目次
(1)
パーンッ!!
――なんて口聞いとうと!!――
その瞬間の音と痛みが、いつまでも頭の中を駆け巡っている。
なんであんな事言っちゃったんだろう…
私も学校があるって言ったって、新垣さんだって田中さんだって、その分も、それ以上に
頑張ってくれているなんて分かってるのに…
黄昏時、地面に長く伸びる聖の影。
そこに近づいていくもう1つの影があった。
「聖、どうしたの?」
「あっ、えりぽん…」
「飲みなよ」
ペットボトルを差し出す衣梨奈。
「…ありがと。」
それを受け取る聖。
今日はあれからずっと考え込んでいた。喉も渇いていた。グイッと飲み込む。
――!!!?――
その瞬間、強い違和感を覚えた。
急速に遠のいてゆく意識。
手に持つペットボトルから感じる残留思念。
「えりぽん…じゃ…ない…」
顔を歪めて目も虚ろな聖を、微笑んだまま表情を変えず見つめる“衣梨奈”。
やがて倒れ込み、身動きを止めた聖。
「まず、1人」
“衣梨奈”は聖の携帯を探しだし、操作を始めた。
『えりぽん、これから遊べる?』
すぐに返事は来た。
『うん!遊ぼ!遊ぼ!どこ行く?』
衣梨奈からの返事に、“衣梨奈”はニヤリと笑った。
◇ ◇ ◇
(2)
カランコローン
「ありがとうございましたー…ふぅ」
OPENの札をCLOSEDに変えるれいな。
「あーーーーーなんでなの?りほりほからメールも返ってこないし、電話も通じないの!」
「メール返ってけえへんのはいつもの事ですけど、電話もって珍しいですね」
「どうせあれやろ?4人でストレス発散しとっちゃろ?」
「ん~まあ、だろうね」
「そう言えば、何があったの?」
「何言ったっけ?」
「もう何言ったかもわからんけど、ま、爆発したもん」
「そうね~」
「だってれいな初めて発したもん、あんな言葉!」
「そう、熱く語ったよねぇ」
「いや、ほんとにあんな怒鳴ったの初めて」
「そうだね」
「ガキさんは、もう何かもう、“ハァー”っていう、もう呆れた方向やったけど、れいなは何故か、自分に対してそうやって言われたわけじゃないのにほんとイラッときて」
「う~ん」
「何か、“ねぇ、年下やろ?”みたいな。めっちゃ、“先輩に向かって何?”って思って」
「そうね、それを言ってくれたんだけど」
「え~!?なんかよくわかんないけどそんな事あったの!?」
「わかったんかわかんないんかどっちですのん」
「でもきっと大丈夫でしょ、今のあの子達なら」
「そう?」
「ちょっと時間はかかるかもしんないけど、私達の言いたい事は分かってくれるよ」
「あー!」
「愛佳どうしたと?」
「バターが無いです。今から買ってきます!」
「いいよ、れいな行って来ると」
「えーそんないいですって」
「まだ足悪いっちゃろ?いいからここにおり!」
買い物に行く身だしなみを素早く整え、ドアに手を掛けるれいな。その時―――
――!!!――
「田中さん!!」
「え?なん?どうしたと?」
「あっ…あ、暗いんで気をつけて下さい」
「もお、そんなんで大声出さんでよw ビックリすると」
店を出て行くれいな。見送る3人。
「あ~、やっぱり出ないの。もう1回メールしてみるの」
「さゆみんほどほどにしときなさい!あんまり送ると迷惑メールみたいになるよ」
愛佳の頭を過った光景。れいなと対峙する4人の少女。少女達の姿はぼんやりしていて、誰かは分からない。
まさか、あの子達が…?
「みっつぃどしたの?そんなに田中っち心配?」
「え?いえ、なんでもないです」
視えてしまった、いつなのかも分からない未来の一瞬。
ただ、そんなに遠くない未来のはず。
◇ ◇ ◇
(3)
ガッ バキッ
夜の帳が下りた中を、時折打撃音が周囲に響く。
月明りの下、2つの影が動き回る。
「お前はかのんちゃんじゃない!」
里保が厳しい口調で睨む先には、香音
いや、“香音”の姿をした者があった。
「…さすがだな。他の奴らとは一味違うようね」
「…他の奴ら?」
かのんちゃん…?みんな…?
“香音”を睨み続けながらも、里保の心は急速に穏やかでなくなっていった。
「いいだろう、あなたにいいものを見せてあげる」
何かを取り出そうとする“香音”。身構える里保。
取り出したのは、携帯電話。1、2、3台。
3つとも、里保には見覚えがあった。
!!!
「…かのんちゃんを…みんなをどうした!」
「心配することはない。これからあなたもお友達の所へ連れて行ってあげる」
里保は“香音”へ飛び掛った。
一進一退の攻防。しかし一瞬を突き、里保は“香音”を押さえ付けその喉元に『刀』を突き付けた。その時――
「里保ちゃんやめて!どうしたの!?私だよ!?」
!?
里保の腕の力が一瞬緩んだ、次の瞬間
ド ン
里保は凄まじい勢いで吹き飛ばされ、壁に強かに打ちつけられた。
立ち上がろうとする前に胸倉を掴まれると、鈍い音が響いた。
鳩尾に深く入り込んだ拳。その場に崩れ落ちる里保。
「水軍流とやらも、所詮は人の子だな」
うつ伏せに倒れていた里保の体は足蹴りにされ、仰向けになった。
◇ ◇ ◇
(4)
…ゃん …んちゃん
「…ん …う~ん」
「かのんちゃん?かのんちゃん!?」
瞳を開き、何度となくまばたきをする香音。
「よかった!気がついたのね!」
「聖ちゃん…?えりぽんも…?」
周囲を見回す香音。コンクリートの壁に囲まれた殺風景な部屋。
扉が1つ。小さい窓が1つ。その中に3人はいた。
ふと手元に違和感を感じ、見ると手錠がはめられていた。また、聖にも衣梨奈にも同じ手錠がついていた。
「ここ…どこなの?」
「わかんない。私たちも気付いたらここにいたの」
「えり、聖と会ってたらいつの間にかここに来てたと」
「私もえりぽんに会って、眠らされてここにいたの。でも、えりぽんが私と会ってた所に私は行ってないの」
「私、里保ちゃんと会ってて、急に里保ちゃんになんか布で口押さえられて…」
顔を見合わせる3人。
「あれは、里保ちゃんじゃ…」
「聖じゃ…」
「えりぽんじゃ…」
ないよね。
確信を持つ3人。
「…私、どうやってここに来たか見た?」
「うん。ドアが開いて、放り込まれるように入ってきた」
「一瞬やったけど、後ろにサングラスとマスクしたやつがいたと」
「それって、“里保ちゃん”だった?」
「それはわからんかったっちゃん。一瞬やったし」
もう一度部屋を見回す香音。
「私、ここがどこなのか見てくる」
「そっか!香音ちゃんなら」
「気をつけてね」
「うん、行ってくる!」
香音は立ち上がり、扉に向かって歩き出した。ところが…
ガン
しゃがみ込み、額を押さえる香音。思わず吹き出す聖と衣梨奈。
「あっれ~?おっかしーなー」
再び扉に向かう香音。しかし
ガン
場所を変えても、何度やっても、同じことだった。
通り抜けられない。
力が使えない。
香音だけでなく、聖も絵梨奈もそのことに気付き始めていた。
その時。
「足音!誰か来る!」
近づいてきた足音は、扉の前で止まった。
鍵を開ける音の後、扉が開く。部屋の中に、1人の体が投げ込まれた。
「「「里保ちゃん!!!」」」
間髪入れず、扉は閉められた。
「待って!」
「お前は何者だ!」
扉の小窓が開く。サングラスとマスクで表情を隠した顔が覗く。
「私達をどうするつもり!?」
小窓の向こうの人物は、サングラスとマスクを外した。
その瞬間、聖たちは息を呑んだ。
その顔は、紛れも無く“香音”だった。
“香音”は、自分の顔の前に手をかざした。そこに現われたのは“里保”の顔。更に“絵梨奈”の顔、“聖”の顔…。
愛佳、さゆみ、れいな、里沙、そして愛…。
聖たちは、見覚えのある顔に次々と変化していく光景を、ただただ呆気にとられて見つめているばかりだった。
「…ん…んん…」
「里保ちゃん!?」
「里保!大丈夫!?」
「…みんな…?ここは…?」
「あら、お早いお目覚めね」
“愛”が口を開いた。
「え?高橋さん?」
「里保ちゃん、あいつは高橋さんじゃない!」
「私ね、あなた達が邪魔なの」
身構える4人。
「でも、あなた達が欲しいの」
「どういうこと!?」
「あなた達の精神は、まだ純真無垢でピュアな部分が多いの。でもそれだけに、心に隙が多いの。その隙に付け入ろうってわけ」
「…私達を甘くみないで!」
「どんなに言葉巧みでも、そんなものには乗らない!」
「威勢がいいわね。でも言葉巧みにする気なんて無いわ。あなた達、その手錠がどういうものかは薄々気がついているでしょう?」
自分に嵌められた手錠に目を向ける4人。
「でもね、それだけじゃないのよ」
“愛”は、リモコンのような物を取り出し、1つのスイッチを押した。その瞬間――
「「「「ああああーーーーーーーーッ!!!!」」」」
手錠が、強力な電流を発した。その衝撃に、たまらず意識を失う4人。
「強引にでも隙に付け入ってあげる」
“愛”は4人を別室に連れて行った。
数時間後。
“愛”の前に並ぶ4人の姿があった。その目は据わり、無表情。
「行くのよ」
“愛”の言葉に、4人は無表情なまま頷くと外へと向かって行った
◇ ◇ ◇
(5)
カランコローン
「やほー。あれ、田中っちは?」
「あ、新垣さん。さっき田中さん急用ができたって出ていきましたよ」
「なんかメールが来て顔色変わってたの」
「へ~、何だろう」
コツ…コツ…コツ
歩みを止めるれいな。ゆっくり周囲を見回す。
人気のない、隔絶された空間であるような感じを受ける場所。やがて――
ザッ
現われた2つの人影。それを見据えるれいな。さらに――
ザッ
後方からの物音に振り返るれいな。そこにも2つの人影。
しばらく沈黙が流れる。
「…あっそう。それがあんたたちの答えね」
変わらず沈黙を続ける4人。
「来るなら来れば?手加減せんよ」
ジリ…ジリ…
徐々に4人は間合いを詰めてゆく。構えるれいな。
ダッ!! ガシッ
1人がれいなに飛び掛る。聖だった。聖の拳を受け止めるれいな。
しかし、動揺したのはれいなの方だった。
受けた拳。聖の冷たい瞳。それは、喧嘩や決闘の“それ”とは異なっていた。
そういう場を何度となく経験してきたれいなだからこそ、異様な雰囲気を直感で感じとった。
聖を払いのけるれいな。近づいてくる衣梨奈・里保・香音。その3人にも、同様の異様さを感じとる。
操られている…?それとも、憑依…?どちらかは分からないが、そう考えるのに、時間はかからなかった。
入れ替わり立ち代り、れいなに襲い掛かる4人。
何とか4人を止めないと――
1人を押さえつけても、あとの3人に引き剥がされる。
次第にれいなは劣勢に。
4人を止めたいれいな。れいなの命を狙う4人。
人数もそうだが、それ以上に感情の面でハンデがありすぎる。いくら個々の能力ではれいなが上であっても、不利なのは明白だった。
「もうやめりぃーーー!!目を覚ましてぇーーー!!」
れいなの絶叫が響くも、その声は届かない。
心までも追い詰められていくれいな。そして――
ザ ン ッ
「がはっ…」
隙をつき、里保の『刀』がれいなの背中を切り裂いた。みるみる服が赤く染まってゆく。
膝をついたれいなを、両腕をそれぞれ聖と香音が抱えて立たせる。
その前に衣梨奈が立ち、れいなの首を掴んだ。
「目を…覚まして…。お願い…。思い出してええええええええッ!!!!」
ビクン!
4人の体が、一瞬硬直した。
目の前の衣梨奈を見やるれいな。その瞳は冷たい眼差しのままだったが、そこから一筋の雫が流れていた。
衣梨奈の後ろに立っている里保も、自分の両脇を固める聖と香音も、同じように涙を見せていた。
かすかに微笑むれいな。しかし、次の瞬間――
衣梨奈の手に、一層の力が込められた。
「いや…ぐ…ぐぎゃあああああああああああああああああ!!!!!!!!
――!!!――
“共鳴”の乱れを感じ取った。
「ガキさん!」
「うん!行こう!」
「愛佳も行きます!」
「ダメ!みっつぃはここにいな」
エプロンを外そうとした愛佳を、里沙は制止した。
「何でですか!?」
「私達に何かあった時、みんなをまとめるのはみっつぃだよ」
「うん。愛佳はもうさゆみやれいなよりもしっかりしてるの」
「そんなこと…ないですよ…」
「行ってくるね!」
「頼んだの!」
横たわったれいなの身体。それを取り囲むように見つめる4人。
その瞳からは、涙が溢れていた。
◇ ◇ ◇
(6)
「れいな!!」
共鳴の乱れを感じた場所に駆けつけた里沙とさゆみは、倒れているれいなを発見した。
さゆみはれいなを抱き起こす。白目を剥き、半開きの口を時折わずかにぱくつかせている。
「れいな!しっかりして!れいな!」
「うわ、ひどい傷…。脈はあるわね。さゆみん、お願い」
「わかってるの!」
背中の傷にかざしたさゆみの手から、淡いピンクの光が放たれる。
次第に癒えてゆく傷。しかし、多少は容体は落ち着いたようだが、依然れいなは意識を戻さない。
「これは…体のダメージだけじゃない」
「どういう事なの?」
「待って。ちょっと、田中っちの意識を探ってみる」
意識を集中させる里沙。里沙とれいなを交互に見遣るさゆみ。
しばらく沈黙が流れたのち、里沙が口を重そうに開いた。
「…精神破壊。」
「精神破壊!?それって、生田ちゃんの能力でしょ?まさか…」
「そのまさかかもしれない。そうでないと願いたいけど、あの共鳴の乱れは、今までのとは…」
気配を感じ、里沙は言葉を止めた。歩み寄ってくる4つの人影。
薄暗い中で見えたその顔に、2人はハッとした。
「…どうして!?みんな、どうしたの!?」
問いかけには何も答えず、4人は襲い掛かった。
何とか攻撃を防ぎ、間合いをとろうとする里沙とさゆみ。
「操られてる…。何者かに」
「操られてる!?どうにかして元に戻せないの!?」
「うん、方法はある。まずは、動きを止めないと」
再び襲い掛かろうとしてくる4人に向かって里沙は構えた。
「ぬぅん!」
4人は動きを止めた。里沙が放ったピアノ線で拘束されたのだ。
1人ずつ精神干渉によって洗脳を解いていく為、落ち着かせひとまず眠らせようと近づいた、その時――
ビッ ビッ ビッ ビッ
ピアノ線が次々と切れた。いや、切断された。念動力で。
「近くに、誰かいる!」
「えっ!?みんなを操ってるやつ!?どこ?どこなの?」
「わかんない、気配を悟れない。でもこれじゃ、この方法は使えないよ」
「でもこのままじゃ、さゆみ達もやられちゃうの!下手にみんなに手を出せないの!」
「…さゆみん、フルパワーでお願い」
「えっ?」
「私もフルパワーでやるから。…うまくいくかはわからないけど」
「…うん、わかった」
里沙とさゆみはそれぞれ片手を繋ぎ、もう一方の片手を4人に向かってかざした。
「「はあっ!!!!」」
黄緑と淡いピンクのオーラが発せられる。
精神干渉と癒しの2つのパワーを同時に放つ事で、洗脳を解こうとしているのだ。
「うっ!!うううううう…っ!」「ぐああ…!!」
「おああああ…っ!!」「ううっ、うあああ…!!」
苦しみだす4人。
そして、その様子を物陰から見ている者の姿があった。
(ちいっ、そうはいくか。…やれ!やるんだ!)
「うっ!!ぐっ…ぐぐぐ…」
衣梨奈が、苦しみながらも2人に向けて手をかざした。
「あっ…!!あうっ…!」「うっ、うううう…っ!!」
里沙とさゆみに対しても、精神破壊の力を放つ衣梨奈。
その瞳には、再び涙が滲み始めていた。
「生田っ…!やめなさいっ…!生田ぁっ!!」
「このままじゃ…っ、共倒れなの…っ!」
その時、倒れているれいながさゆみの目に止まった。
「ガキさんっ!!れいなと手を繋いで!」
「えっ!?共鳴増幅!?でも、気を失ってるんだよ!?」
「だけど、賭けるしかないの!!」
「わかった!賭けてみよう!!」
握り合っていた手を、それぞれれいなの左右の手を握った。
――お願い!!れいな!!――
◇ ◇ ◇
(7)
(くそっ、早く狂わせてしまえ…!)
ブロロロロロロロ
(!?)
ド カ ッ
“愛”は突き飛ばされた。
そこには、スクーターに乗った愛佳がいた。
「な、何するの愛佳!」
「なにが『何するの愛佳』や!白々しいわこの偽者が!」
“愛”は愛佳を睨み、そして口角を少し上げて不敵な笑みを見せた。
「…ほう。どういうわけか知らないけど、見抜かれていたとはね」
「当たり前や!愛佳をなめんといて!」
「「「「うああっ…」」」」
バタタッ
聖達4人は、その場に倒れ込んだ。
「みんな!大丈夫!?生田!」
「あぁ、新垣…ざぁん…。うっ…、うっ、ごえんなざいぃぃ…。えり…えり…」
「…良かったぁ」
「心配ないよ。私達は大丈夫だから。悪い夢を見てたんだよ」
4人とも倒れ込みながらもなんとか上体を起こし、里沙達を見て泣いている。
「みんな、大丈夫みたいなの…。良かっ…」
バタン
「ええっ!?ちょっと!さゆみん!?」
さゆみは倒れ込み、気を失った。パワーを急激に放出しすぎてしまったようだ。
それは里沙も例外ではない。倒れるまではいかないが、体力を相当に失っていた。そこに――
ドカン! ガランガラン
近くの積み上げてあったドラム缶が崩れ、そこに飛ばされた人影。
愛佳だった。
「えっ!?みっつぃ!?」
「あっ…」
「何やってるの!?残ってなさいって言ったのに!」
「ごめんなさいっ…。でも…、みんながやられそうなのが分かってて、黙っていられるわけ…ないやないですか…」
タッ
「2人くたばったか…。全員とまではいかなかったのは残念だけど、いい働きっぷりだったわ」
「え!?愛ちゃん!?どうなってるの!?」
「違います新垣さん!」
「あいつが…私達を…」
「操っていた偽者ってわけね…。よくも、みんなを…!」
「おっと。まずは自分達の状況を確かめた方がいいんじゃないかしら?」
「なによ?どういう事?」
見ると、聖たち4人の様子がおかしい。
「立てないっ…!」
「体に…体に力が入らない…」
操られていたことによる影響か、全身の力を入れる事ができない。
これでは、戦う事も逃げる事も出来ない。
「6人戦闘不能、2人は手負い…。どうするつもり?あなた達に勝ち目はないわよ」
「そんなの…わからない」
「ふん」
「手負いって言葉の意味知ってるんか?」
「何よ」
「追いつめられて必死の反撃をするって意味もあるんや!」
「あっ、そう…それを蹴散らすまでよ!」
一瞬の沈黙が流れる。
「だああーーーっ!!」
「はあああーーっ!!」
里沙と愛佳は“愛”に飛び掛った。
しかし、見る間に圧倒されていく。
体力を失っている里沙。ケガが完治していない愛佳。
“愛”の言う通り、勝ち目はなかった。ただ、それをおくびにも出すこともなかった。
「…いつまで強がっているの?」
「お前を倒すまでや!」
「…イラつく。イライラするわね。この減らず口が!そんな口をもう叩けないようにしてやる!」
ドカッ
ボキッ「!!」
「ぎゃああーーーっ!!」
「みっつぃー!!」
脚を押さえて倒れ込む愛佳。駆け寄る里沙。
「ごめんなさい…新垣さん…。愛佳、新垣さんの言う通り、残ってれば…」
「そんな事ない…そんな事ないよ…。」
「…このーーーーッ!!!!」
再び里沙は“愛”に飛び掛った。しかし――
ガッ
「うぅっ…」
里沙は首を掴まれ、締め上げられる。
ギリ…ギリ…
「そろそろ終わりにしましょう」
「ぐっ…うっ…」
「あっけなかったわね、あなた達も」
「くっ…」
「じゃあ一応聞いておくわ、私の下で働く?」
「ぐっ…。誰が…お前…なんか…」
「そう、そう言うと思った。じゃ、さよなら。寂しがることはない、すぐにみんな後を追わせてあげる」
“愛”の手に更に力が込められる。
やめて…
「ううっ…」
やめろ…
ギリ…ギリ…
やめろ
「ふんっ!」
ゴゴゴゴゴ…
「「「「やめろぉーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!!!」」」」
ド ン ッ
――!?――
シュウゥゥゥゥ…
聖・衣梨奈・里保・香音が立ち上がり、
ピンク・紫・赤・緑――それぞれの色のオーラに全身が包まれていた。
◇ ◇ ◇
(8)
「…!?」
「み、みんな…?」
「…な…なに!?」
里沙、愛佳、そして“愛”は聖たち4人の変化にただ驚くばかりだった。
ドサッ
“愛”の手から里沙が離れる。
「あっ!に、新垣さんッ!」
足を引きずりながらも里沙のもとへ駆け寄る愛佳。
一方“愛”は聖たちの方へ歩みを進めた。
ビリ… ビリ…
4人が発するオーラによって、空気が震えていた。
「新垣さん…」
「私は、大丈夫だから…。しっかり見ておくんだよ、あの子たちを…」
「…はい」
“愛”は4人の前に立ち、一人一人を見回した。
「どういうことだ…!?」
「許さない…」
「許さない…」
「許さない…」
「許さない…」
ブゥ・・・・・・・・・・ン
互いが睨み合う中、4人がオーラを発する音だけが響き続ける。
「…ふざけるな、この私を倒すつもりか」
す…
4人は脇をしめ、拳を握り締める。そして――
「「「「うぉああああーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」」」」
一斉に掌を開いて突き出す。その瞬間、4人のオーラがエネルギーの塊となり“愛”へと放たれた。
「なに!!!!?ぐっ、ぐぐぐ…!!こんなもの…!こっ…こんな…もの…!」
エネルギーを受け止めようと、必死に堪える“愛”。
「頑張れ…!」
「みんな…行ったれ!!」
「「「「だぁーーーーーーーーーーーーっ!!!!」」」」
「!!?」
ズ ァ ッ
エネルギーが炸裂した。
ボゥッ
“愛”が立っていた場所は、えぐれた地面だけが残った。
「……あ…」
「やった…!」
そして、全身を包んでいたオーラが消えた4人は、その場に倒れた。
バタッ
「みんな…!!」
駆け寄る里沙と愛佳。その時―-
しゅんっ
突然現われたその姿に、2人は一瞬身構えた。
「みんな!だいじょぶかぁーーっ!?」
そして、聞き慣れたその話し方に安堵した。
「もぉ~、遅いよ愛ちゃん」
「ほんまですよ~」
「ごめんごめん、こっちも手ぇ離せんくって。っていうか、うわっ!みんなボロボロやん!」
「そうだよ、本ッ当大変だったんだから!」
「敵は!?ほーか、2人が倒してくれたんか?」
「違うよ、この子たち。凄かったよ、ね」
「うん、凄かったですよ」
「え?」
「あーもう、話はあとあと!とりあえずみんなで帰ろ!愛ちゃんお願い!」
◇ ◇ ◇
(9)
「なーんにも覚えてないの!?」
「はい」
「はい」
「はい」
「はい」
リゾナントへと戻ってきた9人。
やがてさゆみが意識を取り戻し、未だ倒れている5人の治癒に当たった。
しかし、聖たち4人は回復したものの、れいなはまだダメージが大きく気を失ったままだった。
ひとまず4人が敵の手に落ちた経緯や、最後に見せた力について聞いていったのだが、“力”についてはまるで記憶にないようだった。
「たまたまだったのかねぇ、もう使えないのかなぁ」
「でも、ああなってへんかったらうちらみんなあいつにやられてましたよ」
「うん、手強かった。それにきっとこれからも、あのくらい強い奴は出てくる」
「そーや!偽もんなんかに負けんな!」
「うん、愛ちゃんそういうことじゃない。でも、これからはあんた達が中心になって戦うことも多くなってくると思う」
「そんな…」
「わしらが中心に…」
「どうなんだろうね…」
「ホントですかぁー!?」
「生田、喜ぶことじゃない。だけど、あの力をものに出来れば、きっと怖い物なしだと思うよ」
「そうなの、さゆみも見たいの!新しいりほりほを見逃すなんて一生の不覚なの!」
「うん、さゆみん黙ってて。でも、あの力は私たちには出来ない、あんた達だからこそ生み出せるものだと思う」
その時――
「う…んん…」
れいな!!?
田中さん!!?
「大丈夫!?」「大丈夫ですか!?」
「みんな…?」
辺りを見回すも、何があったのか理解しきれていない様子のれいな。
聖…。衣梨奈…。里保…。香音…。4人の顔を確かめるように順に見つめていく。
「お前らぁぁっっっ!!!」
4人に迫り、怒鳴るれいな。その剣幕に、たじろぐ4人。
ガバッ
「よかった… 元に戻って…」
次の瞬間、れいなは4人を抱き寄せていた。
「もぉバカっ…! 本当、死ぬかと思ったと…」
…うっ ……ごめんなさぁい!!!!
泣きじゃくる4人。それを小さな体で抱き寄せ、なだめながら涙を見せるれいな。
「これなら、みんな大丈夫そうだね」
「ほんまですね。これからも大丈夫ですね」
「あーもうみんなズルいの!さゆみも入れて!」
--完--
最終更新:2012年05月19日 19:36