『XOXO - Hug and Kiss(1)』


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『帰ってくる時は、覚悟、しててね』
 * * * * * * * * * *
彼女が助けてくれたことを覚えている。
彼女が苦しんでいたことを知っている。
彼女が私を信じていることを信じている。
だからこそ今、ここに来ることができたのだ。

「意外と落ち着いてるんだね。もっとあわあわするかと思ってた」
「あ、オリオン座」
ほんと人の話聞いてないよね、と呟いて私は傍らで天をさす指先へ視線を向けた。
「ってことはこっちが南か。ダークネスの本部が南向き建築とは思っとらんかったなぁ」
生まれ故郷なのに全然覚えとらんわ、なんて言葉を聞きながら互いに空を見つめる。

完全に人里離れたここには明かりという明かりも無く、雲一つない夜空を彩る星たちは
普段より数倍の瞬きをもって私たちを見下ろしていた。

「なぁ知っとる?オリオンってかなりの暴れん坊でな、あまりに乱暴やからさそりに殺されてしまったんよ。
だからオリオン座はさそり座が昇ってくるとすぐ沈んでしまうんやって」
たしかに空中を探せどあの特徴的なS字は見当たらず、それが事実であるということに多少なりとも驚く。
彼女が星座にまつわるギリシャ神話に詳しいなんて今初めて知ることだった。

同時に私たちの中の、ここにいないメンバーが脳裏によぎる。
「たしか田中っちさそり座だったよね、ここにはいないけどさ。」
天敵がいない夜空で堂々と胸をはるオリオン座から目をそらし、未だに天を仰ぎ続ける隣人を見つめた。
私の視線に気づいていないはずはない。けれど彼女は一向に顔を背けることをせず、呟いた。

「あの子がおらんようになったら、それこそまたオリオンは暴れだしてしまうやろ。
れいなだけじゃない、絵里もさゆも小春も愛佳もジュンジュンもリンリンも、
うちらがおらんくなった後に必要な人材や。ぶっ潰す役はうちらでええ。いつまでも不良品を抱え込んどく必要は無い」
眼前に横たわる懐かしき生まれ故郷は侵入者の受け入れを待ち望んでいるかのように静けさをたたえ、
言の葉は風にのり、宣戦布告のように響き渡った。


 -リゾナンターの高橋愛と反逆者・新垣里沙が来襲-

情報はとっくの昔に本部中を駆けめぐり、内部は既に迎撃体制を整えているはず。
それにも関わらず外部に襲撃部隊が配備されずにいるのは、歓迎か、彼らなりの哀れみか。
どちらにしろ"実家"に足を踏み入れることが許されたのだ。
i914として生を受け、“欠陥品”と破棄された彼女にとっては憎むべき“母親”であろうが、
身寄りのない赤子だった自身を養い、育て上げてくれたのは間違いなくここだった。
天使の権化のように感じていた私と、悪魔の化身と言ってはばからない彼女。
真逆の形容が表す同一人物の治める城に舞い戻ろうとは予想もしなかったが、“覚悟”は十二分にしてきた。
「言っとくけど、愛ちゃんは誰にも殺させないから。それは私が許さない」
バットにでも打たれたような彼女と視線がぶつかる。
「なんでもかんでも自分1人で決めちゃって突っ走ってさ。だからこそリーダーなんだけど、私だって私なりの考えがあるんだからね」
目をぱちくりさせたお決まりの表情のもとへ手を伸ばした。

瞬間2人の間を一陣の風がすぎ、閉じた瞳が再び捉えた彼女の口元は笑みをたたえていた。
「言っとくけど、里沙ちゃんは誰にも殺させんよ。それはあたしが許さん」
差し出した手のひらが確かな温度で握られる。彼女がいなければ、今までの未来はありえなかった。
これからの未来のため、私は私の役割を演じ、全うするのみ。

『目標-ダークネス本部-殲滅開始』