『声を奪われたカナリア』(vs粛清人)


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いつもの日常。

彼女を病院に連れて行く。

そして次の週もまた同じことが繰り返される。

いつもの穏やかな日常。

ずっと続くと思っていた。

私が『変わってしまう』までは…。

『変わってしまった』というのは、またダークネスが罠を仕掛けて彼女をさらってから起きた事件が原因だった。

私は彼女がさらわれた時、ダークネスの気配を感知できなかった。
彼女をさらった相手は、なんと豹に変身して体を鋼鉄に変えるんだ。
相手が人間の姿じゃないと私は感知できないのかもしれない。

そのダークネスは、また私と同い年らしい。
そいつの名は『石川梨華』。

私が『変わってしまった』のは石川と戦っている最中のことだった。

相手はダークネスの幹部。

制御装置の手袋も外したまま戦いに挑んだ。

彼女が、大切な彼女が、石川に人質にされ私が何もできないのをいいことに石川は彼女の頬を叩き、そこからポタポタと血が滴り落ちた。

それを見た瞬間、私の頭の中は真っ白になり全身が熱くなった。
すると私の体から衝撃波が放出され、地下駐車場の車たちはバラバラに砕け散った。

砕け散った車のミラーだったガラスを見た。
私の瞳の色が変わっている。

久しぶりだな。この感じ。

ダークネスにいた時以来だ。
普段の私は理性で心を抑えているけれどタガが外れた私は瞳の色が緑色に変わるんだ。
どうして緑色なのかと言うと、なっちによると私のイメージカラーだと言っていた。

あー、すごい顔してるな今の私。
目ぇもつり上がっているし唇を噛み切ったのか口の端から血が流れてるよ…。

私は石川を睨みつけた。

「彼女を、離せ…」

私は低く宣言した。

サイコキネシスを発動させるオーラが私を包んでいる。
今にも放出しそうだが、構わず石川に近づく。

私は彼女を見た。

彼女は私の瞳を見つめながら怯えている。

無理もない。

始めてなんだ。瞳の色が変わった私を見たのは。

『バケモノ』だって思ったのかな?やっぱり。

近づく私に怯んだのか石川は衝撃波を私に放つ。

そんなもん痛くも何ともねーよ。

まあ、衝撃波のせいでニーソにも穴が空いたし、そこから血もでるわ、重ね着をした上着もボロボロで、深くかぶっていたはずの帽子も、どっか行って、纏めた髪もゴムが千切れて髪もほどけてしまいましたよ。


それでも体の熱さはおさまらない。
まるで体の中をぐるぐる掻き回されるような感じで体中に熱さが回り、私の理性を消そうとする。

「彼女返せよ…」

私は石川の手首を握り締め、いともたやすく石川の手首を捻りながら捕まっている彼女ごと持ち上げた。

ミシミシと骨が軋む音が聞こえる。
そのまま勢いにまかせて私は石川の手首を折った。

石川の悲鳴が駐車場に響く。

こいつは彼女を苦しめたんだ…。
もっと聞きたいなあ…。
こいつが鳴くのを聞きたいなあ…。

変わってしまった自分を彼女に見られているのも構わずに変色した瞳を石川の心臓に向けた。

ありったけのチカラをぶち込むために私の手のひらを石川の心臓に当てた。

彼女が傷付けられた。

彼女から血が流れた。

彼女が消えそうになった。

彼女がいなくなってしまう。
もう、私のそばに彼女はいない。

私の安心感のある生活がなくなってしまう!

彼女がいないと私は自分を保てない。

本当の自分でいられなくなる。

あいつが…、ダークネスが、彼女を奪ったんだ!!

私は石川の左胸の下を握り潰そうとした。
残った右手で石川の首をギリギリと締め上げる。

彼女を捕まえている石川の腕にもサイコキネシスが発動するようにチカラをこめる。
すると石川の左腕からバキッという音とともに石川は、また悲鳴をあげる。

石川が怯んだ瞬間、彼女は私に近づいた。

何だよ。邪魔すんなよ。
私はアイツを殺りたいんだ。

私のサイコキネシスで石川を吹き飛ばし、後ろにあった柱に叩きつけられる。
石川の目は、すでに虚ろで焦点が合っていない。

あわれな石川を見た私はニヤリと口の端を上げた。

「だめだよ!明日香ちゃん!だめ!」

彼女が叫ぶ。

かまうもんか。

私は手のひらを倒れている石川の頭に狙いを定めた。

「やめて、明日香ちゃん。お願いよ…」

彼女は私に懇願するようにしがみつきながら破れた上着を掴んだ。
その小さな手は震えている。
石川に向けた腕が、ゆっくりとおろされる。
これは彼女の懇願からなのか私の意志か、よく分からなかった。

彼女が私を見上げて瞳を見つめる。
おそらく今の私の瞳は、まだ変色したままだ。
私の瞳は、きっと懇願する彼女に動揺したのか、たゆたうように泳いでいるだろう。

私は彼女の顔を見た。

頬から血が流れている。

私は彼女に、ゆっくりと近付き彼女の頬を舐めた。

にがい血の味がした。

彼女は動かなかった。

動けなかったの方が正しいのかもしれないが、彼女は強引な私を振り払わなかった。

振り払うどころか私の胸の谷間に顔をあずけてきた。

「明日香ちゃん止まったね」

彼女が顔を上げてニコリと笑った。

「目の色も戻ってるよ」

再び彼女は私の胸に顔をうめた。
上着とニーソはボロボロだけど、かろうじて下着の上に着てあるキャミは無事だった。
腕に付けていたブレスレットは、いつの間にか無くなっていた。
衝撃波が来た時に引きちぎられたのかな?

ていうか、暴走が止まった?
瞳の色も戻ったって…、
石川は!?

私は焦って周囲をキョロキョロして石川を探した。

「もういないよ」

彼女が言った。

いない!?どういうことだ。
私が自分を忘れている時にもしかして…。

「大丈夫だよ。明日香ちゃんは人を殺さなかったよ」

「アイツいついなくなったんだ?私覚えてないんだ」

「猫さんになって、どっか行っちゃったよ?」

逃げたのか…。

でも取りあえずほっとしたよ。
こちらとしては、もう二度と会いたくないな。
私が変わってしまうほどチカラを引き出さないといけない相手だったんだから。

でも、彼女は怖くなかったのかな?
私の正体がバレた時は泣かせてしまったけど今の彼女は泣いていない。

「あんたは怖くないのか?」

「何が?」

彼女は、きょとんとしている。
そんな無邪気な彼女がかわいい…、じゃなくて!

「変わっただろ?カッとなったり、チカラを使って暴走したら目ぇが変わったんだ!怖いだろ?引くだろ普通!?」

「びっくりはしたけど怖くはないし、逆に分かりやすいよ」


「明日香ちゃんが、例えばこれから怒ったり今日のようにキレたとしようよ」

「うん…」

「そうなったらさっきみたいに緑色に変わるんでしょ?それなら色が変わった!明日香ちゃんを止めなきゃ!って、今日は猫さんにさらわれたけど、また明日香ちゃんのことが分かって嬉しいよ」

「でも私は普通の人間じゃないし…」

「明日香ちゃん!」

彼女は、いきなり私のほっぺをつねった。

「い、いひゃい…」

「明日香ちゃんがまた自分を否定するからだよ!」

「だ、だって…」

「だってじゃない!明日香ちゃんは、こないだ私が公園でパニックになった時に落ち着かせてくれて、責め立てた私を許してくれたもん!明日香ちゃん、本当は強くて優しいんだよ!?」

「で、でも…」
いい加減離してくれよ、痛いじゃないか…。


「でもも、だってもないよ!今日だって、いつかさらわれた時だって、明日香ちゃんは人を殺さなかった。
暴走も自分で止められたんだよ!?だからもう手袋はいらない。明日香ちゃんは人の痛みが分かったんだ。
そこから自分を否定しないで過去の失敗を二度としなかったらいいんじゃない」

「いきなり一気にはできないよ…」

「少しずつでいいんだよ?私も明日香ちゃんのそばからいなくならないし一緒に進んで行こうよ」

「うん。ありがとう」

「カーッとなってキレるのも明日香ちゃん。
強くて優しいのも明日香ちゃん。
控えめで恥ずかしがり屋だけど頑固な明日香ちゃん…、色んな明日香ちゃんをひっくるめて明日香ちゃんなんだよ?」


何なんだろう?この訳わかんないイライラする気持ち。
でも不思議と嫌じゃなくて、なんていうか、くすぐったくて、あったかいな…。

「ヨリコ…」

私は彼女の手を取った。
今の私は手袋をしていない。
彼女の手のひらをまたプニプニしてみた。
やっぱりクセになる。

彼女が微笑んだ。

「明日香ちゃん、ここ好きだよね」

「ん?」

「落ち着くの?」

「うん…」

「もう目も戻ってるし明日香ちゃんから殺気は感じられないよ。ピリピリーッ!な感じ!」

「ん」

「明日香ちゃん…」

彼女が私の肩に寄りかかってくる。

「ゆっくりのんびり自分を受け入れたらいいんだよ…」

「ありがとう…」

―――カナリアは天使に全てをさらけ出しました。
―――カナリアは人の痛みは自分へ帰って来ることを知りました。
―――カナリアは自分を受け入れるということは過去の自分を受け入れて反省をすれば前に進めることを知りました。

彼女は、マネージャーの私から、いつか離れて独立をすることを考えているらしい。
その時期はまだ分からないけれど今の私なら、何となく分かる。
きっとその時は、本当の意味で私が過去の呪縛を乗り越えて私自身が精神的に自立した時だと思う。
その時なら彼女がそばにいなくても、離れていても心が繋がっているから安心と思えるだろう。

―――いつか、そんな日が来ても自立出来るように私は偶然と必然を大切に生きていこうと思う。

おわり

おまけ

「よっすぃ~!負けちゃったあ~!あたしより老けてるクセに!同い年なんだよ!?」
「関係ないよ…。次は私が行くからさ、落ち着いてよ梨華ちゃん」
「きぃー!!」

こんどこそおわり