『連続少女群像』


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写真が好きだ。

ふだんは撮られることが多いけど、ほんとは撮るほうが好きだ。

デジタルよりフィルムが好きだ。

セピアより、やっぱりカラーが好きだ。

空、雲、太陽のうつろいと、変わらない私たちの生きる街。

こんな風にまえは思わなかったけど、

ぜんぶ好きになったんだ。

そしてビルの屋上にたどりつく。

私はcameraを構えて、レンズを覗いた。






  【連】――続――少――女――群――像

「小春」

その人は沈みかける夕日を背に、私を睨みつけていた。
もしかしたら始まりはここだったのかも知れない。
私は怒られるというのに、それが分かっているのに、
逆光に立つその人の奥の色彩を、どうしても写真に収めたくなったのだ。

「小春。愛佳にあんなこと言ったらいけん」

私は冷笑する。あなたはあの子の保護者なの?あの子が言ってくるよう頼んだの?
私に言いたいことがあるなら直接言ってくればいいのに。
意気地なし。あの子のそういうところ大嫌い。

「愛佳は優しいけん……誰かを責める前に自分を責めてしまうと」

「でも」

「小春も似とう。愛佳と」

その人はきつく結んでいた眉間をほどくと、
今度は哀しみの色で私を見つめた。
とおくの空では茜色の筋が、地平線に沿って間延びしている。

「本心をなかなか表に出さんところも」

「すぐに逃げ出すところも」


その人は相変わらず、私と一定の距離を保ったまま、立っている。
近づいてきたりはしなかった。ただ言葉だけで私の心をかき乱した。
そう、私はあの子に酷いことを言ったまま、
あの子の声も聞かずに喫茶店を飛び出してきたから。

「これはれいなの推測やけど」

「愛佳は小春と仲良くなりたいなんて思ってない」

紫色の空が幻想的で、
私のショックは少し和らいだのではないだろうか。
広がる雲と空の認識が曖昧になる。なぜだか泣きそうになる。

「分かり合いたいと、」

「仲良くなるより、知りたい、分かりたいと思ってるんじゃなか」



カシャカシャカシャ。

いまでもあのときの田中さんの表情、思い出せるよ。

だって、このとおくに広がる空の色、見ると未だに恥ずかしくなるんだもん。

若かったーあのー日とー いつかー笑ーえるようなー

カシャカシャカシャ。

  連――【続】――少――女――群――像

「久住サン、久住サン」

ほの暗い夜道は私たちの歩みを緩慢にする。
買出し帰りの4人。それぞれ大きな袋を手からぶら下げて。
ジュースにお菓子にお酒におつまみに・・・・重い。
まさに、手が引きちぎれそうになっているところだった。

「重そうだカラ持ってアゲル」

まじ?ありがとー。と渡そうとすると、こいつはふいに真顔になって、

「ウッソダヨ」

と言う。
ひどい、ひどい。いじわる。とわめくと、こいつは真顔のまま、

「ウルサイんデスケド」

と言う。
いいけどね。わかっていたけどね。ばーか。ばーか。

「久住サンもージュンジュンもー、喧嘩してナイデ、ホラ見てクダサイ」

「あ、ほんまや。めっちゃまん丸やんか」

見上げると、雲ひとつ無い空にぽっかり月が浮いていた。
それは磨かれたようにぺかぺか光っていた。すべての悪人も祈りたくなるようなひかり。
やっぱりこれ持って!と荷物をぜんぶ預け、私はcameraを構える。

「久住さん、あとで現像したやつ見せてくださいね」

もっちろん!

「久住サン、リンリンも撮ってー」

あー、じゃああとでねー。

「久住、重い。重い重い、ジュンジュン折れチャウヨー」

さすがに申し訳なくなって謝ってみたが、まだじとっとした目で見つめてくるので、
やっぱりけんかになった。

「ほんま仲ええなあ」

良くない、良くない、断じて良くないけど、
私たちはみんな分かり合えているから。          なんて。
白く光る月は、私にこんな台詞を言わせる勇気までは与えてくれない。
だからいま込められるせいいっぱいの気持ちで、
まあね、と応えた。



カシャカシャカシャ。

髪をかきあげるとそこを縫うように涼しい風が入り込む。

雲の流れが速くて、なかなか月をつかまえられない。

みんなにありがとうと叫びたい。

カシャカシャカシャ。

  連――続――【少】――女――群――像

「こーはるちゃーん」

うわあっ。べたっと背中になにかが張り付いてきた。ああ、どうも。
どうやら寝てしまっていたらしい。ハックション。

「あは、ブラのホック飛んだ?」

「もう絵里ってば」

まだぼうっとしたままでいると、私を挟むように彼女たちも座ってきた。
ここの公園のベンチはちょっと狭くて、おとな3人も並ぶとぎゅうぎゅうになる。
かといって 狭いです。なんて文句を彼女たちが素直に聞くはずもなく。

「わあ、きれい」

真正面には夕日に照らされ、オレンジ色に染められた建物たちが並ぶ。
私は思い出した。今日はこれを収めるために公園に来たのだった。
急いでシャッターを切る。
きれいなオレンジ色の時間は、案外みじかい。

「絵里もやりたーい!」

どうぞ、と私は左の彼女にcameraを渡した。
左の彼女は新しいおもちゃを手にした子供のように、嬉しそうにレンズを覗く。

「おっ、いい画。こりゃ現像が楽しみだわ」

カシャ。カシャ。とシャッターを切る左の彼女。
あんまりフィルム無駄にしないでくださいよ、と釘を刺すと、


「あといっかい」

と4回言って、ようやく返してくれた。すると今度は右の彼女が

「さゆみも撮りた~い」

私はわざとらしくため息をついて、cameraを渡した。
右の彼女は立ち上がり、公園を動き回る。

「滑り台も入れよう」

カシャ。カシャ。カシャ。カシャ。カシャ。カシャ。・・・
こちらを振り向いた。あの哀しそうな顔はもしかして

「ごめんなさい」

そうしてフィルムは終わった。



カシャカシャカシャ。

あたりが藍色につつまれてきた。

あのときは からすといっしょにかえりましょー なんて歌いながら

帰ったのだ、子供の心で。

カシャカシャカシャ。

フィルムはまだなくならない。


  連――続――少――【女】――群――像

「小春、ほいよ」

いまは私と、この人のふたりだけ。
この人は私にあったかいココアを差し出してくれた。

「やっぱ化粧せんでも目ぇでかいんやぁ」

仕事でどうしてもつらいことがあって、深夜なのに、ここを訪ねてしまった。
しかし、ハタと扉の前で考える。
こんな真夜中にいきなり来られても迷惑に決まってるだろう。
ドアノブに掛けた手を回せないままでいると、扉のほうから開いてきた。

「入んなよ」

この人は私を迎え入れ、そしてココアを淹れてくれた。

「れいなはもう寝てるから」

「おいし?」

コクンと頷くと、この人は

「うそやあ」

と言った。うそだと思うもの飲ませないでくださいよ、と怒ってみせると

「怒ると目ぇさらにでっかくなるんやー」

なぜだか感動していた。


私は笑って、仕事でつらかったこと、意味不明なプロデューサーがいたこと、
態度の悪い共演者がいたこと、とにかく今日はついていなかったことを話した。
よくあることなんですけどね、なんて強がって。
吐き出す。吐き尽くす。笑いながら。強がりながら。

「最近写真撮った?」

まったく別の話題を振られても、大して動じなくなった。
私はフィルムのストックが無くなってからしばらく撮っていないことを告白する。

「小春の撮る写真はいつも綺麗だから、あたし好き」

「小春自身もそれに癒やされているんだろうなって」

「また見せてよ。小春の写真」



カシャカシャカシャ。

高橋さん、ここから喫茶店の屋根が見えるんですよ。

あのとき 小春は泣くと目ぇ腫れちゃうからダメ だなんて言ってましたけど、

結局ふたりで泣きましたよね。

先に泣いていたのは、もちろん、あなたでしたね。

カシャカシャカシャ。

ガチャ、キイィーーー。


  連――続――少――女――【群】――像

「小春ー、あんた何やってんのこんな時間まで」

シャッターを切る音に夢中で気付かなかった。
ゆっくりと後ろを振り向くと、そこには相方の姿が!

「相方だったっけ」

またすっとぼけちゃってー、何度目ですかこのやり取り。
もういい加減照れないでくださいよー。
そう言うと相方はにやにや笑いながら、私の隣にやってきた。

「照れてないから」

ふたりしてフェンスに寄りかかる。あたりはもうほとんど暗かった。
見えるのは街に広がるたくさんの灯かりの粒だけ。

「フゥー、いい風だね~」

「ここで写真撮ってたの?」

そうでーす、カシャ。
私は返事をしながら相方の横顔を写真に収める。
ストロボにびっくりした表情が可笑しくて、ついつい大声で笑ってしまった。

「あーっ 勝手に撮んないでよまったく」

「えー、じゃあさ、ふたりで写ろうよ。それで許してあげるよ」

「小春、あんた腕長いんだから持ちなさい」


なぜだか勝手に物事が進んていく、それもまた可笑しい。
cameraを持って伸ばされた腕もぶるぶる揺れてしまう。
アハハ、とまれ、アハハハハハ。

「おーい、ぶれるでしょー、ちょっ、ストーップ!」

なんとか腕を抑えようと妙なポーズになる相方の姿を見ると、
私は笑いを通り越して、なにもかもどうでもよくなった。
写真がぶれたからってなんなんですか。
ただこの瞬間を楽しんで、
ただ始まりのカウントダウンを待ちましょう。アハハハハハハハハハハ

「わかった、わかったから!じゃーいくよ小春」



「サン、ニー、イチ、」



カシャカシャカシャ。






変わりゆく私たちの終わらない私たちの
連――続――少――女――群――【像】
    【連】――続――少――女――群――像
        連――【続】――少――女――群――像



タイトルは何度も出てくるとおり『連続少女群像』です
いちおう60話記念作品を目指しましたー
いろいろな切なさを感じつつ、まだまだ続くよ的な雰囲気が出せればいいなと

また小春が居るビルの屋上は
自分の大好きな『蒼の共鳴』シリーズ
(04)769『蒼の共鳴―その共鳴は偽りの共鳴なのか―』
のビルの屋上と同一ということにしてください

他にもちょこちょこ借りてると思います

というわけで60話突入おめでとうございます!