『VariableBlade 第二話 「剣と剣、人と獣」』


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「ふざけに来たのなら引っ込んでいろ、邪魔だ!」

地を蹴って低い姿勢で走りながら左右の双剣で次々に獣人達を斬っていく蒼の剣士
独特の太刀筋・・・極めて精確だがまるで獣が爪で薙ぎ払うかのような動きだ

「あ・・・がぁ・・・あちぃ!」
「ぐぁあっ!あっ!」

右の剣で斬られた獣人は蒼い炎に包まれ瞬時に焼き尽くされ
左の剣で斬られた獣人は瞬時に凍りつき砕け散っていく

何だ、あの剣は?

「オォーーーン!背後だ!左右の隊は奴の背後に回り込め!」

遠くに見える獣人の隊長格・・・大型の狼獣人の檄が飛ぶ
確かに蒼の剣士の太刀筋、前に進む力は凄いが背後には大きな隙がある
あの隊長、獣人にして出来る奴だ・・・だが

「でぃやあああああっ!」

させないっ!
蒼の剣士の右背後から押し寄せる群れに伸ばした御神刀の一閃を食らわせる
胴体から真っ二つになった獣人達の身体が宙を舞い、血が雪を紅く染めていく
木偶どもとは違った手応え・・・生き物を斬った・・・いささかの罪悪感があるが仕方が無い

「キャイン!隊長、新手だ!右隊が一瞬でバラバラにされた」
「ああん!アレが噂のインフルエンザブレードか!」

 ・・・おい、私はウィルスか!

まぁいい、次は左!

「でぃやあああああっ!」
「アオォオオオン!」

何っ!隊長の一声で獣人達が一斉に姿勢を低くした!御神刀の一閃が大きく空振る
マズい・・・やはり木偶どもとは勝手が違う、想像以上に臨機応変で統率がとれている
一閃を避わした獣人達は方向を変え、一斉に私に向かってきた

獣人達はバラバラに散って展開し私の四方八方から襲い掛かる構えだ
ああっ!面倒臭い!これじゃ一匹ずつ相手していくしかないじゃあないか!

そうこうしている内にもう先頭の獣人が私の前に迫ってきている
四足で走る彼らは想像以上の足の速さ
唸り声を挙げながら宙を舞う獣人・・・来るっ!

ザシュッ!

生暖かい返り血が私の頬を染める
まずは一匹!

次は地を滑るように真っ直ぐ走ってくる一匹
とおっ!
足元を狙う爪の一閃を跳んで避わし、獣人の背中に刃を突き立てる・・・二匹目!

足を止めていたらマズそうだ
擦れ違い様に一閃・・・三匹目

なるべく前へ進む蒼の剣士から引き離すように、そして囲まれないように走る
行く手を塞ぐ一匹をステップで避けて背後に一撃・・・四匹!
流れる水のように常に足を止めずに動く・・・
マズイ状況だけど、じっちゃんに習った対集団戦の教えがここで役に立つかも

背後から聞こえる獣達の絶叫
蒼の剣士、ダーイシは獣人達の身体を薙ぎながらチラリ、と少しだけ背後を見る
真っ二つになり吹き飛ぶ獣人達の身体、紅い刃を操り立ち回る剣士の姿

あの剣士、ふざけた奴だと思ってたがなかなかやるじゃないか
面白い・・・だが今はどうでもいい
まずは群れの頭を潰す、それがコイツら相手には一番有効だ

”汚れた血”の獣達を薙ぎ払いながらひたすら真っ直ぐに進む
手応えがない奴ら・・・所詮汚れた血ではこんなのものか
どいつもこいつも銀牙と月光の一撃に耐え切れず崩壊していく

ガキン!
おっ、固い手応え・・・楯を持ち、鎧を着た重装備の獣達の隊が行く手を阻む
なるほど、お前らにしては知恵を使ったな・・・だがっ!

ザンッ!
足元が御留守だ!具足の隙間、膝の関節の部分を精確に薙ぎ払う
ガクっと後ろに崩れ落ちようとする二匹の獣の身体を駆け上がり
獣達の肩や頭を踏み台にして文字通り頭上を一気に駆け抜ける
ここを越えれば後は大将だけ!アイツか!

「ガルルルッ!お前が蒼の剣士か!俺様はヘケート様配下の一番隊隊長、サンダーウル・・・」
「知るか、どうでもいい」

ザンッ!両の肩から×の字に斬り裂く、終わりだ

「おいっ!人が名乗ってるのにおま・・・あぎゃああああっ!痛えぇ!」

いや、人じゃないだろお前
ドシャアッと音を立てて血を噴出しながらサンダー何とかの身体が地に倒れる
ヘケート・・・やはりハゥの言う”魔女”とやらが一枚噛んでいるのか

「おーっ、凄かね。アイツもう大将を倒したとよ」
「さっすがダーイシ、私達に出来ないことを平然とやってのけるっ!そこにシビれる憧れるぅ!」
「お、おうっ、凄ぇな・・・」

独特の口調とテンションに戸惑う私達を余所にイイクボハルナさんは拳を挙げて喜んでいる
何か掴みどころがない人・・・さっきのアレはホントに魔法なの?

「オオーーンッ!」
「おっ、獣人どもが逃げ始めたとよ」
「さぁここからがショーの始まりよ!獣人さん達、ライブハウスブドーカンへようこそっ!」

イイクボさんが手に持つ杖で軌跡を描きながらまたわけのわからない言葉を紡ぎ始めた

「$’▼σ#◎・・・チョコレイツ!ファウンティアー!」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・イイクボさんの詠唱の完成と共に地面が激しく揺れ始める
何!一体何が起こるの?

ドッカーン!という音と共に獣人達の周囲の地面が次々と陥没し雪が飲み込まれる
暫くの揺れの後、陥没した穴から何かが勢いよく噴出した・・・アレは!

「・・・チョ、チョコレート?」
「いや、凄ぇ・・・凄ぇけど・・・」

あちこちの地面から勢いよく噴き出すチョコレート
逃げ出そうとしていた獣人達は突然あちこちから噴出してきた茶色い液体に大パニックに陥っている
でもね・・・

「あ、あの・・・アレには一体何の意味が?」
「奴らの退路を塞いだのだっ!我が友、ダーイシの為にっ!」

いや、確かに獣人達は混乱してるけどさ・・・チョコレートから離れようよ。うん

ん・・・?獣人達が追ってこなくなった。何だ?
皆、散り散りになって逃げ出そうとしている
先程までと違い、まるで統率が取れていない・・・蒼の剣士が群れの頭を討ったか

静かに鞘に御神刀を収める。もう戦う理由は・・・
ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

なっ何っ?!この揺れは何だ!
足元の雪が崩れ始めた・・・マズいっ!咄嗟にその場から跳び退く

ドーンという音と共に目の前に噴き出す茶色の奔流
この香り・・・チョコレートだ!
北の大地にはチョコレート水脈が眠っていたのか
 ・・・サイダー水脈なら良かったのに

噴きだす飛沫から離れ、前を見る
そこで私が見たものは信じ難い光景だった

「ギャワワン!」
「キャイン!」
「待て、俺らはもう戦う気はね・・・キャイン!」

逃げ惑う獣人達を背後から斬りつけるシルエット・・・蒼の剣士!?
戦意を失った獣人達は次々に双剣で斬られ、燃え上がり、砕け散り、消滅していく

      • なんだろう?なんだか胸がムカつく
思わず御神刀に手を掛け、その場を駆け出した
こんなのは・・・こんなのは正しい剣の道じゃない!

伸びろっ!
御神刀を伸ばし、獣人達を追う蒼の剣士の目の前に振り下ろした
紅の刃が雪を斬り裂き、飛沫を上げる

バックステップで御神刀の一撃を避けた蒼の剣士がこちらを睨みつけながら叫ぶ

「邪魔をするな!何のつもりだ!」

何のつもりもクソもない、あんなのはただの虐殺じゃあないか!

「戦意を失った相手を背後から斬るのがお前の剣か!」
「私の剣は”汚れた血”を絶やす為の剣、ただそれだけだ!私の道を邪魔をするなら・・・お前を斬るっ!」

低い姿勢で滑るように一気にこちらに駆け降りてくる蒼の剣士
そんなつもりは無かったけど、やるしかないのか・・・御神刀を縮め、構えを取る

フッ、と蒼の剣士の姿が一瞬歪んだ
次の瞬間、目の前から強烈な殺気・・・反射的に御神刀を殺気の方向に構える
キィイイン!勢いのある手応え
一瞬で間合いを詰めての一撃を何とか弾いた
速いっ!そして思った以上にこの剣士、出来る!
直後、もう片方の剣の一撃が飛んでくる・・・キン!何とか反応出来た!
また右の剣!左の剣!交互に繰り出される剣の速度は尋常じゃない
何とか殺気を頼りに反応して御神刀で弾き、受け流し続ける
      • でも防戦一方だ、このままじゃマズい!

「さっきの威勢はどうした!私を止めるんじゃないのか!」

止める・・・止まるのか?この勢いは
向こうは双剣、私は一本・・・どうしても手数では劣る

(流れに抗わんことじゃ)

また脳裏に浮かぶ祖父の言葉・・・そうだ!私は学んでいる
この状況に対処する剣を!
段々と双剣の速度にも目が慣れてきた・・・いけるか!

「ちょ、ちょっとお!サヤシ達は何やってんのよ!」
「仲間割れっちゃね。先に仕掛けたのはサヤシっちゃよ」
「なんかすげえ戦いだな、不謹慎だけど血が騒いできたぜ」

何でこんなことになってるのよ!下手にサヤシを行かせたのは間違いだったかも
眼下では今まで私達が見た戦いと別次元の戦いが展開されていた
どっちが勝つにしても多分タダじゃ済まない!

「おいおい、サヤシが押されてんな。あのダーイシって奴やっぱり只者じゃねぇ」
「いや、サヤシも一撃一撃を全部見切って流しとぅよ。多分攻め疲れを待っとるちゃ」
「ふ~ん、すごいねー。ふたりともがんばれ~」
「呑気に解説してる場合!?早く止めないと!イイクボさんっ!」
「はっ!ハイっ!」

私の勢いに気押されて変なキャラから素に戻ったイイクボさんが素っ頓狂な声を挙げた
よし!これなら

「さっきのヤツ、あそこにブチかまして」
「えええっ!でも・・・」
「やって!あのままじゃ二人ともタダじゃ済まない!」
「・・・そうね、ダーイシが本気出す前に何とかしますか」

イイクボさんの表情が一瞬キッ、と真顔に変わった
アレで本気じゃないっていうの?
まぁサヤシの剣も時々デタラメな現象起こすからそこは同じなのかもしれないけど

イイクボさんが呪文の詠唱を始めた
二人が戦っている所にピンポイントでファウンテンを噴出させる

水入り・・・じゃなかったチョコ入りでドローにしないと!

キンっ!キンッ!キンキンキンキンッ!
金属音が鳴り響く・・・でも御神刀の刃と斬り結んで平気な剣がこの世にあるなんて
獣人達を焼き尽くしたり凍らせたりした時点で只の剣じゃないと思っていたけど・・・

「ここまで私の剣を受け切った奴はお前が初めてだ!どこで修練した」

蒼の剣士の剣速は一向に衰えない
元々剣圧はそんなにはないが一切乱れない精確な太刀筋・・・几帳面な性格なのだろう
ギリギリではあるけど受けていく内に何となく太刀筋が見えてきつつある

「代々御神刀を受け継ぐ家系、流派の名など無い」
「御神刀?ほぅ、そうか・・・まだ残っていたのか。その剣は人には過ぎた代物だな。使い方を誤れば世を滅ぼす」

コイツ、御神刀を知ってる!?一体何者なの
キンキンキンキンッ!刃を交えながら会話は続く

「汚れた血とは何だ?獣人を憎んでいるのか?」
「憎しみ?いや、奴らには憐れみしかないが。奴らを絶やすのが旧い友との約束でね。まぁそんなのはお前が知る必要の無いことだっ!」

キィン!少し剣圧が増した。触れてはいけない話だったか

「正しい剣の道とか言ったな?ではお前は何の為に剣を振るう?」
「・・・」

何の為だろう・・・私の剣は・・・
1000年前、私達の一族は光の戦士にこの御神刀を届けられなかった
そのせいで闇の力と光の戦士達は相討ちになった・・・それが鞘師の一族に伝わる古い言い伝え
先代も、先々代も、そもまた先々代も・・・ひたすら待った。この御神刀を守り待っていた。
新たな光の戦士が現れ、この剣を受け渡すときを
ただ、亡くなる間際じっちゃんはこう言ったんだ

「ワシらは間違っていたのかも知れんのぅ」

「間違い?」
「そうじゃ、ワシらは待っていれば光の戦士が現れる、光が与えられるものだと思っとった・・・だがそれは違ったんじゃよ」

祖父が弱々しく私の手を握る

「里保、おんしがこの時代の新しい光となるんじゃ。正しい心でその剣を使えば、きっと光になれる」
「でも・・・」
「おんしなら出来る。ワシの自慢の孫じゃよ・・・里保・・・光に・・・」
「じっちゃん!じっちゃん!」

      • そこから、私の旅が始まった。
どうすれば光になれるのだろう?正しい剣とは何だろう?
彷徨い続けるうち、ある村で非情な木偶人形が誰かれ構わず皆殺しにしているところに出くわした
事情は分からない。でも許せなかった。刃を振るったのはそれが最初
それからは同じように黒い木偶人形を斬り続ける毎日

これでいいのか?いや、何かが違う
そうしている内にかのんちゃん達と出会った。
自分の他にも光を求め、旅をしている人達が居ることを知った。
まだ旅の途中・・・でも・・・

「私はっ!」

祖父に習った構えを取る・・・流水の構え
蒼の剣士の薙ぎ払うような一撃の太刀筋が・・・ハッキリと見えたっ!

「私の剣は新しい時代を斬り開く!それが私の剣の道だ!」

刃を合わせ、蒼の剣士が薙ぎ払う方向に合わせて剣を滑らせる
無心に、流れる水のように

「それで勢いを殺したつもりかぁ!バカめ!私は双剣・・・」

ガコォン!剣と剣が触れ合う音と異質な音が鳴り響いた

「鞘・・・か」

まさか?見切られた!?
御神刀で受け流しながらもう片方の手で鞘を持って放った一撃
これを見切るとは蒼の剣士・・・やはり只者じゃない!
だがまだっ!今はこっちが攻め手だ!

「うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」
「くっ!」

双剣の片方で受け止められた鞘をそのまま力の限り振り抜く
小兵の蒼の剣士の身体ごと吹っ飛ばす!

「チイィッ!」

吹っ飛ばされながらも蒼の剣士はバランスを崩さない
何とか倒れずに踏み止まった・・・手強いっ!

「面白い!純粋に一人の剣士としてお前と雌雄を決したくなった!」

どうやら今ので蒼の剣士の闘争心に余計火を点けてしまったようだ

「本気を出させてもらう!吼えろ、銀牙!月光!」

蒼の剣士が双剣を交差させて構えた
銀牙と月光・・・それがあの双剣の名前
狼の意匠を施された芸術的な柄、名の通り月のような銀色の輝き
吼えろ?と言った?

蒼の剣士が二つの剣をキーン、と軽く打ち合わせた
同時に柄の彫刻、狼の目が蒼く輝く
そして・・・

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

剣が吼えた
先程の獣人達とは違う気高い感じの・・・狼の声
間違いなくこの声はあの双剣から聞こえてくる

ピシッ、ピシピシッ
ビリビリと私の周囲の空気が振動しているのを感じる

ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!
ウォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオン!

二つの声がどんどん重なっていく・・・
ウォン!
これは・・・共鳴?
二つの剣の間に大きな力が集まっているのを感じる
共鳴する音の力・・・アレをこちらに放つ気か
ゴゴゴゴゴゴゴ・・・地面まで揺れてきた!
これはマズいっ!

「食らえっ!共・鳴・剣!HowlingBladeっ!!!」

恐らく放たれるのは共鳴し、集まった音を使った衝撃波
御神刀を伸ばして先に!間に合・・・

どっぱーん!
 ・・・えっ!?

「ちょ、ちょおおおおおっ!」

私は、静かに剣を収めた。
まさかこんな結末になろうとは・・・いや、これで良かったのか
高々と噴き上がる茶色の液体
その頂点には蒼の剣士の姿

「ちょ、私泳げな・・・ぶっ!」

そうか、泳げないのか。一歩間違えば私がああなっていたかも
助けられた・・・北の大地のチョコレート水脈に
ぴょいーんと奇妙な音。目の間に突然女の子が現れた

「ブフォwチョコレートでおぼれてる~!」

女の子は指差してケタケタと高い声で蒼の剣士を笑う
いや、そんなに笑わんでも。そして遠くからお頭の声

「マサキ―、いいから早く助けてやれー!」

お頭も心なしかニヤついているように見える
笑ってはダメだ、彼女は勇敢な剣士なんだ。
笑っては・・・
ドドドドドドド!誰かが走ってくる足音。あれは、かのんちゃん

「サヤシー!」

大丈夫、私は無事だよかのんちゃん。心配しなくても・・・ブッ!

「何やってんのよー!どうしていつもいちいち恩人と喧嘩するわけアンタは!」

全力でラリアット・・・私は一回転して顔面から雪に突っ込んだ。痛いよ、かのんちゃん