『声を奪われたカナリア』・新章


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目次


2011/12/25(日) 午前1時 更新分

今日は久しぶりにヨリコのオフの日だ。
ダークネス幹部に関わってから不信感を抱いたヨリコは、テレビ出演の仕事を極力断り、現在はラジオ、インターネットの動画サイト、ライブをメインに活動している。
正直言って私もその方が安心だ。
元ダークネスの私が言うのもおかしいが、彼女にはもうダークネスに関わってほしくない。
自分の心の奥で、じっくりゆっくり暖めてきた大切なモノ。
それをダークネスなんかに傷つけられたくない。
もしも彼女がダークネスに傷つけられたら自分がどうにかなってしまいそうなくらい彼女が自分の中で大きな存在になっている。

その気持ちを真っ直ぐに伝えられたらどんなにいいものか。
いつも私はアマノジャクな行動をとってしまう。

大切な彼女…。

大切な家族、友人…。

家族、と言えば近々弟の誕生日があるので誕生日プレゼントを何にするかをヨリコに相談したらいつの間にか彼女から吉岡ちゃんに伝わっていた。
そしていつの間にかヨリコがオフの時に私の弟の誕生日プレゼントを買いに行こうと吉岡ちゃんと勝手に計画を立てて、今日に至ったんだ。

そして今は私の部屋が誕生日プレゼントの会議室になっている。
今日、弟は私の代わりに仕込みをしてもらっている。
ごめん。弟よ。



「ホントに明日香は不器用なんだからー。こういう時の友達でしょ」
吉岡ちゃんが、からかう。

「若い男の子が喜びそうなプレゼントでしょ?何がいいかなあ?」
プレゼントの案を思案するヨリコ。

「男の子だったら、シーモンキーやベーゴマとかどう?」
「どうしてシーモンキーなの?吉岡ちゃん」
私が突っ込む。

「ベーゴマといえば、最近のってすごいんだよ!ベーゴマが勝負してる途中で変形してパワーアップするんだよ!」

ヤバい。
ヨリコの目が輝きだした。
彼女のオタク談義が始まってしまう。
適当な所で止めないと日が暮れちゃうよ。

「変形??なんだそりゃ。何かのアニメ?やっぱ普通にゲームでいいんじゃない?」
ナイス吉岡ちゃん。
ていうか、ベーゴマはどうした。
「ゲーム!ゲームだったら私にまかせて!私も一緒に選んであげるよ!今からゲーム屋に行こう!そうだ、そうしよう!」
「お、おい。ちょっと…」

私の意見を無視して話を勝手に進める二人。
私は急いで着替えた。

私達はゲーム屋にいる。
あちこちをキョロキョロして目を輝かせるヨリコ。
また彼女のオタク談義が始まりそうだ。
マジで勘弁してくれ。

「やっぱ普通にモンハンかドラクエかな?」
と、吉岡ちゃん。
空っぽのゲームソフトの箱を手にする吉岡ちゃん。
私も、あれこれ手に取っていると見慣れないソフトが目に入った。
「ヨリコ、この女の子がたくさん描かれているゲームは何?」
「明日香ちゃん、それはギャルゲーだよ」

ぎゃるげー???
聞き慣れないなあ。

「ギャルゲーって何?」

「そもそもゲームというのは仮想空間の中なんだよ。その仮想空間の中で男女が仲良くなって楽しむゲームなんだよ」

???
意味分かんない。

「仮想空間の中で男女がイチャイチャして楽しいの?」
「最近はこういうのが流行ってて、現実では彼女がいない残念な男の子がゲームの中で彼女を作って楽しむ…、まあ私達にはあまり縁がないゲームだよ。でも私個人としては女の子よりも音楽がキレイで好きなんだけど…」

ヤバい。
彼女が語り出した。


「分かった分かった!じゃあ、これにするよ」
私はギャルゲーを手に取った。
「え!?マジでそれにするの?明日香…。何か気持ち悪いよ、そんなゲーム…。とてもヨウヘイ君には合いそうにないよ」
「いや、これにするよ。自分の中で何かが来たんだ」
私は何かに動かされるようにレジへギャルゲーを持って行った。

「姉ちゃんおかえりぃ!!」

家に帰ると玄関で珍しく弟が出迎えてくれていた。
「何だよ。普段は出迎えてくれないのに。さてはプレゼントが目当てだな?それより今夜の仕込みはすんだの?」

「プレゼントを貰うために早めにすませたんだ!」

「普段からそうしろよ。まあ、こっちも悩んで選んだ甲斐があったよ。ちょっと待ってろよ」

「わくわく」

私はカバンの中からプレゼントを出した。

「プレゼントは何と、ゲームソフトだ!!」
「来たああああああ!!…あ?って何だよコレっ!?」
ヨウヘイがソフトを見ながら固まっている。

「そうかそうか固まるほど嬉しかったのか」

「ち、違ぇよ!!何でギャルゲーなんだよ!!オレこんなもんやらねぇよ!!気持ち悪ぃ!!」
「何だと!!人がせっかく買って来てやったのに!!」
「うるせー!姉ちゃんのバーカ!!おまえんち、おっ化け屋敷ー!!」

「ヨウヘイァ!!」

ヨウヘイはソフトを私に投げつけて自分の部屋に走って行った。

          ◇          ◇          ◇

2011/12/25(日) 午前11時 更新分

なんだよ。
人がせっかく買って来てやったのに文句言いやがって。
もういいよ。
自分でやるよ。
私はソフトをゲーム機にセットした。
ゲーム機の起動音が部屋に響く。
な、なんだ?
突然、歌が始まった。
ソフトのパッケージに描かれていた女の子達が動いている。
それにしてもキレイな歌声だな…。
いったい誰が歌っているんだろう?
説明書にオープニング歌手の名前が書かれてあったが無理矢理な当て字の知らない人だった。
ヨリコなら知っているかな?
今度聞いてみよう。

えーと、次は自分の名前をいれるのか?
私はゲーム機のコントローラーを操作していく。

『福田明日香』

年齢?年齢も必要なのか?

『27才』

様々な条件を入力して、ようやくゲームが始まった。

『朝だよ!おにぃ!早く起きないと遅刻しちゃうよ!』

な、なんだ?
妹が起こしにくるのか?

『なかなか起きないなあ。よーし。お兄ちゃんのベッドに入っちゃうよ。ついでにキスで起こしちゃうもんね』
キ、キス??
お前ら兄妹だよね?
兄妹だよね?
ありえねーよ!

『あー!!あんたはあの時の!?』

なんだこいつ。
勝手にぶつかって来たのにいちゃもんつけやがって。めんどくせぇな。
ていうか、こんなことがクリアまでずっと続くのか?
もういい!
明日売り払ってしまおう。
何が楽しいのか分かんないよ。
危うくヨウヘイに悪影響を与える所だった。
明日の仕込みもあるし、もう寝よう。

私は乱暴にゲーム機からソフトを出してパッケージに入れて机の上に置いた。

急にどっと疲れた気がした。
チカラも使ってないのに。
私は明日のために眠りについた。
ついたはずだったんだけどな……。

『……ちゃん』
ん?なんだ?

『……ちゃん、福ちゃん』
空耳か?相手にしないでおこう。

『福ちゃん!福ちゃん!』

「なんだよ!朝っぱらからうるせぇな!寝られないだろ!!」
私は目覚まし時計を見ると、まだ朝方だったので余計に腹が立った。
しかし、どこから聞こえてくるんだ?
でも、聞いたことがあるような声だな。
頭に声が直接響いてくる。
『やっと起きたべか』

「うわっ!?」
だっ、誰だ!?
驚いた私はベッドから飛び起きて辺りを見回した。
ここは私の部屋だよな?
間違いないはずだ。

「って、お前誰だよ?頭ん中に直接響いて痛ぇんだよ!!」

『それはそうだべ。私は福ちゃんの頭に直接話かけてるんだから。ちなみに他の人には聞こえないよ』

他の人には聞こえない!?でも私を『福ちゃん』と呼ぶのは、アイツだけしかいない。
あんた…。

「なっちだろ?」

『ち、違うべ!なっちはなっちじゃないんだべ!なっちはギャルゲーの天使なんだべさ!安倍なつみなんかじゃないっしょ!』

「焦ったら訛る所を見ると、あんたなっちだろ。しかも自分で言ってるし」
『訛ってるって、また福ちゃんは、なっちの事を田舎モンだとバカにしたべな!?ギャルゲーの事も昨日の夜にバカにしたべさ!それは許せないっしょ!ギャルゲーの天使として』
「ああ、あのつまんないゲームね」
『ほら!またバカにした!』
もう疲れてきた。
寝たふり寝たふり。
バサー、と布団をかけて潜り込むようにうずくまった。
『せっかく起きたんだから寝ないでよ!今のなっちはダークネスのなっちじゃないんだべ。仮想空間の中のギャルゲーの天使なんだべ!』
「……その天使さんが何か私に用事があるの?」
マジでめんどくせぇ。
『よくぞ聞いてくれたべ!』
「話を合わせるように無理矢理したくせに」
『福ちゃんはギャルゲーをバカにした』
「したよ。今日、売り払う予定だ」
『という訳で福ちゃんには罰を与えます』
「はあ?」
『昨日、福ちゃんがギャルゲーをバカにした時点で、ごっつぁんに頼んで福ちゃんを仮想空間に連れて来てもらったんだべ。だからここはもうすでに仮想空間の中だべ』
はああ?
意味分かんない。
「ちゃんと説明してくれよ!!それにギャルゲーの天使が後藤さんのチカラを使うなよ。あんたダークネスだろ?ホントは」


『確かに現実世界のなっちはダークネスだけど、この仮想空間のなっちはギャルゲーの天使なんだべ。福ちゃん、ここから出たいかい?』
「当たり前だ!どうして私が仮想空間に閉じ込められなくちゃいけないんだ!!」
『ギャルゲーをバカにしたから』
「もおおお!あんたなんなの!?さっさと出られる方法を教えてくれよ!!」
『やっと話が進められるべ。この世界から出るには福ちゃんにギャルゲーをクリアしてもらうんだべ』
「私がゲームの主人公だってこと?」
『さすが福ちゃんは頭がいいべ!』
「誉めたって何も出ませんよ?安倍さん?」
『この世界にはギャルゲーのようにたくさんの女の子がいるんだべ。
ダークネスは福ちゃんがいたころの八人体制のダークネスメンバー。
それと、福ちゃんが大事にしてる友達。
リゾナンターの女の子達の誰か一人を選んで口説き落としたら現実世界に帰れるべ。
そして福ちゃんの行動しだいで自分やキャラクターのパラメーターが変化するべ。
ちなみにサイコキネシスやチカラは回数制限があるからよーく考えて使うんだよ?』

もう頭が痛くなってきた。ギャルゲー売り払いに行けねぇ。

          ◇          ◇          ◇

2012/01/13(金) 更新分


一方的に私に説明したなっちは突然頭の中から消えた。
これでゆっくり寝られると思ったんだけど…。


「…明日香ちゃん起きて」

うん?
誰だよ。こんなに朝早くから…。
でも、この声どこかで……。

「明日香ちゃん早く起きてよ!今夜の仕込みまだなんでしょ?」

「うわあっ!」

な、なんでヨリコが目の前に!?

「毎朝毎朝、起こしにくる身にもなってよ。だから早く起きて!」

毎朝、起こす?私を?
そんなことあまりないはずなのに、どうして?

『明日香~。おはよー。ここで説明だよ』

この声は、なっち!?
やっぱり昨夜のは夢じゃなかったんだ…。
はあ~あ…。

『毎朝幼なじみが起こしにくる…、これぞギャルゲーの王道だべっ!中々いいものっしょ?』

どうやらもう私が主人公のギャルゲーは始まっているらしい。
ゲームをクリアしないとこの世界から出られないなんてめんどくさい…。
もっと手っ取り早い方法はないのか…。

そうだ!

このギャルゲーを売り払えばいいんだ!
閃いた私はパジャマのまま机の上に置いたギャルゲーを手に取ろうとしたんだけど…。

ない。

「ソフトがない…」

なんで?どうして?
昨夜、私は確かに机の上に置いたはずなのに!
と、また頭の中に、なっちの声が聞こえてきた。

『福ちゃんの考えることなんてお見通しだよ。でも安心してね。ゲームの中での行動が、そのまま現実世界にも繋がっているからクリアしたらソフトは元の場所に返しておくよ』

(どこが安心なんだよ!どこが!って待てよ!現実世界にリンクしてるって!?これはゲームじゃなかったのかよ!?)
私は心の中で、なっちに食いかかった。
『ゲームはゲームだよ。だからほら、いつでもパラメーターチェック出来るよ』
と、私の頭の上辺りの場所に(そういうイメージなのか?)目の前の登場人物と私のパラメーターらしきものが出てきた。

『これは福ちゃんが、パラメーターが見たいってイメージするといつでも出てくるよ』
なんか本当にゲームみたいだな。って、ゲームの中なんだよな。
とりあえずパラメーターを見てみるか。

福田明日香27才
体力☆☆☆☆
音楽度☆☆☆☆☆☆
超能力・残り20回

超能力に回数制限があるのか!?
別に私のチカラは寿命を使わないぞ!
どういうことだよなっち!!
『それはね、明日香は突っ走ったり熱くなるとカッとなって暴走するでしょ?
だからリゾナンターと家族、友達、ダークネス八人体制相手に使うために一人一回として20回にしたんだよ。なっちは明日香のことが大好きだから明日香の体のことも考えたのさあ』
得意げに話すなっちに私はイライラしてきた。

「それはどうもありがとうございませんでしたー」
わざと棒読みで言う私。
もういい、次だ。
ヨリコのパラメーターを見てみよう。


高野頼子(本名)27才
好き度☆☆☆
友情度☆☆☆☆☆☆☆
音楽度☆☆☆☆☆☆☆
病院度☆☆☆

好き度はわかるけど、び、病院度って何?
でも長い付き合いなのに好き度は低いのか…。

『少しがっかりした?』
「うわっ!?」
びっくりするじゃないか!いきなり話しかけるなよ!!
『好き度を上げたければ今後の明日香の行動や選択肢によって変わるから』
せ、選択肢ってなんだよ??
『それはまた説明するよ~。明日香ー、それよりも目の前の彼女を何とかしたほうがいいよ。またね~』
あっ!
こらっ!ちょっと!
またいなくなりやがった。仕方ない、早く着替えて歯を磨こう。
そう思って私はベッドからおりた時に急に、さっきのパラメーターのような文章が頭の上に浮かんだ。
お、おい。何だよこれ……。

ヨリコをいつまでも待たせるとまずいからパンでもくわえながら仕込みの準備をしますか。

私、着替えて歯を磨きたいんだけど。
これじゃあ私、操り人形じゃん。
結局私は最後に大事な人を決めなきゃいけないんだよな…。
ダークネスを抜けて12年間、人の温もりにふれて、人としての心を取り戻してしまった私としては、辛い選択も、これからあるのだろうと思った。