『「Vanish!」(1)鳴り始める終焉のベル』


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<数年前のある日>

品定めするような下品な目つきの男達に私は囲まれていた
「綺麗な顔してるな。こんな時間にお嬢ちゃんみたいな綺麗な子が歩いているなんて大した度胸だ。
 その度胸だけは買ってやるぜ。…おっと、悪いな、お前にはたいして胸がないようだな、失礼失礼」
全く面白くない冗談にも取り巻きの男たちは声をあげて笑う。本当に下品な連中だった。
「近づかないで!やめて!!」
男はいやらしい笑顔で会話を続けた。
「イヤと言われてもな、俺らとしてもお嬢ちゃんみたいな子はなかなか会えないから逃したくないんだよね~
 運が悪かったと、諦めな。まあ、最初の相手が俺様みたいな美男子でよかったと感謝するんだな」
そう言って私を囲む男達の輪が少しずつ小さくなり、男の手が私の肩に触れそうになった

「あんた達、なにしてると?・・・ふぅん・・・そういうことしとるとね・・・」
少し鼻にかかった声が聞こえ、数人の男たちが振り返る。
そこには私とほとんど身長が変わらない少女が立っていた。
小さくて華奢な見た目なのになぜか切れ味鋭いナイフのような印象が感じられた

おそらく血の気が多いと思われる一人の男が少女に向かって声を荒げて近づいた。
「なんだ、てめえは!!お前もやってやろうか?ああ?」
少女は何も言わずに近づいてきた男の腹に蹴りを入れ、男はあっけなく気絶した。

「次はあんた達の番やね」ニヤリと少女は男達にむけて笑みを浮かべた。
「ふざけんなてめえ、やっちまおうぜ」男たちは息を荒げて一斉に少女に向かっていった

それから数分後、その場で自分の足で立っていられるのは少女だけになっていた
その少女は肩をふるわせ震えていた私に手を差し伸べてこう言った。
「・・・いっとくけどアンタのためじゃないと!勘違しないで。
 ただれいなは、こういうことしているヤツラが大嫌いやけん、ブッ飛ばさないと気が済まんだけと!」
野暮な言葉づかいとはうらはらにその言葉に私は心地よい温かさを感じた。

これがあの人との忘れられない最初の出会い

バチッ

「痛い!」
久住は握っていたドアノブから手を離した。
「もう、冬はいやだよ・・・静電気がたまりやすいから・・・はやく春にならないかな」

<一日目> ●月×日(火) AM 7:00
リゾナントの入り口のドアが勢い良く開かれ、飛び込むようにれいなが入ってきた。
「愛ちゃん、ただいま~あったか~~い!!生き返った!朝ごはん、今日は何?」
入ってきた途端に田中は矢継ぎ早に言葉を投げつける。
日課にしている朝のトレーニングを終えて、喫茶リゾナントに帰ってきたばかりでもれいなは元気だ。
おそらく今日も寒いのだろう。コートやマフラーには水滴が付着し、れいな自身もガタガタ震えている。
「れいな~風邪引いたらダメだから、手洗って来てね。そしたら、朝ごはん出してあげるから」
高橋はそう言いながら、れいなの水色のグラスに緑茶を注いだ。

「ピークは過ぎたらしいけど、まだまだインフルエンザも注意しないといけないんだからね。
 それに、ウチはお食事を扱ってるから一段と気をつけないといけないのわかってる?」
れいなは厨房の奥にある従業員用の手洗い場で手を洗いながらそれを聞いていた。
念入りに爪の間まで洗うようになったのは、従業員としての生活が身にしみた証拠であろう。
「わかってるっちゃ。食中毒と病気には気をつけるってことやろ。
 れいなが休んだら愛ちゃん一人で切り盛りしないといけないっちゃ。れいな、気にしとうとよ」

れいなはタオルで念入りに水を拭き取り、リゾナントのカウンター席に座った。
「よろしい、それでは、はい、どうぞ。朝ごはんのうええおええ丼」
「うええおええ~」
静かな町の片隅にある喫茶店から町中にれいなの叫びが響き、数羽の鳩が屋根から飛び立った。

●月×日(火) AM 11:00

「ふぅわぁぁぁ・・・」
道重は教壇で説明している教授の講義を右から左に受け流し、思いっきりあくびをした。
(本当にこの講義はつまらないなあ。最初は面白いかと思ったのに、全然だなあ・・・
 出席確認が最後にあるから出ちゃいけないし…おひるごはん、何食べようかな?)
道重はぼんやりと教授の話を眠り歌のように聴きながら、ボーっとした頭で考えることを考えようとした。

机の上に置いてあった携帯がメールの着信を知らせ、携帯のLEDライトがオレンジ色に光った。
「あ、エリからのメール。なになに…
『後でクレープ食べに行こうよ!美味しいところ見つけたんだよ!エリちゃん偉いでしょ~褒めて褒めて!!』」
道重は亀井からのメールを一通り読み、机の下で先生に見つからないように注意を払って返信メールを作った。

『やった~♪エリが美味しいっていうならぜ~~~ったいだもんね!楽しみにしてるね^^
 今日は2時くらいに終わるからいつもの場所で待っててね♪』

本当は2時30分に終わるのだが遅刻常習犯の亀井のことを思い一時間ほどサバを読んでメールを送った。
しばらくすると、道重の携帯がまたブルブルと震えた。
「珍しい~エリがこんなに早く返信してくるなんて。雪でも降らないかしら?」
道重はブツブツと独り言をつぶやきながらメールの内容を確認した。

『わかった~エリ、時間通りに行くからサユもしっかり来てよ!
 サユが遅れて来るの、エリ、イヤだからね!
 あと、れいなにもクレープを買って、後で渡そうね♪お仕事、御苦労さまって思いを込めて♡』

道重は早々にそのメールの返信をし、それかられいなのことを思い浮かべた。

『田中れいな』は道重と同い年の20歳。
学生の道重に対し、リゾナントの看板娘としてしっかり手に職をつけ高橋のパートナーとしての地位を確立。。
その一方で、リゾナンターとしては高橋と共に戦闘の最前線に立ち、能力を使わないで敵と戦っている。
かつての向う見ずな性格は収まり、今では頼りになる存在として道重、いやリゾナンター全員は全幅の信頼を置いている。
そして、ダークネスと幾つもの激闘を経験した『いま』では道重は心からの親友と思っていた。

(エリとは長い付き合いだけど、れいなとも出会ってずいぶん経ったなあ…)

強気な口調だけど、本当はとっても繊細で、誰よりも弱い部分があることを知っている。
れいなの言う言葉は耳には鋭く聞こえるが、その言葉はまっすぐで心に正面から突き刺さる。
いつもぶっきらぼうで天の邪鬼だけど、本当は素直になれないだけってことも。
そして、優しさで包みこむ高橋とは別の方向かられいなはリゾナンターをまとめてくれることも多い。
共鳴増幅能力(Resonant Amplifier )は仲間を大切に思っているそんな彼女にふさわしい能力と思っていた。

(普通だったられいなとは友達になんてなってないんだと思うと不思議なことだな。
 ダークネスは絶対に許せないけど、れいなと出会わせてくれたことは感謝しないといけないかもね)

第一印象は怖そうな人だった。今も見た目はあまり変化しないが大人への階段を上った彼女は大きく変わった。
肉体的な強さ、それよりももっと大切な強さ、心の強さを得たれいなを恐れるのはほんの一部の者のみ

「100人を相手に喧嘩して勝った」という伝説を持っている「動」のれいな
運動が苦手で他人を治すことが主な役割となっている「静」の道重
静と動、そんな二人をむすびつけたものこそが共鳴(Resonant)の力なのであろう。

●月×日(火) PM 6:00

カランコロンと入り口のドアのベルがお客様の来店を知らせた。
「「いらっしゃいませ」」
来客は近くの女子高の生徒達で、椅子に着くまでのわずかな絶えずペチャクチャと話している。
「こちら、メニューとなります」
れいなが丁寧にテーブルの上にメニューとお冷やを人数分並べる。

「わたし、チーズケーキセット」「サキはココア」「私もおんなじの」
注文が入ると高橋は冷蔵庫からチーズケーキを取り出し、急いでコーヒーとココアを用意する。
注文品が揃うと、れいながお盆にのせ、テーブルへと運び「ごゆっくりどうぞ」と声をかける。
その間にも女の子達は話を止めることなくずっとしゃべりっぱなしである。

「よくしゃべるっちゃね、あの子達。そう思わんと?愛ちゃん」
れいながちらっと目線を女の子たちに向け、こっそりと高橋だけに聞こえるように話しかける。
「みんなそんなもんでしょ。若い時は何だって楽しいもんだし、気の合う友達といれば饒舌になるわ。
 れいなだってサユとかエリと一緒にいるとものすごいわよ。もしかしたら、あの子たちよりもうるさいかもね」
「べ、別にれいなはそれが悪いとか言っておらんもん。ただ、凄いなって感心しとうだけやもん!」
高橋はそんなれいなの様子を見て、まだまだ子供だなあと思った。

そんな心情を察したのだろうかれいなが高橋を軽く睨みつけた
「何、笑っとうと?」
「いや、れいながかわいいなぁって思ってね。」
高橋のニヤニヤ笑いは止まる気配はない。
「愛ちゃん、やめて!冗談言うとれいな、怒るとよ!羨ましいとかそんなのじゃないから!
 ・・・愛ちゃん、れいな、買出しに行ってくるけど何か必要なものある?」
「ん?じゃあ、リゾリゾ用のナツメグとガレット用のサフランを買ってきてくれる?あとコーヒーフィルターも」
高橋はこれ以上、れいなの心に突っ込むのは失礼にあたると思い、へたくそな会話の止め方を可愛いと思いなおした。
(れいなは本当に不器用なんだから・・・)

●月×日(火) PM 7:00

田中は裏口からいきつけのお店に買い出しに出かけた。凍えるような夜の下でコートに身を包ませ、目的地まで走っていく。
走っているその最中でも、先ほどの女の子達の笑い声がなぜか頭から離れない。
リゾナントではよく見る光景だし、もうそれにはだいぶ慣れたはずなのに、たまに羨ましく思ってしまう。
「あの子たち、学生生活楽しそうでいいっちゃ・・・友達がいて、バカみたいに笑って…」
小さく呟きれいなは、首に巻いた白いマフラーをぎゅっと握りしめ走りだした。

リゾナンターになる以前、高橋愛に出会う以前の彼女は孤独だった。
たった一人で自分の世界をさえぎるもの全てを薙ぎ払い、己の力だけを信じていた。
一人で数十人の男と戦い勝利を収めてこともあった。警察の面倒に合うことも一度や二度ではなかった。
でも、それは自分を守るため、自分が生きていく上で必要不可欠な現実を受け入れるため。
ただ田中は生き続けることを貫き通していただけと考えていた。

ただ、彼女は誰にも教わらなかったが善悪の判断はついており、決して悪事に手を染めることはなかった。
警察もそのことは十分承知していたが度々喧嘩を起こす彼女のことを気にかけていた。
そんな彼女に付けられた警察官の間でのあだ名は『夜の白猫(ダーク・ホワイトキャット)』
悪には染まらないが、昼の世界にも生きられない彼女を警察は憐れみと同情の眼で見ていた。

そんな過去を経験して田中は今の生活を手に入れた。
いまはリゾナントで一人前の大人として胸を誇れるような生活を今では送っている。
昔の彼女を知っている者がいたならば、間違いなく大変驚くであろう。
人を近づけようとさせなかった圧倒的なオーラは消え、今ではウエイトレスとしての愛想を見せているのだから。
決して他人を信用しなかった彼女を受け入れた女性のもとで生活をしていることが最大の変化であろう。
かつての『野良猫』はナリをひそめ、飼い猫のようにおしとやかに静かになっているのだから…


<二日目> ●月□日(水) AM 6:00

「田中さん!」
目が覚めた時に思わず光井は叫んでしまった。ある『夢』を見て目ざまし時計にセットした時間よりも早く起きていた。
「なんや、この夢は?・・・予知夢、やないよね?」
目覚めたばかりの光井はその夢の恐ろしさに冷や汗をかき、それは冬の寒い朝をより一層厳しく感じさせた。

●月□日(水) AM 8:00

喫茶リゾナントの定休日といえども、れいなの朝はいつもと同じ朝のトレーニングから始まる。
ただ、この日だけはいつもと違い朝食は出てこない。
というのもリゾナンターリーダーでもあり、喫茶リゾナントのマスターの高橋がゆっくりと起きてくるからだ。
れいなはトレーニング終了後は帰りがけのコンビニで朝食を買ってから帰ってくる。
「愛ちゃん、疲れているのわかるけど早く起きて来んかな?れいな、暇やし」
店内に置いてあるテレビのチャンネルをパチパチと変えながら、れいなは高橋が起きて来るのを待つ。
「早く起きてくれんとゆっくりシャワーも浴びれんし・・・汗臭いのイヤっちゃ…」
そう言って買ってきたサンドイッチを食べていると、二階から高橋が降りてきた。
「ん~愛ちゃん、おはよう~」「・・・おはよう、れいな」
ぼさぼさ髪の高橋はトースターにパンをセットし、冷蔵庫からジャムを取りだした。
ビンの蓋を開けようとしたが思っていた以上に固いようで、れいなにビンを渡して、開けて、と言った。
れいなが簡単にビンの蓋をあけると、ありがとうと言い焼き上がったパンに塗り食べ始めた。

ゆっくりと遅めの朝食を食べながら、高橋がれいなに声をかける。
「れいな、ちょっと後で一緒に来てほしいところがあるんだけどいい?」
「どこいくと?この前言ってた食器屋さん?それとも愛ちゃんの洋服選びに付き合うってこと?」
「ん?まあ、そんなところね。でも、きっとれいなも行って損はないと思うとこ」
特段に用事があるわけでもなかったので二つ返事でれいなはOKを出した。
「じゃあ、ちょっと汗流してくるっちゃ。それから、愛ちゃん、早く寝ぐせ直したほうがいいと。ボサボサよ」


●月□日(水) PM 0:00

リンリンの元に一枚の手紙が届いた。それは中国にいる友達からのものであった。
もちろん全て中国語で書かれており、リンリンは懐かしげに眺めていた。
手紙の内容はこう書いてあった。

「Dear 琳
 お元気ですか?私は相変わらず、こっちで頑張っているよ。寂しくない?
 寂しかったかいつでも連絡頂戴ね!アドレスは変わっていないから!
 あなたが日本に行ってから3年ね。突然、守りたいものが出来たなんて言って飛び出した時は驚いたわ。
 それで守りたいものは今も無事なの?まあ、そんな分かりきったこと聞くのもバカみたいね。
 琳のことだもん、絶対に守っているよね。私はあなたのことをいつでも信じているからね。

 最近の私はね、私が小さい頃の友達と偶然再会したの!見た目は変わっていたけど、一目でわかったわ
 思い出話ですごく盛り上がったわ!年月がたっても友達は友達なんだね!
 もちろん、琳も心友よ!辛いことがあったら私でよかったら相談に来ていいんだからね
 琳は自分一人で抱え込もうとする傾向があるから無理しちゃだめだよ!!
 今度中国に来たらいっぱい話したいこともあるから会いたいな。何をしているのか教えてね!
 私も御神体のお世話を頑張るからね!バイバイ」

同封されていた友達の写真を見てリンリンは故郷の暮らしと友達のことを思い出し笑顔になった。


●月□日(水) PM 1:00

高橋は両手にビニール袋をぶら下げ、れいなも同じく右手に荷物を持ち喫茶リゾナントへの帰途を辿っていた。
「愛ちゃんが損はないって言うから行ってみれば、調理器具を新調するために駆り出されただけやん。
 どこが『行って損はない』ところなんだか、わけわからんかった」
「そうやってぶーぶー言わないでよ。私一人じゃこんなにたくさん買い物出来ないんだから。
 それに、ほら、れいなのために新しいエプロンも買ったんだし嘘は言ってないからね」
高橋はそうは言うが、れいなの機嫌は悪く、休日なのに、とか、ジュンジュンも呼べばよかった、と絶えず不満を言っている。

れいなの機嫌が更に悪くなっていくのを恐れて高橋はある提案をした。
「じゃあ、どこか外で食べてから帰ろうか。れいなが行きたいところでいいからさ」
「本当?愛ちゃん、最高!あのね、れいな、前から行ってみたいお店があったと!
 なんかね、リゾットがおいしいらしくて行列せんと食べれ・・・」
まくし立てるように話はじめたれいなを見て、高橋はほっと一安心する。
まだまだ子供のれいなに大人の対応をたまにしなくてはならないことに高橋は複雑な感情を抱いていた。

「愛ちゃん、こっち!早く、れいな、朝早かったけん、おなかすごく空いとーよ!」
「ちょ、ちょっと、れいな引っ張らないでよ」
れいなは高橋の手を引っ張って笑顔で街中をかけていった。
もちろん、二人は荷物を持ったままなのでどうしても荷物が揺れてぶつかりそうになる。
「すみませ~ん、通してくださ~い。急いでいるんです~」
れいなが他の人をお構いなしに声を上げて走り、高橋も半ばひきずられながらもついていく。

「みなさん、すみません~ごめんなさい~」
高橋が謝りながら走っていくと、右手に合ったビニール袋が女の人に当たった。
「本当にゴメンナサイ~れいな~もうちょっとゆっくり走ってよ~」
れいなに引っ張られながらも、振り向きざまに高橋は女性に謝り、れいなに注意を促した。

遠ざかっていく二人を見て、その女性は荷物のぶつかった右足をさすりながら呟いた。
「・・・田中さん?」
そして、二人に気づかれないように注意しながら、彼女は二人の後を追って走り出した。