『声を奪われたカナリア番外編・かぜっぴきのカナリア』


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熱が38℃。
またかよ。
ダークネスにいた時も鼻炎が原因で高熱を出して紗耶香にも面倒を掛けたっけ。

今回はあれかな?
ヨリコと空中散歩したせいだろうか?
あの時はチカラを限界まで出したし防寒していたのにも関わらずムチャをしたのもあるのかなあ。
しかも咳やくしゃみをするとサイコキネシスが暴走するという迷惑なオマケ付き。
だから吉岡ちゃんとヨリコには『絶対来るなよ!』とメールをしておいた。

来るなよ!といいつつも鼻水をダラダラ流しながら寝込んで部屋に一人きりだから本当は来て欲しいみたいな言い方だな。
そんな時、ヨリコに移ったら大変だ。
クリスマスコンサートがある大事な時に風邪をひいたらパアだ。
その前に彼女の体調を管理するマネージャーの私が自己管理ができていないなんてマネージャー失格だ。

「ごほっ、ごほっ!」

ガタッ

咳をしたからだろうか?
CDラックからCDが落ちてしまった。

「くしゅんっ!!」

ガタッ!ゴロゴロ

今度はくしゃみのせいでゴミ箱が転がってしまった。
ホント勘弁してほしいよ。
今誰かが来たら確実に超能力の暴走で怪我をさせてしまう。
苦しむのは自分だけで十分なのに。

昨日病院に行って薬を貰ってきた。
今は熱さましを飲んで冷えピタをおでこに貼っている。
診断は鼻炎プラス扁桃炎のせいだと言われた。

うう…。
口の中が腫れて痛い。
確か昔、圭ちゃんもそうだったな。
任務のたびに寝込んで叱られてたっけ。

「明日香ちゃーん」
ドアの向こうからヨリコの声がする。
来るなって言ったのに。
ノックをした後、彼女が部屋に入って来る。
「大丈夫?明日香ちゃん。お見舞いに来たよ」
「ごほっ、ごほっ!バカ!今来たらダメだと言っただろう!あんたに移ってしまうし、チカラが風邪で、ごほっ、ごほっ!暴走して、あんたに怪我をさせてしまう」
「でも、あの夜から明日香ちゃん様子がおかしかったから、やっぱり風邪をひいてしまったんだね。ごめんね明日香ちゃん」
ヨリコは俯いた。
私は続ける。
「とにかく!マジで苦しいんだって!いいから帰れ!!」
「!!」
一瞬、彼女は驚いてから傷付いたような顔を見せたけど、すぐに笑顔に戻った。
「私、明日香ちゃんが心配だったんだ…。私はマスクをしてるし平気だよ?でも具合悪いのに突然来てごめんね…」
彼女は後ずさりしながら手に持っている紙袋の荷物をベッドのそばに置いて部屋から出て行ってしまった。

彼女が出て行ってから急に、しん、としてしまった部屋。
ただでさえ暖房をつけても冷え込む寒さなのに更に寒くなった気がした。

胸の中がざわめく。

まただ。
また私は素直になれない。
あまのじゃくな行動をとって、しかも彼女が心配してくれているのにその気持ちを汲んでやらず追い返したんだ。
彼女が大事なら自分の気持ちよりも彼女の気持ちを優先させるべきだったのに…。
私はベッドのそばに置いてある紙袋の中身を開けた。
手紙?と冷えピタと、のど飴、ゼリーとケーキ、バナナ?
どうしてバナナなんだ?
しかも一房。
でも、病人にケーキなんて良くないはずなのに、その理由が分からない私は手紙を読んだ。

「!!」

バカなのは私の方だ。
どうしていつも追い詰められないと彼女の気持ちが分からないんだ!
彼女から貰った飴を口の中に放り込む。

甘い…。

彼女の歌声のように優しくて包み込んでくれるような、それでいて安心する、そんな味が口の中で広がっていった。

彼女に謝らないと!
私は彼女の優しさを無碍にしてしまったんだ!
高熱でフラフラな体を押してでも私は着替えて彼女を追いかけた。

          ◇          ◇          ◇

私は自分の家から表参道まで行くのがこんなに歩かないといけないなんて、と思ったのは今日が始めてだ。
道行く人達が私をジロジロ見ながら通りすぎる。

そりゃあ、そうだろう。
高熱で体をフラフラさせながらも一息ついて、電柱や壁にもたれて体を支えながら歩いているのだから。

頭もクラクラして彼女の気配が辿れない。
こんな時にダークネスが現れたらどうしよう。
多分チカラ暴発しまくりだって…。

とりあえず駅に向かおう。
少し走ったらなんとか追いつけるだろうから。

前にもあったな、このパターン。
私は追い込まれないと素直になれないのか?
反対に彼女はいつも素直に自分を表現する。
それが歌声に表れていて、私は彼女に惚れたんだ。

同い年なのに、音楽が好きなことは同じなのに、なぜこうも違う?
自分が過去にダークネスだったとか生まれとかじゃない。
彼女やリゾナンターに出会う前の私は、その表現の方法を知らなかったんだ。 そして今も。

自分を生かすのに精一杯で他人の心を気遣う余裕なんてなかった。
それは今も変わってないってことだ。
たかが風邪をひいたぐらいで、私は貰った感情の意味が分からなくて八つ当たりをしてしまった。
でも、彼女からは今まで自分の病気のことで一度も文句や弱音を聞いたことがない。
弱いのは私の方だ。
私は彼女の精神的な強さや優しさに甘えていただけなんだ。

「くそっ!」

高熱がなんだ。
やってやるよ。全力で。
彼女を見つけるために持っているチカラを全開にする。
暴発はコントロールさえできれば怖くないんだ。
熱による寒気を精神力で抑えて胸に手をあてる。
呼吸を整える。
このやり方は私がダークネスにいた時から今でもやっているチカラを解放するためにする一種のおまじないのようなものだ。
自己暗示?ってやつかな。
「はあ、はあ…」
荒い息が漏れる。
チカラが入らない。
風邪がなんだ。
彼女の病気はもっと苦しかったんだ。
抗がん剤の副作用で髪の毛が抜けて、嘔吐の毎日。
ご飯も満足にたべられず、将来は好きな人ができても子供が産めない体かもしれないんだ。
それでも彼女は生きたいから自分よりも困っている人のために少しでも元気になってもらおうと歌い続けている。
それに彼女は私のチカラも彼女の歌声も神様からのプレゼントだって笑って言ってたんだ。
だったら、望みどおり使ってやるよ!カミサマ!
自己解放を最大に引き出す。
心臓が脈打った。
今だ!!
今の私なら彼女の気配が分かるはずだ!


どこだ?どこにいるんだ?あっ!
今、彼女が駅に着いた所だ。早く行かないと電車が来てしまう。
改札口に向かう彼女を追いかける。
見つけた!

「ヨリコ!」

彼女が驚いてこちらに振り向く。
彼女の腕をぐいっ!と引き寄せて抱きしめた。
「あ、明日香ちゃん?どうしてこんなところに…。ちゃんと寝てないとダメだよ」
「ごめん」
「???」
「あんたの気持ち、伝わった…。手紙も読んだ」
顔が暑いのはきっと熱のせいだ。
最近、忙しさにかまけて自分の誕生日さえも忘れてたなんて。
だからケーキが紙袋の中に入ってたんだな。
「なのに、あんな突き放す言い方をして、ごめん」
「大丈夫だよ。言わなくてもわかってるよ」
彼女が笑って言った。

手紙には、『12月17日。誕生日おめでとう、早く治してパーティーしようね』って書いてあった。
でも、バナナがよくわからないな。
彼女に聞いてみよう。
「バナナが一房紙袋に入っていたけど、あれもお見舞い?」
「ううん?貰ったんだよ」
「貰った?誰に」
「パンダさん!」
「は?」
いきなり彼女は目を輝かせて話し出した。
「明日香ちゃんの家を出た後、商店街を歩いてたら本物のパンダさんの隣りに中国人の女の子がいたの!」

「中国人とパンダ!?な、何で商店街なんかに」
「パンダさんはクリスマスケーキを持ってて帽子を被ってた。隣りの女の子は日本語でケーキを売ってた」
「それとバナナはどういう関係があるの?」
もう、わけがわからなくなってきた。
パンダに中国人?
漫画じゃあるまいし。
「私パンダさんに一目惚れをして、もふもふさせて貰ったお礼に歌を披露したんだ。そのお礼にパンダさんからバナナを貰ったんだよ」
「バナナはパンダの食べ物じゃないの?」
「私もそう思って一度は返したんだけど、それでも構わないって」
パンダも彼女の歌声に魅了されたのか!?
商店街にパンダ、中国人にパンダ…。
あ。
頭がクラクラしてきた。
チカラの使いすぎが原因じゃないな、きっと。
「も、もうだめ」
私は彼女に体を預けてしまった。
「あ、明日香ちゃん、明日香ちゃん!!」

やっぱり彼女となっちの隣りは安心するなあ。
そばにいるだけで暖かい何かに包まれて安らげる。

後で知ったけど私を家まで運んだのは、そのパンダさんらしい。
商店街で立ち往生していたヨリコを見かねたパンダさんが助けてくれたと彼女は言うのだ。
とにかく今は彼女のクリスマスコンサートに向けて私の体調も完治しておかなければいけない。
あ、パンダさんとやらに助けて貰ったお礼を言いにいかなければ。
どこにいるんだろう?
彼女なら知っているかもしれない。
また風邪が落ち着いたら聞いてみよう。

おわり