モーニング戦隊リゾナンターR 第15話 「Returnee―全てはRの為に―」


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                                                                                                                              モーニング戦隊リゾナンターR


【前回のストーリー】
「A」の操るジェットストライカーでたどり着いた新しい世界で愛は石川梨華という能力者と出会った。
最高レベルのサイコキノでありながら、小さな一軒家でままごとのような暮らしを送る梨華を見守る"俺”。
“俺”の口から明かされる石川梨華の過去。
それは粛清人Rがリゾナンターに打ち破られた記憶であり、悪の組織ダークネスがその活動を停止した記録でもあった。
"俺”に教えられたリゾナンターの拠点“喫茶リゾナント”に向かう愛。
一方"俺”が務める株式会社ダークネスを黒ずくめの男 J が襲った。 「全てのRは私が倒す」


第15話 「Returnee―全てはRの為に―」


「暫く休業します」 ボードが掲げられた喫茶店の前に佇む愛。
俺の言葉通り、喫茶リゾナントは休業中だった。
予想はしていたが、リゾナンターの姿を見ることが叶わず愛は落胆した。
(“俺”さんはこの世界の危機を救う為の戦いって言っとった。 何か大きなうねりがこの世界にも迫っている?)

店の周囲を歩き回り外観を確かめる愛。

(何か微妙に違うな。 私の元居た世界のリゾナントとは。 そして後藤さんの居た喫茶店とも。)

常夜の世界で戦った後藤真希。
愛の放った光を避けることなく、受け止めて逝ってしまった真希の最後の思念は未だに愛の中に残っている。
それが苦痛でも憎悪でもなく、安らぎすら感じさせるものだったことは、愛を苦しめていた。

(いっそ、私のことを憎んで、憎んで、憎みぬいていてくれれば…)

善良で純真な女性だと思っていた石川梨華が粛清人というもう一つの顔を持っていたことも愛の心を暗くしていた。

(こっそりと物陰からでも、リゾナントの皆の顔を見れば元気を貰えると思ったけど。 こうなったら…)

愛の掌には鍵が握り締められていた。
それは愛が元居た世界のリゾナントの鍵だった。

(多分この鍵で開く筈。 もしダメだったらあきらめて石川さんの家で「A」と落ち合おう)

リゾナンターの姿が見られないなら、リゾナントの雰囲気でも味わおうと思った愛。
鍵は何の抵抗も無く鍵穴に入ったが、回して解錠することは出来なかった。

(えっ、嘘や)

錆びついて回りにくいのかもと思った愛は、力を入れようと前屈みの姿勢になった。
そんな愛の頭上を何かが通過して弾けた気配が。

(えっ、あたし、撃たれた?)

愛の頭と同じ高さの部分に穴が開いていた。
焦げ臭い匂いがする。
慌てて向き直り、銃撃してきた相手を確認しようとするが、見つけることは出来ない。

(まさか瞬間移動、それとも目で見れないぐらい遠くから撃ってきた…!)

自分に向けられている明確な敵意を感じた愛。
再び襲ってくる銃弾を感じる。
チカラを発動させて安全な場所に跳ばなければと思ったが、圧倒的な殺意に射竦められて身動きがとれない。
鈍く光る銃弾が自分をめがけて跳んでくるのが見えた。

(わたしの旅もここで終わってしまう…)

目的を果たせずに旅を終えてしまうことへの焦燥感と、旅を続けなくていいという安堵の思いが同時に駆けめぐった―ほんの1秒に満たない時間の間に。
銃弾が迫り思わず目を閉じてしまう愛。

(一発目と同じくらい正確に頭部を狙ってくれたら、苦しまずに逝けるんだろうな)

しかし弾丸が愛の身体を傷つけることはなかった。

(…一体どういう…)

恐る恐る目を開けると、そこには黒ずくめで長身の男が愛に背を向けて立っていた。
身体の横に伸ばした手の指先には銃弾が挟まれている。

「どうやら狙撃用のライフルで撃たれたようだな」 感情を失ったかのような男の声が響く。

「あっ、どうも。 助けて貰ったみたいで本当に」

予想もしなかった救いの手を差し伸べられて戸惑ったのか口ごもる愛。

「お前はi、いや高橋愛か?」
「えっ、へえ、まあそういえばそうなんですけども、何と言ったら判って貰えるか」

「随分と厳しい日本語だな」 男の頬が僅かに緩んでいる。
「喫茶リゾナントを訪ねてみたら、お前と会えるとはな。 私の名はJ。
高橋愛、お前に聞いて欲しいことがある。 ここでは人目を惹いてしまう。 出来ればその喫茶店の中で話をしたいのだが。」                            

結局愛の持っている鍵ではリゾナントへ入ることが出来なかった。
苛立ってドアノブを乱暴に扱う愛の様子を見ていた男は、愛を横に退かせると自分の手をかざす、ガチャッと鍵が開く音がした。

「わっ、すげえ。」
「私のチカラ―磁力制御を以てすればこの程度は容易いことだ。 だがお前なら扉を使わずに中に入ることが出来ただろうに」
「それは思いつかんかったです」
「とにかく中に入ろう」

リゾナントの客席に座る男。
愛はカウンターの中で何やら物色している。

「助けてもろうたお礼にコーヒーを淹れたいんやけど、中々見つからなくて」
「好意だけ頂いておく。 私も急ぎの用事がある。 
此処に来て私の話を聞いてくれないか。 私の嘘偽り無い気持ちをお前に伝えたい。 
だからお前のチカラで私の心を読みながら、話を聞いてくれ。 精神のロックは解除してある」

男の言葉を聞いて愛の顔が真剣味を帯びた。
男と向かい合わせに座る。

「私には夢があった…」

Jの語る夢、それは新世界の建設。
Jや愛のような能力者が他の誰かに恐れられ忌み嫌われることもなく、自分で自分を恥じることもない世界。
能力者の持つチカラは個性として全ての人に認められる。
運動神経に秀でた者、歌で人の心を掴める者、頭脳優秀な者はその個性を賞される。
そして場合によっては才能に応じた報酬を得られるように、全ての能力者が自分の能力に誇りを持てる世界。
そんな世界を作り、そこで生きたいと熱く語るJ。

「だが、理想と現実は往々にしてかけ離れているものだ…」

理想の未来へたどり着くために、生きなければならなかった過酷な現実。
共に夢を実現する仲間も、術も持たなかった為にある組織に所属して、その時が来るのを待ったJ。
Jが身を置いていた組織はダークネスと協定を結び、お互いの領域への不可侵を誓っていた。
Jの所属していた組織の領域、それは…。

「ドラッグの密売」

Jの言葉を聞いて険しくなった愛の顔。

「お前は私を責めるのだろうな、当然だ。 密売したドラッグで他人の人生を狂わせた人間に理想の世界を語る資格など無い。 
それは私もわかっている。  だが大麻や阿片を栽培し売った金でようやく餓死を免れる人間もいる、そんな現実もある。」
「そんなこと言ったって」
「判ってる。 そんな論理は通用しないことは判っている。そう思いながらその時が来るのを待っていた。 ボスを倒すチャンスが訪れるのを」

その時は予期せぬ形でやってきた。
Jの所属する組織の販売ルートの常連だった中学生がドラッグを買う金欲しさに起した強盗事件。
意識不明の重態となった被害者、警察の追跡を振り切ろうとして遭遇した事故で片足を切断した少年。

「言いわけじみた言い草になるが私はドラッグの売買に直接は関わってはいない。
敵対する組織を叩き、自分たちの組織の勢力を拡大するのが私に与えられた仕事だった。 
だから自分にこう言い聞かせてきた。 
私は手を汚していない。
ドラッグを買う奴らが悪いのだ。 ひと時の快楽に目が眩んで、自分の身を破滅させる奴らが悪いのだと」

だが片足を失った少年の事件を知ったJは、単身ボスに立ち向った。
能力殺しの体質を持ったボスとの対決は、Jにとって極めて不利な状況だった。
ボスの凶弾に傷つき倒れ、死を覚悟したJだったが、気がついた時他の能力者もボスに牙を剥いていた。

「奴らが私の理想に共鳴してくれたのかは私には判らない。
ボスの強権支配から逃れる為に、私に力を貸しただけだったのかもしれない。
だが結果的に私たちはボスを倒し、私は奴らに新しいボスとして認められた。
私は自分の手で運命を引き寄せた、その時はそう思ったのだが…」

新しいボスとなったJは、先代のボスを否定することから始めた。
ドラッグの密売ルートの廃棄、合法的な営利事業への進出、そして、ダークネスとの協定の破棄。

「世界を変えれると本気で信じてた。 今思うと愚かしいことだったがな。」

「ダークネスの反応は迅速だった。 協定の破棄と同時にあの女を私たちのアジトに送り込んできた。」
「あの女って?」
「能力者にとっての恐怖の象徴 粛清人R」                                                                   
株式会社ダークネスが入居しているオフィスビルの前。
パトカーや救急車、消防車が大挙出動している。
ストレッチャーで搬送されている株式会社ダークネスの社員達。
搬送に当たっている救急隊員の様子から、社員たちは負傷しているものの命に別状はないようだ。
その様子を野次馬にまぎれて見ている“俺”。
社員たちの搬送を見届けると、事件があったビルと地下街でつながっているビルに向かう。
地下街でも株式会社ダークネスの入居していたビルへの通路は閉鎖されていたが、ビル管理用の通路を使い問題のビルへと。
株式会社ダークネスの入っているフロアの2階下のフロア。
小さな貸しオフィスを開錠して入っていく。
中は何の変哲も無いオフィスに見えたが、キャビネットの中のあるファイルを抜き出すと、キャビネットが横にスライドする。
そこには拳銃や、ショットガン、グレネードランチャーの携行用火器があった。
躊躇いなくショットガンと弾薬を手にする“俺”。

「何だこの部屋は、まるで武器庫だな。 いやっ、部屋だけじゃない。 お前自身もまるで武器庫のようだ」

“俺”の手から、声の主に何かが飛んだ。
硬質な物がぶつかりあう音。

「ふん、暗殺用の錐刀か。 普通のサラリーマンが身につけるものじゃないな。」 「A」の声が響く。
「テメエ、何しにきた」
「忘れ物を届けに来てやった」

「A」はスナイパーライフルを手にしていた。


「恐怖の象徴?」
「そうだ、ダークネスに弓を引く者に死の粛清を断行する恐怖の象徴、それがRだ」

Jの語ったRとの因縁、それは粛清人Rによる襲撃の記憶だった。
ダークネスとの断交直後に襲来した粛清人R。
能力を持たぬ構成員。 能力を持った幹部。 
その全てを斃し、Jの組織を葬ったR。
そして、Jも。

「あんたは、こうしてここにいるんじゃ」
「お前ならわかるだろう。 
我々のチカラは実験室や訓練場でその精度を高めることは出来ても、新たなステップに進むことはない。
戦いの、それも死に直面する極限状態の中でのみ私たち能力者は新たなチカラを手にすることが出来る。
Rによって倒される寸前、私の“磁力制御”のチカラは究極の進化を遂げた。
今の私は磁力によって自分の肉体そのものを分解、再構築できる。
もしも、このチカラをもっと早く手にしていたら、仲間たちをむざむざ死なせることもなかったが」

Jの言葉に陰鬱なものを感じた愛。

「そう、私は復讐しようとしている。 粛清人Rに対して」

愛はJに復讐の無益さを説こうとする。
復讐は悲しみの連鎖しか生み出さない、Jの仲間もそんなことを決して望んではいない、と。

「正論だな。 お前は正論しか言わない。
私もお前のように考えようとはした。 拾ったこの命と手に入れたチカラで新世界を築くべきじゃないかと。
だが、私の仲間はもういない。 Rによって殺された。 そして、私の心の中にいる仲間の顔はRに与えられた苦痛で激しく歪んでいる」

Jの記憶に残っている粛清人Rの犠牲者の最期を見て、息を飲む愛。

「Rとの決着をつけない限り、私には未来は訪れない。 それが私の結論だ。
高橋愛、私はお前とは戦いたくない。 
全ての世界を救うというお前の志を私は尊いと思う。
だから、そんなお前と刃を交えたくはない。
私の復讐に力を貸せとは言わない。 ただ、私の邪魔だけはしないで欲しい」
「そんなことを言ったって、今の石川さんはっ」

ついRの本名を口走ってしまった愛。 しまったという表情を見せるが。

「そうか、お前は既にこの世界のRと出会っているのか。
リゾナンターと戦って無様に敗れながら命を助けられたRと出会っているのか。
自分の犯した数々の凶行の報いも受けずに、のうのうと暮らしているRと会ったのか」

俺が石川梨華に関する情報を既に手にしていることに驚く愛だったが…。

「今のあの人はRなんかじゃない。 石川梨華としてひっそりと暮らしている。
そんなあの人を傷つけようというんなら、わたしはあんたのことを…」
「止めるというのか。 お前にそんな権利はあるのか。」
「権利って、ただわたしは人として当然のことを」

自分の命を助けてくれたJなら、善良な現在の石川梨華のことを許してくれるのではと一縷の希望を繋ごうとする愛。

「お前は、常夜の世界で後藤真希という能力者と戦って、その命を奪ったな。 そんなお前に私を止める権利はあるのか」
「そんな、あれは…私だって」
「お前たちには戦う理由があって、その結果として後藤真希は逝ってしまった。 そういうことだろう。
そして、私にはRと戦い、Rの命を奪う充分過ぎる理由がある。 それだけのことだ」

言葉もなく立ち尽くす愛から目を背けると、Jは立ち上がった。
そして磁力制御のチカラを解放して、自分の肉体を分解し始めた。

「この世界のリゾナンターが戻ってくる日の為に、店には鍵をかけて出て行った方がいいだろう。 私も、そしてお前も。
さらばだ、高橋愛。 お前の淹れてくれたコーヒーを飲んでみたかったが、それは叶わないだろうな」

Jが去ったリゾナント、愛は力なく椅子に腰を下ろし自分の掌を見つめる。
後藤真希を消し去った掌を。


「いっ、いっ、一体何のことだか。 ああこの部屋は旧ダークネス時代の武器庫だった。
俺は怖かったんだ。 会社に帰ってきたら、みんなが救急車で運ばれていくじゃないか。
俺たちの会社は合法化されたとはいっても、元は悪の組織なんだから恨んでるやつらだって多い。
だから護身用にと思ってだなあ。」
「二の矢が外れたら武器を現場に放棄して、全力で逃走に務める。 その徹底振りはたいしたものだ。
お前の狙撃ポイントから目標までの距離は、およそ500メートル。 
お前は目標のことをよく知っていたな。 500メートルという距離が何のアドバンテージにもなり得ない、瞬間移動の能力を持っていると」
「そんなライフルは見たこともないな。 俺が撃ったっていう証拠が何処に…」

「A」は首筋の端子から伸ばしたケーブルを、オフィスを装っていた武器庫の備品のプロジェクターに繋いだ。
画面一杯に、今「A」が手にしている狙撃銃を構えている“俺”の姿が映し出された。

「お前は自分を小さく見せ過ぎた。
あのバカ女はそれをお前の実像だと思ったようだが、私にはそんなものは通用しない。
一体、お前は何者だ。 何の為に石川梨華の周辺をうろついた。 何の目的で、高橋愛の命を狙った」
「知るか、ボケェェェー」

“俺”がオフィス用の椅子を「A」に向けて蹴った。
床を滑る椅子、「A」はバカにしたように見ていたが、椅子の裏に括りつけられた閃光弾が破裂して…。

火災報知機の警報が鳴り響く中、廊下を歩く「A」。

「鮮やかな去り際だな。 しかし、行き先は判っているようなものだが」


ヘルメットも着けずに、大型バイクを走らせる“俺”。
バイクは古びた一軒家が立ち並ぶ町並みに差し掛かる。
一軒の家が炎上している。
詰め掛ける野次馬をショットガンで威嚇する。

「死にたくなかったら、家に帰って大人しく寝てろ!!」

炎上している家の前に倒れている一人の男。
長身で黒ずくめだ。
身動きもしないその男に、何の躊躇いもなく銃撃を加えていく“俺”。
全弾を撃ち尽くすと、拳銃を取り出して構えながら黒ずくめの男に近づいていくが…。

「素晴らしい。 倒れている私に何の躊躇も無く銃弾を浴びせて、なおもその様子。
お前のような人間を部下に、いや仲間にしたかったよ」

黒ずくめの男、Jがゆっくりと起き上がってくる。
自分の肉体を使ってではなく、何か見えない手で引き起こされるように。


「お前みたいなバケモンの仲間はこっちから願い下げだね。 R様の敵は討たせてもらう」
「ますますもって、素晴らしい。 この期に及んで尚もお前は自分の作り出した虚構を守り抜こうとするのか」
「何のことだ一体?」
「今、燃えているその家にRが住んでいないことは判っている。 そう全く同じような町並みだが、Rはここから少し離れた町に住んでいる」
「テメエ、何いい加減なことを言ってやがる」
「情報が簡単に入手出来すぎた時点で判ったよ。 この家はRを、粛清人Rを守るための囮だということは。
それが判っていて、何故虎の尾を踏むような真似をしたか。 それはお前と会うためだよ。
全ての世界のRを消去しようと、幾つもの世界を旅した私の邪魔をしてくれたお前の顔を見るためだよ。
Rに関する情報を改竄して、Rの名誉を守ろうとしたお前をこの手で倒すためだよ。
会ってみれば、何のことはないつまらない人間だったな。 お前に戴いた銃弾はお返ししよう。 私のチカラ“磁力制御”でな」

Jの黒ずくめの身体から飛び出した無数の散弾が、“俺”目がけて移動する。
“俺”は跳躍すると、自分の身体を地面と水平にして、散弾の雨に晒す面積を最小限にして防ごうとする。
それでも散弾のいくつかは俺の足に当たり、足の指を何本か奪っていく。

地面に落ちた“俺”は腹筋の力を使って跳ね起きる。
足元に走った激痛に一瞬顔を歪めながらも拳銃をJに向かって構える。

Jはそんな“俺”を称賛する。

「本当に素晴らしい戦士だよ、お前は。 私の攻撃に対して最善の対策を一瞬にして選択した。
もしもその拳銃で私や散弾を撃っていたなら、お前にとって最悪の事態に陥っていただろう」                                         
Jは自分の人差し指で“俺”を指差す。

「だが、お前の身体を傷つけた時点でこの戦いは終わっている。
私のチカラは“磁力制御”。 そして人間の血液には鉄分が含まれている。
この意味がわかるだろう、お前なら」

“俺”の足の傷から、Jの操る磁力によって血液が噴出していく。
“俺”の身体が揺らぎそうになるが、必死で堪える。

「これは勇敢なお前に対する私からのねぎらいだ。 痛みも無く、眠るように息絶えるがよい。
心配するな。 お前が自分の姿を変えてまで守ろうとしたRもすぐにお前の元に送ってやろう」

「待てっ、あいつの、梨華のところには行かせねえ」

立っているのがやっとの状態の“俺”。

石川梨華の本当の住居へ向かおうとするJは、背中越しに“俺”に言葉を投げる。

「お前の肉体は幾つもの世界を旅してきたことで、限界に達している。
ただでさえ辛いだろうに、それでもなおあの女のことを守ろうとするとはな。
地獄でRと二人して仲良くくらすがいい。 」
「ま、待てっつーんだよ」
「さらばだ、哀れなる能力者。 吉澤ひとみよ」
「ま、待てっ……」


   *   *   *


「待てったら待てよ。 なあ梨華ちゃん。 粛清人に名乗りを上げたって本当なのか。 
お前みたいな気の良いヤツにはつとまらねえぜ。 今からでも遅くはない、断っちまえよ」

「能力者が笑顔で生きていける世界を作るためには誰かがやらなきゃならないのよ。 だったら私が」

   *   *   *

「震えてるじゃねえか。 やっぱりお前には無理だったんだよ。 お前の手だけを汚させるわけにはいかねえ。次はオレがお前の代わりをやるから」

「ありがとう心配してくれて。大丈夫、大丈夫だから。 ただ、今夜だけは一緒にいて欲しいの、手を握っていて」

   *   *   *

「おい藤本てめえ、今なんて言った。 お前なんかに石川梨華の何が判るっているって言うんだ」

「あんたの大切な梨華ちゃんは、人間を壊すのが好きでたまらないってことは判るさ。 粛清人Rにやられた犠牲者の有様を見れば誰だってそう思うさ」

   *   *   *

「何であの子たち、あんなに傷ついても立ち向かってくるの。 私たちとあの子たちの道はもう永遠に交わらないの」

「お互いが自分たちの正義の旗を掲げて戦ってる。 その戦いを終わらすには、どっちかが勝つしかないんだ」

   *   *   *

「私ね、夢があるんだ。 誰にも話したことはないけど、今度の戦いが終わったらしてみたいことがあるの」

「オレに聞かせてみろよ。 笑わねえって、約束するから。 ん、何々、プハハハ、ゴメンゴメン。」

   *   *   *

「吉澤さん、石川さんが…」

「テメエ、何いい加減なことを言ってるんだよ、ぶっ殺すぞ」

   *   *   *

「吉澤様、あなたにRの後を次いで粛清人となって戴きたい。 これが組織の決定です。」

「あいつが、梨華がいなくなったのに何でお前らは平気な顔で組織を回そうとしてるんだ」

「しかし、あなたにとっても粛清人となることは…」

「うるせんだよ。 あいつが消えても平気で回ってるこんな世界なんかオレの手でぶっ壊してやる」

   *   *   *

「オメーら、こんな手作りのくだらねえ街なんて、ぶっ壊してやれ」

「みんなが立て直そうとしているこの街を壊させはしない」 

「じゃ、死ぬんだな」

「ここにいる里沙ちゃんは本当はとっても素敵な笑顔をしてるってこと。   あんたがその笑顔を曇らすのなら私があんたを倒す。」


   *   *   *

「いいか力は敵を打ち砕き、従えるためにある。 そのことが判ってないお前等は私には勝てない」

「力は自分のたいせつなものを守るためにある。 そのことに気付かないあんたは誰も守れない、誰にも勝てない」



   *   *   *

(オレは守れないのか、あの女のことを。 クソ動け、このボロ身体。 休みたいんなら死んでからイヤっていうほど休ませてやる。 動け、動いてくれ)

「待てっ!」

吉澤は最後の力を振り絞って、何かをJに投じた。
それはJの背中に吸い込まれたかのように見えた。

「成程、オールセラミックの錘刀、刀身には神経性の毒が塗られてある。
これなら私の磁力制御による防壁の影響も最小限に抑えられる。 以前の私ならこれで倒されただろう。 
だが、今の私は自分の肉体を分解、再構築できる。 お前の大事なRとの戦いがもたらしてくれた私の新しいチカラ」

そう言って錘刀を手に、吉澤へ止めを刺すために振り返ったJの表情が歪んだ。

「…お前」

吉澤の体を支える愛の姿そこにあった。

「お前、わかっているのか。 その女、吉澤ひとみは全ての世界を破壊しようとしたことを。
お前だって、何度もその女に酷い目に遭わされた筈だ」


愛の顔が泣きそうに歪む。

「わあってる」
「ならば、何故」
「この人が世界中を敵に回しても、石川梨華を守ろうとしたことも判ってる」

愛の言葉を聞いたJは小さな笑いを浮かべた。

「度し難い愚か者だな、お前という女は。 ならば私と戦うというのか」
「それは出来ん、あんたはあっしのことを助けてくれた。 そんなあんたと戦うなんてあっしには出来ん、だから」
「ならば、死ね」

Jが錘刀を愛に投げた。
愛はそれを避けようともしない。
吉澤の身体を支え身動きの取れない愛に刺さろうとした寸前、飛来したヨーヨーが錘刀を叩き落した。

「お前が石川梨華という女の命を奪おうというなら、それは私にとって戦う理由となる。 一飯の恩義は返しておくのが旅人の礼儀というものだろう」

ヨーヨーを構えながら、Jと対峙する「A」。

「お前は何者だ。」
「通りすがりの旅人だ。 名乗る必要はない」
「そんな鋼製のヨーヨーなど、私には通用しない。 私のチカラ“磁力制御”の前には」
「お前は喋りすぎだ。 そっちがこないなら私からゆくぞ」

「A」とJの間で高まる緊張。




「あいつは本当は優しいヤツなんだ。 粛清人なんて務まるはずなんかない」
「口を開いたらダメや」
「能力者とそうでない人間が手を取り合って生きていける。
そんな世界を作るためにはチカラを悪用して法の裁きから逃れようとする能力者に制裁を加える機関が必要だった。
それが、粛清人の始まりだった。」

「口を開いたら…」
「あいつはチカラに魅入られた能力者を恐怖で統制しようとした。 
だから、粛清対象の人間をこれ以上ないぐらいぶっ壊して自分が恐怖の象徴になろうとした。
でも例え悪人であっても、同じ人間の命を奪うことは、あいつにとってとっても辛い仕事だった。 
だがそれが辛いからこそ、その辛い役目を他人に投げるなんてことはしない、そういうヤツだった」
「もう、いいから。 これからあんたのことを待ってる人の所へ連れてゆくから」

「あの家に住んでいる女のことを言ってるんなら、違うぜ。 あの女はオレが時間を共有したアイツとは別人だ。
俺の知ってるアイツは死んだ、新垣里沙の手によって」
「里沙ちゃんが…」
「組織はオレにアイツの後釜の粛清人になることを命令したが、オレは拒否した。 だって、アイツが死んだんだ。 そんな世界に何の意味もねえ。
アイツが死んでも平気で回っている世界をぶっ壊す為にオレは旅立った。 
そしてあの二人、治癒能力者と傷の共有能力者が居た世界でお前にやられて、吹っ飛ばされたオレは気がついたらこの世界に辿り着いていた。
そして、あの女に出会った。
あの女は、アイツと同じ名前でアイツと同じ姿形をしていて、でもアイツとは別人だった。
最初はこの世界もぶっ壊そうと思ったが、あの女の暮らしぶりを見ていたら、それが出来なくなった」

「それは一体、なんで」
「アイツが、俺の知っている石川梨華が最後の出撃の前に話したんだ。 自分には夢があるって。
絶対に笑ないという約束で聞いた、その夢を聞いた瞬間オレは笑っちまった。
今度の戦いが終わったら、一線を退いて誰も傷つけずに生きていきたいってな。
自分の名前のように、草花のようにだれも傷つけない暮らしをしたいって。 そんなアイツの夢をオレは笑っちまった。
あの女があの家でそんな風に生きている。
オレはアイツのことを救ってやることは出来なかった。 だからあの女のことは守ってやろうと思った」
「そうやって、自分の姿を完全に変えてまでも」
「あの女は自分がダークネスという組織の一員だった記憶を失っているらしい。
だから万が一、吉澤ひとみの姿を目にして、記憶が戻っちまったらあの女の暮らしは壊れちまう。
元に戻っちゃいけないんだ。 だから私は手術で姿を変えた。
アタシはしがないサラリーマン風の“俺”に変わって、あの女を守ることにした。
株式会社ダークネスの連中はただの一般人だ。 とんでもないことに巻き込んじまったな」

「あんた。」
「だが、謝るつもりはない。 お前にもな。
アタシは後悔していない。 
もう一度同じ状況になったとしても、アタシは同じことをするだろう」

吉澤の腕が力なく垂れる。
慌てて吉澤を呼ぶ愛だったが…。

「後悔はしてないが、悔しいことはある。
お前も見ただろう。 あの家であの女が笑ってる様子を。
アタシはアイツにあんな心っからの笑顔をさせてやることが出来なかった・・そいつが・悔しくて…」

                                          「A」とJの戦いは一瞬で帰結した。
磁力制御で防壁を張ったJ。
「A」の放つヨーヨーの一撃は、磁力の防壁で跳ね返される。
路上の砂鉄や、吉澤の撃った銃弾の破片、バイクの部品が高速で「A」を襲う。
次の瞬間、Jの身体を通過する黒い影。

「お前、前もって自分の体を電磁石化させてたな。 そして極性を変換させ防壁に敢えて引き寄せられて私の肉体を削ったな」
「私だから出来た戦い方だ。 一瞬とはいえ体内の動力機関を逆相に接続するのはいい気分ではなかった」
「お前が来なければ、私の復讐も本懐を遂げたのに」
「どうかな。 お前は派手に動きすぎた。
だから私も対策を取ることが出来た。 お前がそのチカラで暗殺者に徹したら私も危なかっただろう」
「陽の当たる世界で生きる為に、ボスの下で苦渋を飲んできた。 そんな私が薄暗い暗殺者など…」

Jの笑った気配に「A」が訝しげな表情になる。

「何がおかしい」
「私は高橋愛を度し難い愚か者だと言ったが、私もそれ以上の愚か者だったということだ。 だが、それでいい、それでよかったんだ」

Jの意志が薄らぎ、肉体を制御していた磁力が失われ、その肉体は砂のように崩れていった。

愛が「A」の元にやって来た。
吉澤の遺骸は横たえられている。
愛の目元は潤んでいたが、それを見ても「A」は何も言わなかった。

「これで終わったんかな…」
「そのようだが」 言いかけた「A」だったが。
「いや、まだ残ってるぞ」

                                          翌日、石川家。
石川梨華は相変わらずの朗らかな様子で家庭菜園を耕している。
突然の雷鳴。

「キャァァアーッ」

相変わらずの黄色い甲高い悲鳴を上げながら、洗濯物を取り込んでいく。
梨華は物干し竿の所に、ピンク色のランチョンマットとランチボックスが掛けてあるのに気づく。
それを手に取り頬に押し当てる梨華。
梨華の顔がほころぶ。

洗濯物の放り込まれた四畳半の居間の茶ダンスの上に写真立てが飾られている。
写真立てには、まだ粛清人を名乗っていない頃の石川梨華と、復讐者となる前の吉澤ひとみが肩を組んで笑っている。

「……おかえり、ひとみちゃん…」

――続く――

暗い瑞道の中を逃げ惑う女。
その体に着けている服は、切り裂かれ半ば裸の状態に近い。
女を追う人影は、兵士のようだ。
手にはサブマシンガン、顔はマスクで覆われている。
追手をやり過ごした女は、瑞道の切れ目から地上に抜けようとするが、そこに降りしきる「消滅のDrop」を見て恐れおののく。
脅えたように後ずさりする女を取り囲む追っ手。
女の口からは悲痛な叫び声が。
最初は人間のものだったが、やがてそれは獣の咆哮と変わり、女の姿も黒白の獣へと変わって…