『声を奪われたカナリア・空中散歩』


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2011/11/22(火) 更新分


「どこにいる!」

「探せ!まだ近くにいるはずだ!」

ダークネスの下っ端戦闘員が私を探す。
無機質で人工的な施設に、けたましく鳴り響く警報機。
混乱させるようにわざと念動力の遠隔操作でスプリンクラーのボタンを押す。

「何だ!?うわっ!冷たいっ!!」
戦闘員がスプリンクラーから発生する水を浴びてわめいている。
その隙に私は壁沿いに隠れて息をひそめた。

「そう簡単に捕まってたまるかよ」


ギターひとつだけを荷物にして私は施設居住区を駆け抜ける。
もう少しで出口だ。
今日、年長組が出張でいない、今がチャンスだ!

……と、思ったんだけど一番会いたくないヤツに会ってしまった。

「福ちゃん!」

「なっち……」
私は振り返らなかった。

「行かないで!もう二度と会えなくなるかもしれないんだよ!!」

嗚咽が混じってる。
泣いてるんだな……。
でも、
「もう決めたことなんだ。私はダークネスを抜ける」
「福ちゃん!行かないでよ!福ちゃん!!」

さよならだよ、なっち。

扉を開けた目の前に身の丈以上の壁がある。
こんなもん念動力を体中に込めてチカラを解放すればジャンプで飛び越えられるさ!

「なんや。ネズミが一匹逃げてるみたいやなあ」

着地した場所に、裕ちゃんと、彩っぺ!?
何で!?
「あんたには死ぬことよりも苦しむ恐怖を与えてあげる」
妖しく笑う彩っぺ。
「あんたが昨日から脱走する計画立ててたんは、こっちにはお見通しやで」

ちっ!
どうあっても私を逃がさないつもりだ。
こうなったら自己解放を全開にして二人を倒すしかない!
私は胸に手を当てて呼吸を整える。
手にチカラを込める。
心臓が脈打った。

今だ!!

ドウッ!!

私を中心として大気が拡散する。
その隙に私は二人を振り切って逃げる。


「バイバイ」

私が隙を見せてしまったのがダメだった。
彩っぺは死ぬことよりも苦しむ恐怖を私に与えると言っていた。
裕ちゃんがにやつきながらチカラを溜めている。
それを私の喉に向けて放った!
よ、よけられない!?

「これで自由になったと思ったら大間違いや!!組織のこともこれで口外できんでえ!!」
「な、何を!?」
胸が苦しい!!
喉も締め付けられるように痛い!!

「う、うわあああぁぁ………」

声を封じられる前、最後に喋れたのは自分の叫び声だった。

あれから12年が経った。

ダークネス襲来の時、私は自力で封じられた声を解放した。
その後、不本意ながらもリゾナンターと交流して、新垣里沙が、なっちまで連れてきた。
その時に私がこれからも普通の生活をおくれるように私の戦うチカラを封印したんだ。

ダークネス脱走後、声を封じられても何とか私とコミュニケーションを取ろうとして諦めなかった人達がいた。
私は、その時は中学生で、まだ、なっちにチカラを封印される前だから、もちろん念動力は健在だった。
いつバレるのかハラハラしながら付き合うのも、めんどくさいから始めは無視をしたり筆談もしなくて冷たくあしらったんだけど、ヨリコと吉岡ちゃんだけは、そばにいてくれた。


そもそもヨリコの歌声がいけないんだ……。
学校の屋上で歌っていた彼女の声を私は天使の歌声だと感じたんだ。
ただのお気楽なヤツだなって思ったけど違ったんだ。ホントは、強くて優しくて厳しさを合わせ持つ、ちょっと体が弱い普通の女の子だったんだ。

そんな彼女はまた病気が再発しないように毎週月曜日に注射や点滴、検査の予約を取って私が月曜日休みだから会いたいと言って今度の注射は今までで一番痛いから連れて行ってくれ!と毎回言うのだ。

はあ、今日も来るだろうなあ……。
昨日、お客さんが帰ったのは深夜2時くらいだったから寝たの深夜3時くらいなんだ。
おまけに二日酔い。
今日は寝かせてくれよ、ヨリコ。

「明日香ちゃーん!起きてー!」

玄関から声がする。
寝たふり、寝たふり。
うん。今日は寝たふりをしよう。

          ◇          ◇          ◇

2011/11/24(木) 更新分


階段を上がってくる音がする。
ヨリコだな。
ヨウヘイ起きてたのかよ。
それで私の部屋へ行かせたんだ。

ガチャ

ドアを開ける音がする。
ノックもなし!?

「まだ寝てる。もう8時だよ。病院開くし吉岡ちゃんも来ちゃうよ。明日香ちゃーん朝ご飯作って~」

毎週毎週、飽きずによく来るなあ。
私が休みなのを分かっている二人だから、わざと朝ご飯を抜いてウチでタダ飯を食って病院、出勤かよ。
作る身にもなってくれ。
寝たふり、寝たふり……。

「あっ!新しいCDだ!この間来た時はなかったのに!かけていい?かけていいよね」
コンポの電源が入る音がする。
また人の部屋を漁ってるな。
「スイッチオン!」
マジでかけやがった。

「~~~♪♪」

ん?
CDに合わせて歌っているのか……。
やっぱりキレイで透き通った声だな……。
ギターの弾き語り?
って、勝手に弾くなよ!

「明日香ちゃん。この子埃被ってて弦も取り替えてなくてかわいそう。泣いてるよ、この子……」

ヨリコは楽器の気持ちや性別を見ただけで、ふれただけで判断できるんだ。
それに一度聞いただけでコピーできる彼女は、やっぱり、才能があるな……。

しばらくすると音がやんだ。
これでゆっくり寝られる、と思ったんだけど……。

「うわあっ!」


いきなりヨリコがうつ伏せになっている私の上に乗っかって来た!
「やっぱり明日香ちゃん狸寝入りだったんだ」
「重い、離れろ!」
ヨリコを押し返そうとしてもチカラが入らない。
くそっ、なっちめ。
格闘技術も封印したのもマジだったんだな。
「起きてよー」
ヨリコが私のパジャマを引っ張りながら胸もとを覗きこむ。
彼女のショートに切りそろえた髪が私の頬にかかる。

「近い!近い…!ってか見るなよ!」

は・な・れ・ろ~!

突き飛ばしたら彼女が怪我をしてしまうし手は出せない。
ちくしょう!

「明日香ちゃん……」
「何?」
わざと、ぶっきらぼうに答える。

「まだノーブラで寝てるの?」

彼女がニヤリと笑う。
「み、見たな!!」
もう私の頭の中は羞恥心でいっぱいだ。
「明日香ちゃん顔まっか~」
「ううう、うるさい!」
ノーブラだろうが何だろうが、ほっといてくれ!
子供の時はマッパで寝てたけど、さすがにこの年だとマッパはまずい。
せめて寝る時くらいは開放感に満ちていたいからノーブラなわけで……。
風呂もわざわざ開放感を求めて銭湯に行くくらいだし……。

って、また誰かが上がってくる!?
きっと吉岡ちゃんだ。
待っているのに痺れを切らして上がって来たんだ。
今の状況じゃ変に誤解される!!

「明日香~」


ヤバい!
ドアの向こうから声がする。
今の私はベッドに仰向けになって、その目の前にヨリコがいる!

「いい加減、降りてよ!」

「明日香ちゃん巨乳だ~」

どうでもいいし、そんなこと!!
早く降り……。

ガチャ

「明日香、朝ご飯は……」


私は固まってしまった。
この状態をバッチリ出勤用の服でキメて来た吉岡ちゃんに見られたのだから……。
それを見た彼女は、

「ごゆっくり」

とニヤリと笑いながら言った後、階段を降りて行った。
「違う!何がごゆっくりなの!?変な誤解するなー!!」
私は乱れたパジャマを直しながらヨリコをひっぺがえし、ベッドを降りた。
ヨリコが不服そうな顔をしている。
朝から、頭痛い……。
思わず俯いて額を支えてしまう。
「着替えるから、出て」
「ご飯は?」
そんなに食べたいのか。
「明日香ちゃんのご飯おいしいもん」
彼女は笑って言った。
この笑顔に弱いのか、私は……。

「……紅茶、三人分用意してて待ってろ」

私の今の反応を見たヨリコは私に微笑み返した後、階段を降りて行った。


おいしいから私のご飯が食べたい、か……。

組織にいた時は今みたいな感情は余り沸かなかったな。
何かこう、くすぐったくて、こそばゆいような、あったかいけど変にイライラする……。
だけど、嫌な気分じゃないな。
愛おしくて、守りたいとさえ思う。

守る?

誰を?何を?

『ええか自分。一番年下やからゆうて規則を守らんでええゆうんは甘えやからな!』

『サイコキネシスを持っているのがあいつだけだってよ』

『まだ12歳だよ。私達、バカにされてない?』

『ツートップだからチヤホヤしてやったのに』

『お前は組織を守るだけの駒なんだよ』

違う。


『お前は安倍と組め。小さい同士でええやんか』

私は人形じゃない……。
おもちゃじゃない。

金に目のくらんだ大人のオモチャじゃない!!


「……はっ!」
思いつめたまま壁に拳を殴りつけた痛みで自分は今、着替えている途中だったのだと気がついた。

私は自分が恐ろしくなった。彼女達との触れ合いで得た、あたたかい気持ちが一瞬で過去に組織であった確執によって、憎しみに支配されてしまうなんて……。

守りたいなんて思い上がりもいいところだ。
安らぎをくれて守られていたのは自分の方ではないか。
もしも彼女達が傷付けられたら私はどうなってしまうのか?

「明日香~」

下から私を呼ぶ声がする。今、行くからと返事をして私はジャケットを羽織り、複雑な気持ちを抱きながら階段を降りた。

          ◇          ◇          ◇

2011/11/26(土) 更新分


着替えて三人でご飯を食べた後、私はヨリコの付き添いで公園の前にある総合病院に行った。
予定通り注射と主治医の診察が終わった。
後はお金を払うだけだ。
私は会計で並んでいるヨリコと患者さん達を座ってぼんやり眺めていた。
すると、そこに見知った顔があった。
あれは、亀井さん?

彼女も、こちらに気付いたようだ。
私を見つけるとニコリと笑った後、彼女の後ろにはまだ会計を待っている患者さんを見た亀井さんは焦ったのか、お金を払った時、診察券を落としてしまった。
後ろにいた患者さんはイライラしているように見える。
もたもたしているのが気に入らないんだろう。
見かねた私は彼女に近づいて落ちていた診察券を拾って彼女に渡した。


「あ、ありがとうございます」

彼女は私と患者さん達に頭を下げてペコペコしながら逃げるように私の後ろについて来た。

「大丈夫?」
私は努めて穏やかに言った。
「大丈夫です。もうすぐ友達も来ますから。明日香さんも、どこか具合が悪いのですか?」
「私は友達の付き添い。友達は一緒にいないの?」
「薬を貰いに行ってくれてて、もうすぐ戻ってくると思うんですけど……」
亀井さんが何かを言いかけた時、ここは病院だというのに正門の自動ドアから私達に向かって走ってくる女の子がいた。
なぜか私を睨みながら。

「れーな!」

亀井さんが驚きと感嘆が混じったように叫ぶ。
れーな(?)さんは一気に私に詰め寄って啖呵を切るように言い放った。

「あんた!ダークネスっちゃね!?」

えっ!?
何だよ突然。確かこの子はリゾナントの店先で掃除をしていた子だった。
彼女もリゾナンターの一人だったのだ。
私のチカラは封印されているのにリゾナンターに感づけられたのは私の中にはまだ闇が住み着いているからなのか?
とにかく、ここは病院だ。どうにかしてれーなさんを落ち着かせないといけない。
「明日香ちゃん?」
ヨリコが会計から帰って来た!
ああ、ややこしい事になってきた。
ヨリコには私が過去に悪の組織にいたこと、超能力があることは12年間、隠し通してきている。

「あんた絵里に何かしたっちゃろ!?れなの野生の感は当たるけんね!あんたがダークネスだってことぐらい!!」
そう言った彼女はいきなり私にパンチを繰り出した。
チカラを封印されている私がリゾナンターのパンチを喰らったらひとたまりもないので、とっさに避けた。
「だから私はダークネスじゃないって!!」
野生の感、当たっているのかもね……。
正確には『元』だけれど、今はダークネスじゃない。

「れーなっ!!明日香さんは私を助けてくれたんだよ!?」
亀井さんの言うことにも聞く耳を持たず、れーなさんは私を睨み付ける。
いい加減、私も腹が立ってきた。
病院で暴れた挙げ句、言いがかりを付けやがって…。右手の握り拳に思わず力が入る。
「だめだよ明日香ちゃん!」
怒りで震えている私を見て察したのか、ヨリコは私の右手を両手で包み込んだ。

「ヨリコ……」

さっきまでの荒々しい感情が消えていき心が穏やかになっていく。
私は一つ、ため息をついた。
「場所を変えよう。ここは病院だ」

私達は、その場に重苦しい空気を残して病院を後にした。

          ◇          ◇          ◇

2011/11/27(日) 更新分


私達は病院を出た後、無言のまま、通りをひとつ越えた公園に向かった。
等間隔に設置された照明やベンチが綺麗に整備されている。
ベンチにヨリコと亀井さんを座らせたら、れーなさんは相変わらず私を睨んでいる。
今にも一触即発が起きそうな雰囲気だ。
ヨリコは訳も分からなくて睨み合う私達に戸惑っているようだ。
亀井さんは、れーなさんを止めようとオロオロしながら何かを耳打ちしている。

すると、れーなさんは鼻で笑って言い放った。
「れなは信じんけんね。あんたがダークネスを辞めとぅ言うん」
「だからダークネスじゃないってさっきから言っている」
私は怒りを含めて言った。「まだ嘘付くんか!!」
また、れーなさんは亀井さんを振り切って私にパンチを喰らわそうとする。
ヤバい!いきなりだったから避けられない!?
私は、よろけてしまい、尻餅をついた。
このままじゃ顔面パンチを喰らってしまう!
思わず目を瞑った。


しかし私の前を何かが横切った。

あれ?痛くない??

恐る恐る目を開けてみる。
ヨリコだ!
バカ!何やっているんだ。あんたがケガをしたら大変じゃないか!
ケガをしたら、これまでしてきた再発防止の診察が無駄になってしまう。
だが、パンチは彼女を仕留めていなかった。
れーなさんは相手が私じゃないと感じたのかギリギリ寸止めだった。
れーなさんは拳を震わせてゆっくりおろした。

すると、ヨリコがキッ!
と、れーなさんを見据えて言った。

「あなた病院でもそうだったけど、どうしていきなり人を殴ろうとするの!?
明日香ちゃんがあなたに何かしたの!?
何かをしたとしても力で解決しようとしちゃダメ!!
あなたが無駄に振るった暴力でどれだけの人が嫌な思いをしたか分からないから、また明日香ちゃんを殴ろうとしたんでしょ!?」

「……れな達には特別なチカラがあって、あんたみたいな普通の人はダークネスとは……」

「普通って何!?
さっきからあなたが言ってるチカラやダークネスって何!?
明日香ちゃんに関係があるの!?
そもそも普通とか普通じゃないってだけで人を判断するのが間違ってる!!
私と亀井さんは、あの病院に通院しなければいけないの。
そこであなたが暴力を振るったら私達はどうなるの!?
あなた亀井さんの友達なら友達の立場になって考えて行動しなさいよ!!」

「れいな……」
亀井さんが心配そうに、れいなさんに寄り添う。
ヨリコの剣幕に押されたのか、れいなさんは借りてきた猫のようにうなだれていた。
「私は自分の体のことは可哀想とは思わない。
人にも思わせないようにしている。
私は生まれた時と今、神様に二回も生き返らせてもらったの。
逆に感謝しなくちゃ。
普通って何?何が基準なの?誰かに決めて貰うものなの?自分で決めなきゃいけない事じゃない…」

「…………」
れいなさんは、ずっと沈んだままだ。

「例えば嫌な奴がいたら、その嫌な奴が悪いのではなくて、自分が冷たくしているから、その人は嫌な態度を取っているんだよ。
でもね、その一面はその人の単なる一面にすぎなくて、嫌な奴というのは、嫌な面を持った人間なのであって決して悪人ではないと思うの。
だから嫌な奴がいたら、その人の嫌な面だけで接せられることがないように、その人に対する自分の態度を改める必要があるの」


ヨリコが一通り喋ると、れいなさんは仏頂面のまま言った言葉は……。

「疑って、巻き込んで悪かったとよ……」

亀井さんは私にお辞儀をしてから、れいなさんと公園を出て行った。

ヨリコが尻餅をついた私を優しく起こしてくれた。
「明日香ちゃん大丈夫?」
「うん……」

気分が晴れない。
きっと聞かれるであろう予感がする。
公園の出口に向かう私達。

「明日香ちゃん、時々、苦しそうな顔をするよね……」
「そんなことないよ……」
「嘘だ!!」
「だから何?」
「ダークネスって何?チカラって何!?さっきの明日香ちゃん苦しそうだったよ!」
やっぱり聞いてきた。

「あんたには関係ない」

私は吐き捨てるように言った。もうバレちゃったかなあ……。隠し通せてたと思ったんだけどなあ……。

「だから私は心配……」

「うるさい!!」

「!!」

後ろからヨリコの足音が聞こえなくなった。
「ごめん、誰にだって言いたくないことくらい、あるよね…。私もそうだったから…。ごめん、ごめんね……」
「ヨリコ!!」
私が振り向いた時には、もう彼女が走り去った後だった。
「くそっ!!」
私、最低だ……。
彼女は私を心配してくれたのに。
でも、組織のことを知られてしまった以上……。

『追いかけないの?』
「!?」
急に声が聞こえてきて私は周りを見回す。
『明日香、追いかけないの?』
「なっち!?」
何だよ、見てたのかよ!
見てたなら何で今まで話しかけてこなかったんだよ!?
『彼女、追いかけないの?』
「……ちっ!」
私はやりきれない思いを噛み締めていた。
『彼女、大事なんじゃなかったの?』
ああ!もう!!
私が一人で苛立っているとヨリコが去って行った方向から悲鳴があった。
『明日香……』
「ああもう!分かった、分かった、分かりました!
行けばいいんだろ!?行けば!!」

私は公園を出て、悲鳴があった方を目指し風を切って走り抜けた。

          ◇          ◇          ◇

2011/11/30(水) 更新分


―――走る!

―――走る!

風を切って走る!

彼女の悲鳴を聞いた私は後悔した。
とうとう彼女を巻き込んでしまった。
巻き込みたくなくて秘密にしてたのに……。
違う。
自分が嫌われたくなかっただけなんだ。
嘘をついているのは仕方ないと思っていた。
そんなの大義名分だ。
結局、結局私は…

私は、ウソつきなんだ!!

表参道を歩いている人に聞いてみる。

この辺りで悲鳴?
地下の方から?

地下がある場所で、この辺りならホテルがある。
ホテルの地下?
そうか!駐車場だ!
ヨリコはホテルの駐車場に連れていかれたんだ!

くそっ!チカラがあったらダークネスの気配は感じられるのに!

私は全力で階段を駆けおりて周囲に注意を払いながらヨリコを探した。

「来ちゃだめ!」
ヨリコの声に振り向くと、拳銃を構えた黒服のスーツを着た男が立っていた。
かたわらには、手を後ろに縛られたヨリコが立っている。
拳銃の轟音がコンクリートの壁に響き渡った。

「彼女を、離せ……」
私は怒りを込めて最も低い声で言った。
今、彼女がケガをしたら大変だ。
せっかく再発しないで四年目なのに……。
後、一年再発しなければ完治なのに……。

彼女に激しい格闘技を見せてはいけない。
念動力なんてもっての他だ。
私が普通じゃないってことがバレてしまう。

でも、彼女を助けたい。

彼女を傷付けてしまった。
私がついた嘘によって。

「彼女を、離せ……」
何もチカラのない私だけど前に進むしかない。
「止まれ!止まらんと撃つぞ!」
男はヨリコの首に腕を巻き付ける。
「近づいたらこの女の首をへし折るぞ!」

「彼女を、離せ……」

「お願い!明日香ちゃんだけでも逃げて!」

ばかヨリコ。こんな時にまで人の心配かよ…。
私は許せないんだ。
12年も、あんたに嘘をついていた自分に。
だからせめて、あんたを助けて、ずっと好きな音楽をやらせてあげたいんだ。


「お前のような裏切り者では、俺に勝つことはできん」
男がヨリコの首を絞め始めた。
「やめろ!離せ!」
「明日香ちゃん逃げて!」

その叫びと同時に男は私に向けて銃を一発撃ち込んだ。
私は立ったままの姿勢で前に倒れ込んだ。

「いやぁー!!」

ヨリコの悲鳴が上がった。私の体が血で真っ赤に染まっていく。

「私のせいだ。私が明日香ちゃんの気持ちを考えてなかったから……」

ヨリコ……。泣いてるの?少し顔を上げると彼女の丸い瞳からポロポロ涙が零れている。
泣くなよ……。
ウソツキな私のために泣くなよ。

「お前、何も知らないのか?」
男が口元に笑みを浮かべながらヨリコに言った。
「???」
ヨリコは、キョトンとしている。
やめろ、言うな…。

「この女の正体は……」
私の反応を見たのか男は更に、にやついている。

「俺と同じ……」

やめろ……。

「聞くな!聞くなヨリコ!」
「明日香ちゃん?」

「世界の破壊を任務とする殺し屋、超能力暗殺組織、ダークネスの一人だ!」

「聞くなーーーっ!!」
地面に這いつくばりながら私は力の限り叫んだ。

          ◇          ◇          ◇

2011/12/02(金) 更新分


男が私にお構いなしにヨリコと私を追い詰めるように言い続ける。
何もできない自分が悔しい。
チカラがあれば、あんなやつ、ぶっ飛ばしてやるのに。
「この女はオリジナルメンバーの中で最強の能力を持ったヤツだ。そして我がダークネスの創始者の一人だ。当時ガキだったにも関わらず、この女は幹部だったのさ」

「………」

明日香ちゃん、ずっと黙ってる。

「本当、なの?」

「………」

明日香ちゃんは悲しそうな瞳のまま苦しんでる。

明日香ちゃんが時々苦しそうな顔をしてたのは、このことを隠すためだったんだね。


「幹部という待遇を受けながらも、その女は14才の時に組織を脱走したんだ。だが、ただ脱走させるのは危険と感じた創始者の5人のうちの一人は、この女の声を封じたのさ。組織のことを口外しないように」

明日香ちゃん、それで歌えなかったの?中学生の時、私達を無視をしていたのは喋れなかったから?
私はこの時、病気が再発していなかったから元気だったけど再発防止の通院が多くてクラスに馴染めないで引きこもってたんだ…。
それでも明日香ちゃんは、私を外の世界に連れて行ってくれて沢山の音が聞こえることや出会いを教えてくれたよね。

「この女はお前に嘘をついていたのさ。嘘をついたら誰も信じてくれない罰が待っている。さらに、こいつには誰も信じられなくなる罰が待っているんだ」

男は喋り続ける。
確かにその通りだよ。
私はヨリコや家族、吉岡ちゃんにも嘘をつきながら付き合っていたんだ。
だから組織を出た後は誰とも深く付き合わないって決め込んでいたんだ。
バチが当たったのさ。
おかげでこのザマだ。
裏切ったのも巻き込んだのも自分。
でも惚れちゃったんだ。
天使の歌声のヨリコに。

(なっち…)

私は心の中で、なっちに話しかける。
(なっち、見てるんでしょ?)
『………』
(あんたが封印したチカラを解放してほしい)
『……解放したら、もっと明日香が傷つくだけだよ』
(今でもじゅうぶん傷ついてるさ。自業自得だよ)
『チカラが戻ったら彼女と普通の生活がおくれなくなるよ』
(それでもいい)
『………』
(やっとできたんだ。自分以外に守りたいものが)
『本気なの?』
(彼女を助けたい。助けたからといって自分の嘘が無くなるワケじゃない。もう覚悟は出来ている。チカラを使ったら別れる覚悟も。だからチカラを解放してほしい)
『わかったよ…。ホントに明日香は頑固だねえ』

(ごめん)
『謝る相手が間違ってるよ』
(うん…)
やっぱりなっちの方がお姉ちゃんなんだな。
私は昔から想定内のことだったら冷静でいられるけど想定外のことだったら、どうしたらいいかわからなくなる時がある。
その点、なっちはどんな土壇場でもネガティブにはならないんだ。
「さっきの威勢はどうした?もうくたばっちまったのか?」
男が私に銃を向ける。
引き金が引かれる音がする。
撃たれるっ!!

その瞬間、私は「チカラ」を発動させていた。
身体の中から湧き上がるような熱いもの。
なぜかしだいに撃たれたケガも治っている。
サービス良すぎだよ。
……なっち。
私はゆっくり立ち上がりながら男を睨みつけた。
そして全身にオーラとしてまとわりつかせ、一気に鋭い波動となって放出させた。
その時、周りに停まっていた車たちが私の念動力によってバラバラに砕かれていた。
「もう一度、言う」
私は低い声で言った。
「彼女を離せ。消されたくなかったらな」

          ◇          ◇          ◇

2011/12/03(土) 更新分


『なっちはいつでも明日香を見守っているよ』

思えば、なっちの心の声が聞こえだしたのは封印されてから、病院でライブが終わった後くらいだった。
どうして急に聞こえるようになったかは分からないけれど聞こえた時の共通点は私が未来に希望を持った時だ。
今の私は自分のチカラを受け入れて前に進めってことなのだろうか。

チカラが湧いてくる。
もう、胸の辺りがモヤモヤしていない。
久しぶりだ。
この感じ。

目の前の男は私が近づくたびに右手に持っている拳銃が震えている。
ダークネスはタカをくくったのだろう。
私にチカラがないと判断したダークネスは何のチカラもない下っ端戦闘員を寄越したんだ。
だからヨリコを人質に取って私に仕返しをしようってことか。
舐めやがって……。

男はヨリコに拳銃を向けた。
引き金を引くよりも先に私は男に近づくと鳩尾に鋭い膝蹴りを一発。
「ぐっ…」
確実に急所に入れた。
男がよろめき、ヨリコが男から離れる。
今がチャンスだ!
私は彼女を抱き抱えて、ここから少し離れた柱に移動して、背中を預けられるように体を休ませてあげた。

「ごめん。関係ないのに巻き込んで」
縛られている紐を解いてあげた。
手首に紐の絞め跡が残っているのを見た私はダークネスに怒りを感じた。
「すぐ終わるから休んでて」

なるべく優しい自分を出して彼女の頭を撫でた。
ごめん、ごめんね。
ずっと騙していてごめん。

再び私は男に近づいて回し蹴りをソイツの顎へクリーンヒットさせた。
「おん…なっ…」
巨大が背中から床に落ち、その振動で私の身体が軽く弾む。
それきりだった。
ソイツは脳震盪を起こして目を開いたまま気を失った。
男の手元には拳銃が転がっている。
もちろん、このチャンスを逃すわけがない私は拳銃を手に取ると、ソイツを見下ろすように立ち、引き金を―――。

「明日香ちゃんダメっ!」

ヨリコ?
何を言ってるんだ?
コイツはあんたを殺そうとしたんだよ?
殺って何が悪い。
「人を殺しちゃダメだよ!明日香ちゃんに人殺しになんてなってほしくないよ!その人には家族がいるかもしれないんだよ?自分だけの体じゃないんだよ?」


彼女がよろめきながら私を止めに来る。
「でも、殺らなきゃ殺られる。あんたも見たでしょ?私は普通の人間じゃない。バケモノなんだ。もう私に近づいては……」

パンッ!!

私が言い終える前に彼女の平手打ちが飛んだ。
思わず頬をおさえる。
避けられなかった。
どうして?
「バカバカバカ!!私はそんなに弱くないよ!明日香ちゃんの弱虫ー!!うわあーん!!」
私は、どこかで聞いた台詞だと思った。
だけど思い出せなかった。
ヨリコは私の胸に顔を埋めて泣き叫んだ。

          ◇          ◇        ◇

2011/12/04(日) 更新分


彼女に知られてしまった。
私の秘密が。
彼女を助けた後、あれからまた彼女は部屋に引きこもっているらしい。
吉岡ちゃんがヨリコに電話をしても泣いてばかりだそうだ。
電話をしても泣いてばかりだから吉岡ちゃんは私に連絡を寄越したのだ。
私に寄越しても彼女を泣かせた原因は私なのに、どうしろと?
いつまでも泣いていたら声が枯れてしまう。
もうすぐクリスマスコンサートがあって、彼女の歌声を待っている人がいるのにこのままだとスケジュールがパアだ。
彼女にはまだマネージャーがいない。
今までのライブは私達がライブ先に許可を得て演奏していたんだ。
だけど今回は彼女のソロだ。
彼女の変わりはいないのだ。
……仕方ない。
彼女の家まで行ってこよう。
普通に行くだけじゃ元気が出ないだろうから、ちょっと趣向を変えてチカラを使って行こう。

念動力を応用すれば、ほんの少しだけ空が飛べる。
でも自己解放を使わないと、あっという間に力尽きてしまうから注意が必要だ。
だから余程のことでないと使いたくないんだ…。


まずは夜を待とう。
きっと空から見下ろす繁華街のイルミネーションは、とても綺麗だろうから。
空は地上よりも寒いだろうから厚着をして私と彼女の分のマフラーとマスクも準備しておこう。
マスクは大事。
歌手は喉が命だからさ。

彼女の家に着いた。
普通に玄関から入ると追い返されそうだから二階が見える場所まで移動する。
厚着でマスクをした私。
これじゃあ、怪しいヤツじゃないか。
周りを見回す。意識を集中する。
うん。ダークネスもいないな。
よし。意識を集中してオーラを纏わせる。
浮いた。
この調子で二階まで上がる。
彼女の部屋だ。
ヨリコは?
パソコンと電子ピアノの電源を付けっぱなしのまま彼女は机の上にうつ伏せになっている。
まだ泣いてるのか?
私はベランダに降りて二階の窓を軽く叩いた。

彼女が顔を上げた。
その瞳には涙が溜まっている。
しかし彼女は目の前にいるのが私だと気付いた途端、固まってしまった。
それはそうだろう。
人間がいきなり空を飛んで来たうえに不法侵入に近いのだから。
私はマスクとマフラーを外した。
これで分かってくれるはず。
彼女は慌てて椅子から降りて窓の鍵を開けた。

「あ、あ、明日香ちゃん!?」
「ごめん。こうでもしないと会ってくれないだろうと思って」
彼女はポカンとしている。ここで引かれると困る。
私は、そんな性分じゃないけど強引に彼女にマスクと上着、マフラーを渡す。
「今すぐ着て。外は寒いから」
「えっ!?」
「いいから、それと、絶対下は見るなよ?」
「???」
防寒をした彼女を、ぐいっと引っ張り、手を繋ぐ。
意識を集中する。
胸に手を当てる。
呼吸を整えて自己解放を最大までに引き上げる。
心臓が、どくん!と脈打った。
今だ!

          ◇          ◇         ◇

2011/12/04(日) 更新分


私は始めて戦い以外でチカラを使う。
自分の持つチカラを限界まで引き出す。
二人分だ。
子供の時の私なら、こんなリスクのあることなんかしなかった。
心を何重も分厚い壁で覆っていたヨロイのようだった過去の私。
水がコオリになって、そのひび割れそうなコオリを守るためにずっとヨロイで覆っていた私の心。
それをとかしたのは、ちょっと体が弱い、どこにでもいる普通の女の子だった。心の扉を開ける鍵をくれたのは、なっち。
開けた心をとかしたのは彼女。
血でけがれた自分。
よごれた空気の都会。
キレイな空気の空。
空を求めて今、ふたりきり。
眩しいほどのイルミネーション。
それが不安になる時もある。
「下を見ても、あんたは平気なの?」
「うわあ!すごい!すごいよ!キレイ!何これ!?」
今の彼女には、すっかり涙はなかった。
「ばか!あんまりはしゃぐな!チカラのバランスが取れなくなる!」
「すごい!私達、空を飛んでるんだね?キレイな音も聞こえるよ!舞空術だ!ドラゴンボ○ルみたい!ねぇゴクウみたいに瞬間移動はできないの?」
「アレは漫画だ。これが私の限界なんだって」
高橋愛じゃあるまいし瞬間移動なんて無理だ。
「じゃあスーパーサイヤ人にはなれないの?」
「だから漫画だと言っている」
まったく、彼女の漫画好きにはまいるよ。
まあ、私達の超能力自体が非現実的なんだけどね。

地上にいるよりも空にいる時の方が空気がキレイで気持ちいい。
もっと空で一緒に笑っていたかったけど…。


ヤバい…。
冷や汗が出てきた。
しだいに息も荒くなり、肩で息をしている。
「明日香ちゃん?」
二人分だから無理もない。
「ヨリコ、もう、限界、かも」
「あ、明日香ちゃん!?」
「手を離すなよ…。今から降りるから」
荒い息を吐きながら彼女はだけはしっかり支えて二階のベランダに戻った。
着いた途端、安堵と共に、がくりと膝を床に着いた。
「明日香ちゃん!!」
「はあ、はあっ……」
封印解いてから間もないし、こんなに使ったの久しぶりだからかな。
「明日香ちゃん、ごめん、ごめんね…」
やっと笑顔になったと思ったのに、また泣き出して…。
「私のせいで明日香ちゃんが…」
ったく。
「泣くなよ…。これじゃあ私が今やったことが意味ないじゃんか…。ただチカラを使いすぎただけだよ。心配するなって」
私は彼女の涙を拭う。
彼女を抱き寄せて頭を撫でる。
「クリスマスコンサート、やれそう?」
「うん、でも……」
どうにも歯切れが悪い。
私、以外の問題もあるのだろうか?
「何かあったの?」
「………」
私がゆっくり彼女にたずねると彼女はポケットから何枚かの名刺を出して見せた。
「私達が、歌っていたところを聞いた人からの事務所の名刺なの。でも、どれも私は、しっくりこなくて全部断ったんだ」
彼女に名刺を見せて貰った。
中には今、プロで活躍している事務所やライブハウスメインで活動する事務所があった。
こんなにも彼女の歌声に魅了された人がいるのか。
私もその中の一人だけど。

ん?この事務所は…。
所属タレント『AYA』
アヤ?彩っぺじゃないよね。
ダークネスに氷の魔女とサイボーグAYAがいるとは聞いたことがある。
魔女とAYA、あっ!
ちくしょう!こんなところにまでダークネスの魔の手がのびてきているのか!
AYAは魔女の親友と聞いたことがある。
くそっ!
ダークネスめ!彼女のことを何も考えずに誘ったんだな!
私のせいだ、私がヨリコをダークネスに巻き込んだからだ!!
このままだと、また彼女が巻き込まれてしまう。
巻き込まれた時、守ってやれる人がいないかもしれない。
うーん。
「明日香ちゃん?」
よし!決めたよ!
私は…。
「ヨリコ」
「???」
いつになく真剣に話す私を見て驚いているのだろう。
「決めたよ。ヨリコ。
私は…私は…。私がヨリコのマネージャーになるよ!!」

          ◇          ◇           ◇

2011/12/07(水) 更新分(最終回)


今思えば、中学生の時に私をいじめていた人達は、ダークネスで暗殺部隊だった私かもしれない。
自分が人に悪いことをすれば、いつか必ず自分に返ってくるなんて思いもしないで女、子供問わず任務のために殺していた私。
人は自分の鏡。
外界との接触を拒み、自分の音楽だけに引きこもっていたヨリコはヨロイの心を持っていた私。
そんな彼女を前にした私は彼女の心ではなくて自分の心を解き放ちたかったのかもしれない。
ダークネスにいた時は心の扉を開ける鍵をくれた人に感謝もしないで、そこから飛び出した私。
勝手なのは私の方だ。
なっちが勝手なのではない。
自分の新しい心の一面を発見するたびに、それが何か分からなくて苛立っていた自分を、なっちは勝手だと責任転嫁していただけだったんだ。
それらを逆恨みした人達が私やヨリコを狙ってるんだ。

554 名前:名無し募集中。 。 。[] 投稿日:2011/12/07(水) 03:12:00.20 O
人の幸せを壊すのが、ダークネスだからね。
私がダークネスに対してどう思っていようと彼らには関係ない。
裏切り者には死を、だ。

私に逆恨みするのは仕方ない。
だけどダークネスとは無関係な一般人を巻き込むのは許せない。
でも自分が蒔いた種だ。
私が今もダークネスと戦っていたり、ヨリコのマネージャーになったのは、これからチカラを乱用しないための自分への戒め、巻き込んだ人達への償い。

私は彼女から与えられてばかりだけど、自分は誰かに何かを与えたことがあっただろうか?

「ねぇ、また考え事?」
私は彼女の声で現実に戻った。
いけない。今は彼女の始めてのテレビ収録だ。
私はマネージャーとして彼女が歌うスタジオの舞台裏にいる。
「ごめん。でもどうして私が考え事をしてるって分かったの?」

私の表情はサングラスをしていて見えないはずなのに。
「明日香ちゃんから難しそうな声が聞こえたの」
「大丈夫。心配しないで。歌う事に集中して」
「うん……」

私が、なぜサングラスをしているかというとマネージャーの私が彼女よりも目立ってはいけないという理由もあるが、彼女が言うには私の『目』が初対面の人にまで印象に残ってしまい、忘れられなくなる人もいるから嫌だと彼女からサングラスを提供された。
私は彼女の体調やスケジュールを管理する身。
人に対しても自分に対しても正直でいなければ良い仕事は入ってこないし彼女も歌わないだろう。
このサングラスは自称、
『正直者にだけ色が見えるサングラス』だ、と彼女に言うと笑われてしまった。

「明日香ちゃん…」
「ん?」
俯いている彼女からは、いつも楽しそうに歌っている生気が感じられない。
「何か、あった?」
「私の番、あややさん、じゃなくて、AYAさんの次だよね」
「うん」
あややさん、というのは、この業界の誰かが名付けたAYAの通称だ。
名刺の件以来、彼女とは何もないはずだけど、私は彼女に何かあったのか心配になった。
あややさん、いや、AYAは私が抜けた後に入ったダークネスの幹部だから、また彼女に近づいたのか心配になった。
「大丈夫。私がついてる」

彼女は少しびっくりした顔で私を見つめた。
自分でも驚いている。
殺人マシーンだった私が彼女と出会って誰かを守りたいなんて思う感情が生まれたなんて。
そうこうしているうちに彼女の番が来た。
ライトアップされたスタジオで彼女とAYAがすれ違う。

私は見逃さなかった。
AYAが彼女に妖しく微笑んだのを。
それと同時にAYAから今まで感じたことがないくらいの大きな闇の気配を感じた。
AYAが私の前で止まった。一波乱があるかないかの疑問が生まれた私はサングラスを外して、長い髪を一つにまとめた。
チカラを乱用しないように制御装置でもある革の手袋をポケットから出して履く。
私はAYAを睨みながら戦闘体制を取った。
「そんな怖い顔をしないでよ」
作り物のような笑顔のAYA。
「彼女に何をする気?」
「今は様子見」
いったい何を企んでいる?
「音楽を悪いことに使うな」

いくら彼女が一般人でも楽器の性格が分かるくらい繊細なのであればAYAとすれ違った彼女が不安な顔をしていたのも納得出来る。

「あなたが惚れた天使の歌声をアクマに変えちゃおうかしら」
「っ!?」
「きらりちゃんを料理した後は……」
AYAは子供が悪だくみをするように思案している。
「あなた達を料理しようかな?」
「彼女に、手を出すな!」
「あなたが蒔いた種じゃない。ダークネスは人の幸せを壊すのが仕事」
言いたいことを勝手にベラベラ喋ったAYAはスタジオを後にした。
AYAを追いかける?
どうする?どうする私!?
でも今、歌っている彼女から離れるわけにはいかない。
私は叫びたくなるような、やりきれない気持ちを胸に無理矢理押し込んでヨリコの歌声を聞いた。