『(56) 206 名無し募集中(牛乳泥棒)』


※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。




  • 保全の流れ (※左下の[+]をクリックすると開きます)
+ ...





206 名前:名無し募集中。。。[] 投稿日:2011/05/11(水) 01:31:25.02 0
前スレの 『mizuki―――』
今スレの 『kanon―――』

…から能力設定をお借りして短い話を書いてみました


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


「私たちの中に“犯人”がいる……ってこと?」
「…としか…考えられない。間違いであってほしいけど…」

やや怒ったような里沙の問いかけに答えた愛の顔には、困ったような表情が浮かんでいる。

「間違いありません。私、見たんです」

だが、愛の思いも空しく、聖はきっぱりとそう言い切った。

「見たっても、実際に見たわけやないっちゃろ?」
「それに何でさゆみたちだけが“容疑者”なの?愛ちゃんや愛佳や…それにフクちゃん自身やかのんちゃんだって店内にいたのに」

れいなとさゆみの不服そうな顔にも、聖の断固とした態度は変わらない。
僅かに視線を落としながら何かを言おうとした聖を慌てたように押し止め、愛はどう説明しようかと思案した。


聖が自分の“見た”ことを愛に告げに来たのは、ちょうど愛が“泥棒”に遭ったことに気付いた直後だった。
『接触感応』―いわゆるサイコメトリー―を持つ聖が「見た」もの……それは、正にその“泥棒”の犯行現場。
顔は見えなかったが、“犯人”は間違いなく里沙、さゆみ、れいなのうちの誰かだったと聖は断言した。
そして…精神感応によってそのイメージを直接受け取った愛も、そう判断せざるをえなかった。

「とにかく……疑いを晴らそう。違うなら違うでさ」

納得のいかない表情の3人を強引に押し切るようにそう言うと、愛はれいなに視線を向けた。

「れいな、さっき…ここに来たよね?入って行くとこ見たんやけど」

愛の言葉に頷きを返したれいなは、その質問の意味するところに気付き、慌てたように付け加える。

「やけどそれは他に用事があったからやけんね!…なん?れーなはここで働いとるんやけん当然っちゃろーが!」

疑いの視線を向ける聖に対し、れいなは必死に言い募った。
「その必死さが逆に怪しいですよ」と言いかけた聖を寸前で制し、愛は次にさゆみを見遣る。

「さゆ……その……」
「…何?聞きたいことがあるならはっきり言ってよ愛ちゃん。さゆみやましいことなんて何もないし」

何かを聞きにくそうにしている愛に対し、さゆみは焦れたようにそう言った。
その言葉を受け、愛が重い口を開きかけたとき、不意に横から割って入った声があった。

「新垣さんが“犯人”でしょう?」

今まで黙っていた香音のその言葉に、驚いたように皆の視線が集まる。

「何よ急に。何で私が犯人なのさ。根拠でもあるわけ?」
「いえ、何となくですけど…」

だが、鋭い里沙の視線に射竦められ香音の声は一気にトーンダウンした。

「何となくで犯人にしないでよね、まったく」

ブツブツ言う里沙に執り成すような表情を向けた愛は、再び困惑していた。
言葉で探りを入れながら、密かに能力を使っての探りも入れてみたのだが、“犯人”らしき感触を持った者はいなかった。
これはやっぱり他に“犯人”が―――

愛がそう口にしかけたとき、再び香音の声が割り込んだ。

「“犯人”は、やっぱり新垣さんですね」
「なっ?」

先ほど迫力負けしてうつむいたと思っていたその表情には、自信ありげな笑みが浮かんでいる。

「根拠もありますよ」

何かを言いかけた里沙の機先を制するようにそう笑うと、香音は腕を水平に突き出し、その指先を真っ直ぐ突き付けた。
胸のあたりを指すその指先を見る里沙の瞳に、僅かな狼狽の色が浮かんでいる。

「新垣さん、さっきわたしが“犯人”でしょう?って言ったとき、心臓がすごい音で鳴りました」

『超聴力』―エンハンスド・ヒアリング―とでも言うべき能力を持つ香音のその言葉に、里沙の瞳の狼狽の色が濃くなる。

「もし濡れ衣なら、ジワジワと心臓の音が速く、大きくなっていきます。誤解されていることによる不安と興奮で。そう、さっきの田中さんのように」

反論できずにいる里沙を見据えながら、香音は言葉を継ぐ。

「でも、新垣さんの心音は初めが一番大きくて、わたしが『何となく』と言った後はどんどん静かに落ち着いていきました」

そして、蒼白な顔になった里沙に止めを刺すように、香音は決定的な言葉を突き付けた。


「典型的な“嘘つき”の音色なんです。新垣さんの心音は」

静寂が訪れた。
誰も何も言わなかった。
だが、その場にいる全員が痛いほどに理解していた。
紛れもなく“犯人”は里沙であるということを―――

「どうして―――」

沈黙を破り、愛がそう口を開きかけたとき―――思わぬ人物が思わぬ行動に出た。


「すんませんっした!ほんますんませんでした!こんなことになるなんて思わへんかったんです!ほんの出来心やったんですぅ!」
「あ、愛佳…?」

ズザァッっと音がしそうな勢いで這いつくばった愛佳が、額を床に擦り付けんばかりにして土下座している。

「新垣さんがそこまで思い詰めはるやなんて思わへんかったんです!新垣さんは悪くないんです!悪いのは愛佳なんです!裁くんやったら愛佳を裁いてください!」
「いや、裁くってそんな、ただの牛乳やし…」

泣きじゃくる愛佳にあたふたと手を差し伸べたり引っ込めたりしつつ、愛は事態の収拾をどうつけたものかと内心頭を抱えていた。

愛佳から“聞こえ”てきた、“犯人”――里沙が“泥棒”行為に及んだその動機。
喫茶リゾナントの冷蔵庫から数本の牛乳を盗み出し、おそらくは片っ端から飲み干したその理由……

(里沙ちゃん……そこまで悩んどったんか……気付いてあげられんで……ごめん……)

今、里沙がどんな表情でいるのかを見たくはなかったし、どんな表情を向ければいいのかも分からない。



静寂の中、愛佳の嗚咽と「すんませんでした…すんませんでした…」と繰り返すその声だけが響いていた。