『聖夜に猫一匹』


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「高橋さん、高橋さん」
香音ちゃんが店内の椅子に座ってる愛ちゃんのところにぽてぽてとやっていく。
「てぶくろを逆から言うと、なーんだ?」
天使のような笑いの裏に込められた邪悪なたくらみ。

まあ、愛ちゃんは大人だからそれなりの対応を…

「うーん……てぶくろ、なんだから……」
ちょ、真剣に考えとうし。
「ろ・く・ぶ・く?」
って噛んでるし。

「違いますよ~」
香音ちゃんの口が尖った。
「あ、そうか。 『く』が二つになってるやん。 じゃあ、くろてぶ?」
「違います~」
どすどすと足踏み。

「ええっ? 本当? じゃあてぶくろ、だから……ろ・ぶ・く・てかあ~」
「もー、高橋さんったら! ろくぶてですよ~」

ぺちぺちぺち。
香音ちゃんの二の腕が六回鳴った。
「香音ちゃんが六ぶってって言ったんから仕方がないやざ」
天使のような顔に入り混じる驚きと悔しさ。
も~! ふくれっつらになった香音ちゃんはツリーの飾り付けを直している鞘師に抱きつこうとして投げ飛ばされた。

「いい、生田。 今の愛ちゃんみたいなのがおとなげないっていうんだからね。 ここメモしとくところ」
「あ、はい」
「返事はちゃんとする!」
「はいっ!!」
ガキさんは衣梨奈を熱心に教育中だ。

愛ちゃんがお客さんのテーブル席に座っているのは、今日ぐらい休んでてくださいと愛佳が厨房に入ってるからで。
怪我をしてた愛佳の脚を気遣ったさゆも厨房に入り、ここのところ腕を上げたという料理の腕を振るってる。

さゆが料理!
最初は尻込みしていた絵里も、恐る恐る口に運んだ料理の味に、うえぇ、これいける。っと目を丸くしている。
フクちゃんはそんな絵里に粘っこい視線を注いでる。
そんなフクちゃんの胸を食い入るように小春が見ている。
ジュンジュンとリンリンは厨房と客席を往復して料理と笑顔を運んでいる。

今日は楽しいクリスマスイブだ。

「ねえみんなでカラオケやりません」
小春はマイマイクを持参してきていた。
「はいはい、じゃあ衣梨奈がオープニング行きます」
衣梨奈は相変わらずKYっちゃ。

「♪会いたかった、会いたかぁぁぁぁっ」
「生田、ちょっと来なさい」
ガキさんは店の片隅に衣梨奈を連れて行くと、再教育に勤しんでいる。
「利権、電通、プロダクション…etc」
何か聞こえてくるけどれいな、何のことかわからんけん。

「亀井さん、歌ってくださいよ」
フクちゃんがうっとりとした目つきで絵里を見ている。
「私たちもコーラスをやりますから」
ジュンジュンとリンリンも勧める。
「じゃあ、愛ちゃんデュエットしよう」
困った顔で愛ちゃんを誘っている。

流れ出す音楽、手拍子、歌声。
もう、そろそろ、いいっちゃね。

決して気付かれないように。
みんなの邪魔をしないように、気配を消して、息を潜めて、勝手口に向かう。
愛佳をみんなの所に行かせ、一人厨房の片づけをしていたさゆと目が合った。
しょうがないなあという顔でさゆがうなづく。

流石に長いつきあいやけん、わかってくれてる。

「うわぁっ」
外は流石に寒い。
節電で例年よりも暖房の温度は落としているけど、みんなの熱気で相当温まってたんやろう。
戻ろうかと思ったけど、歯を食いしばって寒気の中に踏み出した。

別にみんなと一緒にいるのがいややとかじゃないけん。
みんなとバカ騒ぎしてるのは楽しいし、そうやって夜更かしすることもあるし。
ただ、あんまり楽しすぎて、幸せすぎると不安になることがあろう。
こんなに幸せでいつか罰が当たってまうとか。

そんな時、れいなはちょっとだけ距離を置くことにしてる。

そうすると何か安心できる。
少し離れることで幸せの形がよくわかるみたいな。

それに…。

          ・
          ・
          ・
          ・

「おい、早くしろ」
「焦らすな。 もうすぐ終わるから」
「待ってろよ、もうじき盛大にクリスマスを祝ってやるからな」
「ここが出火したのを合図に、11箇所で火事が同時に起きる」
「その混乱に乗じて、お宝をゲットだぜ」
「この町の奴らには一生忘れないクリスマスイぶぅおっ」
「誰だお前は」

「薄汚いドブネズミが吼えるんやなか」
「何だとこのアマ、えらそうなこと言ってても、ひぃぃぃ」
「今日は良い子のみんながサンタさんが来るのを待って、ジングルベルを鳴らす日やけん
お前らの汚い声が洩れんように一発で倒すっちゃ」

それに、みんなの笑顔を守るヒーローも一人っくらい休日出勤せんとね。
れいな、みんなの笑顔を見てるのが一番、幸せやけん。