■ ビューティーオブチキン -前田憂佳X萩原舞- ■ 



 ■ ビューティーオブチキン -前田憂佳X萩原舞- ■

「な?無駄だって言ったろ?ハギさん嘘つかねえってのw」
前田憂佳の肩に激痛が走る。
「んぐっ!」
自らが放った弾丸がありえぬ軌道を描き、狙撃手たる自身に跳ね返る。
「確かにアンタは姿を消せるかもしれない。けど、アタシにはなんも関係ない。」
萩原舞は両手をいっぱいに広げてみせる
「こぉのへぇーんはすぅべてアタシの制空権!どこから弾が飛んでこようが全て勝手に発射地点へ送り返されるのさ。」
【慣性歪曲(イナーシアディスト―ション;inertia distortion)】恐るべき能力だった。
「さぁ!どうすんのさ?もっとじゃんじゃん撃ってきたら!?」

前田憂佳は絶望感に襲われていた。

四人でいるとき、いつも自分は姿を消し、一人安全なところで高みの見物をしてきた。
もちろん、戦闘の苦手な花音ちゃんを一緒に消して守るという建前はちゃんとある。
それに、敵地潜入、情報収集、時には姿なき狙撃手として直接戦闘にも貢献してきた。
だが、いつも自分一人安全なところにいた。その負い目のようなものを感じてきたことに変わりは無い。
でも、今回は…
やっぱし逃げちゃおうか…。上手く逃げて彩花ちゃんとこまでたどり着ければ…。
ううんだめだ。彩花ちゃんは今、3人を相手に戦ってる。
あたしが彩花ちゃんの力になれるのは、奇襲、強襲、そしてその離脱…
想定された戦闘で最初から彩花ちゃんのサポートについているときだけ。
すでに乱戦になっているであろう戦場に
「脆い」自分がのこのこ出ていけば、"目"を通常能力にセーブしている彩花ちゃんは思い切り戦えなくなる。

それに…また、今回も姿を消すだけなの?

また、力を怖がって「やれる」のに「やらない」で逃げるの?

脳裏に浮かぶ「あの」光景。
あたしのせいで、あたしの…のせいで…ちゃんは、あんな…

前田憂佳は、覚悟を、決めた。

「萩原さん。これが最後の降伏勧告です。抵抗をやめ、私たちに協力してください。」
宣言する内容の説得力をまるで台無しにする、幼子がぐずついたような甘い声。
「おっと」
萩原舞が振り向くと、そこには上体を鮮血に染め、肩で息をする前田憂佳の姿があった。
「なんだ意外と近くにいたんだwってなんか言ってることおかしくね?降伏勧告?
それってどっちかっていうとこっちのセリフ?っていうかやっぱこっちのセリフっしょ?」

何で二回?
「こっちのセリフ」って言いたいだけじゃん…萩原さんってやっぱり面白いな…
もっと仲良くなりたかったな…仲良くなって…みんなで…みんなで平和に…
血が足りない。意識が遠のいていく。

「まあいいわw要はそっちも最後までやる気ってことっしょ?こっちだってそう。
アレ?ってゆうか、【不可視(インビジブル;invisible)】が姿出しちゃってどうすんの?
もしかして罠?はったり?いや、もう意識が朦朧として判断力無くなってるん?」

萩原舞はベルトから機関拳銃を抜く。

「まいいや…先手必勝っしょ」

躊躇なく引き金を引いた。
軽快な発射音が連続し、無数の9mm弾が前田憂佳へと吸い込まれて行く。

「残念です…萩原さん」

バチュン!

え?

小さな、ごく小さな音がした。

それは萩原自身の胸のあたり、そして立ち込める肉の焦げたような臭い。

ゴツッ!

急に天地がひっくり返り、萩原は頭部をしたたか床に叩きつけられた。

「あれ?なんで?アタシの足?」

視界には萩原自身の脚…やがて、それは膝をつき、どさりと倒れる…
その身体には、上半身が無い。
両断…左の肩口から右の脇腹まで…袈裟がけに萩原舞の体は切断されていたのだ。
もうもうと煙を上げる焼け焦げた切断面から、一呼吸遅れて、ぶくぶくと血が溢れ始めている。

大出力の、レーザー光線…いったいどこから?

遠のいていく意識の中で、
前田憂佳の姿が蜃気楼のように揺らいで見える。
あれは…虚像…?
虚像…蜃気楼…ゆらぎ…光の屈折…、光…

「そうかぁ…前田ぁ…アンタの…アンタの本当の…能…力…は…」

それきり、萩原舞は、何も考えられなくなった。







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最終更新:2012年02月03日 08:18