「シャボン玉」


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「シャボン玉」(かなしみの人ver)

次回予告
高橋は病院で亀井という少女をスカウトする
「えりのね心臓の血管はとても弱くてね シャボン玉みたいにパンッて弾けたら・・・」
高橋は答える



「でも この世界がシャボン玉みたいになっちゃったら・・・
この世界は弾けちゃいけないの!あなたの力が必要なのよ!!
そしてあなたの体を直せる人物がいるわ・・」

初めて外の世界を見る少女
『世界はこんなにうつくしい 失いたくない!!」

そして亀井は決断する


次回かなしみ戦隊リゾナンター「シャボン玉」

「おっきいシャボン玉」 どこまでも飛んで行け




【本編】
『シャボン玉:motor ver』

見上げた天井は今日もおんなじように呆れるように真っ白
出されるご飯はいつも美味しくて、栄養のバランスも完璧で文句のつけようがない
部屋はゴミが毎日回収され、見事なくらいに清潔
そして、昼寝はし放題で、テレビを見ることもでき、ごろごろしていても誰にも文句を言われない

(生活する上で完璧な環境だよね…ここが病院でなければ)
今日も同じ天井を見上げる亀井は右腕につながれた点滴チューブをみて動けないこの時間の潰し方を考え始める

一週間ほど前のこと
「亀井さん、あなたの病気についてなんですが…お話しなくてはならないときが来たと思います」
亀井は家族と共に入院している病院のカンファレンスルームに呼び出された
家族と担当の先生の他には誰もいない状況
先生の話す言葉を聞きもらすまいと両親が緊張しているのが亀井にも伝わる

「亀井さんのお体ですが、心臓の機能が低下がみられます
 ただ、これはあくまでも検査の結果ですし、亀井さんはまだまだ若いですから何とも言えませんが…
 無理な運動はもちろん、精神的なショックについても注意がより必要なことになると推測されます」
母親は娘の前では泣くまいと必死に唇を噛み、父親は亀井の肩をぽんぽんと優しく叩いてくれる
「絵里、安心しなさい。お父さんとお母さんがいつもそばにいてあげるからね」

絶対安静というほどでもないが、可能な限り入院することが治療の中心で、リハビリに努める毎日
これまで亀井の人生のほとんどは病気との闘いであった
学校には行けても、運動はできず、楽しみにしていた修学旅行も参加できず、急に倒れてしまうこともあった
常に薬を使って、発作が起こらないようにしているが、原因不明の難病なので常に恐怖に苛まれている

先天性の心疾患で血管がもろくて、ちょっとしたショックで心臓に負担がかかり、胸が苦しくなる
心電図や超音波検査で心臓の状態を簡単に把握できるようになり、対症療法はできるようになった
でも亀井のからだを蝕む根本的な原因は現代の医療では治せない・・・らしい

お気に入りのファッション雑誌を買いに出かけても、そこにのっている服を買いに行くことはできない
それが年頃の女の子にとっては非常に悲しいことで、小さいけど一つの夢
増えて行くのは病室で着るパジャマだけ、水色、オレンジ、ピンク…

「絵里ちゃん、このケーキも食べる?」
母親が持ってきてくれたケーキを手にとって優しく訊いてくる
亀井は笑顔で「食べたいな」というと、母親も同じくらいの笑みを返してかごの中に入れる
たくさんの美味しいケーキの味を食べたけど、テレビで見るようなカフェには行ったことが一度もない
綺麗な空気の下で紅茶と一緒にケーキを食べること、それもまた、小さくて大きな夢になっていた

「それじゃあ、お母さんは仕事に戻るから、何かあったら電話してね」
亀井と病室に戻り、リンゴの皮をむき終えた頃母親が帰る準備を始めた
「大丈夫だよ、えり、最近、調子いいし、無理しない子だってお母さん知ってるでしょ?」
「…そうねえ、エリはいい子だからね。いい子になってくれて本当にお母さん嬉しいわ」
笑い顔が娘そっくりな母親は春風のような優しい頬笑みをむけた

「ほら、お姉ちゃんにバイバイしなさい」
母親は一緒に連れてきた妹にお姉ちゃんにさよならを言うように促した。
「・・・お姉ちゃん、バイバイ、また来るね」
手を振ってくれている妹だが、その目はなんだか…亀井を攻めているように感じた

(そりゃ、そうだよね…絵里がこんなに体が弱いせいで、お母さんを一人占めにしているんだから
 入院費もかかるから、自分のほんとにしたいことも言えないでいるんだよね…ごめんね…)

亀井は自分が買ってきた雑誌を妹が食い入るように読んでいるのを何度も見ているのを思い返していた
(あのチュニック…本当に似合いそうだけど、絵里のせいで買えないんだろうなぁ。
 ごめんね、絵里がこんな体に生まれたせいでみんなに迷惑がかかっちゃって…)

病室の開けた窓から病院の中庭で遊んでいるのだろう、小さな女の子とその母親の笑い声が入ってきた
「こら、えりちゃん、走って転んだりしたら危ないでしょ」
「大丈夫だもん、えり、強い子だもん!泣かないもん!」
窓の外をみると元気に赤いワンピースを着た女の子が走りまわり、その母親と思われる大人がその後を追っていた
「あの子、絵里と同じ名前なんだ…あっ、転んだ!大丈夫かな?」

女の子のそばに母親がかけより、膝についた土を手で払いのける
「転んじゃった~ほら、お母さんの言うことを聞かないからよ」
「だって、だって…うぅ…」
擦りむいた膝を母親になでられながら、女の子は今にも泣きそうだ
「だって飛んできたシャボン玉を捕まえたかったんだもん、グスッ」

ふと横を見ると亀井の病室の近くにまで、どこから来たのであろう、シャボン玉が飛んでいる
同じ部屋に入院している男の子が何となく歌い出す
「♪しゃ~ぼん玉 飛んだ~ 屋根まで飛んだ~」
亀井はその唄声を聞きながら、いまは泣き始めた女の子へと再び視線を移した

目をぎゅっとつぶり、痛みが消えることを心から願う
チクっとし痛みが走り、しばらくすると外から聞こえていた女の子の泣き声がピタッと止む
「ママ!足の痛み消えた!!痛いの飛んでった!!」

母親が娘の膝を見ると、先ほどまで確実についていたはずの傷跡が完全になくなっていた
「あら!おかしいわね?さっきまで、血が出ていたのに…かさぶたもないわね…あ、こら待ちなさい」
「♪しゃぼん玉 飛んだ~」
痛みがなくなった女の子はまたシャボン玉を追いかけ始め、母親はその女の子を追いかけた
不思議に思いながらも母親は大した傷ではなかったのだろうと、大人の常識のうちに自分をおいた

少女が再びシャボン玉を追いかけ始めたのをみながら亀井は自身のひざをさすっていた
さすり始めた膝には先ほどまでなかった傷が、そう、あの女の子の膝と全く同じ部位に、同じ程度の傷が

生まれつき、亀井は体が弱かった…でも、人には隠した力を持っていた
それが、この力―傷の共有
他人の傷を自分に移したり、自分の傷を―他人に移すことのできる能力
もっとも他人に傷つけられることがない、現在は後者の力を使うことはなくなっているが…
(絵里のこんな力がなかったら、あの子みたいにお母さんと一緒に走れたのかな?)

昔から亀井が怪我をすると、なぜか周りにいた人が怪我をした―母親とて例外ではない
亀井が転べば、一番先に近づいてきた母親も同じ場所に怪我をした
そのことを幼い亀井は、なんとなくその『ルール』を理解した―絵里は怪我しちゃいけないんだ、と
それから亀井は極端に消極的になった。怪我をしないように、傷つけないようにと

そして…この『ルール』は何も知らない母親も苦しめさせた
ある時のこと、母親が包丁で指先を切った。
それは大人にとってはなんてことのない傷、バンソコエイドでも貼ればすぐに止まる程度のもの
でも、何も知らない幼い絵里は自分の指から血が流れ出るのを見てパニックを起こした
叫び声を上げた娘のもとに急いで駆け寄った母親が視たのは、自分と同じ部分から血を出した愛娘だった
幸いすぐに血は止まったが…側にいた妹の治療した母親は『怪我する』ことを極端に恐れるようになってしまった

(あのころから私達が自由に走り回れるようになったことがなくなった…助けてよ、誰か)

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

消灯の時刻となり亀井は自身の固い枕の待っている病室のベッドに入った
シャボン玉を追いかけ走りまわっていた女の子も、歌っていた男の子も静かに眠りに入った
幸せな夢を見ているのだろう、静かな寝息が自然と聴こえてくる
ただ・・・いつもなら誰よりも早く夢の世界に入るはずの亀井はなぜだか眼が冴えて眠れなかった
「…なんだろ、変だな…考えすぎたのかな?」
眠気に自身が打ち勝つなんてことは亀井は初めてのことであった

ベッドに潜りこんで頭から布団をかぶっても、何度も寝がえりをしても眠れず時間が過ぎて行くばかり
「気分を変えるために…ジュース買いに行こうかな」
亀井は薄手のガウンをはおり、自動販売機のあるエレベーターホール前まで向かった
もちろん、同室の子供達を起こさないように足音をたてないように注意して

最近、工事をしていたのであろう、廊下は足もとにライトがついていてほんのりと明るい、だが、多少の光があるとはいえ、ぺたんぺたんとスリッパの間の抜けた音が響き、夜の病院とはやけに不気味である
「なんか出てきたら、いやだな」
昨日見たテレビの心霊特集で廃墟の病院が出ていたのが思い出され亀井は急に怖くなった

「亀井さん、何をしているんですか?もう消灯時間は過ぎてますよ」「ひっ」
暗がりから名前を呼ばれ亀井は驚き、奇妙な声をあげた
懐中電灯を持って亀井の前に現れたのは同室に入院している子供の担当の若い先生だった
「病院なんですから規則は守ってください」
「ごめんなさい…ちょっと眠れなくて、それで、喉乾いたからかなって思ったのから」
「規則は規則です」
あっさりと言い返され、取りつくしまも与えずに口調で言いはねのける
「病室まで送って行きます。亀井さん、行きますよ」
「でも、喉が渇いて」
「冷蔵庫があるでしょ」

先生に連れられて病室へと帰って行く途中に亀井は奇妙なことに気がついた
「先生?こっち絵里の部屋じゃないですよ」
「…寝れないっていってたので、すぐに寝れるようにしてあげようと思いましてね」

普段は閉じられている屋上につながる階段、それは病院で最も暗い場所へ進んでいく二人
「ふ~ん、お薬ですか?」
「いや、お薬じゃないから。もっと簡単に寝れるものだから」
「でも、こっちに何もありませんよ、先生、絵里、ちょっと怖いんですけど」
「大丈夫だよ」
そう言って振り返った先生を亀井はなんとなく奇妙に感じた…どこかおかしいと

「絵里ちゃん、ここに座って。今、眠るための用意をするから」
そういって指示した場所には一脚の椅子がただ無造作に置かれていた
「先生?なんでこんなところに椅子があるの?先生、変だよ、なんでこんなところに連れてきたの?」
「・・・」
先生は何も言わずに亀井の肩を押して無理やり椅子にすわらせた
「う、痛い!先生、何してるの?なにすr」
そこまで言いかけて亀井の口は止まった。月の光に照らされて先生が持っているナイフがきらりと光った

「亀井さん…眠いんですよね、寝たいんですよね。今すぐ眠らせてあげますからね」
あまりに常軌を逸したと思える展開に亀井は何も言えず、足の力も抜けたように動けなくなった
「大丈夫ですよ、ほんの一瞬ですから…全然、痛くないですから、安心してくださいね」
ほんのりと口元に笑みを浮かべて亀井の肩に置かれた手は力強く、亀井はもう逃げれそうにない
左手に握りしめられたナイフの刃が月に照らされて不気味な光を放ち、亀井の首に向かって振り下ろされる

(絵里、こんな形で死んじゃうの?…いやだよ、誰か、助けて!!)

何かが首元に当たる感覚がして亀井は恐怖のあまり気を失った
先生の言うとおり、まったく痛みは感じなかった

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

4月のまだ冷たい空気とパチパチと頬を叩かれる感触で亀井は目を覚ました
「亀井ちゃん、大丈夫か?」
まだぼんやりとする目でみつめた先には知らないショートカットの綺麗な女の人が亀井を抱えていた
「うう・・・」
「お、ようやく、気がついたみたいやね」
視界がはっきりしても、目の前にいる女性には見覚えはなかった

「あなた、誰ですか?天使ですか?絵里は…」
ゆっくりと立ち上がりながら亀井は尋ねる。
「私の名前は高橋愛。あなたにお話しがあって今日は会いに来たの」
「絵里に?でも、絵里…死んじゃったんでしょ」

「まさか。確かにちょっと危なかったけど。ああ、あの先生は大丈夫よ。ちょっと気絶させただけだから」
そう言って高橋はコートのポケットからあのナイフを取り出して亀井に渡した
「あなたを襲ってきたあの先生ね…普通じゃなかったでしょ」
ナイフをみたで瞬時にその場面が鮮明に蘇り、亀井は身震いを感じた
「…なんで先生、エリのことを襲ったの?」
「それは後々説明するわ…まずは私の要件を聞いてくれない?


            …私の仲間になってほしいの。私と一緒に戦ってくれない?」


突然すぎるその告白に何も言えず呆然とするしかない亀井
「え、どういうことでしょうか?仲間って、戦うって」
目の前にいる女性はまともなのか、本気で疑う価値があるように亀井は思った

「無理もないわね。あなた、わたしが妄想に取りつかれていると思っているんでしょう?」
「え、いえいえ」
心を見透かされたように言われた亀井は慌てて否定したが、そんな亀井を見て女はふっと笑った
「大丈夫よ。私は普通だから。あなたと一緒で」

最後の一言にドキッとした亀井は一歩、その女から離れた
「どういうことですか?」
「私もあなたと同じように力を持っているの」
そういい女は亀井の前から姿を消し、次の瞬間には亀井の後ろに立っていた
「こうやって瞬間移動できるのが私の力の一つよ」
再び亀井の正面に現れて女はごく当たり前だとでもいうように言う
「あなたも私と同じように特殊な力を持っているんでしょ」

もちろん亀井は『力』を持っていることを教えたことは誰にもなかった…そう、親にさえも
それなのに…目の前にいるこの女はそのことを知っている
「どうやって、絵里のことを知ったんですか?教えてくれるまで何も話しません」

「どうやってって、それはあんたが心で叫んでいたからやろ、昔から、『助けて』って、何度も
 あーしはただその声を何度も聴いて、ここに来ただけや
 深い意味なんてない。助けに来たし、あーしも助けてほしいだけやよ」
急に顔が崩れるほどの笑顔になった女は亀井に手を差し出して握手を求めてきた

「・・・助けるってだれをですか?」
「きまっとるやろ。この世界をや」

益々目の前にいる女のことがわからなくなり、元々良くない亀井の頭はこんがらがってきた
「亀井ちゃん、聞いて…世界は今、変わってきている、それも悪い方向に
 あなたを殺そうとしたあの先生もそのために操られた犠牲者の一人にすぎない」
「操られた?誰にですか?」
「・・・詳しくは分からん。ただ、その元凶はわかっている。『ダークネス』と名乗る謎の集団」
「『ダークネス』・・・」

「もちろん、普通の生活を送っている人なら信じられないことやのはあーしも分かっている
 でも、たった今、あんな出来事を体験した亀井ちゃんなら…分かってくれるやろ?」
真剣な眼差しで亀井を高橋はじっとみながら、亀井の手をぎゅっと握った
「…先生が変だったのは見たんですけど、まだよく分からないです」
「…そうやよね。あーしも今すぐ、ついてきてほしいといってるわけやないし…」

「それに」と亀井はつけて言葉を選びながら話し始めた。
「誘ってもらったところ悪いんですが、エリは邪魔だと…むしろ…高橋さんの邪魔になると思いますから…」
高橋はなんで?とでもいうように頭を少し傾けて亀井をじっと見ている
「だって、そうでしょ!絵里は体が弱いんですよ
 エリのね心臓の血管はとても弱くてね、シャボン玉みたいにパンッて弾けたら・・」

急に高橋は亀井の肩を強くつかみ、ヒッと亀井は小さく叫んだ
「亀井ちゃん、それでええの?体が弱いってことを盾にして、自分ができないって限界を決めて!
 あーしにも夢があるように、亀井ちゃんにも夢があるんやろ?

 …夢はね、叶えるためにあるんよ。ただ見ているだけじゃかなわないものなの
 いいなってただ羨ましく思うのは夢やない、叶えるために近づこうとするんが夢

 ダークネスはね、そんな夢を奪おうとしている…夢だけじゃなく、希望も未来も全て
 そんな世界は絶対にきてはいけない!明日も何もない世界なんて…」

「で、でも、絵里なんかにできることなんて」
「また、そうやって自分で限界を決めちゃって…確かに私にも亀井ちゃんにも限界はある
 でもね、それを自分で決めつけるのはどうなのかしら?『私にできない』、それは誰にも分からないことじゃない?

 私達には希望を持つことができるという大きな武器があるわ、そして、今のこの世界ではそれができる
 ねえ、亀井ちゃん、私の手につかまっててくれる?」

「こうですか?」
亀井が高橋に触れた瞬間二人は光に包まれ、気がつくと亀井の住む町を一望できる丘の上に立っていた

「ここはどこですか?」
こんな時間に外に出たことのない亀井が深夜の冷たい空気を感じながら高橋に尋ねる
「ここは、亀井ちゃんの病室からいつも見えていた丘の上や。来てみたかったんやろ、一度
 ほら、見てみい、この街を」
二人の眼下に広がる街の光をみて亀井は素直な気持ちで呟いた

「綺麗な街…」

亀井の足元に広がった街は光の絨毯が引かれたように輝いていた
言うまでもなくそれはただの民家だったり、会社だったり、飲食店だったりする
この時期にしか咲かないピンク色の花も公園の光で照らされて輝いている
それら、たくさんの異なる色の光がなんとも言えない微妙な色彩を奏でていた
いつもだったらただ苦しいだけの冷たい風を受けていてもなんだかこの場所では気分がいい

「いい場所やろ。あーしのお気に入りの場所なんよ」
気付かないうちに少しでも街の光を見ようとして前に出ていた亀井の横に並ぶように高橋が前にでた。

「小さい一つ一つの光がここに来ると大きく魅力的な大きな光になって自然と目に飛び込んでくる
 自分達がこんなに美しいものを知らず知らずに作っとるんよ。人間って偉大やと思わない?」
そんな高橋の問いを何も言わずにコクンと頷いて答える亀井

「ねえ、亀井ちゃん、聞いてくれる?もう少しだけあーしの話しを

 亀井ちゃんが苦しんでいることはもちろん知っているつもりよ
 でもね、こんな綺麗に見える街でも暴力なり、孤独なり、憎しみ…負の感情は絶えず生まれていく
 それらは大きな悲しみ、怒りとなってこの世界をただよい続ける
 辛いのは、大変なのは亀井ちゃん、あなただけじゃないのを知っていてほしいの」

「この世界を生きるのは本当につらくて、理想なんて持っていても理解されない悲しい世界かもしれない。
 でもね、そんな世界にも希望の芽がある限り救い出す価値があると思えない?
 いま、世界はほんとうに不安定でシャボン玉のように簡単に壊れてしまうかもしれないの

 でも、この世界がシャボン玉みたいになっちゃったら…この世界は弾けちゃいけないの!
 あなたの力が必要なのよ!!・・・そしてあなたの体を治せる人物がいるわ・・」

伝えたいことを言い終えた高橋を捉えたのは亀井の曇りの全くない純粋な瞳だった
「…こんな絵里でもこの世界を救うことができますか?」
「もちろん、それが出来ると思ったからあなたの前に私は現れたの」
「私が助けたい人は・・・助けたいものは・・・」
亀井は自分の掌をみつめた後、もう一度目の前に広がる鮮やかな光の帯を見つめた

高橋はコートのポケットから何かを取り出し亀井に渡した
「答えはすぐに出さなくていいから。亀井ちゃんが変わりたいと思うなら、私を心のなかで呼びなさい
 いつでも私はあなたを受け入れる覚悟があるんだから…亀井ちゃん、帰りましょう、あなたのお部屋に」

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

愛ちゃん、どういうつもりなの?あの子を仲間に誘うなんて!!」
リゾナンターの本部、喫茶リゾナントに新垣の問い詰めるような声が響いた
その高橋はカウンタ―におかれた椅子に座り、何もせず、何も言わずただ目を閉じている。

「わかっているんでしょ?本当はあの子の命が長くないってことを
 私には愛ちゃんの考えていることは申し訳ないけどわからない。
 確かに異質な力を持っているけど、そこまで重要視するべき力ではないと思う
 きっとあの子の体は私達の争いに耐えられない。死ぬのよ、わかっているの?」

高橋はゆっくりと瞼をあげて小さくつぶやく
「だからや・・・あの子はね、死ぬことがどういうことかわかっているから必要なの。
 ただ、奪うだけが正義じゃない。それをあの子は分かっている」
新垣は何も言えずに黙ってしまったが、その目は明らかにその意見に賛同を示していない。

「それにその方が…あの子自身のためになるんよ。
 きっといつか体を治してくれる人に出会うだろうし、もっと世界を知って行くべきだと思う。
 生きる価値がない人間?そんなのいるわけないんだ。みんなもっともっと飛んでいけるはずなんだから」
「…愛ちゃんは現実を知らなすぎるんだよ」
新垣はついて行けないとでも言うようにため息をつき、店を出て行った

                ★   ★   ★   ★   ★   ★

ベッドに戻った亀井は夜空を見上げて、高橋から受け取ったシャボン玉を吹きながら小さな声で歌った
「♪『しゃ~ぼん玉 飛んだ 屋根まで飛んだ 屋根まで飛んで 壊れて消えた』
 絵里のからだはシャボン玉、きっといつかは消える運命なんだろうね・・・
 でも、それがいつなのか、わからないけど…エリにもできることがあるかもしれない!

 世界はこんなにうつくしい。失いたくない!!」

すうすうと静かに寝息を立てている子供達の声を聞きながら、シャボン玉の筒をふぅと吹いた
病室に舞ったシャボン玉は壊れることなく、開けた窓から外へと飛び出てずぅぅっと空高くまで飛んでいった



【解説】
かなしみの人や禍刻の人がリゾスレのオリメンにあたるなら、7期の小春か8期の愛佳に相当するのがmotor氏だろう。
悪の組織の間でお中元のやり取りをしたり、ボスに甚平を着せたりと読む者を脱力させる描写をするかと思うと、殺しのミッションを目撃した少女を狙撃するというような冷徹でやるせない話を書く自由闊達な作風は、間違いなくスレに新風を与え続けている存在であろう。
そんなmotor氏がかなしみトリビュートで取り上げたのが「シャボン玉」だった。
motor氏はそこで禍刻の人が「Ambitious! 野心的でいいじゃん」においてかなしみの人の予告編を忠実に本編としてしたのとは一味違った料理法を見せた。
禍刻の人がかなしみの人の予告編の一行一行をその豊富な描写力で膨らませていったのに対して、motor氏は行間の書かれていない部分をその逞しい想像力で補うという手法を用いてかなしみの人へのトリビュートを果した。
トリビュートの企画で望まれていた、作者ごとの作風の違いを楽しむことが出来る。
付け加えるならば高橋愛や亀井絵里の能力の設定もかなしみ戦隊シリーズのそれとは異なる設定で描いてしまっている。
にもかかわらず誰もが違和感を訴えなかったのは、かなしみの人がその予告編の中で最も描きたかったことが、motor verの中で描かれているからであろう。
いつになく真摯なmotor worldが楽しめただけでも今回の企画が実現した意味はあると言って差し支えないだろう。



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