『闇に哭く』


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更新日

2012/06/30(土)

喫茶リゾナントのある町の駅前商店街の一角に、テナントが一切入居していない雑居ビルがある。
周囲の賑やかさからは隔絶したそのビルこそが世界征服を目論む悪の組織ダークネスの本拠だった。
そして今荒れた内部の薄暗い階段を、コンビニのビニール袋を手に提げて昇るジャージ姿の人影があった。

「くそったれが、いいかげんエレベーターのあるビルに引っ越しやがれってんだ。 つうか何で今日は見張りの兵隊が一人もいないんだ」

たるんでやがると悪態をつきながら階段を昇っていくのは"魔女”の二つ名で恐れられる藤本美貴その人だった。
ダークネスの幹部でありながら、独自の行動を容認させている彼女が、何故本拠の会議室へと続く階段を昇っているのか。
それは組織の首領ダークネスによる緊急召集がかかったからである。

「実際、こんなビルに巣を作ってるような組織が世界を征服するなんてこと…まあないよなぁ」

組織の本拠であるにもかかわらず、傍若無人な振る舞いをするのは美貴が自分自身の実力に自信を持っているからだ。
と、同時に首魁であるダークネスへの侮りを意味するのだが。
ともあれ会議室のある階にやってきた美貴が、立て付けの悪いドアを開き室内に入ると、いきなり怒鳴りつけられた。

「遅いっ。 予定時刻をもう5分も過ぎてるではないか」

折り畳み式のテーブルが並べられた部屋の中央に一人の男が仁王立ちしている。
黒の三角覆面を被ったその男こそ悪の組織ダークネスの首領、ダークネスその人だった(紛らわしい

「遅いっつったてまだ誰も来てねえじゃねえか」

畳に換算すれば10畳程度の細長い部屋が広く映るほど、人がいない。

「お前は幹部の中でも後輩ではないか。 だったら先輩より早く来て準備を手伝うのが、真っ当な社会人の在り方ってもんじゃないのか」

社会人の在り方を部下に説く悪の首魁は、その部下がコンビニの袋を提げているのを見て絶句した。


 …貴様、と呟くダークネスに美貴は追い打ちをかけた。

「ちゃっちゃと用件言って欲しいんだけど。 美貴、髪切りに行きたいの」

バカ負けしたダークネスが手近にあったパイプ椅子に腰を下ろしたところで、駆け足で階段を昇ってくる音がする。

仮にも悪の組織ともあろうものが、こんな音の筒抜けな所で会議なんかしていいのか。
美貴が疑問に思っていると、立て付けの悪いドアが開く。

「遅くなってすいませ~ん」

息を切らしているのは組織の科学部門を統括するドクターマルシェこと紺野あさ美その人だった。

ダメじゃないかと声を荒げるダークネスに紺野あさ美の瞳が曇る。

「そんなに慌てて階段を上がって、もし転げ落ちて怪我でもしたらどうするんだ」

自分に対する態度とは大違いだが、美貴は黙っていた。
この程度のことで抗議していては喉が枯れてしまう。
紺野あさ美はダークネスの一推しなのだ。

「すいませ~ん」

少し巻き舌で呼びかける美貴をおぞましい物でも見るような目つきで見るダークネス。

「もう会議の開始時刻から8分も経っているんで、議題だけでも教えていただけませんか」

どうせつまらないことだろう。
それがはっきりしたら時点でさっさとオサラバしてやる。
そんな美貴の思惑が伝わったのか、ダークネスは忌々しそうに舌打ちした。

「いいだろう。 極めて重大な案件だからな。 先に教えてやるからお前のバカな頭で考えるんだ」

今日はおっさんがイヤに強気に突っかかって来やがる。
少し不審に思った美貴ときょとんとしている紺野あさ美に闇の王は重々しく告げた。

「…例のスレがまた落ちた。 完走はおろか200レスに達する前にデータ圧縮されたのだ、2スレ連続でな」

自分の言ったことが部下たちに伝わったのか、確認するように一旦言葉を切った。

えっと、またそういう設定の話なの?
私たち登場人物が虚構の世界の住人であることを認識しながら話が進行していくメタフィクションってやつ?

「これは由々しき事態だ。 そこでわれらダークネスとしてもあのスレのために何か出来ないか、お前たちに考えてもらいたい」

いつもならここでアタシが手を出して、おっさんにヒィヒィ言わせるところなんだがな。

美貴はいつになく思慮深かった。

もうそういうのも飽きたしな。
ワンパターンつうか、マンネリつうか。
億劫だっつうの。
黙りこくったままの美貴に替わり、マルシェが口を開く。

「恐れながら、リゾナンターのスレが落ちたことは、われらにとって喜ばしいことではないのでしょうか」
「それはそうかもしれんが、あのスレはワシに感動と笑いをくれた。その危機を黙って見過ごすことが出来ようかヒィィィィィ」

気がつけば、振るわないと決めたはずの右の拳を振るっていた。 オッサン、テメエが悪いんだ。

「いい歳したオッサンが赤の他人のしかも素人連中の書いた小説から感動と笑いをもらいましただあ。 いいかテメエは世界征服を狙う悪の組織の首領なんだぞ」
「いかにも。ワシはダークネス。闇の王と呼ばれたおと・ヒィィィ」
「あんな厨二病と自演臭ぷんぷんのスレから感動をもらってる暇があったら、少しは世界に恐怖を与えたらどうなんだ、闇の王さんよう」
「そうは言ってもだ…」
「大体リゾナンターのオリジナルメンバーが二人しか残ってないんだ。 終わらせてやれ。 このまま静かに終わらせてやれ」

何を思ったのか、マルシェがダークネスと美貴の絡みに食いついてきた。

「やはり光井愛佳の卒業は痛かったですね」

リゾナンターのオリジナルメンバーの中で最年少。
高橋愛や新垣里沙から次代のリゾナンターを託されるという設定で描かれることも多かった光井愛佳。
彼女のモーニング娘。卒業はリゾスレ的にも痛かったという面白みのない今更ながらの考察を滔々と述べていく。

「それを言うならお前にしろアタシにしろ…なあ」

美貴の言葉に秘められた意図を感じ取ったのか、マルシェは意味深に笑う。

「それは…まあね」
「そんな寂しいこと言うなぁ」

現実と虚構の狭間から抜け出せない哀れな闇の王が悲痛な声を上げる。

「リゾナンターは17人なの。 小春は月島きらりとして芸能活動を続行中だし、えりりんなんかいつもリゾナントでお昼寝してるし、ジュンジュンやリンリンだって日本にいるの」

夢から覚めずにいるッサンを放置して二人の女子の会話が続く。

「ガキさんの卒業だって痛いぜ。ガキさんのスパイ設定があったからこそのリゾスレだろうが」
「美貴ちゃん、それは違うよ。どのメンバーの卒業もスレ的には大ダメージだよ」
「まあ四年間よく頑張ったんじゃねえか。四年前に大学に入学した奴はもう働き出してるじゃないか」
「そうだねう。スレが最初に立った時に産まれた子供はもう幼稚え…」

二人の間で繰り広げられる回顧調の会話を闇の王が遮った。

「ちょっと待ってってば。そんな終わっちゃうような会話禁止~」

悲痛な声を上げるオッサンの姿は限りなく、限りなく痛々しい。

「いいか。 全てのものには終わりがあるんだ。終わりがあるから新しいことが始まるんだ」
「だったら新生リゾナンターの始まりを始めようよ~」

いいかげんにしろ、往生際が悪い。
美貴の声が会議室に響く。

「確かにリゾブルやそのPVは本気度が高かったよ。 いや別に他のが気を抜いているってわけではねえんだろうが伝わってくるもんが違ってた」
「だったらさあっ」
「聞けよ」

凄んでみせる美貴に闇の王は口を噤んだ。

「いくらリゾブルが凄いつったって所詮は四年前のシングルだ。 そんな過去の楽曲のPVから派生したスレにこだわって未来はあるのか」

自分の言葉が闇の王に浸透したことを美貴は見定めた。

「それでもお前がリゾナンターがどうこうしたという世界で生きたいなら、別のスレを立てたらどうだ。たとえば…」
「たとえば?」
「いい歳したおっさんが世界を滅ぼすとか世界を救うとか厨二病っぽい妄想を吐き散らすスレなんてのはどうだ」

あまりの言われように絶句してしまったダークネスを尻目に美貴は会議室を出ていこうとした。

「ちょっと待て、この貧乳魔女が」
「誰が貧乳だ。 今のワタシはけっこう凄いぞ」
「とにかく待て。 お前がワシのことをバカにするのはまだ許せる。しかしあのスレの住人を悪し様に言うことだけは許せない」

こいつ何を言い出したといわんばかりに美貴の眉が顰められた。

「何がいい歳したおっさんが妄想を吐き散らすだ。いいか、あのスレにはな…」

創世記から現在に至るまで少なからぬ数の女性作家が存在することを指摘した闇の王は、彼女たちまでおっさん呼ばわりした美貴の無礼を糾弾した。

「そんなろくでもないスレタイなどたとえ冗談でも許さん」

魔女はというと闇の王の糾弾に堪えた様子も無く、掌をひらひらさせながら軽口を叩く。

「いいじゃんかよ。 どうせ狼のスレに小説を投下するような女なんざ、いくら気取っていたところで一皮剥けばカプ好きの変態ばっかだぜきっと」
「いい加減にしろ、この性悪女が。 お前がそんなに性悪だから焼肉店で食中毒なんか起きて閉店する羽目になるんだ!!」

閉店という言葉を聞いた美貴はバツが悪そうな表情に変わった。
俯くと二の腕に血が滲むくらい爪を立て、同じ言葉を何度も練習している。
顔を上げると殊勝げな表情を装い、誰にともなく話し出した。

「私自身はお店の経営には関与していませんでしたが、私の名前の付いたお店でって、オイッ」

いい加減にやめないかこのメタフィクション構造と凄んでみせる。

「人がぎょうさん死んでんねんでーー(゚ロ゚*(゚ロ゚*(゚ロ゚*(゚ロ゚*(゚ロ゚*(゚ロ゚*(゚ロ゚*(゚ロ゚*(゚ロ゚*)」
「死んでへん。 ちょっとポンポンがビチビチなっただけやって」

ピッ。
いつのまにかレフリーのジャージを羽織ったマルシェの口元でホイッスルが輝いている。

「ダークネス様も美貴ちゃんも今のはちょっと不謹慎だぞっ」

メッ!と両者にイエローカードが呈示された。

「だから何で今日はアタシにそんな強気な態度で臨んでくるわけ」

魔女の二つ名は伊達ではない。
中世から伝わる魔術の術式によって得た異能を使いこなす自分に対して、何のチカラも持たないダークネスがここまで食い下がる真意を問うた。

「何のチカラも持たない? 闇の王として君臨するワシが何のチカラも持たないだと。 愚かな、なんと愚かな」
「何その余裕。 まさか精神と時の部屋で修行でもしたのか? それとも過去を回想して忘れていたチカラが覚醒した?」

揶揄する美貴に対して闇の王は重々しく告げた。

「そこに直れ」
「はぁ?」
「居住まいを正して、ワシの言うことを聞け」
「だから、何??」
「そこに跪いて、ワシの言葉に耳を傾けろって言ってんだよ!」

一瞬手が出かけた美貴だったが、闇の王の態度に興味を抱きとどまってみることにした。
といって跪くのは癪だったので、傍らにあったパイプ椅子の背もたれを抱くようにして腰を降ろした。

「おらよっ。 準備は出来たからオマエの話を聞いてやるぜ」

美貴の横にマルシェも椅子を置き、スマートフォンの録音アプリを起動させながら、闇の王に話しかけた。

「ダークネス様のお話、私も拝聴させて頂いてよろしいでしょうか」

一推しのマルシェの過剰すぎるほど殊勝な態度に気を良くした闇の王は鷹揚に頷いた。

「オマエたちは不思議に思ったことは無いのか。 何故自分たちに異能が発現したのか。 いやこんな言い方では判りにくいかもしれん。 何故、自分たちは異能を使えるようになったか考えたことはないのか?」

          ◇          ◇          ◇

2012/07/01(日)


闇の王の重々しい問いかけに考え込んだマルシェに対して、美貴は相変わらずの軽口を叩く。

「その話、長くなるか?」
「何だと」
「オマエの話はどのくらい続くのか尋ねてるんだよ」
「それは熱く語ろうと思えば、一晩中でも語り続けられるが」
「長い! 三行にまとめろとは言わないから、六行に収めろ」

無茶な注文に一瞬苛立ちを見せたダークネスだったが、知識欲に満ち満ちたマルシェの顔を見ると、気を取り直して語り出す。

…またもやスレが中途で圧縮された。
リゾで検索しました。。。ありませんでしたという文字を空しく眺めながらワシは思う。
ワシにチカラさえあればむざむざ落としはしないのに。
チカラを求める男がチカラの根源に迫ろうと伸ばした手がつかんだモノ、それは…。
次回仮面ライダーダークネス第ニ話「その手でつかめ、ダークマター」
ワシの運命は嵐を呼ぶぜヒィィィィ

獲物に食らいつく猟犬の勢いで襲いかかった美貴に蹴られた膝を抱え、闇の王は訴える。

「膝の皿を割ろうとするのは止めり。それにちゃんとまとめてやっただろうが」
「何か無性に腹が立ったんだよ。何予告編風に仕立ててんだよ!それも仮面ライダーだぁ。確かにテメェは覆面だか仮面だか被ってるけど、自分のことワシっていうヒーローなんかいやしねえ。しかもフォーゼのセリフまでしれっとパクりやがって」
「女のお前に言っても判らんだろうがな、男はみんな心にライダーベルトを巻いてるんだ」
「じゃあ回してみろ。 お前のライダーベルトを回して変身してみろ。 そしてお前の運命で嵐を呼びやがれ」
「ライダーベルトがグルグル回るとか昭和か。お前は昭和の生き証人か」
「メテオのベルトはグルグルグルグル回ってるだろうが、オラオラオラッ」

美貴は両拳を闇の王のこめかみあたりにグリグリねじ込みながら、聞き慣れない言葉が発せられていたことを思い出した。

「テメーなんか今変なこと口走っていやがったな。 ダークマターとかいうのは何のことだ」

「ダークマター。 直訳すれば暗黒物質だけど未詳物質と呼んだ方がニュアンスはつかめるんじゃないかな」

美貴にイエローカードを呈示して、ダークネスから引き離しながらマルシェが説明してくれた。

ダークマター。
宇宙を構成する物質の中で人類の目が捉えることのできる陽子や中性子などは全体の数パーセントにしか過ぎないという。
その5~6倍はを占めていると推測される未知の物質。
宇宙を観測する際に使用されてきた、光やX線、赤外線などの電磁波では見ることが出来ないことから“暗黒”と冠される物質。


「そうだ。 前スレが落ちてしばらく空白だった時にワシは考えた。ワシが無力なばかりにスレが落ちてしまった。チカラが欲しい。魔女や粛清人のように他人を畏怖させるようなチカラが欲しいと」

美貴の拷問から抜け出たのを良いことに闇の王は述懐を始める。

「スレを落としたくないなら、規制を回避するために●を購入した方が確実なんじゃないのか?」
「●を買ったら負けだと思ってる」

美貴の茶化しはきっぱりと絶った。

「たとえばお前たち能力者の中に異能を発動する器官、いや機関があるとしよう」

いつになく雄弁なダークネスに気を飲まれたのか、美貴はその言葉に耳を傾けることにした。

たとえば念動力。
物質に干渉し、捻り、割り、ねじ曲げて、砕くチカラ。
物質の状態を変える異能の発動機関はそのために必要なエネルギーをどこから調達しているのか。

「そんなことしちめんどうくさいことなんて…」
「考えたこともないだろう」

人には適わざる異能を持っているといっても能力者も人間だ。
一人の人間が生産し、その体内に蓄積できるエネルギーには限界がある。
物質を破壊するために必要なエネルギーと体内に蓄積されたエネルギーの隔たりを埋める存在。

「それがダークマター」

振り付けのような不規則な軌跡を描いた右手の人出し指が虚空を指し示す。
まるで決めのポーズのような挙動に一瞬イラっときた美貴だったが、話を停滞させないために見逃すことにする。

「つまりダークネス様は時に科学の法則さえ超えるかのような異能の発現にはダークマターが関係していると仰られているのですね」
「流石は我らが科学部門を統括する聡明なドクター。 血の気の多い魔女とは違って理解も早い」
「いやですわ、そんな本当のこと仰ったら」

オイオイ、こいつら出来てるんじゃないのか。
息がピッタリな二人のやりとりを目の当たりにして、不穏なことを考えている美貴をよそに、ダークマターに関する会話が続く。

「ダークマターは能力者の意志と反応して、伝達や増幅を行う。 つまり能力者としてチカラを発現できる人間とはダークマターに反応する思念を発することが出来る人間のことを指す」
「もしもダークネス様の仮説が正しければ、私の取り組んできた異能の研究が一気に進むことになります」
「仮説などではないのだよ、ドクター。これこそがこの世界のトゥルース」

また妙な仕草をしやがった。
両手を動かして最後は、二丁拳銃を構えるような動作。
…ちゃん。 今ごろどこで何をしてるのかな。
アルファベットの最後の方の一文字を名前として使っていたチビッコ二人組の片方の名が思い浮かんだ。
一筋の紫煙が変えた少女の運命に思いを馳せながら、目の前で話し続ける年の差カップル(美貴の脳内認定)に意識を戻す。

「確かに大多数の人間にとってダークマターは想像の産物であり、理論の中でのみ存在する未詳物質なのかもしれない」

そしてその状況はダークマターによって異能を発動できる能力者であっても大して変わらないというのがダークネスの立てた仮説だ。
能力者はダークマターの存在を意識することなく、異能を発現してきた。
それが当たり前のように。

「しかしワシはダークマターの存在を認識した。認識したということは、存在するものとして干渉できるということだ」

単位体積当たりのダークマターを増やすことで、能力の威力を上げ、射程を伸ばすことも出来れば、その逆に能力者を無能力者にすることも出来る。
これこそ能力者の王に相応しい能力だと意気軒昂に語るダークネスに、美貴は冷や水をかけた。

「大層な意気込みの割りには随分地味なチカラだなあ、おい」
「な、何だって」
「だからよ、そのダークマター一発で街一つ消し去るぐらいの威力があるかとでも思ってたら、能力の効果がアップするだダウンするだ。有り体に言えば支援系の地味な能力だって言ってんだよ」
「バカな、それがどれほどの意味を持つことなのかお前にはわからないのか!」
「それにぶっちゃけ、れいなのリゾナントアンプリファイアと被ってるじゃん」
「おお、さすが共鳴の蒼の光を発する女。 敵ながら侮れん」
「いや、お前が思いっきり後付けでパクってるようにしか見えねえ」

パクったって、パクったって。
美貴の容赦ない口撃に闇の王も衝撃を受けたようだ。
口をパクパクさせているのが黒覆面越しにわかる。。

「仮にお前がホントにダークマターってやつを操作できたとしよう。ロールプレイングの五人パーティーなら後列に加えてやってもいい。しかし三人パーティーだったらお引き取り願うぐらいのレベルでしかねえ」

「お前のパーティーなんか、こっちから願い下げだ。全滅してしまえ、お前のパーティーなんかリフレクもヘイストも使わず力攻めだけで全滅してしまえ」

険悪な空気が漂う二人の間を、マルシェがとりなそうとする。

「私、さっきから思ってたんですけど…」

どこかのんびりとした口調で話し出した科学者の口元を闇の王と魔女が見つめる。

「…能力のことをチカラって表現するのって、いかにも厨二病って感じですよね、うふっ」

今更、そこかよ。
調子を狂わされた感が否めない魔女の思惑を余所に、科学者は闇の王に問いかけた。

「ダークマターに仰っる通りの性質があって、それを操作出来るとしたら、それだけでも素晴らしい能力だと思いますが、ダークネス様の言葉の端々からそれ以上のものを感じ取ったのですが」
「ワハハハ、さすが才色兼備のドクターだけのことはある。ワシが伏せていた事実を洞察力で突き止めてしまったわ」
「いやですわ、才色兼備だなんてホントのこと言っちゃ」

何このコントみたいに息のあった会話。
あきれている美貴にダークネスが勝ち誇った。

「ワシはダークマターを実体化できる。そうこの世界に存在しながらその実在を未だ証明されていないダークマターを掌の上に載せることができるのだ」

わぁ、スゴいと科学者が手を叩く。

「それがどうしたというような顔をしているな。わけのわからないものを実体化したからといってどうなるをだとか思っているな、貴様」
「わかっているじゃねえか」
「愚かなり、氷の魔女愚かなり、あえて言おう、カスであると」

ダークネスの常にない高言にさすがの美貴も毒気を抜かれてしまった。

王は言った。動物が生きていく上で必要不可欠な存在である酸素も過剰に摂取すれば、健康を損ない生命さえ失われてしまう。

「ダークマターと能力者の関係も似たようなものだ」

能力者を能力者たらしめるのに不可欠な存在であるダークマターは、能力者にとって猛毒にもなる。つまり…。

「…つまり、実体化することによって濃縮されたダークマターは最強最悪の能力者殺しとなる。能力者殺しとなる。能力者殺しとなる。とても大切なことだから三回言いました」 

どうやらダークマターという存在はとてつもなく危険なブツらしい。
それを認識しない能力者は、デメリットの部分を回避し、恩恵を被ることが出来るらしい。
しかし一度具現化したダークマターは放射性同位元素のように能力者を蝕んでいくってことか?

ダークマターとやらの実相について考察していた美貴は、闇の王が妙な構えをしていることに気づく。
重ねた両手を拳銃に準え、顔の傍で小粋に構えているような。

あれはまるで、しずちゃんじゃねえか。
女子アマチュアボクシングでロンドン五輪に出場すべく、参加枠を勝ち取ろうと奮戦したお笑い芸人の名を思い浮かべた。
彼女がコンビの相方とネタを披露したときの決めのポーズとよく似ている。
金で他国の出場枠を買おうとした見下げ果てた某お笑い芸人に比べれば、何と壮烈な生き様だった。
元々世界との実力差ははっきりしていたのだから、力を出し切れるようにマスコミも考えてやれよっつーの。
一人の人間の純粋な生き様をも商品として消費したマスコミのえげつなさに義憤を覚えながらも、自分に対して敵対的な態度を見せる相手を威嚇する。

「何だその構えは? 今にも撃つぞってか?」
「ひれ伏せ」
「はぁ?」
「最凶最悪の能力者殺しを手にした王の前にひれ伏して、敬意を表せ」
「何またわけのわかんねえこと言ってんだよ」
「わけがわからないというならお前のその貧弱な胸に手を当てて思い返せ。 これまで王に行ってきた不敬の数々を」
「だから貧弱じゃねえって。 今のアタシは結構…」
「お前の傲慢な行いは許し難い。 本来なら万死に値する。 が、しかしワシは寛容な男だ」

ひれ伏して恭順の意を示せば、これまでの罪は許すという王の言葉を美貴は鼻で笑うのだった。

「はっ。 このオッサンはまた何をのぼせ上がってんだ」
「のぼせあがってなどいない。 ワシは冷静だ」
「けっ、いいか。 ダークマターの設定はそれなりによく考えてるよ。 どうせその辺のラノベから寄せ集めて作った設定だろうがな」
「何を無礼な」
「だが、お前の言ったことは全部絵空事だ。 妄想で凝り固まったお前の中にだけ存在する真実ってやつだ、目を覚ませ」

闇の王がゆらりと揺れたように見えた。
美貴の恫喝にたじろいだのか、あるいは笑ったのか。

「ワシの中にだけ存在するトゥルースだと」
「だから、その無意味なトゥルース押しはやめろって」
「…今日はビルを警護する兵士がいなかっただろうが」
「ああ、まったくたるんでるよな。 トップが惚けてると末端の兵隊まで…まさか」

闇の王の姿が気のせいか大きく映った。

「今日警護担当だった「俺」と「髭」には実験台になってもらった。 その結果わかったことだがダークマターの作用は能力者のレベルの高さに比例するらしい」

レベル1に満たない「俺」は体調不良のため詰め所で寝込む程度で済んだが、レベル3のテレポーター「髭」に関しては大騒動になったらしい。

「「俺」の様子を見てワシも少し怖くなった。だから「髭」に対しては、ダークマターを左腕に軽くお見舞いしてやったのだ。そうしたらあいつの左手だけどこかにテレポートしてしまってな」

突然左腕が消えた「髭」はパニックに陥り、過呼吸状態で意識も飛んでしまった。
やむなく救急車を呼んだら警官がやってきて、事件性の有無や凶器の在処を執拗に問いつめられたという。

「だから刃物で切断したんだったら、その辺が血だらけになってるし、「髭」の命だって危ないっちゅうねん」

幸いだったのは「髭」に対して射出したダークマターがごく少量だったことらしい。
病院で過呼吸の手当を受けた「髭」の状態が落ち着いたら、腕も無事戻ってきたというのだが…。

「今度は悪質なイタズラで警察をからかった、けしからんとか言い出しおっての」

明日にでも警察署に出向き、事情を説明した上で始末書を提出せねばならないとため息を吐いた。

「てめえ、どこの世界に警察に始末書を取られる悪の組織がある。辛気くさいことをぬかす警官なんてぶっ殺してやりゃいいんだ」
「いや、それはダメだろう。 あの人たちだって悪気があったわけじゃない。 市民の安全を守るためにやっているんだから」
「はぁ?言ってる意味がわかりません。 アタシたちは世界を征服して市民を支配するのが目的なんじゃないの」

王と魔女の主張は平行線を辿り、交わる気配すらない。

「…とにかくだ、「俺」と「髭」の篤い忠誠心のお陰でダークマターの効果は実証された。 レベル3の「髭」ですら一時は意識不明になったのだ。 幹部のお前がダークマターを喰らえばどんなことになるかな」
「美貴ちゃんの異能から推測するにダークマターの接触した部位の内部から凍結していっちゃうんじゃないでしょうか」

マルシェの口調はどこかウキウキしているように聞こえた。

「なんと身体の内側から凍るとな。 いくら因果応報とはいえこれは死ぬより辛い。 そんな目に遭いたくなければさっさと過去の過ちを詫びて、ワシに忠誠を尽くすのだ」
「…クソが」
「まだ強がりを言うか、いいかワシの…」
「黙れこのクソ野郎。凍りつくのが死ぬより辛いだと。 テメェは寒空の下で関節を外され身動きできない状態で5ヶ月間忘れ去られたことがあるのか」
「そ、それはスゴい放置プレーだな。命がけで快楽を追求するとは何という性の冒険者」
「違うわ!まったくやる気のない作者の話に登場したせいでエラい目にあっちまったんだよ」
「きっと作者も仕事が忙しくなって、仕方がなかったんだろう、よくあることだ」
「るせーっ!どうにか生き延びて命辛々帰ってきたら、クジュッキーズ、クジュッキーズって、スレのみんなはそんなにクジュッキーズが良いわけ?」

その言外に体を張って頑張ってるアタシのこと少しはねぎらってよという鬱陶しいオーラを発している。

「それは違うぞ、ミティ。 いや今はあえて藤本と呼ばせてもらおう」

闇の王を睨みつける美貴の目元が少しばかり緩んだ。
なんだかんだ言って自分の苦労をわかってくれる理解者がいたといわんばかりに。

「オ、オマエ…」

オマエ呼ばわりこそしていいるが、どこか感激の響きが混じっているのは隠せない。

「それは違うぞ、藤本。 いいか、ワシもクジュッキーズのことは好きだ。 しかしたとえばあと十年後クジュッキーズの中の誰かがリーダーを務めるモーニング娘。に、ニジュッキーズが加入したとしよう」
「オイ、おっさん」
「その時ワシはクジュッキーズよりもニジュッキーズにお熱を上げていると確信を持って言える、グワッ」

美貴の手からダークネス目がけてパイプ椅子が飛んだ。
情け容赦のない投擲だったが、腐っても闇の王。 すんでのところでかわすことができた。

「このロリコン野郎が。 かっかってこいや。 貴様自慢のダークマターってやつをアタシにお見舞いしてみろや」
「そんな大口を叩いてもよいのか。 この距離では外しようもない」

細長いといっても狭い雑居ビルの一室だ。
闇の王と魔女の隔たりは数メートルに過ぎない。

「うるせーよ。 テメーぶっ殺してやる」
「笑止」

組み合わされていた闇の王の両手が解き放たれた。
左右非対称の高さに開かれた両手の先は、まるで影絵の狐のように人差し指と小指が立てられ、他の三本の指先は重ねられている。
その指先で作られた獣の口からついにそれは放たれた。
ダークマター ― この世界を構成しながら、いまだ誰もその存在を実証できなかった未詳物質。

「いいか、藤本。「ブッ殺す」なんてそんな言葉は使う必要がねーんだ。 なぜなら闇に生きる人間が、その言葉を頭の中に思い浮かべた時には、実際に相手をヤっちまってもうすでに終わってるからだ!だから使った事がねェーッ!「ブッ殺した」なら使ってもいいッ!」





















闇の王の悲鳴が壁に吸い込まれていく。