『ハロー!SATOYAMAライフ』


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『ハロー!SATOYAMAライフ』

〈One 私の気持ち〉

1-1

愛佳は身体の自由を奪われていた。
全身に木の蔓が何重にも絡みついている。
目の前の少女は植物を意のままに操ることができるらしい。
少女は近くの大木を鞭のようにしならせ、愛佳へ振り下ろそうとする。
その時、二人の間の空気が歪んだ。
驚いた少女は動きを止める。
歪みはみるみる大きくなり、その中から二人の女の子が手を繋いで現れた。
「みつみつみつみつみついさーーーん!」「光井さん!」
「佐藤!……鈴木!?」
愛佳は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに困惑の色を浮かべた。
「佐藤!田中さんを連れて来てってゆうたやんか!」
「すみませーん、まーちゃんだれだったかわすれちゃって~、
あのときおみせにすずきさんとくどぅーしかいなくて~
そしたらくどぅーがすずきさんでいいんじゃないってゆって~、
まーちゃんはだめかなあっておもったんですけど~、くどぅーがそうゆうから~」
「人のせいにすんな!」
「がびんぼよーん」


1-2

その数か月前、愛佳はリゾナンターを去っていた。
理由は自らの病気だった。
全身の骨が脆くなる難病で、有効な治療法はない。
さいわい日常生活には支障はなかったが、戦闘に参加するのは無理だ。
みんなに迷惑をかけたくないと、愛佳は自ら離脱した。
そして、敵から身を隠すため、遠く離れた田舎に移り住んだ。
愛佳はそこで、大学の通信教育を受けながら、簡単な農業を営む生活を始めた。
もちろん何か予知できたことがあれば、リゾナンターに伝えていた。

ある日の夕方、畑に小松菜の種をまき終わったとき、何者かに襲われる映像が見えた。
愛佳は急いで佐藤に電話をした。
佐藤には瞬間移動の能力がある。
高橋がいない今、愛佳に何かがあれば、佐藤が「飛んで」来ることになっていた。
佐藤は瞬間移動するとき、一人だけ同行することができる。
敵と戦闘になると考えた愛佳は、佐藤にれいなを連れて来るよう頼んだ。
そして電話を切って数分後、その敵は現れた。

1-3

「私がまーちゃんに頼んだんです。光井さんの力になりたくて。」
「……鈴木、あんたの気持ちはうれしいけど、そういう問題ちゃうねん…。
佐藤、次に皆のところまで「飛べる」ようになるまでどのくらいかかる?」
「えっとー、あと10ぷんちょっとですかねえ。」
佐藤はまだ能力をうまく使いこなせていない。
長距離の移動は力を大きく消費するため、連続で行うことができなかった。
愛佳はつぶやいた。
「往復で30分弱か…」
一方、鈴木は仁王立ちで敵の少女を睨みつけている。
「まーちゃん、どっかに隠れてて!」
「はいっ!」
不穏な空気を察知した佐藤は、鈴木の指示通りその場から離れた。
「新しいリゾナンターか!ちょうどいい。まとめて血祭りにあげてやるわ!」
少女は柔和な顔立ちをしていたが、瞳の中には「黒さ」が透けて見えた。
岩陰に隠れた佐藤は、それを敏感に感じ取り、ガクガク震え出した。
少女がさっと手を振る。
瞬時に無数の蔓が鈴木の体に巻き付く。
鈴木は微動だにせず少女を睨みつけている。
その態度が少女の残虐性に火をつけた。
「気に食わない目だねえ…。脳みそぶちまけなああ!」

〈Two ピタッと当ててね〉

2-1

少女は大木を凄まじいスピードで鈴木の頭に振り下ろした。
ドゴッ!
大木が地面にめり込み、鈴木に巻き付いていた蔓が一瞬でつぶされる。
しかし、鈴木の体はそこにない。
鈴木は能力を使って全てをすり抜け、少女の前に立った。
「なにっ!?」「でええええいっ!!」
鈴木の右足が低い弧を描く。
強烈なローキック!少女の左足が折れる!
「ぎゃああっ!!」
少女は蹲った。
鈴木は少女を見下ろし、淡々と告げる。
「降参してください。さもないと、次はその首を折ります。」
少女は何も答えない。
鈴木は少女の降伏の言葉を待った。
それは、実戦経験の乏しさによる彼女の甘さだった。

2-2

突然近くの大木の枝が少女を掴み持ち上げた。
そして地上5メートルほどの高さの自らの枝に少女を据えた。
暗さを増した曇天を背景に、少女は凄まじい形相で叫んだ。
「透過能力か!ちくしょう…調子に乗りやがってええ!」
少女が手を振ると、近くの別の大木が動きだし、猛スピードで襲い掛かる。
ただし、その標的は鈴木ではなく、身動きの取れない愛佳だった。
「しまった!」
鈴木が走り、愛佳に覆いかぶさる。
そこに大木が振り下ろされた。
「うッ!!」
鈴木は自らの背中で大木を受け止めた。
口から夥しい血が溢れ出る。
「鈴木!」
「…すみません…、やっぱりわたし…だめですね…」
「そんなことない!」
叫ぶ愛佳の足に地面の振動が伝わる。
少女を乗せた大木が、太い根を二本の足のように動かして近づいてきた。
「あれあれ~、お嬢ちゃあん、お得意の透過能力はどうしたの?あーっはっはっは!」
愛佳の顔つきが戦士のそれに変わった。


2-3

「佐藤!短い距離ならすぐ飛べるか?」
佐藤はいつの間にか愛佳のそばにいた。
先ほどまでの怯えた様子は消え、凛とした表情をしている。
「やってみます!」
佐藤が愛佳の手をとった。
愛佳は佐藤に目で行先を告げる。
「ぐるぐる!じゃーんぷ!!」
佐藤が、そして愛佳が消えた。
あとには愛佳を縛り付けていた木の蔓だけが残っている。
「ちっ、逃げる気かああ!」
ドサッ!
樹上の少女が叫んだ直後、二人が落ちてきた。
そこは数百メートル離れた畑の中央。
「あははっ!遠くまでは飛べなかったみたいだねえ」
少女を乗せた大木が巨人のように歩を進め、二人にぐんぐん近づいていく。
鉛色の空から大粒の雨粒がぽつぽつと落ち始めた。
(ここでよかったんですか~?)
(うん、当たりや、ピタッとな)
雨に濡れた愛佳の口角が上がった。


〈Three ポロッと本音の〉

3-1

「佐藤、どっかにかくれとき」
「いやです!みついさんといっしょにいます!」
「……わかった。離れたらあかんで」
手を繋いで立っている二人のもとに、大木の巨人が近づいてくる。
地中から木の根が次々に這い出して来て二人に絡みつく。
愛佳の手を握る佐藤の手に力がこもる。
二人から数メートル手前まで近づいて巨人は立ち止まった。
「もう死ぬ覚悟はできたかな~?」
最期の一撃を加えるべく太い枝が腕のように高々と振り上げられた。
「これで終わりだ!死ねえええええ!」
来る!
佐藤がそう思った瞬間、難く閉じた瞼越しにも分かる強烈な蒼白い光を感じた。
同時に、この世が終わるかと思えるほどの大轟音が響く。
そして、佐藤の耳にはキーンという音しか聞こえなくなった。


3-2

聴覚が少しずつ蘇るに従って、雨音が大きくなっていった。
佐藤は恐る恐る目を開ける。
眼前には煙を上げている焦げた杉の大木。
その横にあの少女が倒れていた。
二人に絡みついていた木の根は、力を失って地面に落ちている。
呆然として動けない佐藤を残し、愛佳は少女に近づいていった。
「生きとるか?」
「……か、かみなりか…、
きさま…、ここに落ちるのが見えて…たんだな…」
「見えたのはついさっき、鈴木がお前と戦ってくれている間や。」
愛佳は鈴木の方を一度見て、そして再び少女の方を向いた。
「……お前は誰だ?どうして私を襲った?」
「…わたしは…力を…示さなくちゃいけないのよ…、
 …組織に…わたしたちの力を認めさせるために…」
「組織?組織って何や!ダークネスか!」
「……」
愛佳の質問に答える前に少女の意識は途切れた。


3-3

しばらくして佐藤が飛べるようになり、さゆみを連れて来てくれた。
さゆみはまず鈴木を治療した。
重傷だったが、数分後には満面の笑顔が戻った。
次に、少女を治療すべくさゆみと愛佳は、畑の真ん中へ向かった。
しかし、そこには焦げた大木があるだけで、少女はいなかった。
さゆみは数日前自分を襲ってきた黄色いTシャツの少女を思い出した。
譜久村によれば、あの武道家の少女も、いつの間にか姿を消したらしい。
動けないほどの重傷だったのにいなくなったということは、やはり仲間がいるのか。
さゆみは眉を顰めた。
しばしの沈黙の後、さゆみは愛佳の方を見て言った。
「ここ、ばれちゃったね。また引っ越すの?」
「そうですね…。」
「本当に災難だったね」
「まったくですわ。……でも、本音言うと少し嬉しかったです」
「嬉しい?」
「はい…。愛佳、もう一度リゾナンターとして戦ってみたかったんです。
新しく入ったあの子たちと一緒に…」
愛佳は優しさと切なさの入り混じった眼差しで、鈴木と佐藤の方を見た。
二人は蛍を追っかけてキャーキャー走り回っている。
「……。」
さゆみは愛佳に掛ける言葉が見つからず、闇に包まれた里山をぼんやり見つめていた。


《Endingでーす》

大木に雷が落ちたその時。
里山の中腹あたりに一人の女性が立っていた。
その指先では蒼白い光が微かにはぜている。
「世話が焼ける後輩たちだね~。
 まあ、裏切った私のこと、もう先輩だなんて思ってないだろうけど」
口調はぶっきらぼうだが、その目元はやさしく緩んでいた。
愛佳たちの無事を見届け、彼女は表情と心を作り直す。
「報告でーす。No3はミッションに失敗、あとで回収お願いしまーす。」
冷めきった声色で通信機にそのように告げると、彼女はくるりと向きを変えた。
そして冷たい雨に濡れながら、暗い獣道を歩き始めた。

おしまい
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以上、『ハロー!SATOYAMAライフ』でした。
『「リゾナンター。大好き」』の続編です。
小春があえて裏切り者になっているという設定を使わせてもらいました。
なお、敵の少女のモデルは、(仮)の緑です。ちなみに(仮)の中で私の一推しです。