『声を奪われたカナリア』 終章


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          ◇          ◇          ◇

2011/10/27(木) 更新分


起き上がると見慣れない景色が飛び込んできた。

「あの、大丈夫ですか?」

目の前にいたのはピンクの服を着た女の子が聞いてきた。
「あ、うん。大丈夫」

また私、倒れたのかな?
しかも人の家にまで入り込んでしまっているようだ。
よく見ると腕の怪我も治っているし、着替えてる!?グローブもない!!

「気絶していたから、あなたの荷物から選んでさゆみがお着替えをしたの」

私は固まってしまった。
見ず知らずの女の子に見られたなんて……。
「あなたが着ていた服とグローブは今、絵里が洗ってくれてるの」
自分の今の服装を見ると確かにカバンに詰め込んだ物を着ている。
半袖のシャツにベルト、カジュアルなジーンズ。
「じゃあ、あなたが前も私を治してくれたの?」
「はい。他ならぬ愛ちゃんの頼みだし、あなたが綺麗だったから……」
そう言った、さゆみさん?は私が今まで見たことがない表情で私を見つめている。
ち、近いんだけど……。


「あなたに初めて会った時は今日みたいに気絶していたから見れなかったの。でも今は見れる。目をあけた今のあなた。すっごく綺麗……。アーモンドみたいな目の形。キラキラしている瞳は、ビー玉みたい。
さゆみ、吸い込まれそう……。私のこと、さゆみって呼んで下さい……」

私が固まっているのをいいことに、さゆみさんは私の頬をつついている。
「プニプニしてて、ふわふわしてる……」
プニプニって、私、気にしてるのに!
「ば、かっ。やめろっ、て…!」

いい加減、人をおもちゃにするのはやめてほしい。

「ボーイッシュな声も素敵なの……」

離してよ、マジで念動力を使おうかと思ったけど、私の傷を二回も治してくれたし無碍にはできない。
はあ、私ってお人好しなのかなあ……。

「お待たせしました~」

おおっ!天の助け!
私がさゆみさんにされるがままの所に亀井さんが私のグローブとシャツを持ってきてくれた。
亀井さんはシャツは渡してくれたけどグローブは返してくれなくて、それをまじまじと見ている。
「どうしたの?絵里」
さゆみさんが亀井さんのそばに行った。


ほっ。
やっと離してくれた。

だが、解放してくれたのも束の間だった。

「グローブに何か書いてある。ぎんなんこんび?
やき、ぎんなん?」
「何それ~?」
さゆみさんが覗きこむ。

すると亀井さんが……。
「明日香さんの名前って、やきぎんなんだったんだ!」
私は盛大にずっこけてしまった。
亀井さんの余りの天然ぶりに。
「だからそれはコードネーム……」

「やきぎんなん、ぎんな~ん!かわいいっ!」
さゆみさんは焼銀杏が気にいったようで、はしゃいでいる。


私が、がっくりとうなだれている時、携帯の着信音が鳴った。
「あっ!愛ちゃんからメールだ!」
亀井さんはグローブを私に返して携帯を開いた。

「えーと、ガキさんが海外出張に行っていて忙しいから店を手伝ってほしい。もちろん、そこにいる明日香さんも一緒に。だって!」

私はリゾナントに強制連行だそうだ。
そして新垣里沙は今、日本にいないようだ。
新垣里沙のいないリゾナントに行ったって意味がないだろうと思った。

でも翌日、無理矢理生体兵器にカウンターに行かされ調理をしていると、あるものを発見した私は驚愕した。
無愛想な私が更に無愛想になるシロモノだった。
むしろ怒りさえ覚えた。

それは、新商品開発ノートだった。

表紙をめくると、まず目に飛び込んだのが、

『愛ちゃん。変なものを買わないように by新垣里沙』

さらにページをめくると、鴨数匹、赤字。
うええおええ丼、赤字。
今月のお金、里沙ちゃんに借りた。黒字。
赤字、赤字……。

赤字のオンパレードだった。
何?何なのよ、これは……?
私を雇ってる場合?
いくら温厚な私でも、これはキレる。
私は怒りのあまりノートをカウンターのテーブルに叩き付けて生体兵器に言い放った。

「後で表へ出ろ!叩き直してやる!」

ようやく裕ちゃんと圭ちゃんに習った事務経理が役に立つ時が来たようだ。

          ◇          ◇          ◇

2011/10/31(月) 更新分


「だからどうして新商品を開発するたびに赤字なの?」
私はリゾナントが閉店してからカウンターに座って生体兵器と勉強をしている。
はあ、どうして私がこんなことを……。
彼女に注意をする新垣里沙はいないし生体兵器のノートは赤字だらけだし私もお店を経営しているけど、さすがにこんなに赤字だらけにはなったことがない。
ようは、隣りでふてくされながら座っている生体兵器のお金の使い方が悪い。
見かねた私は、お客さんが帰った後に勉強会を開いている。
「あなたが新垣里沙に借りたお金は買掛金でマイナスなの」
「何で?里沙ちゃんは、いつ返してもいいゆうてたから黒字やないの?」
「新垣里沙に申し訳ないと思わないの?買掛金というお金がなぜ借金だということかは分かる?」
「分からん。プラスやないんか?」
「一時的にはプラスでも、新垣里沙に借りたお金を使って儲けたお金で、また新垣里沙に同じ金額で返さなければいけないの。だから買掛金は借金なの。分かりましたか?」
「うーん、何となく分かった。儲けたお金を使って里沙ちゃんに返したらええんやろ?」
「そう。だからややこしくならないように余り人からお金は借りないように」

「………」

あれ、返事がない。
「そもそもお店なんて借金せんかったら開けんやん」

あっ、口答えしたな。
「でも、このお店は、あなたが小さい時からあったんでしょ?」
「うん。ばぁばの遺産を使って経営してるんよ」
「そうしたら損益法じゃなくて、お祖母さんの遺産なら財産法で貸借対照表を計算しないといけないのは分かる?」
「うん」
「なら貸借対照表の前に損益計算書を計算してる?」
「??多分してない」

「バカー!」

「何でなん?3ヶ月に一回は締め日に儲けを計算してるで」
「それだけじゃだめなの!」

頭が痛くなってきた。
どうやらこの生体兵器は重要なのにややこしい事は考えずに、とりあえず纏まったからいいやとしか思ってないようだ。
どうして私が基本の日商簿記三級を生体兵器に教えないといけないのよ!


「損益計算書というのは利益の計算式なの。だから料理に使う物や電気代、ガス代、その他諸々のコストを差し引いた残りが儲けになるの。計算式は……」

私はノートに損益計算書の計算式を書いた。

収益-費用=純利益
(または純損失)

「儲かったというのは収益が費用より多い時で、損をしたというのは費用が収益を超えた時。これが儲けのカラクリなのよ」
「へぇ~~」
「へぇーじゃない!あなたのノートを見る限り貸借対照表と損益計算書の金額が一致してない時があるわよ」
「同じやないとどうなるん?」
「普通は同じだと、その金額を次の月に持ち越せて、また、さっきの財産法に戻るけど財産法で期末資本として使えるの」
「金額が違うかったら?」
「違うようであれば今までの損益計算書と貸借対照表の金額を見比べなさい。どこかで落とし穴があるわよ」
「落とし穴?」
「自分で忘れて金額を追加していないとか、悪い言い方だと誰かが横領したとか、今度はどういうふうに節約したらいいかとかが分かるのよ」


「でも、たまに、あーしが書いてないのに利益がプラスな時があるんよ」

「普段は誰が書いてるの?」

「ばぁばが生きてた時は、ばぁばが計算してたけど今は、忙しくない時は、あーし。忙しい時は里沙ちゃんが帳簿を付けてくれてるんやよ」
私はノートをパラパラめくりながら帳簿を読むと後半の方はキレイに書いてある。
あっ、きちんと赤のボールペンで締め日に線を引いている。
さすが新垣里沙だ。
「新垣里沙がスパイだった時も帳簿を付けてたの?」
「うん。里沙ちゃんが愛ちゃん疲れてるやろうから早く寝なさい、後は私が付けておくからって」
「………」
ま、まさかリゾナントの売り上げまでマインドコントロールしてないでしょうね!?
さすがにそれはないよね?

「あんた里沙ちゃんを侮辱するんか!?」
突然、生体兵器が立ち上がって私を睨みつけた。
心を読んだな……。


「勝手に人の心を覗かないでよ!」
「里沙ちゃんの悪口ゆうからや!あーしはお金の計算ができんでもiMac持ってるんやよ!」
「私だってポケボからiMacにしたわよ!」
いつの間にか言い合いになっていた。
「あーしは12歳で実験体になったんやよ!」
「私だって12歳で初任務だったわよ!」
「クラシックバレエは七年やったんやよ!」
「私は九年よ!」
「ばぁばに歌が上手いって誉められて合唱団にスカウトされたこともあるんやよ!」
「私も声が封印されていても、おじいちゃんは手話で話を聞いてくれたわよ!」
「あーしは任務試験の時に審査員や里沙ちゃん達がいたんやよ!」
「私も、地方出身の同期もいたし任務審査員に誉められたんだから!」
「頼んでもないのに勉強会なんかしたくないわ!」
「私が今ダークネスだと、あなたを殺してるわよ!感謝しなさい」


私たちが言い合いをしているとリゾナントのドアが開いた。
言い合いは中断になってドアの方を見ると思いがけない来客が入ってきた。

二人、いた……。

何で、何であんたがここにいるのよ!
その人は私を見てうっとりした後、

「会いたかった……」

と言って突進に近い勢いで私に抱きついてきた。
「ちょっ、ちょっと!」
あまりにも想定外のことなのでよけられなかった。

もう一人の方は本で顔が隠れている状態だったから、よくわからない。
だが、時々、彼女から、
「16歳の安倍さん、16歳の安倍さん……水着……」
と、ブツブツ呟いている。

私はその本が気になって目をやると同時に固まってしまった。

そ、その本は……!

私達ダークネス初の写真集、
『ダークネスInハワイ』
だった。


やっと忘れかけてたのに……。
私の黒歴史……。

うわっ、マズいもん見ちゃった!的なシロモノである。
とりあえず落ち着くために抱きついていた女性を剥がしてカウンターにいった。

うええおええ丼という訳がわからない上に高額なものをお客さんに提供するよりは、どうにかしてコストを小さくするために私は試食会も兼ねてジャスミンティーをカウンターに座っている三人に出した。

すると突然、本をガン見していた女の子がカウンター越しの私に写真集を差し出して、こう言った。

「始めまして!新垣里沙です。この表紙にサインして下さい!銀杏コンビ、焼き銀杏で!安倍さんのサインの隣りにお願いします!」
私は再び固まってしまった。

          ◇          ◇          ◇

2011/11/03(木) 更新分

「懐かしい味だね…」
なっちがジャスミンティーを飲んでいる。
相変わらず呑気だなあ……。
どうやったら、こんなふうにのんびりできるんだろう。
私がみんなに振る舞ったジャスミンティーはダークネスの新人だった頃、まだ、お金がなくて少しでも節約したくて私が自分の個室から任務の度に振る舞っていたものだ。

生体兵器への勉強会も一段落したので私も一息つこうとカウンターに座った。

席順は、いつの間にか左から、生体兵器、新垣里沙、なっち、私の順番になっていた。

「保田さんと手を繋いでいる福田さん…。髪の長いレアな市井さんと手を繋いでる福田さん…福田さんの水着、そしてサイン……。ああ、スパイをやっててよかった」

水着の私をここで広げるのはやめて~~!!

「ガキさんが壊れてもうた…」

まだ写真集をガン見している新垣里沙に生体兵器も呆れているようだ。

そろそろ話を切り出してもいい頃だと思った私は怒りを含めて、なっちに聞いた。
だって、ダークネスに幽閉されていると聞いたから私は必死になったのに、そこで悠々とお茶をしているのだから。
「ねえ、どうしてなっちがここにいるの?」

「福ちゃんに会いたかったからだよ」
と笑って言った。
何なんだ、その言いぐさは……。
あれだけ血だらけになって戦ったのに当の本人は、あっけらかんとしている。

「ガキさんと海外で人助けをしていたのは本当。でも福ちゃんと、もう一度一緒に歌いたくて、ダークネスに幽閉されたっていう嘘の情報を流したのは、なっちだよ」

「……じゃあ、尋美を生き返らせる研究は?」
「それは本当」

いったいどれが本当なの!?
私は、なっちに振り回されただけなの!?

「こうでもしないと福ちゃんはお店から出ないっしょ?声もずっと封印されたまま」
「それで私に矢口や男を襲わせたの?」
「うん」
「紗耶香のことは?」
「紗耶香は勝手に勘違いしてただけだべ」

「バカー!!」

スパーン!

私はカッとなって、なっちの頭をはたいた。
「うう、いきなり殴ることないべさ……」
「一人で勝手に突っ走るんじゃないわよ!!私がどれだけ苦労したか知らないでしょう!!」

私が一気にまくし立てると視線を感じたので、そちらを見やると新垣里沙が目を輝かせて私を見つめている。
「すごい…あの安倍さんを言い負かすなんて、福田さんカッコイイ……」

「だって、ぐすっ、福ちゃんと12年も会ってないんだよ?福ちゃんがいなくなってからなっちはチカラが暴走したんだもん……」

やばっ…!泣かした?

すると、なっちは左腕に向かって叫びだした。
「お母さーん!福ちゃんがね、福ちゃんが、なっちをいじめるのー!はい送信!」
まだやってんのかよ、それ!
あんた本当に見かけといい30歳なの!?
どちらが年上なんだか……。
「でね、お母さんから返事が来たの」
「はいはいそれで?」
いつものように聞き流す私。
「これからも福ちゃんが普通に生活を送れるように、なっちがおまじないをしてあげる」
「はっ?」
そう言ったなっちは私の了承も得ず、抱きついてきた。
「ばかっ!なっち、やめろっ!」
「大丈夫、大丈夫」
数秒間、なっちは私を抱きしめた後、やっと解放してくれた。
「何?何にも変わってないんだけど?」
胸の辺りがモヤモヤして、すっきりしないぐらいで……。
「なっちは福ちゃんの……」

「???」

「戦うチカラを封印したんだよ」

はあ!?

2011/11/05(土) 更新分


チカラを封印したって、どういうことよ!?
改めて胸に手を当ててみる。
やっぱりスッキリしないというか、モヤモヤしたものが私の胸の中で渦巻いている。
なっち、また私の心の中に、ずかずかと入りこんできたんだな!
思わず奥歯を噛み締めて、なっちを睨み付ける。

そんな私を見たなっちは、してやったりとしたような表情を私に向けた。

「福ちゃんには帰る場所があるじゃない?」
「な、なによ、いきなり」

確かに私には拾われたけど育ててくれた家族がいる。だけど私が超能力者だってことがバレたし、これ以上巻き込みたくなくて出て行ったんだ。
そう簡単には帰れない。

どうせ帰ったって、私は拾われた上に超能力者で、しかも元、悪の組織の創始者だったんだ。
こんな私なんか……。

「ばかっ!明日香の弱虫!」

私が一人で落ち込んでいると、っていうか心を読んだな……。
ったく、どいつもこいつも……。

「明日香は普通の生活が送りたくてダークネスを抜けたんじゃなかったの!?」
「………」

「友達、いるんでしょ?明日香が見つけた天使の歌声の女の子」
「!?」
 ………なっちには全部お見通しか。やっぱり、なっちの方が年上でお姉さんなんだな。
「彼女、待ってるよ。それに歌声も聞こえない」
なっちは、怒ってたと思ったら急に淋しそうな顔をして俯いてしまった。

「どうして?より子、二回目の癌は完治したはずじゃない。ならどうして歌わないのよ」

「明日香が出て行ってからだよ。歌わないの」
と、なっちは言った。
すると、なっちは含み笑いをして私を見つめてきた。

な、何を企んでいるの……?

「あんなキレイな声の女の子よく見つけたよね。明日香が惚れるワケだ。でも、もったいないなあ。ダークネスに入れば病気もしなくてすむのに……」
あっけらかんと言ったなっちの言葉に私はカッとなって、いつの間にか拳を振り上げて、なっちにパンチを食らわそうとしたが、あっけなく、しかも片手だけで止められた。

「あの子に何かしたら、たとえあんたでも許さない!!」

引きこもっていたあの子が、やっと完治して立ち直って歌うようになったのに……!!

「チカラも全然入ってないから効いてないよ~。ほら、やっぱり大事なんじゃない」

くそっ…。
挑発したんだな……。
でも、拾われてからの幼なじみと、より子と家族が大事なのは本当だ。
それと同じくらい、なっちのことも大切に思ってる。

「明日香は、たまに熱くなってカッとなるでしょ?だからなっちが念動力と格闘技術だけを封印したんだよ。熱くなる度に暴発してたら友達にバレちゃうよ?明日香、組織のこと秘密にして付き合ってるんでしょ?」
「………」
何も言い返せなかった。
なっちが言ったことは全部その通りだったから。
私は悔しくなってくちびるを噛み締めた。

「もし、襲われたらどうするの?なっちにチカラを封印されたからダークネスからみんなを守れない……」

「それは心配いらんよ」

生体、いや、高橋愛の声がいきなり聞こえてきたので私は振り返った。
「そのために、あーしは、メンバーのお願い事を叶えると称して、あんたを試したんや。
悪いヤツやなくて、ほんまに普通の生活をしたいんかどうかを知るために。ガキさんも、あんたに会えて嬉しそうやったしな」
高橋愛は私に笑って言った。
「帰る場所があるんは、ほんまに幸せなことやで」

高橋愛が、そう言った後、新垣里沙は少し淋しそうに目を伏せた。
それを高橋愛は感じたのか、そっと彼女を抱き寄せた。
「ダークネスが現れたら、あーしらが守ったる。あんたの店も、ここと同じ大田区にあるし何とかなるわ」
「…………」

「そういうことだから福ちゃんも思いっきり歌うといいべさ!」

なっちは満面の笑みで私に言った。

          ◇          ◇          ◇

2011/11/09(水) 更新分


カナリアは10歳の時に家出をしました。

カナリアは闇に魅入られ闇に閉じ込められてしまいました。

カナリアは闇の中、天使のような笑顔と歌声に出会いました。

カナリアは闇の中にいることに疑問を持ち、籠の中から飛び立ちました。

自由を手に入れる代わりに声を引き換えにして――――

私と友人達は今、表参道を歩いている。
ある場所を目指して。

「今日のライブどこだっけ?」
私がわざと、おどけて聞いた。
「もうっ!今日は公園のそばにある病院でしょ?」
より子が言った。

「今日は明日香のデビューライブだからね!」
吉岡ちゃんが笑ってる。

「よしてよ、あなた達のライブでしょう」
今日はより子の定期検診の後、ライブだ。

院内で機材の設置をしていると女の子が突進の勢いで私に抱きついてきた。
いきなりのことだったから私は避けられなかった。

さ、さゆみさん?
どうしてここに?

「さゆ~~!」


亀井さんの声がした。
ん?
持っているのは薬だろうか?
ああ、そういえば彼女を一度迎えに行ったことがある。
亀井さんは私に笑っておじぎをした。
しかし、さゆみさんは……。

「相変わらず綺麗なの。ああ、素敵な瞳……」

ええい、離せ。
封印されたから吹き飛ばせないよ。
ちょっと吉岡ちゃん、ゲラゲラ笑ってないで助けてよ。

「明日香ちゃん変わったよね」
って、より子、微笑んでるだけ!?

さゆみさんを無理やりひっぺがえし、亀井さんに話しかけた。
「具合はどう?大丈夫?」

「最近は落ち着いているから薬と定期検診だけでいいんですよ」
と、笑って言った。
私は思わず亀井さんの頭を撫でた。
嬉しそうに、くすぐったそうに笑う亀井さんを見て私の心は穏やかになっていく。
私って病気の女の子に甘いのかなあ……。
「よかったら聞いてってよ。もうすぐ始めるから」


声を奪われたカナリアが地上に降りると、また天使の歌声に魅了されました。

しかし天使は虚無感に捕らわれて傷付いていました。

カナリアは傷付いた天使を癒やす決意をしました。

カナリアは秘密を隠して天使と友達になりました。

―――拾われてから出会った私の大事な二人の友達。

普通の人間の…女の子…。

大事なものなら背負う覚悟の分、痛みは伴う。
チカラはもう、ないけれど必ず守ってみせる。

声を取り戻した私なら前よりも進めるはずだ。

『明日香、頑張って夢を叶えてね』

私は空を仰いで微笑み返した。
おわり