『藤本美貴の災難』


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38 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:45:14.95 0

藤本美貴は、いつになくご機嫌で道を歩いていた。

「ハッフフフ~、グッフフフ~、フンフフフフフフッフ~♪」

あまりにご機嫌過ぎて、鼻唄なんか歌っている。
その鼻唄に耳を澄ませば、某ジャニ事務所に所属していたビッグなアイドル歌手の往年のヒット曲によく似ている。
そういえば、最近衣料用洗剤のCMに使用されていたような。

とにかく鼻唄を歌っている。
歌っているといったら歌っているのだ。
彼女のことを蛇蝎のように忌み嫌い鬼神のように恐れるダークネス下級戦闘員たちが見たら、驚きを通り越して恐れ戦くだろう。

藤本美貴がご機嫌な理由はというと、二十…回目の誕生日を迎えたからというわけでもない。
それは多少は心が沸き立つこともあるやもしれないが、流石に二十…回目の誕生日だ。
ここまで上機嫌になるようなことはない。

強いて言えば、厳しかった冬も終わりを告げ、春の気配が感じられる今日この頃の時候が彼女をご機嫌にしているのだ。
ダークネスの幹部として世界を闇で覆わんとしている者としては相応しくない理由かもしれないが、それこそが唯一の真実。

暖かな日差しに浮かれて鼻唄を歌う。
きらり☆ハッピーになる。
より日差しが暖かく感じられて、またまたきらり☆ハッピーになる。
幸せ気分の永久循環、きらり☆ハッピーのマルチ商法状態とはこのことである。
とにもかくにも歌ってる。
穏やかな日差し、芽生えだした緑、行ける者の歓びの声。
全ての事象が重なり合って、藤本美貴をご機嫌にしているのだ。
そう、こんなふうに。


39 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:46:01.72 0

ほころび出した梅の花、なずな、菜の花、クロッカス。
目を楽しませてくれるお花さんの顔ぶれがだいぶ変わってきたわ。
春が近付いているのね、ウフッ。
あら、あれは何の花かしら?

道端に咲いていて、雑草と見紛うけどとても綺麗な瑠璃色の花を咲かせてるわ。
春といえば桜だって言う人も多いけど、私はこんな健気な花が好き、ウフッ。

(藤本美貴は知らなかった。 彼女が愛でたその花が胡麻葉草(ごまのはぐさ)科に属する学名 Veronica persicaだということを。
Veronica persicaその丸みのある腎臓形の実の形から、大犬のフグリと呼ばれていることを)

お花さん、お花さん、また会いましょうね。
今度会いに来る時まで、その綺麗な花を咲かせていて欲しいな、約束だよ、ウフフッ。

大犬のフグリに別れを告げた藤本美貴は歩き出す。
また鼻唄が聞こえてくる。

「フフフフフ~、フフフンフッフフー。フフフ、フフッフー♪」

春の兆しを感じ出したとはいえ、2月。
昼間とはいえ人通りの少ない住宅街を歩き続ける藤本美貴。
そんな彼女の前に、現れた一つの影。

「ええかげんにさらせよ、この極悪非道の人でなしが!!」

「お、お前は!」

関西風のイントネーションに、ドスのきいた声。
宿敵リゾナンターの一人、光井愛佳である。
光井は屍肉を睨むハイエナの目で藤本美貴を見据えていた。

40 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:46:40.05 0

「ホンマにおのれらダークネスという奴らは血も涙も無い連中やな。 
お前らの悪行、たとえ天が許しても、リゾナントパープル、光井愛佳が許さへんで!!」

「ちょっ、おまww」

わからない。
光井が何を言っているのかわからない。
いや怒っているということはわかるのだが、その激烈な怒りの根源がどこから来ているのかがわからないのだ。
藤本美貴はただ、気分よく鼻唄を歌っていただけなのに。

「和也君はなあ。 3丁目の和也君はなあ。 おい、われ、聞いとんのか、しれっとした顔しやがって」

「知らねえよ、3丁目の和也君なんて」

「和也君はなあ、」

藤本美貴はどうやってこの災難を逃れたものか思案していた。
リゾナンターの一員とはいえ直接敵を攻撃する能力を持たない予知能力者。
そういえば、水守ってあったけど残念な顛末になったねぇと記憶を辿る。

「せやから、何ぼんやり突っ立っとんねん。 愛佳のことをナメとんか」

いや、ナメてねえし。
いくら凄んだところで所詮は予知能力者。
自分が拳を振るえば、たちどころに撃破できる相手だという確信が藤本美貴にはあった。

ただ、問題は今日の光井愛佳が凄みすぎるということだった。
いや、もっと正確に表現するなら言葉遣いが汚すぎる。

彼女、光井愛佳が生まれ育ったのは滋賀県。
いや、それはモーニング娘。の光井愛佳であって、リゾナンター光井愛佳としては違うだろとかそんなことは言わないのが大人の振る舞いである。

41 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:47:26.36 0

滋賀は確かに関西圏であり、笑いの殿堂吉本興業の影響力の強いテリトリーである。
だから弾けるような関西弁を光井が使ったっておかしくはないかもしれない。
だが、過剰すぎる。

本来愛佳が話してきたであろう言葉は近江弁。
はんなりとした京都弁とも共通する要素があるとされる方言だ。
そんな方言を話して来たであろう愛佳が、耳を塞ぎたくなるような汚い言葉遣いをしている状況は、一つの答えを導き出した。

この話はコメディだ。
いや、それは登場したときからウフ、ウフ、ってなってた時から判ってはいた。
だがこんないい気分の日にドタバタだのグダグダだのは真っ平ゴメンだ。
っていうか、この先どんな展開が待ってるか読めてるし。
散々因縁をつけられて、お前ら悪党に人権なんかはないんじゃ、ボケぇぇとか罵られて、先祖代々の破魔・除霊道具の『キラーソー』で追っかけまわされるんだろ。
まとめサイトで読んだ。
梨華ちゃんやよっちゃんが散々な目に遭ったのには笑わせてもらったけど、アタシがおんなじ目に遭うのは真っ平御免だね。

いや大体『キラーソー』とか悪人に人権はないとか、ホントにあいつの実家寺なのか。
善人なをもて往生をとぐ。いはんや悪人をや。って言うじゃねえかよ。
いや宗派が違うのか。
とにかく、イヤだ。
少し癪に障るが、ここはバックレよう。


「ウフ、フフ、ウフフ、フフフ」

「おい、こら何笑っとんねん。 ははあん、さては余裕でっか。氷の魔女さんは予知能力者なんか相手に出来へんっていうことでっか」

「ウフウフウフフフ、今日はとってもいい天気~で美貴ちゃんきらり☆ハッピーでラッキーだよん」

「おい、こら! 何わけの判らんことぬかしとるんや! うちの目をちゃんと見んかい」

42 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:48:04.29 0

「こんな日はお日さまとお話しするんだ~。
お日さま、お日さま、暖かくしてくれてありがとう。 
えっ! 聞こえな~いぞ、ぷんぷん。
もしかしてこ~んなに離れてるせいで美貴の声が聞こえないのかなあ、ウフッ。
よ~し、こうなったらお日さまの所まで歩いて行くぞっ。
右足を高く高ぁくもっち上げてぇ。 踏み出した右足が地面に着く前に素早く左足を踏み出すんだ、それっ!!」

「って、こら待たんか~い」

あまりといえばあまりな痛々しさに、流石に毒気を抜かれていた愛佳の隙を突き、藤本美貴は駆け出した。

元々が近接戦を得意とする武闘派であり、今なお狂犬と恐れられる藤本美貴である。
体力には自信がある。
見る見るうちに愛佳を引き離すと、小さな工場が建ち並ぶ一帯に逃げ込んだ。

ちっ、イカレたやつのせいで折角のきらり☆ハッピーな気分が台無しだぜ。

ゆっくりと歩き乱れた呼吸を整えながら、面倒くさい相手を振り切ったことにほっとする。

アタシも大人になったもんだ。
これが五年前なら瞬殺するところだけどな。
もうなんかそういうのひたすらメンドいし。
ちょっと遠回りだけど駅前の品茶房百貨店に寄って春の新作…。

「ちょいこら、待てっちゅうねん」

平穏を破ったのは宿敵リゾナンターの光井愛佳だった。
光井は痴漢行為を仕掛けてきた中年男を捕まえて、駅員に引き渡した女子校生のような目で藤本美貴を見ていた。

「ミティはん。 あんたもわからんお人やで。」

43 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:48:47.35 0

ちっ。 振り切れなかった?
いや、そんな筈はない。

「そやから無視すんなっちゅうねん」

真正面から向き合おうとしない藤本美貴とに苛立ちを見せる光井。

「あんたも知っての通り、うちは予知能力者。
いくら逃げ回ったところで、その行き先なんかたちどころに予知したるで。 どやっ、恐れ入ったか」

光井は万馬券を的中させたことを仲間に自慢する赤ら顔の馬券オヤジのようなドヤ顔で藤本のことを見ていた。

「ああ、わかったぜ。 いくら情けをかけてやったって自分から殺されたがる愚か者がお前だってことはな!」

「ぷぷぅ。何その持って回った言い方。 自分の勝利を確信してからに。 ウケますやんwww」

ただでさえ安っぽい展開だ。草を生やしたらさらに安っぽくなる。
怒りに眦をつり上げながら、狂犬の目で予知能力者を射殺さんとする。

「バカは死ななきゃ治らねえっていうからな。 アタシが医者になってオマエを治療してやるよ。 とっととオマエの得物、キラーソーでもチェーンソーでも出しやがれ」

魔眼とも称される藤本美貴の氷の視線ですら、今の光井には効果がなかった。

「そうやって睨んで脅したら、うちがビビって退くとでも思ってるんか。 いつまでも弱い愛佳と思っとったら大火傷すんで!!」

おかしい。
何で光井がここまで強気且つ好戦的な態度を貫くのか。
善と悪。 光と闇。 リゾナンターとダークネス。
相容れないもの同士の対立という従来の図式には収まりきらない愛佳の言動がまったく読めない。

44 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:49:28.98 0

折角の誕生日だ。
たとえ憎き敵であっても、流血の事態は避けたい。
そんな思いが藤本美貴に口を開かせた。

「オマエさぁ、なにそんなにいらついてんだよ」

最悪の事態を回避する糸口になればと、何気なく口にした一言だった。
だがその言葉を耳にした光井の形相が一変した。
顔からは血の気が引き、眉は天を指さんばかりにつり上がり、ばりばりと噛みしめた歯が砕ける音が藤本の耳にまで届いた。

「お、お前今何て言うた?」

「はぁ」

「今、お前何て言うたかって聞いとんのや! さっさと答えんかい!!」

どうやら解決の糸口が見えた…気がする。
しかし光井の血走った眼を見ると、自分が破綻の入り口に立っているようにも思える。

「いや、アタシはただお前が何でいつも以上にアタシのことを目の敵みたいにするのかなと思ってさ…」

「ごまかすんやない! 大火傷すんでってうちが言ってから、おんどれがうちに何て返したか、もういっぺん繰り返してみいっちゅうとんねん」

ヤバい。
何の戦闘スキルも持ち合わせていない光井に気圧され始めている。
本来ならあり得ない状況に陥ってしまったことへの困惑。
自分よりも格下の存在だと思っていた光井にペースを握られたことへの屈辱。
様々な感情がないまぜになりながら、藤本美貴が選んだのは正面突破だった。

「そんなに聞きたければ何度でも言ってやる。 アタシがこう言ったのさ。 オマエさぁ、なにそんなにいらついてんだよ!!」

45 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:50:11.05 0

「この腐れ外道が!!!」

光井が釣り上げられた深海魚のような形相で睨みつけている。

「オイこらお前。 人が下手に出てりゃつけあがりやがって。 アタシのどこが腐れ外道だ。 言って見ろ!」

「…ア…ゾン2000…やって」

凄まじい剣幕とは裏腹の虫の鳴くような声が響いた。

「はぁ? 何て言ってんだか聞こえない」

「やかましいわい、この極悪人が。 ああ、そうや。 うちはアマゾン二千位の女や。それがどうしたっちゅうんや。
一位かっていつかはランク外に落ちるっちゅうねん。 二千位かて恥ずかしいことやあらへん」

「おいっ」

何かがズレている。
その違和感を正そうと光井に声をかける。

「いや、日本中で発売されている本の中で二千位やったら、これスゴいことちゃうん。 いやぁ、愛佳スゴいぃ」

「おい、こら聞け、テメェ」

開けてはならない扉に手をかけてしまったような気がしてならないが、ここまで来てうやむやに済ますわけにはいかない。

46 名前:名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:50:53.08 0

「おい、こらお前。何がアマゾン二千位なんだ。 いやそれは聞かなくても判る気がするけど。そもそもアタシがいつアマゾン二千位なんて言った」

「言ったやないか、このアホンダラが。くそっ。人が気にしていることを言いやがって。思い出したらやっぱり腹が立って来たわ」

「何その怒りのフラッシュバック。アタシは断じて言ってないから」

「言うたやないか。こんな風に」 


「オマエさぁ、なにそんなにいらついてんだよ」
      ↓
「オマエサァ、ナニソンナニイらついてんだよ」
      ↓
「オマエサァ、ナニソンナニイ」
      ↓
「オマエサァ、ナニソンナニイ」
      ↓
「ァマサァ、ニソンニイ」
      ↓
「アマソン、ニセンイ」
      ↓
「アマゾンニセンイ」
      ↓
「アマゾン二千位」

\川=´┴`)/  ばんざ~い  \川'v')/  ばんざ~い

47 名前:名無し募集中。。。[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:51:40.25 0

「なあ!言うとるやろ!なあ! ほんま人の心の傷に荒塩を擦りこむようなまねしくさりやがって。 ほんま最低や」

「あほかぁぁぁぁぁ!!」

あまりといえば、あまりにバカバカしい展開に脱力しながらも、そんな展開に付き合わされた怒りは収まることはない。

「何この関西系のお笑いみたいなベタベタな展開。 一緒にバンザイした自分が恥ずかしいわ。 
ていうか、お前のイラついてる原因は判ったけどそれってどう考えても美貴関係ないじゃん」

藤本美貴の筋の通った反駁も光井の心には届かなかった。
虚空を睨み、理不尽な怒りをぶつけている。

「四年やで。 四年もおあずけ食わされたんや。 その間に他の連中は何冊写真集出したんや」

「いや、それはまあ時期尚早というか。 確かに15歳未満の写真集とか前例が無いわけではないけれども」

「うちもいつGoサインが出てもいいように、身体に磨きをかけとったんや」

「それは認める。 女のアタシから見てもちょっと羨ましいし」

「それが何、アマゾンランキング、2662位やって。 グラフに載らんかったハロプロは始めてやって、ほっとけや」

「いや、スレ的にはお前はリゾナンターなんだからそういう言い方はよくないんじゃないかな」

「販促の握手会かってパッとせん。 それでも地元の関西に戻ったら大盛り上がりで話題になるかと思ったら70人やて」

「ありがたいじゃねえか。 こんな世知辛い世の中にそれだけの人間がお前の為に集まってくれたんだ」

「ほんま裏切られたわ。 止めよか。 琵琶湖の堰止めて淀川を干上がらせて、大阪の町水不足にしたろか」

「そんな滋賀に琵琶湖しかねえみたいな言い方はよくないと思うぜ。 そもそもお前にそんな権限なんて無い…」

48 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:52:23.59 0

「おまけにファンをグーパンチで引っぺがすてどういう了見やウチの事務所。 お陰でクソみたいなスレを立てられたやないか」

「それは同情する。 ホント気の毒だとは思うけども」

「折れそうになった心を癒そうと街に出て一軒の本屋に入ったんや。 うちの写真集が世間でどんな風に扱われてるのか確認する為にな」

「…それは…イキロ」

「どうせ、うちの写真集なんか置いてないんやろ思ったら、ちゃんと置いてある。 それは売り切れになってないのは引っかかったけどそれはしゃあない。
ちゃんとうちに期待してくれてはる人もおる。 そう思ったんや」

「そうだろ。 そんな人たちの期待に応えるためにもなあ」

「…期待してくれてはる人もおる。 そう思ったんや。 で、何気に店内の壁にその月に発売される写真集のpop広告があって、うちの写真集もあったんや」

「ありがたいじゃねえか。 手間隙かけてpopを作ってくれた書店の人の気持ち、無駄にしないためにも」

「リンリンやったんや」

「エ、エエ」

「光井愛佳写真集のところに使われた写真がリンリンの写真やったんや」

「そ、それは…」

「折れたで。 流石のうちの心もぽっきりと折れたで。 せやから…せいやあああああ!!」

空気が震える気配に飛びずさる美貴。
いつのまにか手にしていた伝家の宝刀、破魔・除霊道具の『キラーソー』を光井が一閃していた。

49 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:53:06.38 0

「おま、何いきなり物騒なもん振り回してくれるんだ。 前髪が何本か持っていかれただろうが」

美貴は声を荒げて正義の味方らしからぬ光井の凶行を詰った。

「お前のせいや」

「は?」

「お前がうちのことをオカマ呼ばわりしたのがそもそものケチのつき始めや。 そやから…せいやあああああ!!」

殺気に満ちた一撃を辛うじて交わした美貴は体勢を立て直す。

「ちょお待て。 何そのいつかのハロモニ。 大人しく聞いてやってたけどこれどう考えてもお前の逆恨みっていうか八つ当たりじゃん」

「ほざけや、この腐れ外道が。 ええか、悪人に人権なんてないんや」

どう考えても悪人としか思えない言動を取り続ける光井が決めつける。

「うちには視える。 破魔・除霊道具の『キラーソー』で身体を切り刻まれたあんたの死に様が。
あんたみたいな極悪人でも死んだら仏さんや。 ちゃんとお経ぐらいはあげ…」

光井は目を疑った。
先刻から動揺と困惑の様子が見て取れた藤本の表情に笑みが浮かんでいる。
それは酷薄で、自身に満ち満ちていた。

「な、何や。 気色悪う笑いやがって。 うちは視たんや。 あんたが朽ち果てる“未来”をな」

予知能力者、光井愛佳の死の宣告を受けても、美貴は動じなかった。
それどころか差し上げた掌をひらひら動かし、波魔の『キラーソー』使いを手招きする。

50 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:54:06.46 0

「何や、その態度。 ほんまムカつくわ~!!」

「いいから、来いよ。 さっさとケリつけちまおうぜ。 
絶対に越えられない格の違いって奴をお前に教えてやろう。 言っとくがアタシの拳は痛いぞ」

さっきまでの精神的優位を覆されたことへの焦りが光井から冷静さを奪った。

「上等や。 贓物さらけ出せや。 そりゃあああああ!!」

光と闇が交錯した。
次の瞬間…大地に倒れた影一つ。


「な、何でや。 うちが視た“未来”はこんなんやなかった。 いったいどんなペテンを使った?」

藤本美貴の拳一発で勝敗は決していた。
光井家の先祖伝来の波魔の武具『キラーソー』は真っ二つに折れ、その持ち主は大地に倒れ、天を仰いでいる。

「ペテンとは失礼な。 アタシからしたらお前の敗因は明白だ」

憎むべき敵から吐き出される言葉を聞き漏らすまいと、耳をそばだてる光井。

「お前は“未来”を視ていない。 これに尽きる」

「う、嘘や。 うちは視た。 確かにあんたのことを…」

息も絶え絶えに自らの無謬を訴える光井を藤本美貴ははねつけた。

51 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:54:48.89 0

「アタシさ、前から思ってたんだよね。 お前とか飯田さんとか“未来”を視れるっていう能力者。
予知能力者が視たという“未来”のビジョンに基づいて、アタシらが動いた結果、視えたビジョンとは異なる“未来”が実現する。
これって結局お前ら予知能力者の予言が外れたってことにならないの。 視えた“未来”が外れちまったんだからさ」

「ち、ちゃう。 未来は一つのものやない。 だからうちら人間の努力によって変えられる」

自分のアイデンティティを揺るがしかねない藤本の言葉を否定しようとする光井。

「お前はそういう解釈するんだね。 でもお前みたいに頭の良くないアタシはシンプルにこう考えたんだ。
お前の視たのはこれから起こるべき“未来”なんかじゃない。 これから起こり得る“未来”の可能性なんだと」

「な、何」

「わかりやすく言えばお前の予知能力の実相は、未来のシミュレーションだってことだ」

「そんなの戯言や。 ただの言葉遊びに過ぎん」

喘ぐような光井の言葉が宙に響く。

「でもその戯言の結果、こうしてお前はノックアウト状態。 アタシはきらり☆ハッピーみたいな」

「百歩譲って、うちの能力が未来のシミュレーションだったとしても、うちの優位は揺るがへん。 あんたの行動が予測できるという点において」

「確かにお前のシミュレーションで解析した“未来”予想は精緻かつ正確だ。 
これまでの的中率を算出すれば97パーセントは超えてるだろう。 但し、それも初期設定が正しければこそ成立する数字だ」

52 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:55:31.23 0

「初期設定って何のことや?」

「シミュレーションの対象をモデル化した変数、っていうかぶっちゃけ様々なデータの数値のことなんだけどね」

「うちは“未来”のことをそんな風に考えたことなんかない」

起き上がろうとしながらも、叶わないもどかしさに焦れる光井。

「そりゃそうだ。 人間の頭なんてコンピュータじゃない。 
不確定な要素を変数として数値化することなく“未来”をシミュレート出来る。 
そこが凄いところなんだが、でもだからこそその初期設定でお前は取り返しのつかないミスをしてる」

「だから、うちは…」

自分の能力を味気ない言葉で処理されることへの反発はある。
しかし光井を光井たらしめている本来の特質である旺盛な知的好奇心には逆らえない。

「うちが何のミスを犯したんや」

光井のその言葉を聞いた藤本美貴は会心の笑みを頬に浮かべた。

「今日のお前、アタシのこと何て呼んだか覚えてるか」

藤本の言葉に騙されまいとしながらも、記憶を辿る光井。

「確か、ミティって…」

「そう、ミティって呼んだ。 アタシのことをミティとお前は呼んだ。 アタシも覚えてる。 でも…」

「…でも?」

53 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:56:25.56 0

「でも、アタシ藤本美貴だから」

「はぁ?」

判らない、目の前の魔女が何を言っているのか判らない。
いや言っていることの意味はわかるのだが、何を伝えようとしているのかが判らない。

「一体何が言いたいんや。 あんたはミティ。 ダークネスの能力者で氷の魔女として恐れられ…」

何かに気がついたのか光井が震えだした。 
自分の過ちを許してもらおうとする幼児のような目で藤本美貴を視た。

「そう、この話のこの時点に至るまでアタシ自身は自分の事をミティだとか氷の魔女だなんてこれっぽっちも認識していない。その証拠がほれ↑」

藤本美貴が指で天を指し示した。
そこにはこう記されていた。

“藤本美貴の災難”と。

54 名前:藤本美貴の災難[sage] 投稿日:2011/02/26(土) 06:57:07.49 0

「つまり、お前はアタシのことを氷の魔女ミティとして認識した上で、“未来”をシミュレートした。
もしもアタシ自身が自分の事をミティとして認識して行動していたなら、お前の予測した“未来”は正確なものになったのだろう。
だが、当のアタシにはそんなつもりはさらさらなかった。 
藤本美貴として思考して行動した結果生まれたシミュレーションの誤差。
お前の視たという“未来”は覆された。
後は単純な肉弾戦、となれば身体能力の高いアタシの方が有利。 でもってお前は地に倒れ天を仰いでいるっていうことだ」

「そんな、都合のいい話が」

「なあに、イイ女っていのはいくつも顔を持ってるもんだぜ」

光井にウインクしながらその場を立ち去ろうとする藤本美貴。

「ちょ、待てって」

「後で喫茶店の方に迎えを寄越すよう連絡しといてやる。 お前が別の顔を持ったイイ女になったらまた遊んでやるぜ」

足取りも軽く立ち去る美貴。 明るい鼻唄が聞こえている。

♪ハッフフフ~、フッフフフ~

今日は何だかイイ気分。 きらり☆ハッピーでスマイル、スマイル。
3丁目の和也君のことなんて、わ・か・ら・な・い。