『フクムラミズキ』


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「何故私のことを助けようとしたんですか?」

「それはあなたの命が危なそうだったからだ」

「私のことを何にも知らないのに?」

「誰かのことを助けようとするときに理由はいらない。 そう私に教えてくれた人がいる。 言葉じゃなく行動でな」

下半身が痺れている。  崩れ落ちてきた岩盤の下敷きになったせいだろう。
もしも、獣化して肉体を再構成することが出来たなら、こんな傷は一気に回復するのだが。
もっともそれを言うなら今自分の傍らに座り、手を握り話しかけてくる彼女を救おうとした時に、獣化を試みていたのだがな。
戦いの日々から遠ざかっていたことで、チカラが錆び付いてしまったのか。
傷を負ったことよりも、そのことの方が腹立たしい。
憮然とした表情で口を開く。

「何はともあれあなたは助かった。 すぐにここを離れて、安全なところまで逃げたら、誰かに私のことを知らせてくれたらいい、私の名は…」

本名を告げるべきか、かつてこの地で呼ばれていた愛称を知らせるべきか一瞬迷ったが、両方教えておくことにした。

「李純。 ジュンジュンと呼んでくれる人もいる」

中国の方だったんですか、と抑揚の無い口調で答えた彼女は、自分の名を告げようとしない。

言いたくないならいいさ。 早くここから逃げてくれ。
さっきの敵、複雑な構造をした三本の足で縦横無尽に動き回り、バルカン砲から機銃弾をまき散らした金属の塊。
あの襲撃の手際から判断して、あれはロボットじゃない。 ロボットならもっと動きがパターン化している筈だ。

装甲の内側に居る人間の意志や動きをフィードバックする駆動鎧。
ロボットのパターン化したプログラムなら裏を掻いて、あなたを逃がすことが出来るかもしれない。
しかし人間の意志が存在する駆動鎧相手では、それも難しい。 奴が戻ってきたら危険だ。 その前に早く。

金属と岩盤が接触して、無機質な音が生まれる。

「早く、逃げろ!」

焦る気持ちが荒っぽい言葉を使わせる。 まるであの頃のように。
彼女が手を離した。 そうだ早く逃げろ。
抱えていたバッグから何かを取り出している。 何をしてる、そんな物放っといて早く、早く。
思わず声に出してしまった。

「私があなたを守ります。 理由なんていらない。 たった今あなたが教えてくれた」

バカ、何考えてるんだ。  あんな金属の塊にオマエみたいな娘が立ち向かったって、敵うはずが…。

突然、緑の光が閃いた。
炎だ。 緑色の炎が対能力者用に開発された駆動鎧に纏わりついている。

この緑炎は!
李純は一人の少女の名前を思い出していた。 いや、もう二十歳になったのだから女の名前というべきか。
本当は思い出す必要なんて無い、心に刻み込まれた名前。
何年も同じ時間を共有した盟友の名前が大きく心に響く。

名も知らない彼女が発動した炎の色は、かつての戦友が掌で熾す正義の炎の色と同じだ。
そう、それは銭琳の、魂の色だ。

「その炎、銭琳の…!」

突然の炎に動きを止めていた駆動鎧が再び動き出す。
炎によって、センサーが破損したのか動きが心許ないが、李純と彼女の居る場所に確実に近づいてくる。

からっぽなんです。 彼女は言った。

「私、心の中がからっぽなんです。 自分の名前は判っていても、何故こんな力を持っているのか。 何のためにこんな力を持っているのか大事な部分が抜け落ちていて…」

彼女は単語帳を手にしていた。 そういえば色違いのものを銭琳も持っていた。

「もしかして、オマエは他の人間のチカラを複写できるのか」

ええ、と彼女は頷いた。

「そのためでしょうか。 最近誰かに狙われているんです」

私じゃなかった。 あの駆動鎧の標的は私じゃなかった。 この女だったんだ。

「オマエの心の空白を埋めてくれるかもしれない人を私は知っている。 その人の所にいくためにはあいつを倒さなければ」

「でも、もうカードもなくなってしまいました」

「ソッカァ、チカラは物にコピーするのか。 ならば…」

私の力をオマエに託す。 小腹が空いた時用に買っておいたバナナの房を掲げる。

「注意することがある。 邪な思いに呑まれたらオマエ戻ってこれない。 そしてもう一つ…」

何ですか、と物問いたげな彼女に念押しする。

「使ったら、とってもお腹減る!!」







                    ☆☆

白と黒の暴虐が、金属の塊を粉砕する光景を見ながら、李純は思う。
パンダってこうして見ると、とっても怖いな。

…今、オマエの心の中は空っぽかもしれない。 ならばこれから満たしていけばいい。
かつての私がそうだったように。

大熊猫の前脚の一撃で関節部を粉砕された駆動鎧から、装着者が脱出した。
ほうほうの体で襲撃者が逃げていくのを見届けたパンダは獣化を解いた。

「キャッ」

外見からは想像できない幼い声が響く。

そうだ、もう一つ注意しておくべきだった。
獣化を解除した時のために、着替えは確保しておいた方がいいってことを。

それにしても日本にはとんでもない名前がある。  脹らむ水着なんてとてつもなくイヤラシイ。 









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