『リゾナントリゾートin利曽南島 3日目昼(3)―のせてのせられ釣り講座―』


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夏だ!
海だ!
リゾートだ!

てなわけで、同僚ウエイトレスの仕草にいちいち萌えてやかましい変態1号こと道重さゆみは、午後の食糧調達班に回された。
ちょっと騒いで、ちょっと隠し撮りして、ちょっと過剰なスキンシップとっただけなのに。
要は邪魔だから追い出されたということで、さゆみはちょっと落ち込んだ。
ちなみに、いちいち萌えて若干キモい笑顔を浮かべていたのは変態2号こと譜久村聖も同様だったのだが、
さゆみと違って前科がないことや、うるさくはしなかったことが考慮されて海の家に残ることが許されている。

用具一式とクーラーボックスを提げながら、さゆみは一人とぼとぼと指定された場所を目指していた。
目的地はこの海岸の先の岩場。
お手軽な磯釣りスポットとして名を馳せるそこで食材となる魚を釣ってくること。
それがさゆみに課せられた使命だった。

「・・・って言ってもさあ」

降り注ぐ真夏の太陽光。
足元からの照り返し。
熱中症対策は、今被っているひと夏のアバンチュール的なつばの広い麦わら帽子とクーラーボックスに入れた濡れタオルのみ。
そしてなにより体力及び磯釣りの経験がまったくない自分。
どこをどう考えてもさゆみのミッション達成の確率は低かった。

ああやっぱりこれは罰なのかなお客さんの幼女をねっとり眺めていたのがまずかったのか

しれない愛ちゃんと絵里とりほりほの可憐なウエイトレス姿(海の家Ver.)を目とフィルム
に焼きつけるだけにしておけばいやでも鈴木やフクちゃんも意外と目が離せなくて以下略

早くも暑さにやられて朦朧としてきたところで、ようやくさゆみは目的の場所に到着した。

「うっわぁ・・・・・・もう場所ないじゃん」

岩場にはそれなりの格好をした釣り親父たちが坐しており、新しく割り込めるようなスペースは少ない。
空いているのは、足場が不安定で少しでもバランスを崩したら海へドボン!となりそうなところばかりだ。

「しょうがないよね、うん。場所がないんだもん。帰るしかないでしょ、これは」

さゆみは、里保のベストショットが撮れた時に負けずとも劣らない今日一番のイイ顔を見せた。
よっしゃこれで帰る口実ができた。
さゆみはいそいそとUターン。

が、そこで。

「おっ、おねーさん釣りに来たの?めずらしーねー若い女の子が。こっちおいでよ。よかったら一緒にやんない?」

近くの岩場に腰かけていた、やたらちっちゃい釣り師に声をかけられてしまった。
魚屋のおっちゃんが被ってるような帽子を目深に被っていて顔はわからないが、声からして女性。
さゆみとそう年は離れていない気がする。
せっかく帰れるところだったのに。でもこんな若そうな人が釣りしてるなんてちょっと気になるかも。
半分がっかり、半分好奇心で、さゆみはその人の元へ向かう。

「失礼しまーす」
「どーぞどーぞ。ところでおねーさん、釣りよくやるの?」
「いえ、全然です。釣り堀に一回行ったことがあるくらいで」

小さい釣り師が場所を詰めてくれたおかげで、さゆみも岩場に入ることができた。
目の前はまさに海。
その恐ろしさを知らしめるような深い色が白波と共に音を立てる。
昨日遊んだビーチとは似ても似つかぬ海の本性の一端が見てとれた。

「ふーん、ほとんど初心者か。・・・よし、せっかくだからおいらが釣りのコツと醍醐味ってやつを教えてあげよう!」
「え?あ、はい、ありがとうございます」
「んじゃ、まずは道具を出して」
「・・・はい」


面倒見がいいというか、押しつけがましいというか。
心の中でぼやきながら、さゆみはこの暑い中苦労して持参した釣り用具一式を取り出した。
どれも海の家から引っ張ってきたものだ。
あの店は釣りの道具の貸し出しも行っているらしい。

「やっぱり、道具にこだわったほうが大物が釣れるんですか?」
「ん~、そりゃあどうかなー?こだわれるならこだわったほうがいいだろうけど、結局最後は自分の腕次第だからなあ」

ちっちゃい釣り師は、さゆみと会話しながらてきぱきと釣りの準備を始めている。
餌の用意、釣り竿のセッティング、踏ん張れる足位置の確認、などなど。

「よしっ!こんなもんだろ!」

言って、釣り竿をさゆみに渡してくれた。
しかしさゆみはそこまでの過程に一切手をつけていない。
さすがに申し訳なくなって、やり方を教わろうともう一度お手本をお願いするが。

「あー、いいのいいの!初心者は小難しいことよりまず釣りの楽しさを覚えないと!」
「でも」
「ほら見て。この餌は組織の科学力に物を言わせ・・・じゃない、えーっと、あれだ、手作りの特製ルアー。
 海水に触れると本物の小魚だと思わせる催眠が、いや、その、とにかく本物っぽく動くんだよ!だからちょっと垂らせば・・・」

ちっちゃい釣り師はさゆみの申し出を却下し、渡した釣り竿を二人で握るようにして海に放った。
すると、一分も経たないうちに。

「わっ!かかった!」
「落ち着いて落ち着いて!ここまで来たらこっちのもんだから!」

釣り師の手ほどきに任せ、リールを巻いていく。
さゆみも苦しいが、魚だって苦しい。
じわじわと体力を奪われていく両者。
果たして先に体力が尽きるのはどちらなのか。


そして。

「わぁっ!」
「キャハハハ!はい、釣れましたー!」

小さい魚が見事に釣れた。
名前はわからないが、サイズはさゆみの手のひらに収まってしまう程度。
こんなに小さいやつがあんなに強い力で引っ張っていたのか。

それにしても、なんだろうこのスリリングかつエキサイティングな快感は。
釣られまいと粘る獲物との駆け引きがたまらなく楽しかった。
次はどんな反応をみせるだろう。どんな餌を使えばもっと大物が食いついてくれるだろう。
釣りってこんなに楽しかったんだ!とさゆみは思うわけである。

「・・・どうやらあんたにもわかったようだな。釣りの醍醐味ってやつが」

帽子の下で、先輩釣り師が不敵に笑う。
そう、彼女は“先輩”だ。
さゆみは今日から釣り師を目指す。
こんなネタあんなネタでばっさばっさと釣り上げて、釣った獲物を手のひらで転がしてやるのだ。今日の魚のように!

「ありがとうございました。頑張るぜ!先輩!」
「うっしゃ!その意気だ、後輩!」

そんな感じで。
互いに顔も名前も知らない二人は、その後も時に協力し時に競い合って釣りに励んだのであった。

「えいっ!妖精が写り込んじゃったの~釣法!」
「なんの!私は組織きっての釣り好きで、組織の中じゃ二番目か三番目に釣りに詳しいと思います釣法!」

もちろん、キャーキャーとうるさくて周りの釣り親父たちの顰蹙を買ったのは言うまでもない。



おまけ。

釣りを終えたさゆみが、夕方になって海の家に戻ってきた頃のこと。
海の家は閉店間際で、里沙や愛佳たち数人が店の前で後片付けをしている。
そこに、ビーチバレー大会に行ったれいなと小春と衣梨奈の三人が帰ってきた。

「い~や、小春のほうがポイント高いんだから小春の勝ち!」
「でも最後の長いラリーで決めたのは衣梨奈です!あとラインギリギリの際どい当たりもほとんど私が拾いました!」
「ルールはルールでしょ!えりぽん大人げないよ!」
「久住さんのほうが年上じゃないですかぁー!」

うるさい。

よくれいながキレないなあと、さゆみは不思議な気持ちで見ていた。
キンキンと言い合う二人の横で、れいなは肩を落として暗く沈んでいる。
なにか嫌なことでもあったのだろうか。

「あんたら、やかましいわ!まだお客さん中におるんやから、向こう行っとき!」
「「だって~・・・」」

「おかえり~。バレーどうだったー?」
「あー!にーがきさん!」
「新垣さぁーん!」
「・・・うぅ。・・・・・・ビェー!ガキさーん!!」
「うっひょぉええっ!田中っち!?」
「「えぇーっ!!」」

す、すごいものを見てしまったかもしれない・・・・・・
なんと、あのれいなが。
ガキさんとのメールのやり取りは年に一、二回と言っていたあのれいなが。(←多分お正月と誕生日)
小春と生田を押しのけてまで、ガキさんに抱きついている・・・!!

「もうこの二人と組むのやだー!(>□<) 次組むならガキさんと組むー!」
「ちょっと!あんたたち田中っちになにしたの!この人本気で嫌がってるよ!?」
「「えー、別に・・・」」

れいなはガキさんの背中に腕を回しているのに、ガキさんの腕は中途半端なところで固まっているのがリアルなようなで案外そうでもないような。
さゆみは動揺を抑えながら冷静に観察していた。

あ、しまったカメラ持ってない。
このレアショットどころではないレアショットを後世に残しておけないなんて。
と思ったら、愛佳が懐からそっとデジカメを取り出してパシャパシャと撮り出した。
普段は「風景撮るほうが好きなんです~」とか言ってるが、さすがにこの歴史的和解の瞬間は撮らずにいられなかったようだ。
あとで焼き増ししてもらおう。そして二人に見せよう。
そうして我に返って照れまくるれいなと苦笑いするガキさんを写真に収めるまでがワンセット。

別の方向を見ると、聖もデジカメを構えているのがわかった。
姿勢とカメラの形態から察するに、ムービーモードをセットオン。
感動してむせび泣きながらも軸はまったくブレていない。
さすがである。


夕暮れの浜辺。
抱き合う二人のシルエット。
この感動的な場面を周囲の人々は優しく見守っていた。
小春と衣梨奈は割と不満そうに見守っていた。

誰もが時を忘れて見入る中、さゆみの釣ってきた魚だけがクーラーボックスの中でピチピチとその存在をアピールしていた。