『リゾナントリゾートin利曽南島 3日目昼(1)―おいで召しませ海の家―』


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夏だ!
海だ!
リゾートだ!

てなわけで、ビーチバレー大会に参加しないリゾナンター10名は刃千吏が経営する海の家の手伝いを開始していた。

「4名様、こちらのお席にどうぞ!」
「焼きそば3人前でーす!」
「ねー、コーラの在庫ってどこー?」

普段は刃千吏関係者のおっちゃんや、ライフセーバーも兼ねてるガチマッチョなおねーさんが店員をやっているだけに、
若く可愛らしい女の子たちがせっせと働く姿はそれだけで店内に華をもたらす。
経営者のおっちゃんの見立てでは、店の客足は普段の2倍から3倍を記録していた。
ついでに利用客の平均年齢と男性率も微増しているような気がしたが、心優しい刃千吏の人間は敢えてそこには触れない。

「ハイ。おころろみやきお待ちネ」
「うんうん、お好み焼きね。ところで店員さん、ここのお店はおいしくなる呪文をかけたりなんかはしてくれないの?」
「あー、それテレビで見たことあるー!いいよ、いくよ!・・・“おいしくなぁれ☆”」(ポーズつき)
「うっしょぁ!あざっす!!」
「ちょっとー、ジュンジュン!そういうのはナシ!他の子がやりにくくなるでしょーが!」

客層の上昇とジュンジュンのテンションの上昇に伴い、一部の空気がメイド色に変わる店内。
厨房でニンジンを切りながら諌める里沙の声も空しく、メイド色はその他の箇所にも波及した。

「ああああのっ、このラムネがおいしくなる呪文はありますか!」
「え?」

下手したら自分の娘といっても差し支えないと思われる年齢の里保をつかまえて、度胸ある客の一人が“呪文”を所望した。
近くに座る家族連れらしき男性客は羨望と驚嘆の眼差しでその様子を見つめる。
その男性客の様子は、失望と軽蔑の眼差しで奥さんらしき人が見つめる。

「えっと・・・・・・」

里保は焼きうどんを片手に頭を働かせた。
果たして自分はこの客の期待を裏切っていいものか、と。

ここは海の家。一日限りとはいえ自分は店員。この人はお客。
お店はお客がいてこそ成り立っている。
客の期待に最大限応えるのが店側の義務であり誠意というものだ。
っていうか長々綴るのが面倒になってきたので簡単にまとめると、りほりほは真面目な性格だった。
真面目な上に子供だった。
ロリコン野郎のお願いを『いやだーお客さん♪』と軽いノリで受け流せるほどの適応力はなかったし、
『申し訳ありません、そういうのはやってないんです』と大人な対応ができるほど人生経験に恵まれてもいなかった。

今の里保にあるのは、生来の責任感と好奇心だけ。

「いきます!“しゅわしゅわ・・・ぽんっ!”」

里保は、炭酸の湧き上がる液胞と爽快感を擬音で表現してみせた。
うん、即興で考えた割に悪くない。りほりほ内心自画自賛。
さて、客の反応はどうだろうか。
おずおずと里保は客の顔色を窺った。

「りほりほ萌えーっ!!!!!」
「りっ・・・!か・・・・・・!」

迷惑顧みずはしゃぐ変態1号と顔真っ赤にして悶える2号の反応は置いといて、客の反応。

「・・・ラムネ3本追加っ!」
「コーラは?コーラもありですよね!?5つください!」「パパ・・・・・・」

その日、海の家の炭酸飲料の売り上げは平均の38.4倍を記録したとかしないとか。



そんでもって混雑が落ち着いてメンバーもだいぶ仕事に慣れてきた頃、絵里があることに気がついた。

今の売り方だと、あたしたち帰ったら元の寂れた海の家に戻っちゃうんじゃないの?

客が増えた一番の理由はどう考えても『可愛い女の子が可愛く接客をしてくれるから』。
これでは一時の貢献にはなっても根本的な解決にはならない。
商売において、ひいては世の中のほとんどの場合において大切なこと。
それは、外見ではなく中身。

「さっきからずっと見てたんですけど、刃千吏の皆さんのおりょーりって愛が足りないんすよ。
 わかります?愛。ラブ。ジュテーム。あいうぉんちゅー。的な」
「はあ」
「もっとおりょーりに愛を込めましょーよ。『お客様に食べていただきたくて作りました食材も用意しました』って感じで」
「はあ」
「こんな、いかにもホテルで余った食材持ってきましたぁ、みたいな使いかけの野菜じゃダメ。ばっど。のーぷろぶれむ」
「のー・・・?・・・・・・ハァ」

最後の返事がため息になったことには同情するが、横で聞いていた愛も大体絵里と似たようなことを思っていた。
もっと、料理に力を入れてもいい気がする。

なにしろここで使われている食材ときたら、キャベツの切れ端やら小ぶりの海老やら封を開けて何日か経った小麦粉やら、
ホテルの厨房にあった食材の再利用品ばかりなのだ。
この海の家のために用意された食材のほうが少ないくらい。
これでは作るほうだって楽しくないのではないか。
料理人にまず大切なのは、調理を楽しむこと。
少なくとも愛はそう思っている。

「高橋さーん!買い出し行ってきましたー!」
「ちゃーんと値切ってきましたよー」

食材調達班が、重そうなエコバックを2つも3つも提げて戻って来た。
無邪気落としの香音と交渉上手の愛佳のコンビだ。
定価の2割は値切るよう厳命しておいた。
あの様子だと、作戦はうまくいったことだろう。

「ちょ、ちょっと、困ります!あんなに買われたら赤字どころか廃棄処分だって考えなくてはなるではありませんか!」

二人が買い込んできた量を見て、責任者の人が慌てたように声を上げた。
まだこの店に足りないものがなにかわかっていない様子だ。
仕方ない。彼はこれまで一度も料理人としての喜びを味わったことがないのだろうから。

[今よりもっと赤字が増えたらこの店の経営に回す予算を増やすよう上にかけ合ってみますよ。
 おいしいものを作るためのお金を惜しむ馬鹿がいるなんてそんなの耐えられませんからね]

未だ納得いかずといった感じの彼は、悪い顔したリンリンが黙らせた。
中国語だったのでなんて言ったかはわからないけど、多分ちょっと怖くてでも面白いことを言ってる。

「じゃ、次からはこの買ってきた材料使ってください。あ、お代はいいです。あたしたちからの寄付ってことで」

さあ、彼らが真の料理人になれるかどうかは彼らの心と自分の助言一つにかかっている。
勝負は一瞬、結果は一生。
そのタイミングを見逃すまい。愛はしっかりと両眼を見開いた。