『Be Alive』


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『Be Alive』

〈君と共に〉

1-1

「うおっ!でかっ!工藤、佐藤、こっちこっち!」
れいなが呼ぶと、工藤と佐藤は笑顔で駆け寄ってきた。
「うわっ!本当だっ!」「ひゃーっ、でっかいですねー!」
二人はれいなの両脇に並んだ。
三人は、特殊アクリル製の透明な板の向こうにいるゴリラを食い入るように見つめた。
薄暗い部屋の中で、そのゴリラはまるで休日のおっさんのように寝そべっていた。
「えー、皆さん、今晩はこちらで寝ることになります。
保護者の方は、人数分の寝袋とマットを取りに来てください」
動物園の職員がメガホンで数十人の親子連れに語りかける。
「ええっ!こんなところで寝ると?」
「田中さん、パンフレット見てなかったんですか?
寝る場所はゴリラの飼育室の前って書いてあったじゃないですか」
「そうやったと?ちょっと、佐藤、パンフレット貸して」
れいなは佐藤の背負うリュックのジッパーに手を伸ばす。
「こちょぱい!」
「うるさいなあ!動いたら取れんやろ!」
「田中さん、私、寝袋とってきます」
「おー、サンキュ」

三人はその日、U野動物園に来ていた。
工藤と佐藤の夏休みの自由研究を終わらせるため、夜の動物園見学会に参加したのだ。
中学生が参加するには、20歳以上の保護者の同伴が必要だった。
道重はその巧みな話術をフルに駆使して、二人のお守りをれいなに押し付けた。
れいなは動物園に着くまでふてくされていたが、園内では一転して大はしゃぎだった。



1-2

はしゃぎ疲れたせいか、れいなは就寝時間になるとすぐに深い眠りについた。
「すみません……、すみません……、田中さん……」
工藤がれいなの体を揺する。
心地よい眠りを邪魔されて、れいなの機嫌は最悪だった。
「もう、…なによ!」
珍しくもじもじしながら工藤が小声で言う。
「あの、本当に申し訳ないんですけど…トイレ、一緒に行ってくれませんか…」
「はあ?れいなは今超眠いと!佐藤と一緒に行けばええやろ!」
「それが、まーちゃん、もっといろんな動物を見たいって『飛んで』っちゃって…」
「あいつ…、帰ってきたらビシッといわないけんな…。
それにしても工藤、そのビビり癖、早くなんとかしいよ。
こないだも結局、お化け屋敷に入らんかったやろ?」
「はい…」
「自分の弱点を克服しようっていう根性は無いんか!
そんな根性無し、れいなの仲間には要らん!もうリゾナンターやめりっ!」
「……。」
工藤は泣きそうな顔で黙り込んだ。
れいなが顔を逆方向に向けると、工藤はとぼとぼと暗い廊下を歩いて行った。
「…ちょっと言い過ぎたかな…」
れいなは少し心が痛んだが、睡魔には勝てず、また目を閉じて眠りについた。

トイレはゴリラの飼育舎には無く、本館に行かなければならない。工藤は外に出た。
ひと気のない夜の動物園。その非日常的な空間の不気味さが、工藤を涙目にする。
工藤は勇気を振り絞って、100mほど向こうにある本館入り口を目指して走る。
「はあ、はあ、なんでこんなに遠いんだよ…」
あと20m、10m…、ゴールまであとわずかに迫ったその時…。
ガツッ!
「ウッ!」工藤の両肩に突如激痛が走った。



1-3

次の瞬間、バサバサッという羽音がした。工藤は自分の体が浮くのを感じた。
上を向くと、巨大な鷲が工藤の肩を文字通り鷲掴みにして羽ばたいている。
「おいっ!放せーっ!ガブッ!」
工藤は鷲の足に思いっきり噛みついた。
鷲は痛みで鉤爪をパッと開いた。
「うわーっ、放すなー!」
ドサッ!地上約10mの高さから落下し、衝撃と痛みで工藤は動けなくなった。
「…ち、ちくしょー…、足、折れてるかな…」
落ちたところは、さっきの場所から数百メートル南にある広場の芝生。
鷲は、夜空に半円を描いて、再び猛スピードで向かってくる。
工藤はうつ伏せのまま、両手で頭を守るしか無かった。
鷲は真っ直ぐ急降下してきて、工藤の背中を鋭い爪で引き裂き、また空に舞い戻る。
「い、いてー…」
脇腹に背中から暖かい血が垂れてくるのを感じた。
鷲のヒットアンドアウェイは執拗に繰り返される。
それは、猫が鼠を嬲りものにしているかのようであった。
工藤は額を地面に付けていたが、千里眼の特殊能力によって鷲の姿は見えていた。
(あいつ…なんで止めを刺さないんだ?ハルをエサに田中さん達をおびき出す気か?)
近くのコンクリートの上に落ちている携帯を見ると、大きなひびが入っていた。
だが、たとえ携帯が壊れていなくても、工藤はれいなに助けを請うつもりはなかった。
れいなに言われたあの言葉が、工藤の心にのしかかっていた。
(やっぱり、こんな鳥にも勝てないハルは、リゾナンターに必要ないのかな…)
工藤がそう思った時、目の間の空間が歪み始めた。
「まーちゃん!?」
それは、佐藤が瞬間移動するときに必ず生じる現象だった。
歪みはどんどん大きくなり、ついにキリリと引き締まった表情の佐藤が現れた。
大きなパンダに乗って。



〈友と共に〉

2-1

「はああああ!?」工藤は目を疑った。
だが、佐藤が跨っているのは、間違いなくあのジャイアントパンダだ。
闇空を舞う鷲は、新たな敵に気付いたらしく、向きを変えて佐藤とパンダに迫る。
「ぱんださん、おねがい!」「ガオ」
猛スピードで突っ込む鷲。パンダは立ち上がって鷲に右前脚を叩きつける。
「ギャッ!」鷲は妙な鳴き声をあげながら左に吹っ飛んだ。
「パンダ強っ!」工藤が思わず声を上げる。
しかし、鷲はすぐに体勢を立て直して飛びあがり、闇に溶けていった。
パンダの背中にくっつき虫状態の佐藤が、工藤に大きな声で言う。
「どぅー!あのとりさんはてきだよ!まー、まえにみたことあるもん!」
「敵なのは分かってるよ!それよりそのパンダ、どうしたの?」
「まーもよくわかんない!どぅー、このぱんださん、だれ?」
「知るかああ!」
「そうだよねー、それより、どぅー、あのとりさんどこにいったかみえる?」
「もう、訳が分かんないよ………ええっと、あっ!見つけた!あそこの裏!」
鷲は、そこから100m程離れた木の、死角になっている枝に潜んでいた。
パンダがすぐさま工藤の指す方へ走り出す。
佐藤は騎手のようにパンダを巧みに乗りこなしている。
バッ!パンダが跳ぶ。
そして、地上5m辺りのかなり太い木の幹を右前脚でぶん殴る。
バギッ!「ギェエエエエエッ!」
木の幹もろとも鷲が吹っ飛ぶ。
そして、そのまま地面に落ち、ピクリとも動かなくなった。
「やったー!ぱんださん、ありがと~」
佐藤は背中から降り、パンダの首に抱き着いた。
パンダは優しい目で佐藤を見つめた。そこに、一瞬の隙が出来た。



2-2

突然、パンダの体がびくっと動いた。
そして、ゆっくりと地面に這いつくばる。
「あれ?ぱんださん、どーしたの?」
佐藤が屈んで顔を覗き込むのと同時に、暗闇から十数人の全身黒ずくめの男が現れた。
「ゼンマザイジャアル?(何でこんなところに?)」
「…ハオバ、ザイジャアルシャーバ。(…まあいい、ここで始末してしまおう。)」
「…グルルル」
男たちの会話の内容が分かるのか、パンダが弱々しく唸る。
佐藤は、パンダの背中に吹き矢が刺さっているのを見つけた。
(どく!?)
佐藤の推測通り、その矢には神経を麻痺させる猛毒が仕込まれていた。
佐藤は、愛佳に教わった毒抜きの方法を思い出した。
急いで吹き矢を抜き取り、傷に口を付け、血ごと毒を吸いだしてペッと吐き出す。
黒ずくめの男たちは、半月刀を構えて、パンダと佐藤を半円状に取り囲んだ。
佐藤は一心不乱に、毒を吸って吐き出す作業を繰り返す。
「ジャーガニューハイ、ゼンマバン?(この娘、どうします?)」
「…シャー(殺せ)」
彼らのリーダーらしき長髪の男が言うと、二人が前に出て佐藤とパンダに近づく。
「待て!」
工藤は、超人的な精神力で全身の激痛に耐え、立ち上がって叫んだ。
「ハルの親友に手を出すな!」
長髪の男が工藤の方を向いて、思わず声を漏らす。
「オオ、ジェンクーアイ…(おお、超かわいい…)」
鼻の下を伸ばしたその長髪の男は、舌なめずりをしながら工藤に近づいていく。
(ちくしょう、…ハル、どうする?)
工藤は落下の衝撃と鷲の攻撃によるダメージで、立っているのがやっとだ。
「モンア~(萌え~)」
気持ち悪い声を出しながら、男が手を伸ばして工藤に触れようとした。


2-3

ゴギッ!
鈍い音とともに長髪の男の動きが止まる。
「大切な後輩に、なにしよう…」
「田中さん!?」
工藤が叫ぶと、男の顔面に拳をめり込ませたれいなが静かに答える。
「ごめん、遅くなった」
言い終わると、高速で体を半回転させ、左足で男の胴を蹴り上げた。
「グエッ」
長髪の男が後ろに吹っ飛ぶ。
だが、男もプロらしい。すぐに体勢を立て直し、立ち上がって部下に向かって叫ぶ。
「シャー!(殺れ!)」
黒ずくめの男たち全員がはじかれたように動き出した。
一人がパンダ、一人が佐藤、残りの十人と長髪の男がれいなに、それぞれ襲いかかる。
「「ギャーッ!」」
れいなが先頭の男に蹴りを見舞った時、佐藤とパンダを襲った二人が同時に絶叫した。
崩れ落ちる二人の男の背中からは、緑色の炎が上がっていた。
その炎に照らされて、闇の中に一人の少女の姿が浮かび上がる。
少女はれいなの方を向いて言った。
「田中サン、手助けはいるカ?」
「いらん!」
「そういうと思タヨ」
少女と話している間にも、れいなは次々と敵を仕留めていく。
そして、最後に長髪の男に全力の拳を打ち込み、早々と戦いを終わらせた。
「田中サン、ますます強くなタナ。まるでバカものみたいダ」
「はあ?それをいうなら『化け物』やろ!リンリン、日本語下手になったんやない?」
れいなはかつての戦友を見て、汗一つかいていない顔に子供っぽい笑みを浮かべた。



〈夢と共に〉

3-1

れいなは佐藤に、さゆみを連れて来るよう指示した。佐藤はすぐに「飛んで」いった。
パンダは、佐藤の応急処置が功を奏し、大事には至らなかったようだ。
黒ずくめの男たちの後始末は、リンリンの仲間がしてくれるらしい。
一方、工藤を襲ったあの大きな鷲は、例のごとくいつの間にか消えていた。

工藤は鷲に襲撃されたことをれいなに報告した。
それを聞き終わるとれいなは、その夜起こったことを皆に説明した。

工藤が一人でトイレに向ってしばらくして、れいなの携帯に愛佳から電話がきた。
「田中さん、今、どこにいます?工藤が危険です!」
れいなは慌てて寝袋から飛び出した。
そして走りながら、自分と工藤佐藤がU野動物園に来ていることを愛佳に伝えた。
それを聞いた愛佳は、自分がその夜見た「夢」の内容を話し出した。
その夢の中で、工藤は大きな鳥に襲われ血だらけになっていた。
背景の看板には、U野動物園南広場という文字が見える。
そして、そこには佐藤と、なぜかジュンジュンと思われるパンダの姿もあった。
目覚めた愛佳は急いで工藤に電話をしたがつながらない。
佐藤に電話すると、ちょうどパンダの見学中だった。
愛佳は、佐藤にそのパンダを連れて工藤のところに「飛ぶ」ように指示した。
さらに次の指示を出すために佐藤に電話をかけたが、それに出たのはリンリンだった。
そこで、リンリンにも事情を話し、南広場に向かうよう頼んだ。
以上のような話を愛佳から聞いたところで、れいなは南広場に到着した。
同時に、別方向から走ってくる見慣れたシルエットの少女に気付いた。
れいなは電話を切って、工藤に近づく長髪の男に全速力で突進した。

「ところでリンリンとジュンジュンは何で日本におると?」
れいなにそう尋ねられ、今度はリンリンの説明が始まった。



3-2

リンリンとジュンジュンは、「刃千吏」の極秘任務でU野動物園に来ていた。
数日前、ある犯罪組織がU野動物園のパンダ暗殺を計画しているという情報が入った。
どうやら、外交カードを増やしたい中国政府が裏で関与しているらしい。
そこで、その暗殺を阻止するために、リンリンとジュンジュンが急遽来日した。
ジュンジュンは、獣化能力を使い、狙われているパンダの影武者となった。
獣化状態を持続させるために、最低でも12時間は元に戻れなくなる薬を飲んだ。
敵の襲撃を待ち構えていると、どこから入ったのか突然檻の中に一人の少女が現れた。
少女はパンダ、すなわちジュンジュンに駆け寄り、嬉しそうにピタッとくっつく。
その少女は、どう見ても暗殺者には見えなかった。
困ったジュンジュンはとりあえずそのままパンダとして振る舞うことにした。
少女はジュンジュンにまたがり、キャッキャッと楽しそうに笑った。
ジュンジュンも、少女と一緒に遊んでいるうちに、だんだん楽しくなってきた。
「ジュンジュン、ニイザイガンシェンマ…(ジュンジュン、何してるの…)」
隣室のモニターで監視していたリンリンが呆れていると、突然少女の携帯が鳴った。
少女はジュンジュンから降り、携帯にこう言った。
「みついさ~ん、こんちくわ~、どうしたんですか~」
(光井サン?)
その名前を聞いて、ジュンジュンは驚いた。そして、電話の内容に聞き耳を立てた。
愛佳が何か指示を出している。しかし、少女は全く状況を飲み込めていないようだ。
「う~ん、よくわかんないですけど、いまからみなみひろばにいけばいいんですか?」
「そう!ジュンジュン…いや、そこのパンダと一緒にや!佐藤、パンダに代わって!」
「はーい。ぱんださん、おでんわですよ~」
「ガウ」
携帯を受け取って愛佳の話を聞き終わると、ジュンジュンは少女を再び背中に乗せた。
そして、少女が何か叫ぶと同時に、少女とジュンジュンの姿が忽然と消えた。
慌ててリンリンが檻の中に入る。
それと同時に、うっかり忘れていったのか、床に落ちていた少女の携帯が鳴り出す。
リンリンは平仮名で「みついさん」と表示されている画面の着信ボタンに指で触れた。



3-3

れいなはテディーベアのように腰かけているジュンジュンの肩にもたれかかった。
ジュンジュンは、リンリンからもらった薬が効いてもうほとんど回復している。
「やっぱりジュンジュンの隣が一番落ち着くな~」「ガウ」
れいなはあまりの心地よさにうとうとし始めた。

リンリンは工藤に痛み止めを飲ませ、背中の傷の応急処置をしながら話しかけた。
「はるかチャンはまだ中学一年生カ。よくこの傷に耐えられタナ。すごい精神力ダ」
リンリンの天真爛漫な笑顔を見て、工藤はこの先輩になら何でも話せる気がした。
「…いいえ。ハルは本当にダメです…。さっきも田中サンに言われました。
ハルは根性無しだから、リゾナンターをやめろって…」
「アハハハハッ!」
「リンリンさん、笑うなんてひどいですよ~」
「ゴメン、ゴメン。でも、田中サン、変わらナイなって思ったカラ…」
「えっ?変わらないってどういうことですか?」
「ワタシも、前にソレ、言われたことあるヨ」
「リンリンさんも田中さんにやめろって言われたんですか?!」
「ワタシもジュンジュンも言われタヨ。あのときの田中サンの顔、鬼みたいに怖かタ。
 でも、そのアト敵と戦っタとき、田中サンはワタシタチ庇ってボロボロになっテタ。
 そのトキ、思っタヨ。田中サンは、ワタシタチにもっと強くなって欲しくて、
 厳しいコトバ言っタ。強くなれば、ケガしたり、死んだりしなくなるカラ」
「……」
「田中サンはムカシ一人ぼっちだタカラ、やっと出来た仲間が傷つくノ本当に嫌がル」
「……」
「はるかチャン、田中サンが心配いらなくなるくライ、強くなって下さイネ!」
工藤はジュンジュンにもたれかかっているれいなを見ながら、元気に返事をした。
「はい!」


〈Ending:汗と共に〉

「おまたせしました~」空間が歪み、そこに佐藤が現れた。巨大なサイに跨って。
「はあああああ!?」工藤はまたもや自分の目を疑った。
れいなが立ち上がって怒鳴る。
「佐藤!なんでサイなんか連れきよったと!?」
「だって~、たなさたん、すぐにさいをつれてこいっていったじゃないですか~」
「れいなが言ったのはサイじゃない!さ!ゆ!」
「がびんぼよ~ん」
サイは草食動物だが、非常に気が荒い。
豹柄の服を着て大声を出すれいなの姿は、サイの闘争心を激しく喚起した。
ドドドドドドッ「うわわわっ!サイがこっちに来ようっ!」
れいなは慌てて逃げ出す。それを追うサイの上で、佐藤が無邪気に言う。
「たなさたんもさいさんといっしょにあそびましょ~」
そのとき、リンリンのポケットの中の佐藤の携帯が鳴った。
「おー、光井サンだ!もしもーし、リンリンでーす。こっちは無事解決しましタ。
 みんな大丈夫ダ!バッチリンリンでーす!」
工藤が少し心配そうに言う。
「…田中さん、大丈夫ですかね」
「心配ない。あの人、バカものだカラ」
「ガウ」
れいなは、人間の限界を超えたスピードで両脚を動かした。
そして、先程の戦闘では全くかかなかった汗を全身に感じつつ、大声で叫んだ。
「さあああとおおおおおお!あんたああ、りぞなんたああ、やめりいいいいいいい!」

―おしまい―