『「リゾナンター。大好き」』


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『「リゾナンター。大好き!」』

〈One ちょびっと不安で 〉

1-1
れいなは絶望した。
敵の力が分かってしまったから。
この少女は武道の達人。
それも、れいなが今まで戦った中でも最強クラスの。

様々な理由によって、リゾナンターのメンバーが大幅に入れ替わった。
高橋・新垣の離脱後は、れいな・鞘師が戦闘における「ツートップ」となっている。
この二人は、攻撃に際して特殊能力を使用していない。
れいなの強さは、天性の格闘センスと、豊富な闘いの経験とによるものだ。
また、鞘師の方は、特殊能力自体いまだに発現していない。
驚くべきことだが、これまで二人は体術だけで強力な能力者を撃退してきたのだ。
そう、これまでは…。

得意の体術勝負で敗れたことに、れいなは打ちのめされていた。
「やっぱり愛ちゃんとガキさんがおらんとダメなんかなあ…。」
れいなが弱音を吐いている。
傷ついたれいなを治療しているさゆみは、それを聞いて衝撃を受けた。
そして、事態の深刻さを思い知った。


1-2
その少し前。
街の中心部から外れた細い道を、三人は歩いている。
さゆみは上機嫌である。欲しかった最新のノートパソコンを購入できたのだ。
れいなには、安物のサングラスで恩を着せ、まんまと荷物持ちをさせている。
「好きな食玩を一つ買ってあげるの」と誘い出した愛しの鞘師も一緒だ。
深夜の帰り道、三人はとりとめもない話をしながら歩いていた。
れいなが偽札を発見したことや、石田の唇を見る鞘師の目が妖しいことなど、
楽しいおしゃべりは尽きることが無かった。
「うわーっ、あれ、きれいやねえ。」
遠くに見える高層ビル群をれいなが指差す。
厚い雲に覆われているのか、空には月も星も見えない。
闇を背景に、摩天楼たちは自らの光でショーアップしているように美しく聳えていた。

駅から三十分も歩くと、辺りには気味が悪いほど人気が無くなった。
三人は角を曲がり、さらに寂しい通りに足を踏み入れた。
その時である。
暗闇の中から、すっと一人の少女があらわれた。
そして唐突にこう言った。
「組織に私の力を認めさせたいので、申し訳ありませんが、貴方たちを破壊します。」
この静かで丁重な挨拶が、そのまま戦闘開始の合図となった。
さゆみはその少女の雰囲気に、ちょびっとだが、拭いきれない不安を感じた。


1-3
さゆみの不安は的中した。
数十秒後、さゆみの眼前には信じ難い光景があった。
れいなと鞘師がアスファルトに這いつくばっている。
二人の神速の攻撃は、少女にかすりもしなかった。
少女は二人の動きを完全に見切っていた。
人は誰かと戦うとき、相手に対する敵意をまとう。
少女はそのようないわゆる「殺気」を正確に感知することができた。
相手の殺気から、攻撃してくる方向・タイミングを察知してしまうのである。
そして、鍛練の賜物であろう俊敏な動きで、それらを全てかわしていく。
もちろん、れいなや鞘師にだって敵の攻撃を読むことはできる。
実戦で鍛えられた経験や洞察力は、敵の動きの分析・予測を可能にするからだ。
しかしそれは、敵の動きをある程度視認した上でのことである。
その少女は違っていた。
少女の両目は、戦いの間ずっと閉じられていた。
れいなと鞘師の二人がかりの攻撃を、殺気だけを手掛かりに、完全にかわしきる。
さらに、二人の動きの先を読み、速く重い正拳突きを急所に撃ち込んできた。
闇夜であったことが、二人には不利に、そして、その少女には有利に働いた。
そして何より少女の身体能力が、二人のそれを上回っていた。
並外れた天賦の才と、それを磨き続けた努力とが、その強さに結実していた。
また、少女には、地獄から這い上がって来たかのような凄味もあった。
少女の強烈無比な打撃を浴びた二人は思った。
勝ち目が無い、と。


〈Two パリッと服着て 〉

2-1
さゆみは倒された二人に駆け寄り、まず比較的傷の浅い鞘師を数秒で応急処置した。
治療が終ると鞘師は立ち上がり、すぐに少女へ向かって行った。
れいなの方は重傷で、治療に数分間かかりそうだった。
そのための時間を稼ごうと、鞘師は少女を引き付けながら、二人から離れた。

さゆみは懸命にれいなを治療している。
れいなは苦痛に顔をゆがめながらも、何かを決意したようだ。
先程の弱気な口調とはうって変わって、しっかりと諭すように言った。
「さゆ。次にれいなが攻撃を仕掛けた時、鞘師を連れて逃げりぃ。
 そんでいつか…、あの子らと一緒にあいつにリベンジして…。
あの子らは、絶対にれいなたちより強くなるけん…。」
れいなの言葉に、さゆみは何も答えられなかった。
ただ、目頭の透明な水塊がみるみる大きくなり、零れ落ちそうになっていた。

鞘師は、少女の前に立っていた。
目の前の敵を睨みつけながら、自分が着ている洋服の襟に触れた。
その服は、上京したばかりの頃、着替えが無かった鞘師にれいながくれたもの。
鞘師がそれまで着ていた服は、家の人が選んでくれた、子供っぽいものばかりだった。
少しヤンキーっぽくても、れいなのお下がりの服は、パリッとお洒落なものに感じた。
鞘師はその時の喜びを思い出し、心の中でれいなに誓った。
「田中さん…、田中さんが来るまで絶対に持ちこたえます。
田中さんのように、私は…、どんな場面でも…、逃げない!」


2-2
「うわああっ!」
乱暴な子供に放り投げられた縫いぐるみのように、鞘師が二人の方に飛ばされてきた。
そして、道路脇の自動販売機に背中をぶつけ、座ったような姿勢になって、止まった。
鞘師が小さな顔を上げて二人に謝る。
「すみません…。時間…、あまり稼げませんでした…。」
目の光は死んでいなかったが、四肢はもう動かない。
そこへ、鞘師に止めを刺そうと少女が矢のような速さで走って来た。
「りほりほっ!」
さゆみがれいなの治療を中断し、鞘師の方へ無意識に駆け出す。
「うっ!」「きゃあっ!」
二人は鞘師の目の前で激突した。
鞘師を案ずる余り無心で飛び出してきたさゆみに、少女は全く気付いていなかった。
結果、さゆみが少女へ体当たりをくらわせた格好となった。
それは、その夜その少女に初めて当たった攻撃だった。
少女はもんどりうって転倒する。さゆみも大きく弾き飛ばされた。
その光景を、鞘師は見ていた。
節電中とはいえ、後ろの自動販売機の光は、視界をほんのり明るくしてくれていた。
鞘師は途切れそうな意識を必死に保ち、冷静に目の前で起こったことを分析した。
そして、一筋の光明を見出した。


2-3
「さゆっ!」れいなが足を引きずりながら、さゆみのもとへ向かう。
そして、さゆみの横にひざまずき、上体を抱き起こす。
少女は立ち上がりつつそれを見ていた。そして、標的を鞘師かられいなに変えた。
れいなは少女を睨みつける。滅多にかかない汗が頬を伝っているのを感じた。
少女は目を閉じ、必殺の一撃を放つべくれいなのまとう殺気を捉える。
(ちくしょー……、二人を守れんかった…。) 
(やっぱりさゆみにはリーダーなんて無理だったのかな…。)
れいなとさゆみは同時に思った。
*1
その時、鞘師が叫んだ。
「待てえ!自分の力を証明したいんなら、最強の能力者を倒せばええじゃろう!」
少女が目を開ける。
「…最強?」
「そうじゃ…。その人は、高橋さんも新垣さんも、田中さんもいっぺんに倒した!」
少女は鞘師の方へすっと顔を向けた。
「…リゾナンターを壊滅寸前まで追い詰めた能力者がいたと聞いたことがありますが…
 しかし、その能力者はもうこの世にいないのでは?」
「いや…、まだ生きておる…、あの人の『中』に…。」
鞘師は、れいなの腕の中の「あの人」に目を向けた。
れいなとさゆみは思った。
(まさかさえみさんのことをいっとると!?さえみさんはもうおらんとよ!)
(お姉ちゃんは…、お姉ちゃんはあの日…、えりが…。)
二人はただ鞘師を見つめるしかなかった。


〈Three もちょっと我慢ね 〉

3-1
二人の思いを知ってか知らずか、鞘師は続ける。
「その人が目覚めたら、誰にも止められん…。おそらくダークネスにも…」
「……いいでしょう。
最強の能力者を破壊できたら、組織からの評価も上がるはず。
 その人をすぐに目覚めさせて下さい。」
「それにはあんたにも協力してもらわんといけん。」
そう言うと鞘師は、少女の方を向いてから、自分の背後の方へ視線を移す。
そこには一台の自動販売機…。
「…鞘師!?」
鞘師の狙いに気付いたれいなの顔が一瞬にして蒼白となる。
「田中さん…、これから大変なことになりますが、ちょっと我慢して下さい…。」
「が、我慢って…。」
れいなはそれ以上声が出なかった。
一方、さゆみにはまだ鞘師の狙いが掴めていない。
そんなさゆみを複雑な思いで見つめながら、鞘師はれいなに告げた。
「目覚めさせましょう…。あの……、悪魔を……。」


3-2
鞘師の提案を受け入れた少女は、震えるれいなの腕の中からさゆみを引き離した。
そして鞘師の指示通りに、さゆみにあるものを飲ませた。
すなわち、少女は、自らの手で「最強の能力者」を目覚めさせてしまったのだ。
それが少女(たち)にとって惨劇の幕開けとなった。

勝負は、実にあっけなくついた。
ゆらりと立ち上がったさゆみと対峙した少女は、愕然とした。
「動きが全く読めない…。」
目覚めた悪魔に殺気は無かった。あるのは、純粋な「欲望」のみ。
「好きだな、ロリが!」「触りたーい!」「ムシャムシャしたい!」
そのような異常な欲望を感知する術は、武道の修行では習得できなかった。
少女は何の防御もできず、懐に入られ、抱きしめられ、弄ばれた。
不幸にも、着ていた黄色いTシャツや、程よく筋肉質な肢体が欲望に拍車をかけた。
それらは(鞘師の読み通り、)さゆみの脳裏に、ある人物の体を思い出させていた。
最高潮に萌え盛ったピンク色の欲望の炎が、少女の全てを舐め尽くす。
幼時から武道に全てを捧げてきた少女にとって、その愛撫は致死量の劇薬だった。
少女の精神は、初めて体験した屈辱と恍惚によって完全に崩壊してしまった。
悪魔は二本の指を立てた両手の甲を、自分の額の両端につける。
「イエエェッス!!うぅさちゃあーんっ!ぴいいーーーーーーーーーーーっす!!」
こみ上げてきた何かを噴出するような咆哮が、夜空に響き渡った。
悪魔の両目からはピンクの光線が放たれている。
その光線が、サーチライトのように、ゆっくりと次の哀れな獲物をとらえた。
「ひいいっ!さゆが…、さゆが、こっち向きようっ!」
れいなは再び絶望した。


3-3
それからしばらく後。
三人の身を案じた譜久村たちがようやく駆けつけた。
七人はまず仰向けに倒れている一人の少女を見つけた。
黄色いTシャツは少しはだけ、スカートも若干ズレ下がっている。
焦点の合わない視線は、いつの間にか雲が消えて月が輝く夜空に向けられている。
口の周りには大量の唾液がついており、なぜかそれは甘いアルコールの匂いがした。
少女には、それを拭い取る体力も気力も残っていないようだった。

「たなさたーん!」
佐藤が突然走り出す。その先にれいなが倒れていた。
特に怪我はなさそうだが意識はなく、少女と同様に服装が乱れていた。
工藤がれいなにすがりつき、わんわんと低い声で泣き出す。
一方佐藤は、お薬のつもりなのか、不味そうな白い飴玉をれいなの口に次々詰め込む。
譜久村たちがさらに辺りを見回すと、何者かに破壊された自動販売機があった。
そして、そのすぐ近くに、気を失っている鞘師が見つかった。
手足はパソコンのコードのようなもので縛られている。服装の乱れはれいな以上だ。
しかし、その表情はどこか満足げにも見える。
腕は折り曲げられていて、胸の前にある両手が服の襟を握りしめていた。
「怪我は無いようです。…それにしても鞘師さん、萌えですねぇ!ハウーーンッ!」
縛られている姿を見て興奮したのか、飯窪が奇妙なポーズをとりながら高音で叫んだ。
一方石田は、自動販売機からこぼれ落ちた硬貨の山を、嬉しそうに凝視している。
「ねえ!今日すごく調子がいいー!上手くなーい?ねえ!何でみんな無視するとー?」
生田はそう言いながら、なぜか狂ったようにハンドスプリングを続けている。
その生田の足に当たり、缶チューハイの空き缶が音を立てて側溝に転がっていった。


〈Endingでーす!〉

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛――!」
突然、嬌声とも嗚咽ともつかない声が響いた。
鈴木は、その声が発せられた方向を見た。
「聖ちゃあん!道重さん、見つかったの?」
譜久村は哭きながら、倒れている女性の脇腹辺りに頭を押し付けている。
譜久村が何をしたいのか、鈴木には全く分からない。
近付いて見てみると、その女性はやはり道重さゆみだった。
少しお酒の香りを漂わせ、満ち足りた表情でスヤスヤ眠っている。
鈴木は、三人が見つかったことにとりあえず安堵した。
と同時に、仲間達が繰り広げる異様な光景を前にして、改めて不安になった。
(こんなに自由なメンバーばっかりで、これから大丈夫なのかなあ…。)
そう考えながらさゆみの寝顔を見ていると、その唇がかすかに動き出した。
何やら寝言を言っている。ただしその声は、常人には聞こえないほど小さい。
しかし、鈴木は、確かにその言葉を聞き取った。
それは、新垣がリゾナンターを去る時に残していった、あの言葉だった。
鈴木は何だか嬉しくなり、新米リーダーに向かってこうつぶやいた。
「道重さん、私もです。みんなもきっとそうだと思います。
みんながそう思っていれば、どんなことがあっても絶対に乗り越えられますよね!」
ふと顔をあげると、東の空がかすかに明るさを帯びていた。

―おしまい―
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