■ ナチュラルエネミー-生田衣梨奈- ■


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 ■ ナチュラルエネミー-生田衣梨奈- ■


共鳴セヨ…
少女は声にならぬ声を聞いた気がした
共鳴セヨ…
なにに?
『憎シミ』ニ…
蒼キ『憎シミ』ニ共鳴セヨ!

―――――

「あっいちごー!エリ、いちご好きっちゃん」
そう言ったとき生田衣梨奈は
すでにイチゴのパックを掴んでいる。
「えりいちごすきっちゃん」
その小さな暗殺者は生田の手からイチゴを掠め取り
ちいさな顔の、ちいさな眼と口で、にまーっと笑った。
「すきっちゃんすきっちゃん」
―明らかに嘲笑気味な声音で生田のセリフを繰り返しながら―
イチゴパックを元の位置に。
「あー!里保ちゃん!それエリのいちごやけん!」
「高橋さんに頼まれた買物リストにはイチゴは入ってませーんざんねんでーす」

天敵。

ものを知らない生田に、この単語が思いつくわけもないが、
鞘師里保はまさに生田の天敵だった。

大人の前では礼儀正しくまじめ。絵にかいたような優等生。
だがこの優等生、どういうわけか生田のやること為すことすべてを妨害してのける。
一方、生田衣梨奈は全く正反対、
大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
ヘラヘラと笑いながら大人たちの神経を逆なでする。

優等生と問題児。優良と不良。水と油。
…最悪の関係だった。

最悪な関係?…いや、それは違っていた。
少なくとも生田にとって、これほど心地よいことはなかったのだ。

返り血を浴び、貼りついた笑顔の仮面の裏で泣きじゃくっていたあの冬の日。

そこに鞘師里保は現れた。

あの日…―生田が共鳴者となった―あの冬の日…。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…

―――――

生田は、大人の話を聞かない、聞いても守らない、怒られても反省しない。
子供を支配の対象としか考えていない大人たちからすれば、
生田はただ一言「反抗的」と記号化されスポイルされるだけの存在でしかないだろう。
大人だけではない。
同級生にとっても、生田は「ただへらへら笑っているだけの怖くてキモい女」でしかなかった。

事実、彼女は幼いころからそう扱われ、周囲から疎まれてきた。

だが、違うのだ。本当の彼女は違うのだ。
彼女は「反抗」などしていない。

聞かないのではない、「聞けない」のだ。
守らないのではない、「守れない」のだ。
反省しないのではない、反省している人間はどういう態度をとるものなのか「理解できていない」のだ。

そう…彼女は、ただ「出来ない」だけなのだ。

それでも幼い少女は必死に皆と関わろうとしてきた。
だが、彼女の精一杯の親愛の表現は、ことごとく他人を傷つけるものだった。

同級生の持ち物を勝手に盗むなど日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
それは、自分が好きな人のものと自分のものとの違いがわからなかったから。

同級生に暴力を振うことも日常茶飯事だった。
そこに悪意はない。
ただ嬉しくなって跳ねまわっていたら、いつの間にか誰かが動かなくなっていただけ。
彼女にとって不幸だったのは
彼女が女性離れ…いや人間離れした身体能力をもっていたことだろう。
その怪力、敏捷性、天性の勘…

だが、誰もその才能を褒めてはくれない。誰にも気づかれない。興味を持ってもらえない。

「なぜこんな非道いことをするの?」

なぜ?皆が生田に説明を求めた。
生田には答えられない。答え方がわからない。
そんな生田を周囲は一方的に責め続けた。

理由を言え。さあ早く!さあ!。説明しろ。
説明できないならば理由など無いとみなす。
説明「出来ない」お前が悪い。

「出来ない」お前が悪い。

無能は罪…

そう、この世界は「無能力者」にとって地獄そのものだった。

それでも、生田はあきらめなかった。
いや己が住む地獄に気づいてすらいなかった。
そして必死に努力した。

笑顔…。
美しい彼女の顔を一遍で台無しにする不自然で、不気味な笑顔の仮面。
彼女に出来る最高のつくりわらい。

彼女の努力は、報われなかった。

キモい。
キモい、キモい、キモい、キモい!
周囲は不快を表明する。
生田はまだ気がつかない。
自分が嫌われていることに。
キモい!死ね!死ね!
それでも気がつかない。
キモい!死ね!死ね!死ね!。死ね!!!


そしてあの冬の日、生田は気がついてしまった。
自分がこの世界から拒否されていることに。
あの日気がついてしまった。
そんなこと、
と う に 理 解 し て い た 
ことに。
あの日気がついてしまった。
自分の心に潜む『蒼き魔獣』の存在に。


共鳴セヨ

蒼キ『憎シミ』二、共鳴セヨ!


―――――

「愛ちゃん!」
思わず田中れいなが叫ぶ。
「ぐうっ!」
吹き飛ばされ、教室の壁に叩きつけられながらも、高橋が即座に起き上がる。
「愛ちゃん!どうしたんね!?」
「わからないんやよ!」
「わからん?!」
「あの子、『心がわからない』…【読心術】が効かないんよ」
「なんてー!」

「ガキさん!動ける生徒たちは?」
「うん!全員支配出来てる。もうすぐ一階まで誘導終わるっ。」

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!

「笑ろうちょる…こんだけのことしといて!よう笑ろうもん!」
怒りに打ち震える田中が叫ぶ。

割れたガラス、ひしゃげた机、散乱するノート、教科書…
踏み潰された携帯、携帯、携帯。
そして、血の海…。
教室は阿鼻叫喚の地獄絵図と化していた。



【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】
それが生田を無限の孤独へと押遣っていた力の正体だった。
力の意味を知らず、そのコントロールを知らぬ少女は漏れ出るその力によって
周囲にある種の精神的妨害を無秩序にまき散らし続けていたのである。
他者の心を推し量ろうとする意思そのものを奪い取り続ける生田を、
その発生源たる生田を排除しようとする防衛本能。
それはただ何となくの生田への不快感へと、そして、不快なものを遠ざけんがための無関心へと繋がっていた。
だが生田の力が無関心では防衛しきれないほど増大したとき、
一気にそれは生田への憎悪となって噴出し、
そしてそれはさらなる生田の能力の増大…いや、決壊を促してしまった。

もはやそれは止められない。
際限なく溢れ続ける憎悪の感情は、直接その手に触れた者の心を一瞬で究極の狂気へと突き落とし、
ずたずたに引き裂き、切り刻み、すり潰す。
普通の人間であれば一瞬で発狂してしまう…。

あるものは見境なく暴れ、あるものは窓からその身を投げ、
あるものは自らの耳を引きちぎり、唇を噛み切り、自らの腕をただひたすらにペンで刺し続ける…
自らの指を食いちぎり、泣きながら過去の罪を懺悔しひたすらにその頭を床に叩きつけ続ける者…
…地獄…
そこはまさに地獄だった。

その地獄の中心で少女はただ、ひきつった笑顔で立ちつくしている。

「だめ…完全に自分を見失っている…多分、自分自身も能力に喰われてしまっている…」
助けられない…
先ほどから何度となく高橋は少女に呼び掛け、同時に暴れ続ける少女を取り押さえんと格闘を繰り返していた。
通常ならば相手の攻撃を全て読み、あっという間に取り押さえることが出来るはずが、
心が読めぬその少女はその生来の動体視力と身体能力だけで、格闘戦のエキスパートたる高橋の、しかも
【瞬間移動(テレポート)】によってどこから来るかわからないはずの攻撃を全て跳ね返し続けていたのだ。
迎撃のたび、高橋はその反撃による激痛に耐え続けていた。
一般人ならば一瞬で発狂しかねないその【精神破壊】を幾度となくガードする。
精神系の能力者である高橋であるがゆえに辛うじて単なる「激痛」のレベルに抑えている。
しかも、田中の【共鳴増幅(リゾナントアンプリファイア)】によりその防御力が高まっているにもかかわらず、
徐々にその激痛は大きくなっている。
やがては高橋といえど狂気の侵入を防ぎきれなくなるだろう。
手詰まりだった。

アハッ!アハハッ!アハッ!アハッ!ハハハハハハッ!
教室に一人、生田の乾いた笑い声が響きわたる。
「ちぃ!もういいっちゃ!愛ちゃん!もう無理っちゃ!やるしかないよ!」

つまりそれは、生田を殺す、ということだった。
「でも!れいなだって感じたやろ!あの子は!…あの子も!」

共鳴者なんやよ!

「仕方ないっちゃ!どの道、こんなこと笑いながらやるようなもん!救いようがないっちゃ!」

仕方が無い…排除されても仕方が無い存在…

「笑ってないです」

え?

「あの人、笑ってないです」

小さな少女だった。
小さな、その小さな少女は音もなく教室に現れた。
音もなく、教科書を踏みしめ、音もなく、血の海を渡って。
この教室で地獄をその目におさめていた。

「鞘師ちゃん!外で待機っていっとったやろ!」

生田が跳躍する。
突然現れたその少女を排除するために。
どうせコレも同じなんだ。みんな憎んでしまえばいいんだ!
全部同じなんだ!

「鞘師ちゃんダメ!その子に触れさせては!」

鞘師の脚元から、深紅の血刀が突き出され鞘師のたなごころへと納まった。
鞘師の体は流れるように、溶ろけるように低く変形し、一瞬の躊躇もなく生田の懐へ飛び込んだ。

ガガンッ

血刀は、ひと呼吸のうちに左右に跳ね跳び、生田の両の腕を、
鞘師に掴みかかろうとするその両方の前腕…内碗部を打ち折っていた。
まるで関節が一つづつ増えたかのごとく、生田の腕がありえぬ方向へと折れ曲がる。
血刀は刃引きであった。刃のない血の塊は重い鈍器となって生田の腕を襲ったのだ。
だが、生田は止まらない。
そんなものでは生田の憎悪はとまらない。
止まりはしない。

「ガァァァァァ!!!」

大きく開いたその口が鞘師の首筋へと襲いかかる。
鞘師はなにもせず、立ちつくしている。
生田のあぎとが、あとすこしで鞘師の首に届く、あとすこしで…
ガガッ!
電光石火、血刀が生田の右膝を砕き、ほぼ同時にかち上げられた柄頭が生田の顎をとらえた。
ドサァッ
一瞬浮き上がるように空中に停止したのち、生田は床に倒れ伏した。
手足を砕かれ血反吐を撒き散らす、哀れな姿となって、床をはいずっている。

「鞘師ちゃん!」

無言で鞘師は「待ってください」と高橋をとどめた。

ムクリ…
生田がその場で上体を起こした。
壊れた人形のように尻だけで体を支える。

ハハッ…

ハハハ…

ハハハハハハ…

「まだ…笑っちゅう…!」

アハハ…アハ…ハハハハハハ…

「なぜ、泣いてるの?」

唐突に、そう鞘師は尋ねた。

アハ…ハ?

「なぜ、あなたは泣いているの?」

読めぬはずのその心を鞘師は…

水軍流

凡庸なる人類がその身体資源の限界を超えることなく、それでも究極の殺傷力を求め、編み出された、殺法。

それは、まず己れのあらゆる内的感覚を観察し分析し解読する力を育む。
ほんの些細な膝の角度、背骨の変化、重心の位置、呼吸における内臓と横隔膜の変化、
そこからさらに生まれる、全身の重さの配分の変化…
その自己の身体感覚に基づいた観察力は他者を観察する力へと拡張されていく。
その積み重ねが敵「意」という概念に置き換えられ、敵の次の一手を正確に指し示す。
もはやそこには神経伝達速度の限界は無い。いや逆だ。
初めから次の一手がわかっているのだから神経的な伝達速度など一般人と変わらぬ程度で十分なのだ。
やがて敵「意」が単純な五感の情報以外からも察知できるほどになるころ、
その観察力は身体運動から相手の心理状態まで読みとる力へと深化していく…
鞘師は丁度、その途上を歩む者だった。

超能力ではなく、純粋に、ただの「技術」によって鞘師は生田の心を見抜いていた。

彼女は泣いている…と。

そこに同情は無い。
鞘師もまた、未熟な心の、「あるべき何か」が欠落した、未完成な子供である。
でてきた言葉は、ただの感想にすぎない。

「泣いているなら…」
ハハ…ハ?
「泣いているなら、普通に泣けば?」







ハハハ…ハハハ…ハ…ハ……
ハ…ァ…ァ…ァァァ…ァア…アアア…
アアアアアアアアア!!!
アアア!!!アアアアアア!!!!

鞘師の言葉は限りなく冷たい。

だが、そんな言葉が限りなく温かいものとして、あれほどの憎悪を…
生田の心を簡単に溶かしてしまった。

涙だ。あたたかい、あたたかい涙がとめどなく頬を流れ落ちる。

どんな形であれ、それは、「生田の心が他人に通じた」瞬間。

「それ」は、彼女が生まれて初めて経験したことだったから…




※未練たらたらの付録(イクちゃんの能力設定、そのボツネタの記録)
いくちゃんに関してはどんな能力がいいか?そもそもどんなキャラなのか全く掴めず、全然筆が進まない状態でした。
そんななか、『――― Erina』が発表され、KYそのものが能力というアイディアが示されました。
当時も「なるほどうまい。実にうまい。これはいいなぁ(でも自分のイメージとは違うな)」
という印象だったのですが、能力的には物理的な能力者がいいと思っていました。
(卒業メンバーが軒並み物理戦闘系でしたし…)
が…なぜか日を追うごとに勝手にその延長線上の能力で自分の中のイクちゃんが暴れ出してしまいまして…
泣く泣くそっちへと引きずられてしまった感があります。

でも未練が残る。あーせっかく設定考えたのに。とまあそういう未練をここに。

■生田衣梨奈:【空気制動(アトモスフィアフリージング:atmosphere freezing)】

現状では「一瞬、その場の空気を凍りつかせる」だけの能力。
一種の空気限定の念動力ともいえる。
生田を中心に半径5m程度の範囲内のうち任意の空間に充満している空気(酸素に限らず、ガスや水蒸気も含め)を自然の摂理に反して「その場に固定する」
扇風機の「強」程度の流れならば完全に停止させる。
但し、人間が全速力で突っ込んでくるなど大きな力が加わった場合、それなりには動いてしまう。
が、逆にこれを応用し衝突や落下の衝撃を弱めるクッションとして使うことが出来るかもしれない。
また使い方によっては範囲内の生物を窒息させることもできるかもしれない。
ただし能力の連続使用は生田本人も相当に消耗するので我慢比べのようなことになるだろう。

能力の発展性について
もしかしたら彼女の能力は「空気を止めること」から拡張されていくかもしれない。
空気の成分を正確により分ける、空気を自在に動かす(風を起こす)、など。

■生田衣梨奈:【電磁操作(エレクトロマグネティック;electromagnetic)】

電気を操る力のうち、主に電磁波に関する能力に特化したもの。
能力の強度、どれだけの自由度にするかはいまだ未設定。
どれくらいの誤差かは未設定だが発振する電磁波の周波数はコントロールできる
また周囲の電波や電磁波の存在を感知できる
未熟なうちはただのノイズにすぎない(相当不快だろうからこれを無視する習慣は必須となるかもしれない。KYの原因?)
が熟練によって有益な情報として(例えばその電波がラジオ放送ならちゃんと人の声や音楽として)感知できる日
がくるかもしれない。

具体的な能力使用例
弱めの能力設定であれば、電子機器を狂わせる等。
強めならば、メーザー砲、つまり水のような極性のあるものを共振させ発熱。敵を蒸し焼きにする。
電撃を操る能力を持たせるかは未定。

■生田衣梨奈:【精神破壊(マインドデストロイ;mind destroy)】

悪意、敵意、攻撃の意思を持ってその手で触れたものを発狂させる能力。
現状、強力な発狂作用をもたらすためには接触せねばならないようだが、
非接触であっても軽度の精神妨害を常に撒き散らしているため、
将来的には非接触であっても発狂に至らせる能力者となるのかもしれない。

非接触時の軽度の精神妨害は
「自他の心が読めない」「空気が読めない」と周囲に認識されているようだ。
リゾネイターとしての覚醒以前は完全にダダ漏れ状態であったが、
リゾネイター達との出会いにより、徐々にそのコントロール法を身につけていくことだろう。





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