(67) 134 とりあえず思わせぶりな書き出しだけ書いてみた


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「逃げろ!ハンターが来るぞ!」

叫びながら走っていく香音を追っかけながら、里保はこの日何度目になるかわからない溜息をついた。
いや、ネズミーランドにハンターなんて出ないし。

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新垣里沙をリーダーとする八人のリゾナンターが東邦ネズミーランドにやってきたのは、童心に帰り遊ぶためではない。
ネズミーランドから調査の依頼を受けたのだ。
ネズミーランドから差し回された送迎用のリムジンバスの中で、里沙の隣の席に座った里保はその辺の事情を尋ねた。

「珍しいですよね。 私たちがこんな風にどこかの依頼を受けて出動するなんて」
「あぁ、そういえば鞘師達は初めてだよね」

新垣里沙をリーダーとするリゾナンターは、巨大な組織の実働部隊などではない。
大多数の人間が使うことの出来ない異能のチカラを持って生まれた故に、かなしみを背負った人間の集団である。
したがって自分たちの行動は自分たちの正義を貫く為にのみ行なうものだと思っていた里保は、東邦ネズミーランドからの依頼で現地調査を行なうと聞かされたときは少し戸惑った。

「これまでにもこんな請け負い仕事はやってきたんだけどね。 あっ、勿論法に触れることはやってないけどさ」

極秘で要人の護衛をしたり、非公式に報奨金のかかった犯罪者を捕まえたり。
そんなことをして稼いだ金で、収入のない未成年のメンバーの学資や生活費に使われてきたらしい。

「すいません。 ただでさえお金がかかるのにあんな立派な学校に通わせてもらって」
「ああ、いいから、いいから」

里沙は鷹揚に手を振った。
里沙や先代のリーダー高橋愛だっていろんな人の好意に助けられてきたのだから、保護者を失った鞘師や鈴木香音を支援するのは当たり前のことだという。

「でも、意外です」
「何がさ?」
「新垣さんのことですから、ネズミーには世界中の子供の夢と希望が詰まっていると言って、ボランティアで助けに行くと思ってました」

新垣里沙は生粋のネズミーマニアだ。
決して安くない東邦ネズミーランドの年間パスポートだって購入している。

「ネズミーの中には、背の低いオッサンが入ってるんだよ。 お金を目当てにね」

仕事とプライベートは使い分けているらしい。

「それに私が気に入らないのは、襲撃予告を受けているにもかかわらず、平常営業を行なうってことさ」
「でも、ああいうところはそういう脅迫を受けるのなんて珍しくないんじゃないですか」

里保の言葉を耳にした里沙の目が細まった。

「それはその通りなんだけどさ」

声を低めた里沙は言った。

「今回の件では既に犠牲者が出てる。 一命は取りとめたけどさ」

里沙によれば東邦ネズミーランドのネズミーを襲撃するという脅迫状を開封した職員が怪我をしたという。

「それは脅迫状に何か刃物を仕掛けていたとか?」
「一昔前のアイドルにアンチが送りつけた脅迫状みたいだね」

ネズミーランドはアメリカが発祥の地だ。
愛と平和の象徴であると同時に、アメリカの帝国主義やグローバリズムの尖兵として憎む者も少なくない。

「その筋からの脅迫状とか嫌がらせ。 爆発物の類なんかが送られてくることも決して珍しくないから郵便物の取り扱いなんかマニュアル化されてるんだ」

爆発物の探知犬に金属探知機。 最後にエックス線の関門を潜り抜けた郵便物だけが専門の保安員によって開封される。
毒物や極薄のセラミック製ナイフが入ってる危険性も考慮して、防刃の手袋を付けて開封するという。

「そんなに用心をしたのにも関わらず、怪我をしたと?」
「火傷なんだけどね」

その脅迫状は何の変哲もない便箋にネズミーを襲撃するという日時を記したものだった。
よくある悪戯だと思った保安員が、報告書作成の為にコピーしようと便箋を手にした瞬間、それは起こったという。

「蒼白い炎を上げて燃えたそうだよ」
「それは薬品か何かで燃えたんでしょうか?」
「だったら開封した瞬間に燃え出すんじゃないのかね。 酸素か光と反応して」

そうした不慮の事態を想定して常備されていた無酸素水の水槽に浸してもその火は消えなかったという。
化学消化剤の噴霧でも消えなかった火は、ちょうど一分後に煙のように消えたという。

「それは能力による攻撃でしょうか?」
「今回の依頼を受けてから中国のリンリンに問い合わせてみた。 そういうタイプの発炎能力を使いこなす能力者は存在するか否かを」

リンリン。
かつてリゾナンターとして活動していた中国人。
刃千吏という組織に籍を置きながら、リゾナンターに加入して、闇と戦っていた彼女は発炎能力者だ。
鞘師里保がリンリンと肩を並べて戦うことは無かったが、彼女の機転の早さや武技の熟練度の高さ。
そそて何より、守るべきものを守るという意志の強さは伝え聞いている。

「で、どうだったんですか。 リンリンさんの答えは?」
「リンリンのパイロは対象物に触れることで燃焼させるタイプだったんだけど、遠隔で物を燃やすことの可能なパイロキネシストが存在するにはするということだった。 でも…」

「でも?」
「能力による行為だとすれば、どうやって保安員が脅迫状を開封したタイミングで仕掛けてきたのかがわからないっていうんだ」

脅迫状の発火現象が、遠隔系の発炎能力者の仕業によるものだとしたら、発動のタイミングが非常に難しいということらしい。

「リンリンが言うには、その炎が異能によって起こされたものだとしても能力者によるものではないんじゃないかことなんだ」
「じゃあ、一体?」
「ある種の呪詛。 言葉を変えるなら魔術の性格が強い」
「魔術…ですか?」
「魔法って言ってもいいのかもしれないけど」
「じゃあ、相手は魔法使いってことですか」
「あるいは魔女なのかも」

里沙によれば鞘師たちはまだ接触したことはないが、自分たちは魔女と自称する存在と戦ってきた経験があるという。

「本当の魔女ですか?」
「最初は二つ名として名乗っているだけだと思ってた。 でも戦って判ったことだけど、あの人の異能は私たちのとはどこか違う気がするんだよね」
「違うって?」
「てんでデタラメというか。 能力の範疇をはるかに越えているというか。 まあ言葉では説明し難いんだよね」

里保たち新たなるリゾナンターを時に優しく、時に厳しく教導してきた里沙の口から思いもよらない言葉が出てきた。

「新垣さんにもわからないことがあるんですね」
「私なんかにはわからないことばっかりさ。 ただ今回の件には私の知っている魔女は関わっていないと思う」

その魔女は正しくは「氷の魔女」と名乗り、魔術で生み出した氷の槍や氷の矢で人を殺傷したり、温度を下げることで人の動きを鈍くするという戦い方をするらしい。

「あんた達がリゾナンターとして生きていく限り、いつかあの氷の魔女と対峙する時がやってくると思う。 でもそれはもう少し後の方がいいと思う」

氷の魔女、藤本美貴が介在しないらしいということが、今回の仕事の明るい材料の一つだと里沙が言った時、リムジンバスは東邦ネズミーランドの送迎ゲートに到着した。