を伴い大阪にやってきていた。

「ほら、見てみ。 あれが通天閣や」
「何ダ低いナ。 東京タワーの足元にすら及ばナイ」
「あれが大阪城や。 太閤秀吉はんが建てたお城やで」
「今の大阪城の天守閣は鉄筋コンクリートで建てらてマスガ」
「ほらこれが道頓堀や。 タイガースが優勝した時、大阪の人間はみんなこの川に飛び込むんや」
「汚いナ。 大阪の人間は命知らずですナ」
「ちょお前ら、せっかく案内してやってるのに何ケチつけてばっか」

息巻く愛佳だが、今日は離日する二人をもてなすことに徹すると決めている。
たこ焼きに始まり、イカ焼き、キャベツ焼きを歩きながら食すると、古ぼけた看板のお好み焼き屋に入る。

「意外とこういう店の方が美味いねん」
「何ダ、このメニュー。 大阪の人間はお好み焼きをおかずにご飯を食うのカ」
「当たり前やがな。 あと大阪ではどこの家でもたこ焼き器を持ってるんやで」

粉物文化の奥深さについて語り始めた愛佳にリンリンが指摘する。

「デモ、光井さんは滋賀出身ですよネ。 そんなに大阪を自分のホームグラウンドのように語らなくても…」
「ええねん。 大阪で作る粉もんは本を正せば琵琶湖の水で練っとるからええねん。 止めよか、何やったら琵琶湖の水止めよか」

次回、暁の戦隊 第46話「大阪 美味しいねん」

「そうダナ。 すべての水は海に注グ。 そして海は繋がってル」
「私たちも同じように繋がってマス」

          ◇          ◇          ◇

第47話「大きい瞳」


「ふ~ぅ。この丘に来るのも久しぶりだね」

亀井絵里は田中れいなと連れ立って、隣町の見える小高い丘にやってきていた。
愛や里沙がリゾナンターを離脱することが決まってから、気落ちしているように見えるれいなを励ますためだ。
道重さゆみも呼んだのだが、急な思いつきだったので予定が合わず断られてしまった。
絵里にしてみれば、れいなの今の気持ちは手に取るように判る。
共鳴という絆で結ばれた九人が形の上ではバラバラになってしまうのだ。
不安にもなるだろう。

   「あの頃は時間が空いたら、ここにやって来たよねえ。 世界の人に幸せを届けられたらいいねって言いながら」
   「あの頃は若かったっちゃ。 ていうか子供だった。 自分たちならできるって信じてた」

その丘は絵里やさゆみ、れいなにとって思い出のある場所だった。
さゆみの癒しの力を絵里が吹かせる風に乗せて世界中に届けられるように、れいなが増幅する。
戦いとは違うやり方で世界を救えないかという絵里の思いつきをカタチにする為の場所だった。

   「でも何も変わらんかったっちゃ。 世界から争いはなくならんかった。 不幸な人は今でも世界中におる」
   「れいな!!」

抑えきれない感情を、それでも抑えているれいなに絵里は何も言えなかった。 その時…。

   「さゆ、さゆじゃない?」

予定が合わないからといって、絵里からの誘いを断ったさゆみの姿がそこにあった。
リゾナンターの中でも特別な三人だけの絆を確認できたと思った絵里は嬉しかったが、さゆの様子がすこしおかしくて…。

「りほりほと香音ちゃんを追っかけてきたら、こんなところに来たの。 絵里、さゆのりほりほを見なかった?」

バカ負けしてれいなと顔を見合わせた次の瞬間、絵里の瞳がそこにありえない物を捉えた。

「ちょっと、あれ虹だよね」

晴れ渡った空に、少し歪な形の虹が架かっている。
晴れ続きの天候下ではプリズムとなる水滴が空中に漂っているとも思えないのだが…。
何気に周囲を見回した三人は小さな池の辺に三人の少女が佇んでいるのを見つけた。
それが譜久村聖、生田衣梨奈、鈴木香音の三人だと判り、駆け寄ろうとするさゆみの腕を絵里は掴む。
目を閉じていつになく真剣に考え込んでいる。

   「鞘師もおるよ。 池に入って何かしとる」
   「水遊びなんかしたらわたしのりほりほが風邪をひいちゃうの。 でもつきっきりで看病したあげられるからそれはそれでいいか」

絵里の瞳が大きく見開かれた。

   「あの虹は鞘師が架けたんじゃないの」

池の水を【アクアキネシス】で空気中に漂わせて、虹を作ったのかもしれないという絵里の言葉を聞いたれいなの表情が少し険しくなる。

   「チカラはそんな風にひけらかすもんやないとガキさんも言うた筈やのに」
   「違うよ、れいな。 私たちと一緒なんだ。 あの時の私たちと同じことをしようとしてるんだよ、あの子達」

池に腰まで浸かり、チカラを発動している鞘師に自分たちのチカラを注ぎ込もうとしている譜久村たちの姿はまるで祈っているようにも映る。
その虹を見た人の心が少しでも幸せになるようにと願っているように…。

次回、暁の戦隊 第47話「大きい瞳」

「変わったよ。 世界はほんのちょっとだけ変わったよ。 私たちの思いをあの子達が受け継いでくれるんだ。 終わらないよ。 私たちは続いていくんだ」

熱にうなされたような絵里を気遣いながら、さゆみとれいなは肩を組む。
そして三人でチカラを発動させた。
世界中の人に笑顔が届くように。

          ◇          ◇          ◇

最終話「自信持って 夢持って 飛び立つから」


「じゃあ行ってくるよれいな」
「店があるから見送らんけん」

舞台のオーディションの書類審査を突破した愛は香港へ旅立つことになった。
彼の地に滞在してレッスンを受けながら、数次に渡る審査に勝ち残る可能性は極めて少ないが、決してゼロではない。
永久の別れではないのだからと、れいなもあっさりしたものだ。
何があっても愛が最後に帰ってくる場所はリゾナントなのだという思いがそこにある。


「戦闘員の皆さん、ご苦労様。 今日はリゾナンターの新メンバーの戦力を探るための威力偵察を行います」
「キィィィィ(マルシェは天使)」

ダークネスの本拠で戦闘員を前に出撃前のブリーフィングを行っているのは、ドクターマルシェこと紺野あさ美だ。
後藤真希との戦いで深手の傷を負った二つ名持ちの幹部連に代わって、指揮を取ることになった。 
暴力的だった魔女とは異なる理知的な話しぶりに、戦闘員たちの心も弾む。


「あっ、すいません」
「ごめんださい、ごちらこそ」

空港に向かうために駅に着いた愛は一人の少女とぶつかった。 
何か響き合うものを感じた愛は確かめようとするが、待ち合わせ相手が来たらしい少女は笑顔を残し去って行った。


「ミキティーーーーー」 「俺ーーーーーーー」

街の外れのいつもの廃工場でリゾナンターとダークネスが対峙している。
前衛にして先鋒を務めるれいなに、科学者に戦闘の指揮が出来るのか揶揄されたマルシェは、意味ありげに笑うとタブレット型の情報端末を操作した。
すると二人の戦闘員が合体した(華奢な体つきの戦闘員がもう一人の戦闘員に正面から抱きつき、腰の辺りで密着した)

「説明しよう。 これぞ合体魔人エキベーン。 死線を越えた者同士に芽生えたラブラブパワーで固く結びついた二人で一人の合体魔人」
「アホか、テメー。 治療と称して人の体に何してくれてんだ」

藤本美貴は治療の為にマルシェが投与したナノマシンに体の自由を奪われているのだ。
一方、リゾナンター側では駅弁って何?という香音の疑問に律儀に里沙が答えていた。その頃、街の外れの小高い丘に…


「いない…ね。 だ~いし」

愛とぶつかった少女とその待ち合わせ相手の年下の少女が顔を見合わせている。
心細げな年下の友人を励ましていると、そこにもうひとり…。

「お前らもそうなのか」

少し乱暴な男の子っぽい口調で話すその少女は、風に乗って飛んできた何かを掴んだらこの場所で笑っている三人の女の姿が見えたという。
自分たちは気配を辿ってきたと答えただ~いしと呼ばれた少女に、少年っぽい少女はある方向を指差した。

「この指の先を真っ直ぐにこの街の反対側の外れの廃工場で戦っている」
「ま~ちゃん、こわい」
「大丈夫、自信持って、勇気出して。 ま~ちゃんならできる」

あなたも来る?と少年っぽい少女を誘うが…。

「どうやら、もう一人ばかりおっちょこちょいなやつがここにやって来るっぽいんで待っててやるぜ」


廃工場ではエキベーンの毒気に当てられたのか、ダークネス軍が優勢に戦いを進めていた。

「来週から新番組、「科学少女マルシェ」が始まりそうだね」
「けっ、少女って歳かよ。 そもそもそういうのは死亡フラグといってだなあ」
「エキベーン!! ハードグラインドモード!!!」
「もうやめてっ。 わたしのHPはもうゼロよ」

その時、その場所に居合わせた者全てが感じた。
それは空間が歪む感覚。

「これは、まさか愛ちゃんか」
「いやっ、違うね。 愛ちゃんだったらもっと安定してるはずだ」

空間の歪みから二人の少女が現れた。
華麗に着地しただ~いしがフラフラ目を回しているま~ちゃんの体を支える。

「美貴ちゃん、テレポーターだよ」
「ああ。 高橋のヤローにくらべたら、まだ使いこなせてねえがな」

次回、暁の戦隊 最終話「自信持って 夢持って 飛び立つから」

「カムオン!リオン!バトルモード!」

彼女たちの戦いは続く…

                     【完】