『孤立無援の名誉』


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「久住小春様、お見事です」

暗い洞窟の中でいくつかの影がうごめいている。
傷つき斃れた者を運ぶ男たち、それを睥睨する女。

「ああ」

自分よりも年上の部下に対して轟然と応える女。

「最後のリゾナンター、光井愛佳を討取った功績は何物にも変えがたいです、が、しかし」

「しかし、何よ」

「今回の作戦でも久住様の雷撃によって味方に多大な被害が出ています」

女―久住小春の暴走を遠慮がちに指摘する部下に対して、当の小春はというと…

「はあ? それって小春のせい? モタモタしてる連中が悪いんじゃないの」

「ですが」

「だから小春は一人でやるって行ったのに、アンタたちがついて来るからこんなことになっちゃうんじゃない。
リゾナンターだったらね、そんな間抜けなことになったことなんか一度もないよ、一度も」

自分の能力で傷ついた部下たちのことをあからさまにバカにした小春に部下の一人が噛み付いた。

「そんなに凄いリゾナンターをお前は裏切った。 そしてかつての仲間を殺したんじゃないか」

「ふぅん。 下っ端のくせに幹部の私をお前呼ばわりするんだ、あんたは」

小春の冷たい視線は暗い洞窟の中で部下を刺す。

部下は小春の刺すような視線を受けながら、怯まない。

「俺はお前がリゾナントに出入りしている頃から知っているぞ。
お前は光井愛佳とあんなに親しくしてたじゃないか。 かつてここにあった大きな木の下で…」

男の声が消えたのは、小春が人差し指で男を指したからだ。

「オジサン、リゾナントがあった頃から戦闘員をやってるの。 じゃあ随分とくたびれてるよね、バイバイ」

言い終わると同時に人差し指から電流が走る。
激しい衝撃音と共に戦闘員が倒れた。
その様子を見た雷撃に打たれていない戦闘員たちも凍り付いてしまう。

「久、久住様。 何ということを!」

小春におもねるように話してきた副官も流石に咎めようとした。

「知らないの。 ダークネスの幹部には反抗的な下級戦闘員を粛清する権利があるってことを。
さっきからのそいつの話っぷり、どう甘く受け取っても私に対する反抗だよね」

そう言うと急所は外れようだが、苦痛のうめき声を上げる戦闘員を運び出すように他の戦闘員に命じた。
命じられた戦闘員たちも命令には従うが、その動きは鈍い。
ひどい、まただよ、という囁きすら聞こえる。

光井愛佳によって倒された者、小春によって粛清された者が運び出された洞窟には小春と副官、そして動かなくなった愛佳だけが残った。

「…ところであの者、光井愛佳の亡骸はいかが致しましょう。 敵とはいえリゾナンターを今日まで率いてきた健気な娘。
敬意を以って葬るべきだと思いますが」

副官の声には懇願に近い響きがあった。

しかし小春の応えは無情なものだった。

「アハハ、バカじゃない。 ダークネスに最後まで逆らった愚か者を手厚く葬るですって。 副官でなかったらアンタにも一発お見舞いしてるところよ」

バチバチという火花が飛ぶ。

「しかし!!」

「しかしもかかしもないの。 そいつの死体にはまだ利用価値がある。 ここに放置しておけばアンタと同じことを考えるバカがやってくるかもしれない。
リゾナンターの支援者、ホゼナンターっていうバカどもが。 そこを…」

先程よりも大きな電流が走る。

「部下たちは強襲に告ぐ強襲で疲れきっています。 更なる作戦の遂行には耐えられないかと」

「そんなやわなやつらは死んでしまえばいいんじゃない」

もしも悪魔が実在するのなら、こんな風に笑うんだろうな。
副官は小春の笑みを見て思った。

「もういい。 アンタも要らない。 大切な部下を連れて本部に帰還しなさい。 楽しい狐狩りは私一人でやるから」

「こんなことをしていては、いつかあなたも悲惨な最期を迎える…」

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そして副官も去り洞窟の中で動いているのは小春一人だけとなった。 
黙って動かない愛佳を見つめていた小春は何かを取り出した。
携行食だ。
それを愛佳の傍らに置くと、振り向きもせずその場を後にする。

――あんたが私の知ってる愛佳だったら、あの程度の電撃でやられはしない筈。

――電圧こそ高くて派手な稲妻になったけど、電流値は低く抑えておいた。 これで逝ってしまったならあんたもそこまでの人間だったってことよ。

――陽動も眼くらましもせずに過去への扉を開けてしまったら、察知されるに決まってるじゃない。 まったく…。

――この辺りのセンサーや監視役は誤爆を装って排除しておいた。 安全なエリアに逃げ込んで暫くは大人しくしてなさいね。

小春は新垣里沙のことを思い浮かべる。
かつて自分がリゾナンターだった頃、里沙がスパイだということを知った時は、腹が立った。 情けなかった。 許せないと思った。
しかし後になって判ったことだが、里沙はリゾナンターの情報を100パーセント正確にダークネスに伝えていたわけではなかった。
ある情報は誇張して、ある情報は矮小してリゾナンターの姿を歪めてダークネスに伝えていたのだ。 
何の為に?
それはまだ戦士としての強さに欠けていたリゾナンターに強くなる為の時間を作ろうとしたからだ。

――もしも新垣さんの情報操作が無ければ私たちはもっと早くダークネスの前に屈していた。

――そんな新垣さんや高橋さんが私たちの為に作ってくれた時間を私たちは有効に使うことが出来なかった。 その結果が現在のこんな状況。

――愛佳が現在を変える為に命を賭けるなら、そんな愛佳を私は守る。 かつて新垣さんが私たちを守ったように。 その時のために私はダークネスについたんだ。

黙ってリゾナンターを去った自分のことを愛佳は恨んでるだろうな。
ダークネスの懐に潜り込む為とはいえ、ホゼナンターの皆もかなり傷つけてしまった。
私の選んだ道は、決して報われることはない。
ダークネスか、リゾナンターかいずれの刃に倒れたとしても後悔はしない。 だって…

――私は誰が何と言ったって、新垣里沙の相方でリゾナンターの電撃使いなんだから。