『InvisibleBlade 第五話「見えない中身」』


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「勝っ、た・・・?」

香音の全身から緊張が解け、へなへなと弛緩する
嘘・・・正規軍のクローン兵相手に勝つなんて
サヤシ、貴方は一体何者なの?

香音はサヤシに抱き付くKYと嫌そうなサヤシの姿をばんやりと眺める

フォオオオオオオン

ハッ!その音で香音は我に返った
上空に待機していた漆黒の翼~ジェットストライカーが動き始めている
撤退・・・だといいけど
何か嫌な予感がする。香音の本能が不穏な”音”を感じている
どちらにしてもこのままでは済まないだろうね

「サヤシー!車まで走ってー!」

逃げ切れるかはわからない
それでも足掻いてみる価値はあるかもしれない
香音には確かに見えたのだ
ほんの少しの希望を切り拓く刃が


「攻撃準備!」

副長の指示でブリッジの管制オペレーターがせわしなくコンソールを叩く
8機のジェットストライカーのリモートコントロール切替
被爆を避けるためにターゲットからは充分な距離を取らせる
その後ミサイルベイをオープン・・・照準合わせ

「攻撃準備完了。ターゲットを補足・・・ロック!」

ブリッジのモニターにInvisible Blade~サヤシ達の姿が映し出される

「ヤグチ様!攻撃準備完了!」
「いいから早く撃てよ!全弾発射だぁ!」

(やり過ぎだろおい・・・たかが人間相手に勿体ない)

「全弾発射!目標!Invisible Blade!」

副長はまた心の中で愚痴りつつも攻撃指示を出した
オペレーターがコンソールで発射コマンドを入力する
全ての希望を断つメギドの火が今、放たれるのだ


「サヤシ、大丈夫!?」

サヤシは何とか車まで走ってきた。
いや、ウトウトしながら引っ張られてきたというべきか、コイツに

「アンタら何で正規軍に狙われとぅと?その箱は一体何ね?」

ウチらを狙ってきた襲撃者・・・まためんどくさい奴が・・・
何でお前まで来るんだ!いや、その前に

「てかあんた誰さ!?」
「ハァ?ハカタシティ最強のハンター、生田衣梨奈様のことを知らんとか?」
「そんなん知・・・」

ウィーン

言いかけたところで香音の耳がまた”音”を捉えた

「ちょ、まさか!?撃ってくる気!」

ジェットストライカーはまだ遠くの上空を旋回している。そしてウェポンベイが開くような音

「アンタぁ!人に聞いといて・・・ん?」

香音に掴みかかろうとしたKY・・・衣梨奈も空を見る

「撃ってきようね、アレは」

衣梨奈の”鷹の目”も捉えた。ジェットストライカーのミサイルベイが開くのを
香音と衣梨奈は顔を見合わせ・・・同時に頷く

「走れ!!!」


「どうしたぁ!なんで撃たない!」

ヤグチマリは激昂して目の前のモニターを叩いた
モニターには箱を抱えて一目散に逃げ出す香音
そして眠ってしまったサヤシをおぶって走る衣梨奈の姿が映っている

「オペレーター!何をしている!」

副長もさすがに声を荒げる

「それが・・・」

気の弱そうなメガネのオペレーターがおずおずと喋り出す

「どうした!」
「コマンドは入力したのですが・・・受け付けません」
「そんなバカな!入力ミスではないのか?」
「な、何度入力しても受け付けないんですっ!」

声を裏返らせてオペレーターが叫んだ

「バカやろぉーーーーーーーーーー!アチョー!」

ヤグチは艦長席から身を翻し、オペレーター席まで飛ぶ

「ぐはあっ!」

艦長の飛び蹴りがオペレーターの顔面に派手に炸裂した

「ヤグチ様・・・」
「もういい!おいらが入力する!」


カタカタカタカタカタ、素早くミサイル発射コマンドを入力
おいら実はこういうのは得意なんだ
そしてエンターキーを連打連打!
くたばれInvisible Bladeぉ!

しかし

Error Access denied,Error Access denied,Error Access denied
Error Access denied,Error Access denied,Error Access denied
Error Access denied,Error Access denied,Error Access denied
Error・・・

コンソールには無数の真っ赤なエラーメッセージ
ブッ、ブッ!というエラー音がブリッジに鳴り響く

「ちっくしょおおおお!何だコレぇ!副長!」

ヤグチがコンソールの後ろに立っていた副長に掴み掛る

「わ、私は技術士官ではないのでこの手のトラブルは・・・」
「アクセス拒否って何だよ!リモートコントロールしてるんだろ!」
「いや、ですから・・・」

と、副長が言いかけたところでピコーン!という音が鳴る
それはコマンドの成功音

Access accepted All Wepon Fire!

「よっしゃあ!」

ジェットストライカー各機からの映像、発射される弾道
ヤグチは小躍りしてガッツポーズをした


ハァ、ハァ・・・正直、走るのとか苦手なんだよね
てかアイツ速いわ、サヤシおぶってるのに
鍛え方が違うってやつ?さすがナントカシティ最強のハンターだね
てか車乗った方が良かった?いや、的は小さい方がいいでしょ!
万一助かる可能性も・・・

フォン!

キター!ミサイル発射音!?そんなのウチら木端微塵じゃん!

フォン!フォン!フォン!フォン!フォン!フォン!フォン!

ちょ・・・これって多分助からないよね、うん
やりすぎだって正規軍さん、話せばわかる・・・いやわからないか

か、神様・・・神様ぁあああああ!ヘルミー!!!

「何ねー!」

先を走っていたKYが振り向いて足を止め叫んだ
いや、お前こそ何ね?お前神様なの?

「光っとぅよ、それー!一体それ何ね?」

光って?
え?光ってる・・・箱
箱が・・・変な光・・・七色、いやもっと沢山の
色んな色の輝き、綺麗・・・

とか言ってる場合じゃない!ミサイル!ミサイルがー!・・・
ドーン!
ん?花火?こんなところで?花火・・・って、えぇーっ!?


ヤグチマリ、副長・・・
いや、シャイニングバタフライのブリッジ全員がその光景を呆然と眺めていた
ミサイルの発射は成功した。間違いなく成功した。

ターゲットにも命中した。命中したが・・・

ヤグチが拳をぷるぷると震わせる

長い沈黙

「・・・どういうことだ?」

やはり最初に口を開いたのはヤグチ
ブリッジクルーの全員がビクっ!とする

「どういうことだぁーーーー!!!」


「何ね?アイツら?仲間割れ?」
「そんなわけない、アレ今無人機だし」
「そっか」

香音と衣梨奈もその光景・・・花火を呆然と眺めていた
方々で起きた爆発が砂漠の夜空を赤く照らしている
数機居たジェットストライカーはお互いにミサイルを撃ち込んだらしい

何故?やっぱり神様は居るの?

ハッ、と香音は我に返る

箱!

箱はまだ光を放ち続けている
まさか、今のは箱の・・・

フォオオオオオオオオオオオオン

その思考を遮るように耳をつんざくような音が響いた
嘘!まだ・・・

「まだ一機生きとぅよ!こっちに来よぅ!」
「わかってる!」

何?奇跡が起きたんじゃないの?
もうわけわかんない!
まぁ世の中はそんなに甘くないってことなんだろうね


「どういうことだ!説明しろぉ!」

ヤグチが声を荒げる
ターゲットはロックしていたはずだ
それなのに・・・何故

「ヤグチ様・・・」

副長がおずおずと口を開いた

「何だ!」
「生きてます・・・」
「当たり前だ!奴らに当たらなかっただろう!」
「いや、違います、まだ一機生きてます」
「何ぃ!」

ジェットストライカーのリモートモニターが一台だけ生きている

「よぉし!再度攻撃だぁ!・・・ん?」

再びオペレータ―席に飛び込むように座ったヤグチは異変に気付いた

「なんだコレ?動いてる・・・勝手に動いてるぞオイ!」

リモートモニターの風景が地表に近くなっていく
その先には・・・香音達の姿

「通信班!アクセス解析だ!」

我に返った副長がやっと的確な指示を出した
仮にも副長。やれば出来る男なのだ、彼は


「うわあああっ!ぷっ!」
「目ぇ見えん!うおっ!」

フォオオオオーン
垂直降下のホバリングの風が砂嵐を巻き起こす
ジェットストライカーは真っ直ぐ香音達の目の前に降下してきた
逃げなきゃ・・・でも凄い風で身動きが取れない!
香音は箱を抱えたままその場に倒れ込んだ
衣梨奈もまた、サヤシをおぶった体勢のまま後ろに倒れ込む
これだと次に来るのはバルカンの掃射、かな

嫌だな、死ぬの・・・嫌だぁあああああああああ!
最後にケバブ食いてーーー!今日まだなんにも食べてないーーー!
こんな最期酷過ぎるぅ!うぉおおお!嫌だ嫌だ嫌だぁ!
お腹空いたぁ!神様ぁ!ギブミーケバブ!ケバブプリーズ!
ケバ・・・って、ん?

「・・・」
「・・・」

しばしの緊張、そして沈黙の時間
あれ?風、止んだ?
香音は恐る恐る顔を上げる

ジェットストライカーはランディングギアを出し地上に着陸していた
キャノピーが開いている・・・当然、中には誰も居ない

「あれ?あれ?止まった?」
「ぷーっ!砂まみれっちゃ・・・って、あ?」

顔にもろに被った砂を払ったKYが突然私を指差す
ん?ウチの顔に何か・・・って、あ?


副長の指示で慌ててコンソールを叩き始める通信班

「副長!ハッキングです!あの機体は別の何者かにリモートコントロールされてます!」
「バカな!?我が軍のシステムは今までハッキングされたことなどない!完璧なセキュリティだ!」

そう、新国家建国以来破られたことはない。SystemA、そしてMAR-CHEのセキュリティは。

しかし今、現実にジェットストライカーはシステムの制御を外れ勝手に動かされているのだ
これはハッキングとしか考えられない
自分で力強く断言しておいて何だが副長は血の気が引く思いだった

「該当機のリモートコントロールの発信源を特定!場所は・・・」
「何処だ!その不届き者のハッカー野郎は!」

ヤグチが血相を変えて声を荒げる
システムにハッキングまでされたとあってはますます幹部としての立場が・・・

「W-28地点!詳細なGPS情報、モニターに出します!」
「なっ・・・」

シャイニングバタフライのメインモニターに映し出された地図
それは香音達の居る砂漠、交戦地点のもの

「こんな砂漠にハッカー!?」
「いえ、発信源は・・・」
「いいから結論から言ええ!」

ヤグチの怒声の後、オペレーターは息を一息呑んで言い放った

「発信源は・・・”箱”です」

発信源を示すマーカーは丁度、香音達の居る地点をピッタリ指し示していた


「何ね・・・それ?」

KYが指差していたのは私の顔じゃなかった
指差していたのは箱、から出てる光

「・・・矢印、だよね?」

箱の上に赤い矢印マークが出ている。ご丁寧に「!」マーク付きで
これCG?何なのさこの箱は?マジで中身は何なの?わけわからん!
そのCG矢印の指し示すのは・・・

「乗れ・・・ってこと?」

矢印はジェットストライカーのコクピットを真っ直ぐに指していた
確かに・・・これに乗れば逃げ切れるかも
いや、でも一応敵の戦闘機だよ?リスクが高すぎ・・・ってオイ!

「乗っ取るなら今っちゃよぉー!」

もうKYはサヤシを放り出して元気よくジェットストライカーに向かって走り出していた
でも・・・どの道このままじゃ済まない
アレだけ派手な花火が上がったんだ。次々と追手は現れるだろう
最先端のステルス機・・・確かにこれならばあるいは
それに・・・この箱が本当に世界を変える私達の味方だとすれば

「賭けるしか、ないか・・・」

よいしょ、と
私は箱を片手に、もう一方でKYが放り出した爆睡中のサヤシの肩を抱いて
ジェットストライカーに向かって歩きだした

重いよ・・・神様・・・ケバブ・・・


「香音ちゃん、遅いなぁ・・・」

街全体を見渡せる中央塔・・・通称、”リゾナン塔”のテラス
白いテーブルの席に着いて夜空を見つめながら紅茶をすする人影があった

ふくよかな身体を包む上品なドレス
月の光を浴びてほのかに光るなめらかな白い肌
憂いを帯びた寂しげな目

香音達が居る砂漠から東に数百キロ離れた場所にあるリゾナントの街

その街の守護者、譜久村聖その人である

「はぁ・・・う~ん・・・」

聖は溜め息をつき、しばし眉間を押さえる
遠く離れた地で奮闘する友を案じる姿
傍から見ればそう見えるだろう

しかし・・・

「まっ、大丈夫でしょ!預言書には帰ってくるって書いてあるし!」

一転、聖はパッと立ち上がりお茶菓子のマカロンをひょい、と口に入れて
テラスから部屋へと戻った

古びたその本”預言書”を片手に