『きらいじゃないぜ』


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「どうやら完全に囲まれちまったな」
「そうみたいね」

石で出来た家屋の中に二人の女がいた。
肌の色、髪の色、顔立ちは違ってはいるが、美しいという点ではどちらも同じだ。

「あの大揺れの中で倒れなかった家がもう半壊状態ね」
「形あるものはいつか崩れるのさ」

女たちはカーキ色の兵装を身につけている。
肌の白い方の女は自堕落に足を投げ出して、ダウジング用の振り子を所在なげに弄んでいる。
もう一人、黒豹のような印象の女は壊れかけの壁の隙間から外の様子を窺っている。

…!!
二人の会話を遮るように、断続的な銃声が響く。
外を窺っていた女は慌てて身を屈める。
やがて銃撃は収まった。

「ちょっと、見てみなさいよ。 あの兵士、バルカン砲を一人でぶっ放してるわよ」
「バイオをやったことはねえのかよ。 あんなのはざらに出てくるぜ」

二人の潜んでいる家を包囲している兵士たちの中に小型のバルカン砲を携行している兵士が数名いた。
小型とはいえ、モーターで複数の銃身を回転させながら、大口径の弾丸を浴びせる兵器を一人で携行しているのだ。
その兵士は普通の人間ではない。

「最初はパワードスーツの類だと思っていたが、違うな。やつら、強化されてやがる」
「マルシェが見たら喜びそうね」

筋肉増強剤の大量投与、造血細胞の活性化による赤血球濃度の上昇、痛覚のカット、動態視力のアップと神経の伝達速度を上げるための覚醒剤投与。

「バカだな。 あんな機能重視の無粋なフォルムなんかマルシェはお呼びじゃないっつーの」

バカだなと悪し様に言われた黒豹は、露骨に舌打ちをしながら、目一杯の悪感情を言葉に載せる。

「じゃあ物知りな魔女さんはこの状況をどうやって切り抜けるつもりかしら?」

重装備で固めた部隊に包囲された事態からの打開策があるのかと責め立てる。
振り子を揺らしていた”魔女”は浮かない顔だ。

「だからさぁ、あいつらの起こした人工地震の所為で地脈がどえらく歪んでる」

歪んでるなりに安定するまで魔術を使うのは危険なことを説明するが、一言多かったようだ。

「魔術の何たるかをいくら説明したって、お前の頭じゃ理解できないだろうけどな」

「ふん、いざって時に使えない魔法なんか、理解したってしょうがないじゃない」

魔術な!という”魔女”の訂正を聞き流すと、右手の人差し指を立ててうそぶいた。

「見てなさい。 私のサイコブレッドであいつら、全員蜂の巣に…、ちょっと何が可笑しいの」

“魔女”の頬が微かに歪んだのを、“黒豹”は見逃さなかった。
頬に浮かんだ失笑を見咎められた“魔女”は侮蔑の笑みを隠さない。

「いや、お前の念力で捏ねたパンはさぞかし美味いことだろうと思ってな」
「はぁ? 何訳のわかんないこと言ってるの。 あんたからサイコブレッドの血祭りに上げてやろうかしら」

くくく、、堪えきれない笑いを漏らした“魔女”は手にした振り子で床面に積もった砂埃に字を書いた。

“Psycho bread”と。

「お前は自分の念動を弾丸状に射出する念動弾のことをこう呼んでるんだよな」
「そうよ。 おかしなことを言ってるからわかんないのかと思ったけど、ちゃんと綴り書けるんじゃん」

サイコブレッド。
“黒豹”は新しく生み出した念動能力による攻撃パターンをそう名づけたのだという。
扱いづらい念動力を弾丸状にコントロール出来る自分の能力を誇る一方で、英悟の綴りをスラスラ諳んじた“魔女”への尊敬の念を隠しきれなかった。

“黒豹”の言葉を聞いた“魔女”は底意地悪そうに笑いながら、床に書いた “bread” のb以外の四文字を消すと “bullet” と書き直した。

「弾丸はブレットな。 お前が得意そうに言ってたブレッドは…食パンって意味だ」

言いたいことを言うと、ギャハハと豪快な笑い声を上げる。
自分の間違いを指摘された“黒豹”はヘナヘナと腰を抜かした。

「そんな。 じゃあカブールで現地の兵士たちを威嚇した時は、何故何も言われなかったの?」
「この国は英悟が公用語ってわけじゃないしな」
「じゃああんたは何故言わなかったの?」
「いや、結構緊迫した場面だったしな、っておま何をする」

血相が変わった“黒豹”が“魔女”の体に馬乗りになって、喉元を鷲掴みにしていた。

「要するに、あんたがこの世からいなくなったら、わたしの間違いを知ってるものはいなくなるってことよね」
「テメーの無学を棚に上げて何しやがる」

“黒豹”の腕の経絡を抑えて圧迫を減らした“魔女”は、包囲している部隊が拡声器で呼びかけていることに気付いた。

「おいっ」

“魔女”の表情が真剣なものに変わったのを見て、"黒豹”は手を緩め、魔女の身体の上から退いた。

「何よ? 投降の呼びかけならさっきだってあったでしょ」

“魔女”と“黒豹”は世界の警察を自称する超大国の地震兵器の実験を調査する目的でこの国へやってきた。
超大国は自国の領土を危険に晒すような真似はしない。
外交協定を結んでいるイスラム圏の某国が実験場として選ばれた。
国力の差こそあれ、実験場に自国の領土を提供したのには裏がある。

”中東の春”と呼称される民主化運動の波はこの国にも及んでいた。
その中核を為すのはイスラム原理主義者。
支配者が武力で弾圧すれば、世界中から糾弾を受ける。
原理主義者たちの勢力圏である地域を地震兵器の実験場として差し出すことで超大国との関係を強化すると同時に、反政府勢力に打撃を与えることができる。
“魔女”と“黒豹”が属する組織はその情報を入手した時点で、最高レベルの能力者を派遣することを決めた。
超大国の暴挙を止める…ためなどではない。
有体に言えば女たちの組織も、同様の兵器の開発には着手していた。
しかし超大国と組織では資金力に差があり過ぎる。
踏み込んだ実験のデータを入手することで、資金力の差を埋めようというわけだ。

地下での核爆発、衛星軌道からのマイクロ波の照射、打ち込んだパイルからの電磁パルスの発振。
人工的に地震を起こすとされる幾つかの手段。
いずれかの手段が単独で運用するのか、それとも連携して地震という大地の怒りを人工的に作り出すのか。
その全容を記録する為の観測機器を持ち込み、主として“黒豹”の能力で設置することには成功したのは実験の一日前だった。

実験は成功した。
M7.8の地震がイスラム原理主義者が多数を占める州を襲い、死者はわかっているだけで数千人を越えるという。
“魔女”と“黒豹”は現地に留まっていた。

観測機器は収集したデータを自動的に送信する仕掛けになっている。
しかし、それは損傷しなかった場合のことだ。
もしも地震の影響で損傷した場合を想定して、データ回収の為に留まることを主張したのは“黒豹”だった。

組織では“黒豹”と反目していると思われている“魔女”が従った理由はわからない。
ただ、その観測機器の製作に“魔女”が組織内で唯一心を許す“科学者”が関与していたことと無関係ではないだろう。

能力者である二人だが、地震の震源地に留まっては生存が覚束ない。
一旦予測される震源地から遠ざかり、本震が収束してから観測機器の設置地点に向かった二人は、遠隔操作で機器が生きていることを確認した。

長居は無用だとばかりに脱出を決め込んだ二人は、機器を持ち込んだのと逆ルートで出国を図った。
国境まであと数キロのこの町で二人は現地の兵士に発見された。
地脈の歪みで得意の魔術が使えない“魔女”は格闘戦や銃器で戦い、”黒豹“は新しい技の試し斬りとばかりに“サイコブレット”を連発して兵士を蹴散らした。
対象が現地の兵士だけだったら二人は容易に脱出出来ただろうが、まるで能力者との交戦を想定したかのような重装備を施した超大国の特殊部隊が到着したことで事態は一変した。
二人は追い立てられ、一軒の民家に逃げ込んだ。
その家は観測機器を運び込む際に、一夜の宿を借りた家だった。
粗末な石造りの家は震源地から数十キロ離れていることもあってか崩壊こそ免れていたが、家人の姿はなかった。
これ幸いと二人は篭城を決め込んだ。仮に家人がいてもそうしただろうが。
組織との最後の連絡で大よその位置は知らせている。
“魔女”と“黒豹”のやるべきことは支援部隊が到着するまで協力して持ちこたえることだ。

          ◇          ◇          ◇

「投降の呼びかけならさっきもあったでしょう?」
「ああ。 にしてもあいつらあれだけの火力を持ってるくせして、強攻策を取ってこないのはよっぽどお前の捏ねた念力パンにビビったんだろうな」

ブレッ…どっちだったかしら? 首を傾げた“黒豹”は訂正を諦めたようだ。

「よっぽどあたし達のことを生かしたまま捕まえたいのね」
「尋問が目的か、それとも…」

“黒豹”が嫌悪感を剥き出しにしたのを見て、“魔女”は言葉を途中で止めた。
大地震発生直後の極限状態に陥った外地に派遣されるような特殊部隊。
しかも明らかに通常の正規軍とは異なる改造を施された野獣のような兵士たちだ。
女性の捕虜相手に何をしようとするかは、誰でもわかるだろう。

「武器や爆弾を隠し持ってないか確認する為に、全ストで出て来いとかぬかしてやがったが…」

投降勧告を受け入れるつもりは無い。
しかし時間を稼ぐには、相手の言っていることを理解しておくのも無駄ではない。
ノイズ交じりの勧告に耳を傾けながら、聞き取れる単語を拾っていく。

「ぷはは。 あいつらイカれてやがるぜ。 薬の打ちすぎじゃないのかよ」
「一体、何と言ってるの」

英悟のリスニングを諦めたらしい“黒豹”が素直に教えを乞うた。

「早く出てこないとアタシたちの友人を処刑するってさ。 バカじゃねえの」

女たちの職業では友達など持てるはずがなかった。
よしんば、友達という言葉を面識のある協力関係にある者という意味に拡大解釈したところで、今現在この地に居合わせるとは思えない。
“魔女”の言おうとしていることがわかった“黒豹”は半壊状態の壁の隙間から包囲している部隊を視認した。

「どうした、黙りこくって」

屋外に視線を向けた“黒豹” が急に口を閉ざしてしまった。

「…」

黙って外を見ろというジェスチャー。
魔女は緩慢な動きで投降勧告を行なっている兵士たちに目を向けた。
勿論、射線に入るような間抜けな真似はしない。

「何だ、ありゃ。 どでかいてるてる坊主を作ったもんだ」

身長190センチ前後の強化兵の腹の辺り。
薄汚れた布で覆われた胴体の上にサッカーボールくらいの頭。

「いくらアタシらが痛いからって、あんな薄汚い人形を友達にするほど壊れちゃいねえよなあ」

危機を危機とも思わぬ"魔女”の軽口に"黒豹”の目が険しくなった。

「あれは…、あの子はこの家の子供じゃない」

数日前の話だ。
地震兵器を偵察するための機器を現地に持ち込む行程で、この町に一泊したのだ。
強行軍を主張した“黒豹” に対して、“魔女” が難癖を付けたのだ。
行程が至極調だったこと。
顔を合わせれば噛みついてくる“魔女” が、今回の任務では“黒豹” がイニシアチブを握ることに、鷹揚に対応していたことに気を良くしていたこともあって、魔女の希望通り、普通の民家に宿泊することにした。


その家―今二人が立てこもっている家はその小さな町の中では比較的裕福そうに映った。
カーキ色の兵装をした二人は、国連派遣のPKOの身分証明書と、その国の政府の発行した通行許可証を提示した上で宿泊の許可を求めた。
断られることも覚悟していたし、魔女などは断られること前提で、恫喝&突入モードに移行していたが、家人が開明的な考えの持ち主だったこともあって、部屋を一つ提供してくれた。
ベッドが無いことをボヤく“魔女” を諫めながら、翌日以降の予定を確認している黒豹は、その家の娘が自分に熱い視線を注いでいることに気づいた。
その様子を面白がった“魔女”が、自分の方へ来いと言っても、怖がって近寄らない。
却って黒豹の傍に近寄ってきた。
子供らしい物怖じしない様子に体を強ばらせる “黒豹” を “魔女” は面白がった。

「そのお姉さんはね、ブルゴリラといって、とてもとても怖い猛獣の一種なんだよ。 うかつに近づいたらお嬢ちゃんの首なんか、簡単にへし折られちまうぞ」
「ちょっと、やめなさいよ」

“魔女” の軽口を咎めながら、その実 “黒豹” の期限は悪くなかった。

「あんた、私たちの来てる服を熱心に見てるけど、こんな活動的な服が着てみたいの?」
「日本語なんてわかんねえよ」

常にはない優しさを見せる黒豹に呆れ気味だ。
生涯で初めてだろう。
日本語で質問された娘はきょとんとしている。

「じゃあ、こんな服を着て外に出て働きたいの?」
バカじゃねえのという言葉とは裏腹に、勢いよく娘が頷く。

「イスラム圏は女性の社会進出に厳しいからね。 だから私たちみたいに働く女に憧れてるのよ」

「私たちの本当の職業は氷の魔女と死の粛清人で~す」

“魔女” は“粛清人” を玩具扱いだ。

「つーかよ、オメーちゃんと下調べしてきたんだな。 この辺の事情とかよ」
「当然でしょ、っていうかあんたが無頓着なだけでしょう」
「じゃあアタシもトリビアいきま~す。 昔この国にロシアっつうかそのころはソ連が侵攻してきたとき、この国のゲリラがソ連の兵士を捕虜にして、斬り落とした首をボールにサッカーをしてました」

へぇへぇへぇと見えないボタンを連打する“魔女” を、娘は気味悪そうに見ている。

「要らないわよ、そんなトリビア」
少し壊れ気味の“魔女” を突き放しながら、傍らの娘に話しかける。
「あんたの国も少しずつ変わってきてるんだから、あんたが大人になる頃はあんたのなりたいものになれる。そんな時代になってるかもよ」

自分で言っていて恥ずかしくないのか。 “魔女” が執拗に絡んでくる。
娘は“粛清人” の言っていることの意味が判ったのかどうか、はにかんだような笑みを浮かべている。

「これ、あげるわ」

“粛清人”たちは書類上、超大国の海兵隊からPKO活動で、この国へ派遣されているということになっている。
海兵隊の兵士が身につける鎖のついた金属製の認識票を、娘の掌に載せていた。

「おいおい、そいつはまずいんじゃねえのか」
「どうせ、今回の仕事が終わったら全部廃棄するんだから、いいでしょう」

この国に入ってから物を言ったのは政府発行の許可証と金だった。
一度として提示を求められたことのない認識票など、手放したところで何の問題もない。
“粛清人”と”魔女”の話を聞きながら、娘は認識票を撫でている。
まるでそれが自由へのパスポートであるかのように。

「あんまり人に見せるんじゃないのよ」

念を押した“粛清人”に頷いた。

          ◇          ◇          ◇

「大したもんだな」

超大国の特殊部隊と彼らが拘束している少女の姿を見た“魔女” が感嘆の声を上げる。
“粛清人” の頬が一瞬痙攣した。

「あいつらの強化された体力で殴られたら、あんな小娘の頭なんか一発で砕けてもおかしくないだろうに、顔が膨れ上がったぐらいで生きてるんだから」

子供の生命力と強化された兵士たちの手際の良さについて分析する“魔女” のを“粛清人” が冷たく遮った。

「ちょっと。 イライラするから話すのを止めて」

爪を噛み何か思案している。

「何を考えることがあるんだ。アタシ達のやるべきことは死守。 お前の旦那が騎兵隊を引き連れてやってくるまで持ちこたえればいいんだ」

超大国の特殊部隊が一夜泊まっただけの家の娘を、投降勧告の材料にしてきたのは好都合かもしれない。利用してやる。
“魔女” の考えはどこまでもリアリスティックだった。

「私たちがこの家に泊まらなければ、あの娘はあんな目に遭わなくてすんだかもしれない」
「お前が良い人振って、認識票をやらなけりゃ良かったのかもな」

自分の指摘に沈んでしまった“粛清人” に“魔女” は軽い口調で檄を飛ばした。

「オイオイ、しっかりしてくれよ粛清人さんよ。 お前が善人風吹かして、自分の死亡フラグを立てるのは勝手だが、傍にいるアタシが巻き添えを食うのはゴメンだぜ」

その言葉を聞くと、“粛清人” の表情から懊悩が消えた。
そして力強い足取りで部屋の出口へ向かっていく。 口は真一文字に結ばれていた。

「いい加減にしろよ。 こんな世界の最果てで痩せこけたガキ一匹の為に命を張ったところで、何になるっていうんだ」

仮にこれからの人生の残り全てを救済と贖罪に充てたところで、自分たちは救われない。
“魔女”は悟りきっていた。

「ふーん、あんたまだ救われたいとか思ってたわけ」
バカじゃないの。
“粛清人”の語気は痛烈だった。

「救うとか救われたいとかそんな気持ち、粛清人としての務めを初めて果たした時に捨ててしまったわ」
「じゃあどうしてこんなところで仏心が沸いてきたんだ」

自分は骨の随まで真っ黒に染まった悪党だ。
“粛清人”の言葉は“魔女”の心に何かを生み出し始めていた。

「真っ赤の間違いじゃねーのか。 お前がチカラでねじ曲げたりぶっ壊した人間が流した血でよぅ」
「流れたときは真っ赤でも、乾いた上に新しい犠牲者の血をどんどん塗り重ねていけばどす黒くなるものよ」
「何だ、わかってんじゃんかよ」

二人の悪党の視線が交錯する。

「悪党が世のルールや規範から外れているからって誰かの命を救っちゃいけないってことはないでしょう」
「ふん、悪だからこそテメーのやりたいようにやるってか」
ま、悪なりに筋は通ってちゃいるが。 “魔女”のつぶやきが耳に入った“粛清人”の目が細まる。

「だから行かせてもらうわよ。 魔法が使えない役立たずのあんたに手伝ってくれとは言わないから」

魔術な。
己の力の根源には厳格な“魔女”の訂正が入る。

「つーか、弾丸と食パンを取り違えるクソバカの分際でよくも、アタシのことを役立たずとか言ってくれたもんだな」

“魔女”が眦を上げて“粛清人”の傍に近づいた。

「だがテメーのその鼻っ柱の強さも、馬鹿っ面もきらいじゃないぜ」
「ちょっ」

何事にも動じない“粛清人”が動揺した。
“魔女”が自分の体に手を回し、頬と頬をすり寄せている。
あまりのことに呆然としている“粛清人”から体を離した“魔女”は、自分が身につけていた兵装を脱ぎ捨てるとアンダーウエアの上下姿になる。

「あんた何するつもりよ」
「ひょっとしたら期待させちまったか? 勘違いはするなよ」

“魔女”は“粛清人”が向かおうとしていた出口の前に立っていた。

「魔術なんか使えなくてもアタシが役に立つってことを見せてやるよ。
目一杯尻を振ってフェロモンを振りまいて野獣みたいな野郎どもを引きつけてやるからよ、テメーはそいつらに念力パンをたっぷり喰らわせてやれ」
「何でアンタがそんなことをするのよ」
「言っただろう、テメーの馬鹿っ面がきらいじゃないと。 それに何より好きなんだ、自分の命を賭けた博打を打つのがよ」

一瞬の沈黙、そして…。
「もし、もしも私が気が変わってあんたをオトリにして逃げようとしたら?」
「それはそれでそそっちまう状況だが、そうはならないぜ」

何故なら…。
「アタシら骨の髄まで真っ黒に染まった悪党はよ、間抜けな善人を騙すことはあっても、自分の決めたことは貫くもんだ」

ふん、“粛清人”の顔に本来の冷たい笑みが戻った、そして…。
「私のサイコブレッドは凄いわよ。 巻き添えを食ったら命の保証は出来ないから」

ゲハハ!
“魔女”の哄笑が響く。
そして部屋を出て行った。
ヘルプ、アイ・サレンダー、レイプ・ミーと惨めったらしい悲鳴を上げながら。
沸き起こる猥雑な男達の歓声、そして…。

空に雲、地に憎悪、悪党どもの心に弾丸。