■ トラストオアコンフィデンス -鞘師里保X生田衣梨奈- ■


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 ■ トラストオアコンフィデンス -鞘師里保X生田衣梨奈- ■

「じゃさっき決めた待ち合わせ場所先行ってるから」
「ほーい…TVビル…とこの…プツツ…植木の前…っじゃあすぐ…プツ…」

切れた…圏外…?おかしい、さっきまでそんなことはなかったはずだが…

「なんか電波が悪いみたいだ…」

静寂

「よ…あれ?」

無人

鞘師は周囲を見回した

先ほどと変わらぬ景色。
青果コーナー、鮮魚、精肉…。
だが、消えている。

人が…消えた。

―――――




「里保ちゃん?」
鞘師の前をスキップしていた生田はふと鞘師に声をかける。
すぐ後にいると思っていた鞘師ははるか後にいた。
床にカゴを置き、ぼぅっと突っ立っている。
「もー鞘師ちゃんおっそいっちゃ」
ぴょんぴょんと飛び跳ねる
「はやくはやく」
ぼぅっと突っ立っていた鞘師がふと我に返ったように周囲を見回す。
顔を撫で、両手を握ったり閉じたりしている。
やがて生田の存在に気づくとカゴを抱えこちらに歩き出した。

―――――


「イクちゃん?」

静寂

返事はない。

不覚だった。

きっと予兆はあったはずだ。
普段の鞘師ならばもっと早い段階で何かしらの異変を察知できていたはずだ…だが…
「イクちゃんか…」
【精神破壊】その副産物のような効果によって生田の周囲には常に精神的な妨害作用が撒き散らされていた。
思考は鈍磨し、注意力、集中力、あらゆる精神活動は本来の精度を保てなくなる。
水軍流によって育まれた危機を察知する鞘師の能力もまた生田の能力の影響を大きく受けてしまっていた。
そのうえでなにをしでかすかわからない生田の一挙手一投足を観察し先を読み続けるのである。
知らず知らずに生田に注意力を集中しすぎてしまっていた。
こういう事態もありえると、常日頃、鞘師自身気を配ってはいたはずだった。
若さ、経験の不足。まだまだ、未熟だった。
水軍流に限らず武術の世界でいの一番に教えられる教訓『一つ所に留まらない』これを完全に見失っていたといえる。
それにしても、ここまで鈍らされるとは。

だが自分ひとりを除いて一瞬でこれだけ大量の人間を消し去る。
そんな非常識な事が起こりえるのだろうか?
これだけ大規模な事態の予兆にまったく気が付かないなどということがありえるのだろうか?

「かのんちゃん達、平気かなぁ」

生田の事など、まるで気にする様子もなくそうつぶやく。
ここにいても仕方がない、鈴木香音らとの待ち合わせ場所に行ってみよう。
鞘師は歩き出した。

―――――


「でね!エリおもったっちゃ!
やっぱりチョコクリームよりホイップクリームのほうが
イチゴには合うって!そうおもわんと?」
「うん」
鞘師がにこやかに微笑む。
先ほどからずっと生田が一方的に話し続けている。
「衣梨奈ちゃんおトイレ一緒に行こう」
しばらくすると鞘師がそう提案してきた。
「うん!行く!行く!」
二人は手を繋ぎ歩いていく。

―――――


「ふーん」

鞘師は立ち止まった。

「違ってた」

鞘師は周囲を見回した

先ほどと変わらぬ景色。
青果コーナー、鮮魚、精肉…。

出られない。

鞘師は待ち合わせ場所まで行こうとした。
が、しばらく歩くと、いつの間にかここに戻ってきてしまう。
このフロアから、この食品売り場から出られない。

「違ってた」

もう一度そうつぶやく。

自分ひとりを除いて一瞬で人を消し去る…そうではなかった。

消えたのは…

「私のほうか」

特に何の感慨もない。
鞘師は、ただ淡々と事実を確認した。

―――――


それぞれが個室に入っても生田はしゃべり続けていた。
「やっぱり平成ライダーの中ではWが一番かっこいいっちゃ!
ふぃりっぷ君としょうたろうだったらやっぱ攻めはふぃりっぷ君で…」
鞘師は無表情のまま貯水タンクの蓋を開ける。
タンクに手を入れ何か包みを手に取る…隣の生田に聞こえぬよう静かにビニールを破る…
鞘師は、ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。

ズガン!

一瞬の出来事だった。

トイレの個室を仕切る壁は、薄い合板二枚で出来ていた。
その壁が突然ぶち破られたのだ。
同時に生田の腕が突き出され、鞘師の腕をわしづかみにする。
その腕に握られていたのは…拳銃だ。
バリリッ!バリリッ!
恐ろしい力で壁を破壊し生田の肩と頭が現れる。


「お前…だれっちゃ?鞘師ちゃんを…どこにやった?」


―――――


さて、どうするか…

鞘師は一応考えてはみる。

が、答えはもう出ていた。

どうしようもない。

おそらくは能力者による攻撃を受けたのだろう。

幻覚か?…白昼夢のようなものを見せられているのか?…いや違うな…おそらくこれは…
近距離での物理的戦闘においては、ほぼ無敵の鞘師の弱点、それは心の脆弱性。精神系能力者からの攻撃だった。
初陣のとき、戦況を有利に進めていながら一瞬のうちに気を失い、ズタボロにされた苦い経験がよみがえる。

訓練で新垣さんに【精神干渉】をかけてもらったことがある。
そこで得た結論は
『かかったらどうしようもない』という事実。
何度もかけてもらい自分なりにたどり着いた結論だった。
精神系の能力であれ、その発動の直前、敵意や殺意、あるいは害意のようなものは必ず発生する。それを察知し、敵の能力の発動前に何らかの対処をする。それしかない。
まったく無防備な状態で"かけきられてしまっては"もうどうしようもなかった。

結論としてはどうしようもないのだが、鞘師は別に悲観しているわけでも
絶望しているわけでもなかった。

ただ事実を確認しただけだ。

だが事実とは常に過去にのみ適用される。

鞘師はそう考えている。

少なくとも未来を諦めるための言い訳の道具ではない。

方法はある。

鞘師は確信している。

鞘師にはどうしようもない。これは事実だ。だが…

「さて、"そろそろ"かな」

―――――

「お前…だれっちゃ?鞘師ちゃんを…どこにやった?」

「くっくっく。よく見破ったな。おっと馬鹿なことは考えるなよ?
この体は間違いなく鞘師里保なんだからな。」

「鞘師ちゃんを返せ」

「さぁどうかな?そいつはお前次第だ。まずは手を離してもらおうか?
…どうした?この体がどうなってもいいのか?」

「鞘師ちゃんを返せ」

「おい…聞いてるのか?この手を離せ。このまま舌を噛み切ってもいいんだぞ?」

「鞘師ちゃんを返せ…返せ…」

「おい?待て待てどうするんだ?え?返して欲しくばおとなしく言うことを…」

「 カ エ セ ! 」

生田は力を解放する。
生田の憎悪が、怒りが、無限地獄となって鞘師へとなだれ込む。

【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

ぐ…ぐぎゃあああああああああああああああああ

―――――


気が付くと鞘師はリゾナントの入っているビルの倉庫にいた。

「鞘師っ!しっかり!鞘師っ!よかった…鞘師!無事?」

リゾナントのみんなが鞘師をコンクリの床に押さえつけていた。

みな汗にまみれ全身に打撲と大小の傷を負っている。

大体の想像は付いている。

どうやらほぼ思ったとおりの展開になっていたようだ。

「すみません…みなさん…」

傷は鞘師がつけたものだろう。

いや、"鞘師に乗り移っていた能力者が"鞘師の体を使って暴れたのだ。

そう。発狂して。


―――――


高橋が駆けつけたとき、生田は泣きながらへたり込み
鞘師は白目を向いてひきつけを起こしトイレの床をのた打ち回っていた。

即座に状況を把握した高橋は二人を連れてリゾナントへと飛んだ。

【精神干渉】により、
鞘師が【憑依】系の能力者によって支配されたこと、
その能力者を生田がまったく無計画に衝動的に"焼いた"ことを理解したとき
新垣は戦慄した。

もしかしたら鞘師の精神まで破壊するかもしれない。
生田はそんなことまるで意に介さず
躊躇することなく鞘師の"中にいるもの"を破壊したのだ。

―――――


「ごぇ…ごぇんなざいざやじぃぢゃぁん」

生田が泣きながら鞘師にすがり付いてくる

「鼻水…きたないから…」

鞘師が傷だらけの腕で…やっぱり傷だらけの生田の顔を押しのける。
生田の顔や腕には、ささくれた木の破片が無数に突き刺さっていた。
血まみれのその顔を見ながら、鞘師は生田に笑ってみせる。

「いいよ。イクちゃんなら、躊躇しないって判ってたから。」

もし、仮に生田が空気の読める子だったのなら…
大切な仲間の身体を気遣い、鞘師への攻撃をためらうような子だったのなら…
事態はさらに最悪な状況へと陥っていただろう。
鞘師の命だけで済めばよい。
場合によってはフクちゃんや高橋さんたち…
最悪の場合、鞘師の身体が、かのんちゃんの命まで奪っていたかもしれない。
考えるだけでぞっとする。

そうだ。思ったとおり生田はベストな選択をしてくれた。

それは、信頼…というより確信だった。

『イクちゃんはポンコツだから』

必ず後先考えず、目の前の敵を攻撃する。

あとは、鞘師が憑依されていることを生田が見抜けるかどうか?

不確定材料があるとすればそれだけだったのだが…


「それにしても生田、よく鞘師が憑依されてるって見抜いたっちゃね」

田中が生田に問いかける。

「???ひょう?い?」

「え?」

「え?」

一瞬その場の空気が凍りつく。

「えええええ!!!!」

「もしかして勘?勘?勘だけで何の根拠もなく鞘師に【精神破壊】をぶっ放したって言うの?!」

生田の顔に???が並ぶ…
何も考えていない。その表情が物語っている。

「コラアアアアアア!生田ぁ!アンタねぇ!!」

新垣さんのお説教が始まった。

ははは…

鞘師は心の中で笑った。叱られている生田を見るのは、なんだか気分がいい。


「ははは…イクちゃんって…やっぱりKYだよなぁ」





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