(70) 114 名無し保全(さゆれな・終わりのはじまり)


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息が、切れる。
鮮血が飛び散る。
肉が切れ、骨が断たれるような音がする。

「あ゛っ……」

鈍い声が口から漏れた。
肩口をおさえ、折れそうになる膝を堪えた。
それでも倒れまいと真っ直ぐに前を見据える。

「なん、でよ………?」

そうして少女は独り言のように漏らした。
こんなこと、したくないのに。

なのにどうしてだ?

どうして、こんなことをしているのだろう?

「なぁ!なんでよ!!」

暗闇に叫ぶが返答はない。
そこに確かに聴き手はいるはずなのに、彼女は答えてくれない。
答えないことこそが、答えなのだろうかと天を仰いだ。

涙なんてとっくに枯れたものと思っていたのに、それでもまだ、この瞳から雫は落ちる。

人間とは、厄介な生き物だと、そう思った。

感情があるから、こんなに悩むんだ。
感情がなければ、もっと素直に行動できた。
なにも考えずに、ただ目の前にあるものを切り裂けば良かった。
欲望のままに、痛みを知らずにただ過ぎ去れば良かったのに。

それなのに。
感情があるが故に、悩み、惑い、震え、涙する。

そんなもの、とっくに捨てたと思っていたのに、こんなにも胸が熱くなる。

まだ、叫んでいる。

心が、痛いと。
必死に叫んでいる。

「なんでよ………ねぇ……」

血も、汗も、涙も。
体液はその場に迸り、痛みと哀しみを教える。
それでも彼女は、叫ばずにはいられなかった。

「なんでよ、さゆ!!!」

田中れいなは、無間に続きそうなその闇に叫んだ。

名前を呼ばれた彼女は、闇の奥深くで無表情を崩さぬままれいなを見つめていた。
彼女の瞳に、感情は映らない。
それなのになぜか、確かにその頬に、雫が伝っていた。


「時間が来たんだよ……」


そう彼女は呟いた。

「終わらせよう、すべてを」