『女子かしまし物語2012』


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『女子かしまし物語2012』

〈WOW WOW WOW 青春〉

1-1

「ハァ…」生田衣梨奈は机の上の携帯を見つめながら、また、ため息をついた。
生田は休み時間になると、新垣里沙からの返信メールを、いつもこうして待っている。
生田がこれほど新垣に魅かれるようになったのは何故か。
リゾナンター加入前、生田の憧れの存在はTVに出てくる流行りのアイドル達だった。
加入後も、特に先輩の誰に憧れているということはなく、皆同じように尊敬していた。
生田が新垣に対して明らかに特別な感情を抱くようになったのは、去年の今頃からだ。

その頃から生田は、新垣から感じる「安心感」に魅了されはじめた。
高橋がいなくなってから、新垣の指導は急に厳しくなった。
何度も何度も叱られ、何度も何度も泣かされた。
だが、新垣からのアドバイスは、全てが分かりやすく、納得できるものだった。
また、ほんの少しでも成長すると、新垣は母のような笑顔を見せ、頭を撫でてくれた。
戦場での新垣からも、絶対的な「安心感」を感じた。
高度な技術、無尽蔵のスタミナ、冷静な判断、的確な指示、仲間や周囲への配慮…。
皆が安心して戦うことができるのは新垣がいるからだ。生田はそう感じていた。
いつも自分に対して不安を感じている生田にとって、その「安心感」は眩しかった。

生田はいま、一日も早く新垣のようになりたいと、心の底から思っている。
だが、自分がその目標に向かって前進しているという実感が、生田には全く無い。
そもそも自分は、リゾナンターに入ってから、何か成長できたのか。
確かに、精神破壊波を制御できるようにはなった。しかし、そんなのは些末なことだ。
もっと本質的なところで、自分は何も変わっていないのではないか。
こんな成長の無い自分が、あの人の域に達する日なんて、本当に来るのか。
そんな不安に苛まれる度、生田は無意識のうちに新垣の「安心感」にすがろうとする。

新垣里沙という人間の凄さに気付き、憧れ、そして、目標と決めたこと。
それこそが生田の「本質的な」成長の証しだということに、本人はまだ気付いていない。



1-2

佐藤優樹は、隣りでスポーツ飲料水をがぶ飲みする工藤をボーっと見ていた。
佐藤は工藤が好きだ。本当に大好きだ。でもその理由が、自分でもよく分からない。

リゾナンターの同期だから?
違う。もちろん同期はみんな好きだ。飯窪も石田も、かけがえのない存在だ。
でも、工藤に対して抱く感情は、もっと特別なものだ。

叱ってくれるから?
それも違う。佐藤はリゾナンターのメンバー全員から叱られている。
メンバーといる時、佐藤は感情のままに笑い、泣き、甘え、叫び、だだをこねる。
佐藤が自分の感情を抑えないのは、みんなを本当の家族だと思っているから。
みんなは自分を叱るけど、見捨てることは絶対にない。
だから、安心して、心を開け放つことができる。

(じゃあ、どうしてどぅーはとくべつなんだろ~?)
佐藤は、自分がいつも工藤に抱いている思いを、一つ一つ確認してみた。
工藤のそばにいたい。工藤に自分の話を聞いてほしい。
工藤に自分の思いを共感して欲しい。工藤を自分のものにしたい。
できることなら、工藤を自分の体の一部にしてしまいたい…。

「まーちゃん!冷蔵庫あけっぱなしにするなって言われてるじゃん!」
(あっ、どぅーがこっちむいた!)
佐藤の心が躍る。
(おとなになればわかるのかな?)
佐藤はもうそれ以上考えるのをやめた。
そして、工藤に駆け寄り、いつものようにその背中にくっついた。
決して離れないように、ぴったりと……。



1-3

工藤遥は、黒ずくめの男たちを倒していく田中れいなの勇姿を思い出していた。
れいなの動きは美しい。その四肢は、きまった型にはまらず、自由奔放な動線を描く。

争いに満ちた人類の歴史は、幾多の戦闘術を生み落してきた。
それらは、無数の先人達が生命を賭して創造し、継承してきた技術の結晶だ。
そして、一つ一つが時と血によって磨かれた、揺ぎない理論によって構築されている。
では、れいなの戦闘術はどうか。
彼女に自らの戦闘術が如何なる理論に基づいているのか尋ねたら、こう答えるだろう。
「リロン?何それ。国の名前?ドイツ?」

高橋愛を知る前のれいなは、私闘で明け暮れていた。
自信家でわがままで口が悪く、筋の通らないことは認めず、阿諛追従を嫌う。
まさに一匹狼にしかなりようのない性格だった。
争いの種を毎日まき散らし、その収穫に追われる日々。
類まれなる天賦の才は、そのような自学自習のスパルタ教育によって磨かれ続けた。
仮に彼女の戦闘術に理論があるとすれば、それはこの一言で説明できるだろう。
「強気」
自分は強い。もし負けたら、それは相手が自分より強いからではない。
自分がミスなく戦えていれば、負けるはずがない。
ミスを無くすためには、身体が意思の従順な僕になるまで鍛え上げなければならない。
れいなは真面目だ。勝つ為ならば、どんな努力も惜しまなかった。
自分の思い通りに戦うことができれば、誰にも負けるわけがないのだ。
なぜなら、自分は、田中れいなだから。

生死のかかった一瞬一瞬を自信満々に躍動し、戦場という「舞台」で誰よりも強い輝き
を放つれいなは、工藤の理想そのものだった。
自分も、いつかあんな風になれるかな…、 いや、なる!絶対に!
憧れが目標に変わる年頃、すなわち青春と呼ばれる季節に、少女はさしかかっていた。




〈いろいろあるさ〉

2-1

ある夏の昼下がり、譜久村聖は工藤の写真をじっとりと見つめていた。
二時間前、一緒に訓練をしていたときの工藤の姿が、脳裏に蘇ってくる。
工藤は幼い体を懸命に動かし、れいなの動きを少しぎこちなくトレースしていた。
その額が、首筋が、二の腕が、太ももが、子供特有の甘い匂いのする汗で光っている。
真剣な眼差し、端正な顔立ち、細く小さな体、漏れ出る低い声。
すべてが中性的な魅力に満ちていて、もはやそれは、芸術作品としか思えなかった。
抱きしめたい…、抱きしめたい…、この体でその全てを包み込みたい…。
譜久村は、全然悲しくないのに、自分の瞳が涙で潤んでいるのに気づく。
(どうして涙が出てくるんだろう。聖、やっぱり変なのかな…)
譜久村は、突然、自分の心を分析してみたい衝動に駆られた。
工藤を見ていたあの時に渦巻いていた思念を、胸に手を当ててリロードしてみる。
激しく、無心に動き続ける工藤の姿態を、このまま永遠に見ていたいという幸福感。
一方で、このまま続けてはその華奢な体が壊れてしまうのではないかという不安。
この場ですぐ押し倒して、嫌がる工藤を思いのままに汚してみたいという欲望。
それとは逆に、工藤には永遠に純潔無垢なままでいて欲しいという祈りにも似た思い。
矛盾しているのに完璧に嵌まり合い、延々と回転を続ける二対の思念の螺旋運動。
読み取ったそれらの思念に体が支配され、心臓の鼓動が激しくなっていく。
上気した頬に水滴が二筋走り落ちるのを感じながら、譜久村は写真を唇に運んだ。

「ふう…」事が済んだ譜久村は、ケースのフタをあけ、そこに工藤の写真を戻した。
そして、新たに一枚、無作為に取り出し、そこに写っている人物が誰か確認した。
「ほう、お次はこうきましたか…」
そこには、最近可愛さと美しさに一段と磨きのかかったリーダーが微笑んでいた。
譜久村の眼差しが、再び妖しい湿り気を帯び始めた。



2-2

鈴木香音は燃えていた。
「お笑い」なら、誰にも負けない。
リゾナンター加入当時から、それだけは自信があった。
鈴木が笑いを取りにいけば、みんなが爆笑し、褒めてくれた。
ところがある人物の登場で、その自信が脆くも崩れ去った。
その人物とは、飯窪春菜。
突然現れた四つ年上のその後輩は、恐るべき笑いのセンスを持っていた。
佐藤のような天然ならば良い。それは笑わせているのではなく笑われているのだから。
飯窪は違う。彼女は計算し、狙いを定め、確実に「笑い」という獲物をハントする。
リゾナンターの「お笑い担当」という栄光の玉座が、彼女に奪われてしまった。
鈴木はショックだった。自分の存在を全否定されたように思えた。
みんなといる時も、鈴木は真剣な顔で考え込むことが増えていった。
そんな鈴木を立ち直らせたのは、近所に住む、ある男の一言だった。
鈴木は、喫茶リゾナントの近くにある公園で、ペリーの物まねの練習をしていた。
すると、ベンチに座っていたチャラい男が、笑いながら近づいてきて、こう言った。
「それ、嫌いじゃない」
知らない人に褒められた!鈴木はとても嬉しかった。鈴木の闘志が、蘇った。

「田中さん、私、公園で練習してきます!」
「もう夜やけん、気い付けぇよ!………ねえ、さゆ。このごろ鈴木気合入っとらん?」
「確かに。最近の鈴木って、闘志に満ちてる感じがするし、なんか迫力を感じるよね」
一時期やたら真剣な顔して何か悩んでたけど、『戦士』として目覚めてきたのかな?」
「さゆもそう思う?!れいなもそう思っとったと!鈴木はきっと強くなりよるよ!」
「後輩をこんなにちゃんと分かってるさゆみ達って、とってもいい先輩なのかもね!」
二人はニヤニヤしながら、「「イエーイ!」」と叫んでハイタッチした。

その頃、ひと気の無い夜の公園では、努力家鈴木の練習が始まっていた。
「飯窪春菜です!石田あ・ゆ・みです。さとうまさきでぇす。ぐどうはるがですっ!」



2-3

(どうしよう…、あゆみちゃんがかなわない相手に、私が勝てるわけない)
自分の体が震えているのを、飯窪春菜は感じた。
そして、以前、道重さゆみもこのように震えていたことを、ふと思い出した。

それは、リゾナンター全員で敵と交戦していたときのことだ。
戦いは、敵味方入り乱れての総力戦となっており、文字通り「乱戦」状態だった。
さゆみと飯窪は安全のため、近くの岩陰に隠れていた。
二人で戦場を見ていると、突然さゆみが「あっ!」と声を上げ、岩陰から跳び出した。
さゆみの走っていく方向を見ると、生田が血を流して倒れている。
「やなのやなの!さゆみやなの!」「まって!まって!」「ハッ!?ハッ!?ハッ!?」
さゆみは、敵に攻撃される度に絶叫しながらも、生田のもとへ前進していった。
そして、ほんの数秒で生田を治療して、再び叫びながら一目散に岩陰に戻ってきた。
飯窪はそれまで、堅固な陣形によって守られているさゆみしか見たことがなかった。
新垣やれいなに守られっぱなしの彼女は、とても弱々しく見えた。
事実、さゆみは、先輩たちの誰よりも弱い。攻撃力はゼロだ。
そのさゆみが、一瞬の躊躇もなく、あの乱戦状態の中へ跳び込んでいった。
攻撃手段を一切持たない人間が戦場に飛び出す。それがいかに恐ろしいことか。
現にさゆみの体は、さっきから微かに震えており、目には涙がたまっている。
飯窪は思い知らされた。
さゆみは戦っている。臆病で、弱気で、泣き虫な自分と、いつも懸命に戦っている。
自分の弱さと戦いながら、恐怖と緊張の中、仲間の為にさゆみは前へ跳び出し続ける。
飯窪の脳裏に、ある物の映像が浮かびあがった。
それは、数日前、さゆみがうっかり床に落とした一冊のノート。
拾おうとした飯窪がたまたま目にしたページには、丸っこい文字でこう書いてあった。
「前へ、前へ」

(道重さん!私、あなたのようになりたいです!)
飯窪は全力で前へ走り出した。「オラオラオラオラオラオラーーーーーー!」



〈2、3人集ったら〉

3-1

道重さゆみは、鞘師里保、石田亜佑美と都内のとあるカフェに来ていた。

さゆみは、愛しい鞘師の横顔を盗み見ながら、ある「記憶」を蘇らせる。
それは、欲望の塊となって鞘師を抱いた、あの夜の「記憶」…。
そもそもさゆみは、ピンクの悪魔になったときのことを覚えていない。
だが、あの夜の「記憶」だけは、繰り返し見る淫夢によって、少しずつ復原された。
もちろん、それはただの妄想かもしれない。
さゆみの願望が生み出した蜃気楼にすぎないのかもれない。
しかし、さゆみは、その「記憶」が、妄想でも蜃気楼でも構わなかった。
その「記憶」の中には、縛られたまま身をよじり悶える鞘師が、確かにいる。
さゆみは、鞘師を見ながら、あの夜の「記憶」を、五感全てで味わい始める。

触覚。まだ誰も触れていない薄絹のような肌に、自分の指先の皮脂が染み込んでいく。
上下に撫でさするたびに、うぶ毛以外に摩擦のないなめらかな表面が桃色に火照る。
嗅覚。湿り気を帯びた胸元から漂う鞘師そのものの匂いが、本能に強く爪を立てる。
鼻先にかかってくる熱く淫らな吐息に、微かに残る自制心の欠片も砕き潰されていく。
視覚。服を首まで捲りあげられ、羞恥のあまり微かな蠕動を続ける、あどけない体。
ただそこには確かに凹凸が生まれつつあり、この年頃特有の危険な色気に満ちている。
聴覚。こらえきれず鼻から洩れ出る声が、鞘師の混乱している心を教えてくれる。
それは、泣いているようであり、責めているようであり、誘っているようでさえある。
味覚。首筋の汗、頬を伝う涙、拒む唇へ無理に舌先を押し込んで舐め取った唾液。
その全てに、芳醇さと、甘美さと、熟す直前の果実が持つ淡い酸味が感じられる。

「道重さん、アイスクリーム、溶けちゃいますよ」
石田の声で、さゆみは突然現実に引き戻された。
「あっ、そうだね…。なんか、おなか一杯になっちゃった。あゆみん、これ食べる?」
「えっ、いいんですか!?」
さゆみは頷くと、急いで「記憶」の世界に戻ろうと、再び鞘師の横顔を盗み見た。



3-2

「じゃあ、これ、私、食べちゃいますよ。鞘師さん、半分コしませんか?」
石田亜佑美のその言葉が、鞘師里保の心をかき乱す。
(『食べちゃいますよ……、鞘師さん……』)
「私は大丈夫。あゆみん、全部食べなよ」
(そう…、食べなよ…、この私を…、全部……)
……自分は一体何てことを考えているんだ!?
自らの心の声に激しい嫌悪感を抱きながら、鞘師は見たくもない天井を見た。
上を見たのは、そうしないと、自分の目がある場所に集中してしまうからだ。
そう、あのプルンとした石田の唇に…。

鞘師が石田の唇の魅力に気付いたのは、半年ほど前だ。
写真を撮ろうと石田の顔をじっと見ているうちに、鞘師はその美しい唇に魅了された。
彼女の肉感的な唇は、この世で最も美味なるものに思えた。
心地よさそうな弾力、瑞々しい艶、健康的な色。全てが完璧で理想的だった。
鞘師は、「見とれる」という言葉の意味を、そのとき初めて理解した。

スプーンが石田の唇に運ばれる。上下の唇が、鈍く光る金属の棒を優しく包み込む。
その棒が引き出されると、上下の唇それぞれを横切って、細い線が一本ずつ生まれた。
それらの線は、唇の柔らかさを如実に物語りながら深さを変え、そして消滅した。
もし、あのスプーンが、自分のこの人差し指だったら…。
熱く淫らな欲情の奔流が、鞘師の体の中心部を駆けあがった。
(ハッ!)
鞘師は、また自分が石田の唇を見つめていることに気付いた。
慌てて目の前のグラスを掴み、のどにサイダーを勢いよく流し込む。
鞘師は、自分の心を汚している、いやらしい情念をきれいに洗い流したかった。
炭酸の刺激による痛みを感じながら、鞘師は思った。
(私、道重さんやフクちゃんみたいに、変態さんになっちゃったのかな…。
 …じいさま、瀬戸内の海は、今も青くきれいですか?里保は…里保は、もう…)



3-3

石田亜佑美は道重からもらったその高級なアイスクリームの味に愕然としていた。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!こんなに美味しい物が、この世に存在するわけがない!)
石田は、新たな味覚との出会いに心を震わせた。
思い起こせば、石田のこの一年間は、驚きの連続だった。

以前、「スターバックス」という喫茶店に同期みんなで行った時も、そうだった。
石田はそれまで、その高級な喫茶店に入ったことがなかった。
一方、工藤と佐藤は、まだ中学一年生のくせに生意気にも経験済みらしい。
プライドの高い石田は、二人に馬鹿にされたくなくて、初めてだということを隠した。
工藤が「フラペチーノ」というものを注文し、佐藤と飯窪もそれにした。
当然、石田もそれを選ぶしかない。他のものを注文すれば、ボロが出る可能性がある。
石田は、「フラペチーノ」とは、フラッペをフランス風に言い換えたものと解釈した。
だが、注文後、カウンターの上に乗せられたものは、石田の想像とは違っていた。
それはカキ氷ではなく、冷たいコーヒーの上にソフトクリームが乗ったものだった。
その飲み物の容器には、透明なドーム状のプラスチックの蓋がついていた。
蓋には小さな穴があいていて、長めのストローが突き刺してある。
(ハハ~ン、これでアイスクリームをすくって食べればいいのね)
石田はさも慣れているような手つきで、ストローを抜いた。
めまいがした。(先が、スプーンみたいになってない…)
石田は、動揺を誰にも悟られないように笑顔を作りつつ、飯窪の方をさりげなく見た。
飯窪はストローを回した。コーヒーが白濁していく。それを飯窪はストローで吸った。
石田は慌てて、その行為をぎこちない手つきでまねて、コーヒーを吸い出してみた。
(嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ!)
それは、苦みと甘みとが絶妙に調和した、信じられないほど衝撃的な美味しさだった。

鞘師を盗み見ながら恍惚としているさゆみ。石田の唇にまた心を奪われている鞘師。
あまりにも美味しすぎるアイスクリームを凝視し、テンションMAXの石田。
三人の心が共鳴することは…なかった。



〈Ending:かしましかしまし〉

田中れいなは、喫茶リゾナントの二階の自室で新しい陣形をノートに書いていた。
その陣形は、5人ずつ2チームで構成されている。
左から順に、石田工藤さゆみ生田鞘師。もう一つは、田中鈴木譜久村飯窪佐藤。
それぞれ、さゆみと譜久村は後ろに下がり、石田と鞘師、田中と佐藤は前に出ている。
つまり、両方とも、さゆみと譜久村のところで折れ曲がるV字型になっていた。
左のVは本隊。司令塔であるさゆみの隣に千里眼の工藤を置き、情報を収集させる。
新人ツートップの鞘師・石田が攻撃を担当。生田は精神破壊波で彼女らを支援する。
右のVは遊撃隊。飯窪の薄黄色の接着剤と、鈴木の物質透過能力で敵を攪乱。
さゆみの能力が使える譜久村は、負傷した仲間の応急処置を担当する。
また、譜久村は高橋の能力も使えるため、本隊との連絡係も担う。
攻撃はれいなのワントップ。
佐藤の役目はメンバーの移送係なので、その配置についてはあくまで形式的なものだ。
「ふぅ、疲れた~。やっぱ頭使うのは性に合わん。
愛ちゃんとガキさんがおったら、こんなことせんでいいのに。早く帰って来んかな~」
さゆみがコーヒーカップを二つ持って部屋に入ってきた。れいながノートを見せる。
「どれどれ…、うん、これでいいんじゃない?」
「右が少し不安やけど、飯窪が特殊能力を使えるようになったし、まあ、大丈夫やろ」
「そうだね。フクちゃんもさゆみの能力をだいぶ使えるようになってきてるもんね」
下が騒がしくなってきた。時計を見ると、集合時間を3分過ぎていた。
「じゃあ、あの賑やかな後輩たちに、見せに行きますか」
「ああいうの、『かしましい』って言うっちゃろ?れいな、うるさいのは好かん!」
そう言いつつ、二人の顔には笑みがこぼれ、階段を降りる音はとても軽やかだった。

―おしまい―

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以上、『女子かしまし物語2012』でした。
今回はオムニバス形式にしてみました。皆さんのお気に召す話があれば嬉しいです。
なお、最後の「陣形」は「What’s Up?…」の動画が元になってます。