『共鳴ハンター<3>』


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新曲MVが出てすっかり時代遅れ感漂う話になってしまったのでとっとと上げ終えさせてください
とっととと言いつつ無駄に長いので2回に分けますすみません


『共鳴ハンター』 前回までは……

  • 遥、友人の春菜を誘ってそれまで身を寄せていたいかがわしい教団《faith》を飛び出そうとするも、フラれる
  • “眼”を駆使して戦うも力及ばず諦めかける
  • 春菜、見事なジョジョ立ちを決めつつ登場
  • ジョジョ立ちのくだりは嘘
  • 春菜の「本当のチカラ」により、ひとまずの窮地を脱出
  • でも今度は2人そろって再びピンチ
  • そこに、見事なジョジョ立ちを決めつつ颯爽と現れたれいなと愉快な仲間たち
  • ジョジョ立ちのくだりは嘘

  • よっぽどヒマな人は保管庫↓で読み返してみてください

  • さらにヒマな人は続き↓を読んでみてください


      *      *      *


「す…ご……」


遥自身、「ケンカ」にはそれなりの自信があった。
実際、訓練された相手ではないとはいえ、そして“眼”に依るところが大きいとはいえ、大の男を複数這いつくばらせてここまで来た。

だが―――今まさに目の前で繰り広げられている2人の動きは、そんなものとは完全に別次元にある。
遥の“眼”には、これまで“視”たことがないほどに美しく躍動する2人の肢体が映っていた。

その身に纏う空気と同じく、しなやかで、そして獰猛なれいなの動きは、ネコ科の肉食獣のような天性の美しさを感じさせる。
荒々しさとスマートさが同居した、痺れるような憧れを本能的に抱く美しさ―――

対して、一切の無駄がなく流れるように連なってゆくサヤシの動作は、名工の手による日本刀のような研ぎ澄まされた美しさを思わせる。
素材が本来持つ美しさを基に、鍛錬に鍛錬を重ねてもたらされた息を呑むような美しさ―――

圧倒された。
魅了された。
自分の置かれた状況さえも一瞬忘れ、その“眼”に映る2つの肢体に、呆然と遥は見惚れていた。


「田中さんも里保ちゃんも、やっぱりすごいなあ……」

その声に、我に返る。
無意識に視線を動かした先には、地面に座り込んだままの、フクちゃんと呼ばれた(多分)少女の姿があった。

「あ、わたしは譜久村聖って言います。あの2人は田中れいなさんと鞘師里保ちゃん。それからあっちが道重さゆみさん。…あなたたちは?」

遥の視線に気付いて振り返ったフクちゃんこと聖は、自己紹介及び「他己紹介」とともに小さく首を傾げた。

「…工藤遥。あとあっちが飯窪春菜。っていうか、譜久村さんたちって……何者?何で助けてくれるんですか?」

“治療”を終えたらしい春菜がさゆみとともにこちらに歩いてくるのを確認しながら、遥も同様に首を傾げる。
安堵感は大きかったが、警戒の思いも小さくはなかった。

「一言では説明できないんだけど……あっ!」
「な、なんですか?」

どう返答するべきか悩ましいというように眉根を寄せていた聖の表情が突然輝き、その体がぐいっと遥の方に寄せられた。
本能的な警戒心が、遥の体を仰け反らせ、同時に身構えさせる。
だが、その先の聖の言動は遥の予想を完全に超えていた。

「遥ちゃん八重歯だ!私八重歯フェチなの!かわいい子の八重歯大好き!かわいい!や~ん!」
「え、な、ちょ……」

 ――この人変!ってかヤバいし!

いきなり自分のマニアックなフェチを告白したかと思うと続けて幸せそうに身悶える聖に、遥の中で上下していた警戒数値がカウント不可を告げる。

「道重さん道重さん、ほら、遥ちゃん八重歯めっちゃかわいくないですか!?」

固まっている遥の体越しに、聖はさゆみに幸せそうな笑顔を向ける。

「いや、さゆみは別に八重歯フェチじゃないし」
「えー!なんでこのよさが分からないんですかー」

春菜に手を貸すようにしながら遥たちのところに辿りついたさゆみは、無駄にテンションの高い聖に冷めた言葉を返す。

 ――まともな人もいてよかった…

思わずそう胸の中で嘆息した遥に、さゆみが笑顔を向ける。

「でも……かわいいねほんとに。またこの、大人になり始める寸前の少女…って感じがたまらないなー。ここから先の成長過程は目が離せんね、うん」
「――――」

絶句した。
聖とはまた違った視点からの「恐さ」を放つさゆみに、鳥肌の立った腕を思わず抱く。
無意識の内に、助けを求めるような視線が春菜へと泳いだ。

「遥ちゃん!さゆみさん、すっごくいい匂いがするんだよ!でも香水とかつけてないんだって。さゆみさん本人の匂いがいい匂いなの」
「ってお前もか!」

思わず声に出して突っ込んだ遥に、春菜が不思議そうな困ったような顔で首を傾げる。
突然異世界に放り込まれたような感覚に、遥は先ほどまでとはまったく種類の違う疲労感に襲われた。


「なん盛り上がりようと?」

そのとき、遥を異世界から引き戻さんとする救いの声が、傍らで響いた。
焦点を現世に戻した遥の目に、いつの間にか「戦闘」を終えていたらしいれいなと里保の姿が映る。
思わず見遣ったその背後には、累々と這いつくばる男たちの姿があった。

「れいなは多分そんなに興味のない話」
「あっそ。で、えっと……」

よくあることなのか、それ以上追及することはなく、れいなはあっさりと視線を遥たちの方へと向ける。
一瞬またその表情に見惚れてしまった遥に代わり、聖が口を開いた。

「あ、工藤遥ちゃんと、飯窪春菜ちゃんだそうです」
「工藤と飯窪か」

ピンク色の空気にあてられかけていた中、躊躇いのないその名字呼び捨てに、何故か胸が熱くなる。

 ――ついて行くッス、アネキ!

思わずそんな言葉を響かせた遥の内心に呼応するかのように、れいなはニッと笑った。

「れいなたちと一緒に来ん?っていうか来りーよ」

反射的に頷きかけたが、寸前で思い留まって尋ね返す。

「あの……一緒にってどこに?何かするんですか?」

ここの――《faith》の繰り返しになるのだけはごめんだった。
れいなたちがここの人間と同じ種類だとはまったく思えないが、春菜も巻き込んでいる以上、軽率な判断はできない。

「うん、一言でいえば…力を合わせて一緒に世界を救おう!」
「へっ……?」

思わず間抜けな声が漏れた。
次いで、笑いが込み上げてくる。

同じだった。
言い方こそ違えど、《faith》の人間がしばしば口にする文句と同じだった。

 私たちはこの世界を――そしてそこで苦しんでいる人たちを救いたいと願って活動しているの。
 遥ちゃん、そのためにあなたのチカラが必要なのよ――――

かつて、そう遥をいざなった言葉と同じだった。

だけど―――

「田中さん、一言でいい過ぎです」
「けどゴチャゴチャ説明するの面倒やん。とにかく一緒に来れば分かりようことやし」
「だけどそんな説明だけじゃついて来づらいじゃないですか」
「じゃあ鞘師が分かりやすく説明しーよ」
「無理です」

そのやりとりに、たまらず吹き出す。

違っていた。
言葉こそ同じだが、そこから伝わってくるものは……まったく違っていた。

そして、理屈ではなく、心の奥底のどこかで響く何かが……この出逢いが運命であることを告げていた。


遥が笑い出したことで、れいなと里保の言い合いが止まる。
さゆみと聖、そして春菜の視線も遥へと向けられた。

「わかりました―――」

―――遥が笑顔でそう頷きかけた瞬間だった。


「ツっ――!」
「!!」


れいなの肩口が突然裂け、そこから赤いしぶきが飛び散るのを、遥は見た。

一瞬にして、場の空気が引き締まる。
素早く身を低くしながら鋭く周囲を見渡すれいなたち4人に、遥たちも慌てて倣う。

「フクちゃん、今のってなんかの能力っちゃろ?カマイタチみたいなもんやろか?それとも絵里みたいな…?」
「いえ、亀井さんのとは確実に違いますね。鋭い刃状のエネルギーを飛ばす能力だと思います。風や真空を操る能力というより、どちらかというと念動力に近いかと」
「要するにカマイタチってことっちゃろ?」
「……ってことでもいいです」

 ――あいつか…!

れいなと聖のやりとりに、遥は息を呑んだ。
“真空刃―インビジブル・ブレイド―”……確かあの女は自分の能力をそう呼んでいた。
視覚と聴覚が回復し、追ってきたのかもしれない。
でも、どこから………

「!!」

次の瞬間、僅かに身じろぎした里保の頬が裂け、その白い肌を血が伝う。
慌てたようにさゆみがその傍に駆け寄った。

「りほりほ!大丈夫!?すぐ治すから!」
「なあさゆ、れいなも怪我しとーっちゃけど」
「れいなは後!りほりほ大丈夫?もう痛くない?」
「あ、大丈夫です。あのもう大丈夫ですから」

そのやりとりを耳にしながら、遥は“真空刃”が飛んできた方向に“眼”を凝らす。
段々その度合いを増す鈍痛とともに、2つの人影の輪郭ようなものが微かに“視”えた。

「さっきのあいつがいません!もしかして――」

ほぼ同時に、春菜のハイトーンが響く。
その指の先からは、触覚を奪われてもがいていたはずの男の姿が消えていた。

「“不可視化―インビジブライズ―”って言ってました。自分とか周りの物を透明にできるんだと思います」

そう補足した遥は、続けて“真空刃―インビジブル・ブレイド―”を使う女のことも簡単に説明する。

「ダブルで“インビジブル”ってことか。厄介だね。さゆみの“治癒”も限界があるし」
「そうですね……。幸い今のところ大したダメージはないですけど、当たり所によっては危険かもしれない」
「連射ができないらしいことと、警戒して遠目から撃っていることで狙いが正確じゃないのが救いですけど…」

遥の説明に、やや緊張をはらんだ空気が流れる。
黙って何かを考えていたれいなが、聖に視線を向けた。

「フクちゃん、まだ“移動”はできん?」
「すみません……この人数となると、もうちょっと回復しないと厳しいです」
「そっか、ならやっぱりなんとかあいつら倒さんと」

独り言のように呟きながら、れいなはごく自然に遥たちから僅かに距離を取った。
瞬間、それを牽制するかのように飛んできた“刃”が、大腿部あたりを切り裂く。

「田中さん!?何を!?」
「鞘師、れいなの1メートル前くらいに膜張れる?。薄いやつ」

だが、れいなは意に介した様子もなく、前を向いたまま里保にそう尋ねた。

「この距離くらいだったらできますけど……でもそれであの攻撃を防ぐのは全然無理ですよ?」
「わかっとーって。いいからやってくれん?」
「…わかりました」

頷いた里保が腰に手を当てると、そこに下げられたボトルポーチから何かが勢いよく飛び出す。

「水……?」

中に入っていたらしいペットボトルから噴き出した“水”の塊は、空中を素早く移動すると、次の瞬間一気に広がり、れいなの前で薄い水膜となった。
こんな風に“水”を操ることができるのが里保の能力ということなのだろう。

しかし―――

「一体何を……?」
「うーん……わかんない」

れいなの行動の意味を問うた遥に、里保は首を傾げ返した。
その様子が「年相応」で、遥は妙におかしくなる。
意味を理解しないままに、里保はれいなの指示に従ったということらしい。
きっと、れいなに対してそれだけ揺るぎない信頼があるということなのだろう。

「実は…あいつの能力の防御法思いついたと」
「ほんとに!?」
「ほんとですか?」
「まあ見とりって」

驚く他のメンバーにニヤリと笑ってみせると、れいなは正面に視線を戻す。
そして片手を水平に上げ、内側に向けた手の指を「撃ってこい」とばかりに挑発的に動かした。

「来んのやったらこっちから行くけんね!」

続いてそう叫んだのとほぼ同時に、れいなの前の膜の一部が白く弾ける。
瞬間―――れいなの体がばね仕掛けの人形のように翻った。

「ほら、こうやってどこから飛んで来るかさえ事前に分かれば簡単に避けられ―――」

「「「避けられるか!」ませんよ!」ないですよ!」

れいなの言葉を遮るように、さゆみ、聖、里保の3人が同時にツッコむ。

「へ?何で?」
「そんな人間離れしたこと、普通はできないって言ってんの」

キョトンとするれいなに対し、代表してさゆみが呆れたような声を向ける。

「そう?さゆが普通以下なだけやないと?」
「…めっちゃ失礼なんだけど」
「鞘師でも無理?」
「無理ですよ。相手の手元から見えてるならまだともかく、こんな距離で避けられるのは田中さんくらいです」

里保のその言葉を聞いて、れいなはふと思いついたように遥の方に視線を向けた。

「工藤、能力で“視”えんと?その女のカマイタチみたいなやつ」
「え?あ、はい。えと“視”えます」
「“視”えると!?ほんとに!?」
「あ、いやでも…」

不意を突かれて思わず頷いてしまった後、遥は慌てて付け加える。

「あの辺に2人がいるのもぼんやり“視”えます。でも、“眼”を使いすぎたみたいで…」

目の奥で疼く鈍痛の件は触れずにおいたが、最初に比べてチカラが落ちてきていて、いつまで“視”えるか分からないことを伝える。

「それに、“視”えてはいますけど、避けるのは無理です。実際避けきれなかったです」
「そっか……愛佳の言っとったんはこれか」
「え?」

だが、れいなは独り言のようにそう呟くと、今度は春菜へと視線を向けた。

「飯窪、協力してくれん?」
「え?協力?私がですか?でも何を……?」

驚きからか、普段の2割増し程度のハイトーンとともに、春菜は目を見開く。

「工藤も」
「あ、はい」

再び思わず頷いてしまった遥にニッと笑ってみせると、れいなは正面を向いた。

「今から、れいなのチカラ―“共鳴増幅能力―リゾナント・アンプリファイア”―で、あんたらの能力増幅するけん」
「共鳴……」
「リゾナント……?」

呆然と繰り返す遥たちに、れいなは背中を見せたまま言葉を続ける。

「工藤、あんたは隠れとーあいつらを“視”てほしい。で、飯窪、あんたのチカラで工藤の“視”とー映像を、れいなたちの視覚に繋いでほしい」
「えっ?」
「視覚に…繋ぐ…?遥ちゃんの“視”てる映像を…全員にってことですか?でも、でもそんなことやったことないですし、できるかどうか―――」
「できる。れいなを……何より自分自身を信じーよ。れいなはあんたのこと信じとーよ」

首だけを僅かに回したれいなの口元に浮かぶ笑みは、その言葉通り自信と――そして信頼に満ちていた。
つられるように、遥の中にも熱い気持ちが湧き上がってくる。

「はるなん、あたしも信じてるよ。はるなんのこと」
「遥ちゃん……」
「はるなんのチカラは、五感の“占拠”でも“密猟”でもない。きっと五感の“共鳴”―――“五感共鳴―センス・リゾナント”だよ」

半分以上は無意識のままに、そんな言葉が口から滑り出る。
れいなが口にした“共鳴―リゾナント”という言葉は、遥の胸の中で、どこか懐かしさを覚えるような響きを伴なってこだましていた。
春菜もきっと同様だったのに違いない。

「リゾナント……五感の…共鳴……私の……チカラ……」

呟くようにそう口にしていた春菜の瞳に、強い光が宿る。

「…分かりました。やってみます。…ありがとう、遥ちゃん。いい名前付けてくれて」
「あたしははるなんと違ってセンスいいし」

照れ隠しに視線を逸らしながらそう言うと、遥はれいなの方に向き直り、力強く頷く。
視界の隅に映る春菜も、同様にれいなに向かって頷いた。

「いよっし。鞘師、透明男の方いけると?カマイタチ女はれいながやるけん」
「…大丈夫です。やれます」
「じゃあ頼んだ。あ、フクちゃん、透明の能力便利そうやけど、“複写”はせんでいい?」
「いや、あの、無理です、死んじゃいます。帰りの“移動”が精一杯です」
「あ、そやったね。じゃあこれ終わったらすぐ帰れるようにしっかり回復よろしく」
「わかりました」
「さゆ、もしあいつらがこっち狙ってきたらみんなをフォローしてやって」
「了解」

よどみなく連なり、重なってゆく呼吸が心地いい。

「じゃ、いきますか」

れいながその言葉を発したとき、6人の息がピタリと一つになったのを遥は感じた。
同時に、遥の中に温かく熱い“何か”が流れ込んでくる。
体の中で心地よく響くそれは、胸を高鳴らせ、頭の中をクリアにしてゆく。

「“視”える……!“視”えます、ハッキリ!」

同じく、驚くくらいクリアになった“視”界に、遥は思わず声を上げた。
遥の“眼”には、先ほどまでぼんやりとしか映っていなかった2人の姿が、はっきりと“視”えていた。

「ッ!!撃ってきます!!」

直後、女の腕が上がる。
こちらに向けられた掌の周囲に、凶悪なエネルギーが渦巻くのが“視”えた。
次の瞬間、女の手から解き放たれた刃が、高速で飛来する。

「鞘師さ―――」

その先に立つ里保を思わず見遣ったときには、エネルギーの刃はもう到達していた。

だが―――

凶悪な刃は、空気を切り裂いただけに終わる。
ほんの一瞬前までそこにあった里保の体は、最小限の動作で既に移動していた。

「よく“視”えるね。すごい。これなら避けれる。ありがとう、2人とも」

やや興奮気味な笑顔を浮かべる里保は、また年相応の無邪気さを感じさせる。
常人離れした体さばきと、その無邪気さのギャップがかわいいと思いながら、遥は春菜の方を振り返った。

「視覚――“リゾナント”!」

そこにも、ビシッと立てた親指で嬉しさを表した、無邪気な笑顔があった。

「“五感共鳴”できたじゃん!ってかポーズがダサいよ。昭和か」
「もう、遥ちゃんそうやって意地悪ばっかり言うんだから」

妙に嬉しそうな顔で文句を言う春菜から視線を外し、再び遥は前方を“視”る。
その“眼”に映る2人の男女は、焦った表情を浮かべながら何度もこちらを見たり後ろを振り返ったりしていた。

「思った通りれいなたちを足止めして時間稼ぎしとーみたいやね、あいつら。援軍が来る前に終わらせてしまわんと。…鞘師、いけると?」
「大丈夫です」
「っしゃ!じゃ、工藤、飯窪。しっかり“視”せててよ。ソッコー終わらせてくるけん」

そう言った次の瞬間、れいなと里保は力強く地面を蹴った。

瞬く間に相手との距離が縮まっていく。
「見えない」はずの自分たちのところへ真っ直ぐ突っ込んでくるれいなと里保に対し、2人は狼狽を露わにした表情を浮かべる。
既にかなり疲労が見える女だったが、必死の面持ちで腕を上げ、掌を突き出す。
そこから生まれた“刃”が、既に至近距離まで迫っていたれいなと里保に向かって放たれる。
だが次の瞬間、それは左右に飛び退いた2人の間を空しく通過して行く。
男と女、それぞれの表情が恐慌と恐怖に歪む。
ほとんど間をおかずして……その体は地面に叩きつけられていた。


「はやいよ…。回復のヒマなんてないじゃないですか…」

本当に速攻で終わらせてこっちに戻ってくるれいなと里保を見遣りながら、聖が泣きそうな声を出す。
八重歯がどうとか言ってる暇があったら静かに休んでおけばよかったのにと、遥は密かに思った。

「さ、そしたら帰ろっか」

聖の嘆きなど知る由もなく、戻ってきたれいなは案の定あっさりとそう言う。

「あ、あの…その前にすみません、ちょっとお聞きしてもいいですか?」

泣きそうな聖を見かねたのか、気を利かせた春菜が口を挟んだ。

「ん?なん?」
「あの、どうやって私たちのことを知ったんですか?どうして助けてくれたんですか?あ、いえ、皆さんのことを疑ってるとかではなくて…」

先ほど遥が聖に尋ねかけ、答えを得られないままになっていたその問いに、れいなは一瞬複雑な表情を浮かべた後、すぐに笑顔を浮かべて答えた。

「うん、れいなたちの仲間が“視”たんよ。れいなたちが工藤と飯窪と一緒におるとこ」
「“視”た…って?」
「どういう意味……ですか?」

その言葉の意味が分からずに首を傾げた遥たちに、さゆみが補足する。

「“予知能力―プリコグニション”―――その光井愛佳って子はね、“未来”が“視”えるんだよ。その“未来”の映像を基に、色々調べて辿りついたの」
「“未来”……ですか」

思いもよらなかったフレーズが、遥の中で響く。
先ほどれいなが口にした、「世界を救おう」という言葉が、ふと頭を過ぎった。
もしかすると、あのれいなの言葉は“未来”と関係しているのかもしれない。

「その人には…光井さんには会えるんですか?」

思わずそう尋ねた後、意味のない問いだったと気付く。
「仲間」だというからには、もちろんこれから「帰る」ところに愛佳はいるのだろう。

だが、その予想に反するかのように、れいなたちの表情に翳りが浮かんだ。

「今は……会えん。……でも……きっといつか会える。“未来”の青空の下で」

一瞬の翳りを吹き飛ばすように元通りの明るい笑顔を浮かべると、れいなは全員の顔を見回した。

「よし、じゃあ帰ろー!『リゾナント』に!」

さゆみの、聖の、里保の……そして遥と春菜の顔にも、自然と笑みが浮かぶ。

それは、彼女たちの“未来”への旅路に、また新たな一歩が刻まれた瞬間だった――――