『InvisibleBlade 第六話 「見えない行先」』


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西部方面軍旗艦 空中空母『シャイニングバタフライ』のブリッジは混乱に陥っていた

「該当機からの信号、途絶しました!切られたようです!」
「リモート、受け付けません!いや、IP自体が変更されて・・・」
「該当機、北東方面に向けて加速・・・レーダーからも消失!」

飛び交うブリッジオペレーター達の声
内容は状況報告だけではない

「おい、これはヤバいんじゃないか?」
「システムが破られるなんて・・・」
「いや、機体を奪取されたこと自体が・・・」
「本部に知れたら・・・」

方々から聞こえるひそひそ話

「な、何とか!何とか行方を追う方法は無いのかっ!」

声を裏返らせて青ざめながら叫ぶ副長

「無理です!ジェットストライカーのステルス性能は完璧です!」
「MAR-CHEだ!MAR-CHEに対応策を問うんだ!」
「既にMAR-CHEには問い合わせ済・・・あ、MAR-CHEの回答来ました!」

メインスクリーンに第七世代コンピュータ『MAR-CHE』の回答が映し出される

「カンペキデス!」

それはたったの7文字
騒々しかったブリッジが暫し静まり返った後・・・
クスクスと方々から笑い声が漏れる


「いや、答えになってねぇし」
「MAR-CHEもお手上げなんだろコレ」

バンっ!とコンソールを叩く音、その直後に
緩んだ雰囲気を一喝する怒声がブリッジに響く

「ふざけるなぁあああっ!」

艦長、ヤグチマリは完全に冷静さを失い喚き散らすばかり

「もっと真剣にやれよ!全員銃殺すっぞ!MAR-CHEぇえええええ!あの糞ポンコツがナメやがってぇ!!!」
「ヤ、ヤグチ様、落ち着いて下さい!ぐほぁ!」

鉄拳がマッシュルームカットの副長の顔面に炸裂する

「落ち着けだぁ?この状況で落ち着くバカがどこに居るんだぁ!」
「艦長・・・」
「何だぁ!」

おずおずと通信オペレーターが良くない知らせを告げる

「総帥より入電です・・・」

ビクッ!
喚き散らしていたヤグチの身体が硬直した
刹那、メインスクリーンに鬼の形相がどアップで映し出される

「ヤぁああああああああグチぃいいいいいいいいいいいい!」

その雷鳴のような怒声に、ブリッジ全体が震えた
否、震え上がった

またこの夢か・・・一面モノクロの風景
高いビルが立ち並ぶ街、見た事のない街
目の前で繰り広げられる戦い

お前たちは誰だ?
声は聞こえない、いや、何も聞こえない
私は動けない。見ていることしか出来ない。

能力者達の壮絶な戦い
ある者は獣と化し、ある者は炎に包まれる
1人、また1人と戦士達は倒れていく

戦いの結末は知っている。いつも同じ
闇を纏った戦士・・・顔は見えない、闇に包まれた女・・・木偶どもに何となく似てる?
光を纏った戦士・・・顔は見えない、光に包まれた女

両者が激突し、辺り一帯全て何も残さず吹き飛ぶ
祖父が昔よく聞かせてくれたおとぎ話の光と闇の戦いの結末そのまま

そこでいつも目が覚めるのだ

そこに至るまでの展開も毎回同じ
猫のような身のこなしの女が光の戦士に何事か叫ぶ
風を纏った女が倒壊しそうなビルを必死に食い止める

無駄なのに・・・

手から癒しの光を放つ女が傷付いた人々を必死で治療する

無駄なのに・・・


あれ?何だ?いつもと違う
”癒しの光”の女がこちらを見た気がする
いや、確実にこちらを見ている・・・少し笑いながら

女は立ち上がりゆっくりとこちらに歩み寄って来る
見えているのか?私が

女が何か私に語りかける
勿論私には何も聞こえない

女の手が、私の手に触れた
先程の戦いで痛めた右手、痛みが走る

痛みが・・・走る?
今までこの夢では感覚が一切無かったのに
女の手の温かさ、柔らかい感触も感じる

光が女の手から放たれる・・・桃色の、温かい光
桃色?

初めてこの夢で色が見えた
癒しの光・・・痛みが嘘のように消えていく

「・・・ほ・・・いいの」

声も聞こえそうだ。何だ?何を言っている?

ぐ~っ!

うっ・・・ううん・・・
女の声に被るその大きな音で、私は目を覚ました


「あっ!起きた!」

気分が悪い・・・妙に揺れる
車の中・・・じゃなさそう
ここはどこだ?耳がキーンとする

「ゴメン、起こしちゃったね」

かのんちゃん・・・
先程の音は鈴木香音の腹の音だったようだ

「ん?腹空いとぅとか?これでも食べり~」

コツン、痛っ・・・KY?が投げた何かが私の頭に当たる
てか何でお前が居る!

「うわ!スニーカーズ!いただきま~す!」

胃もたれしそうなそれを拾って嬉しそうに食べる香音
身体に悪いよ、それ多分

ふと右手を見る・・・包帯?

「あ、ゴメン、途中だった。食べたらやるね」

香音が舌を出して笑う
そうか、さっきの夢はそういうことか
しかし・・・痛みがない?

いや、元々大した怪我じゃなかったんだ。きっとそうだろう
そう思いたい・・・しかし狭いな、ここは


「ねぇKY、どこに向かってるの?」
「何ねKYって、エリナって呼びぃ!」

何処かに向かっている?
まさかコレって・・・バッ!

「サヤシ!大丈夫!?」

痛い、立ち上がろうとして頭をぶつけた
      • 癒しの光が今欲しい

私はそっと窓・・・窓なのか?から外を見る

飛んでる
飛んでる・・・よね?
うん、飛んでる

下を見る、一面の海
上を見る、一面の青空
前を見る、得意気に操縦席に座るKY

「おい!何処に向かってる!?」

思わず私もKYに尋ねる
ちょっと聞いてない、こういうの
マジで何処行くのさ?

「あ~?わからん。コイツ勝手に飛んでるっちゃよ?」

「「ハァ??」」

私とかのんちゃんは思わず同時に叫んでいた


「ちょっとぉ!操縦してたんじゃなかったの!」

香音が激しく操縦席のKYに掴み掛る

「おおぉ!危ないっちゃよ!手元が狂うとね」
「操縦してねぇだろ!」

ビシッ、思わずツッコんでしまった
これは私でもツッコまざるを得ない、うん

「ええと、えいえいえい!」
「ちょお!やめぇ!」

身を乗り出して香音がコンソールを弄る
現在地表示・・・

どんどん陸地を離れ、真っ直ぐ南に進んでいる
この先に陸地は・・・ない

「何とかならないの!早くリゾナントに行かないと!」
「いやぁ、勝手に動いとぅし多分何とかなるとよ」
「お前ぇえええええ!」

ダメだ・・・これはどうしようもない
御神刀の力でもこの状況は打破できない
こんなところで旅が終わるなんて・・・無念だよ、じいちゃん


「あっ!」

KYが唐突に前を指差した
      • 海しか見えない

「ふざけてる場合!?バカが見る~!とか言うんでしょ?」
「いや、少し先に島があるとよ!」
「何言ってんの?バカなの?人をからかうのもいい加減に・・・」

フォン!

えっ・・・?
何かと擦れ違ったよね、今

「あの・・・今・・・」
「大体マップに島なんか映って無いじゃない!」
「いや、見えるとよウチには!コレ、多分あの島に向かっとぅとね!」
「だぁかぁらぁ!」
「あの・・・」

2人とも夢中で聞いてくれない
今何かと擦れ違ったってば・・・

「そういえば聞いたことがあるっちゃ!南の方に移動する島を根城にする海賊がおるって!」
「ハァ?言うに事欠いて今度は作り話ですか?」
「エリナ嘘はつかん!移動する島なら地図に載ってなくて当然たい!」

いや、移動する島?海賊?そんなファンタジーな・・・
ことが無いともいえないのが今の世の中なんだけど
それよりさっき何かとね・・・ちょっと聞いてます?KYさん、かのんちゃん


「カリン様、哨戒中のJS907より入電、友軍同型機とニアミスとのこと」
「どこの所属ですか?」
「それが・・・信号がなかったようで。ニアミスの原因はそれかと」
「・・・ふむ」

ダークネス正規軍東部方面軍特務部隊
空中高速巡洋艦『カリーナノッテ』

その最新鋭艦の若き艦長、ミヤモトカリンは少し頭を捻った

信号無しのジェットストライカー・・・そんなことは有り得ない
私達と同じ特務部隊?こんな辺境でそれはないだろう

「MAR-CHEと回線開け、詳細を確認する必要があります」
「はっ」

友軍機であれ我々は特務部隊。おいそれと姿を晒すのはマズい
僅かな綻びが任務の失敗に繋がり、組織をも破綻させるかもしれない

ミヤモトカリンは完璧主義者だ
その完璧主義ゆえ、組織内では少し疎んじられている

味方にとっても”油断ならない奴”

勿論、彼女が有能な若手の出世頭であることは確かなのだが

「”監獄”の様子はどうですか?」
「進路変わらず、北北東に航行中」

ただ、今回の任務は僅かな綻びも嫌う彼女にうってつけの任務であろう
”監獄”を乗っ取った組織内反逆者の粛清および監獄の奪還・・・それが今回の任務なのだから


「お頭ぁ、何か来やしたぜ」
「正規軍の蚊トンボが重力レーダーに引っ掛かりやした」

強面のガラの悪い男達が”お頭”に報告する
重力レーダー・・・この島だけに現存する古の遺産
通常のレーダーとは全く原理が異なるそれは
ステルス性の強い機体の動きをも捉える

「数はぁ?」

乾いたハスキーボイスが聞き返す

「たった一機ですぜ」
「偵察ですかね?」

ふふん・・・
虎皮を敷き詰めた玉座にふんぞり返るお頭が鼻で笑う
面白いじゃん、政府の犬にしてはいい度胸だね

「重力キャプチャー、準備しな」

勇敢な奴もバカな奴も嫌いじゃない
捕まえて顔を見てやりたくなる

移動する島の主、”お頭”は八重歯を覗かせて
ぺロリ、とご自慢の海賊刀を舐めた