『■ デビルマッシャー -和田彩花・前田憂佳X後藤真希・矢口真里- ■』


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 ■ デビルマッシャー -和田彩花・前田憂佳X後藤真希・矢口真里- ■

矢口真里は逃げだした。

銃声と、怒号。
先ほどまでの狂騒が嘘のように、夜の闇は静寂を取り戻していた。

がすん…。 がすん…。 がすん…。

漆黒の闇の中、何かが固いアスファルトに叩きつけられる音が響いてくる。

いや漏れ聞こえる音はそれだけでは無かった。

「あぁ…あぁ…やめ…やめろぉ…もうやめろよぉ…」
声だ。悲痛な、どこか諦めにも似た、よわよわしい哀願のつぶやき…。
闇に目が慣れれば、そこには三つの影が見えてくるだろう。

小柄な女性がへたり込んでいる。
迷彩の戦闘服、胸には突撃銃を抱え、足元には空の薬莢が無数に散乱していた。
そしてその視線の先に、二つの折り重なった影。

白いワンピースのドレスから、小麦色の、長く美しい手足をのぞかせた少女が、
黒革のライダージャケットの女性の上にしゃがみこんでいる。
馬乗り?そうではない。
しゃがみこんだ少女の裸足は、仰向けに倒れた女性の胸部と腹部を無遠慮に踏みしだいていた。
右手は無規則に動き回り、左手は女性の頭部へ。

がすん…。

また、不快な音が闇に響く。
その音は少女の左手から、

がすん…。

いや、そうではない。

がすん…。 その音は…。 がすん…。

その音は、女性の後頭部とアスファルトとの衝突音。

がすん…。 がすん…。 がすん…。

高速で叩きつけられた頭部がまるでバスケットボールのようにバウンドし少女の左手に吸いつく。
そしてまた頭部が高速で射出され、アスファルトへ叩きつけられる。
その繰り返し。

「こんなことって…ありえねぇ…ありえねえよ…
さっきの『アレ』はなんだ?
お前、さっき『何をした』んだ?なんで後藤の能力が…
ご…後藤だぞ、後藤なんだぞそれ。お前…それをこんな…こんな簡単に…
オイラと後藤を相手にして…こんなあっけなく…
いやそうじゃない。
何お前、普通に『 能 力 使 っ て る ん だ 』よ!ええっ?
なんでオイラの【能力阻害(インぺディメント;impediment)】が効かないんだ?
なんなんだ…なんなんだよぉお前ぇぇ…」

ごしゃっ…。

ついに女性の―後藤真希の後頭部は無残にはぜ…。一面に血と脳漿を撒き散らした。

「やだなぁ…矢口さぁん。あやですよぉ彩。忘れちゃったのぉ?」

少女は顔を上げない。
動かなくなった後藤真希から目を離すことなく、
その身体から降りることもなく、ゆっくりと立ち上がる。

「なんかぁ、『エッグ』の頃ぉ、彩たちとぉ遊んでくれたことあったじゃないですかぁ☆
彩、とーってもぉうれしかったのにぃ、ショックー☆」

「え…エッグだとぉ…。」

エッグ…、そう呼ばれた次世代能力者の開発計画。
莫大な研究費用を投じたものの、数人の成功例を見るにとどまり、先ごろその計画は休止状態となったはず。
当然成功例の情報は矢口も把握している。そのリストにこんな奴はいなかった…。

「エッグのぉみんな、みーんなが泣いてた。
『じっけん』のときにぃみーんな『たすけてー』ってさけんでた。」

「まさか…リフューズナンバーか!?」

「そう!彩わぁいらない子になっちゃったからぁ処分されちゃうとこだったんだってぇ☆」

リフューズナンバ―…名前などどうでもいい。
要は使い物にならないと判断され、殺処分される廃棄物だ。
それがなぜ生き残っている?それがなぜ『あんな能力を身につけている?』

「なんかぁ彩わぁ、みんなをたすけたかった。
でもぉ、彩わぁバカだしぃ、あの時の彩わぁまだ『力』が足りなかった。
だからぁ…、なぁんにもできなかった…。なんかぁ彩、悲しかった☆」

―でも、今の彩は違う―

「この世界わぁ神さまがいーっぱい住んでるんだってぇ。
日本中の神社にわぁいっぱい神様がいてぇ、山とかぁ川とかぁいろんなところに神様がいてぇ、
仏さまとかぁ、ゼウスさまとかぁ、ドガとかぁ、だびんちとかもぉ神さまなんだってぇ☆
でもぉなんかぁ、いーっぱい神さまはいたけどぉ彩たちをぉたぁすけてくれる神さまはいなかった。
だからぁ、彩わぁ神さまになるの☆
憂佳ちゃんとかぁ紗季ちゃんとかぁ…、あとついでに花音ちゃんとかのぉ神さまなのです☆
みーんなを笑顔にしてあげる女神さまだよっ☆
素敵!素敵!そしたらぁNASAになってぇ宇宙人に会ってぇ宇宙旅行に連れていくんさぁ!
あとぉ憂佳ちゃんにぃ、いひひっ☆憂佳ちゃんにぃ、いーっぱい、いやらしい服とか着せてぇ☆
紗季ちゃんとかにわぁ、お菓子とかぁケーキとかあげてぇ☆
あとぉ62歳になったらぁ、フランスに行ってぇ…、あれ?矢口さん?」

矢口真里は逃げだした。
一目散に。なりふり構わず。

冗談じゃねえよ。なんなんだ?
あんな化物、オイラじゃどうしようもねーよ。
オイラだって一生懸命戦ったんだ。やるだけやった。
後藤はもう死んでる…そうに決まってる。見捨てたわけじゃない。
仕方なかったんだ。
今オイラが死んだら誰が組織に報告するんだよ。
そうさ、もちろん刺し違えてでもかたきを討つ覚悟や度胸はあるさ。
でも今は、報告しなきゃいけない。
決して怖くて逃げだしたわけじゃねえぞ。

「あれぇ?矢口さぁん。彩の話、もう聞いてくれないのぉ?」

少女は逆さ吊りの状態で、全速力で逃げる矢口と並走していた。そう、空中を。

「ひぃっ!」

至近距離の和田彩花の顔面に向け、矢口は突撃銃の引き金を引く。
軽快な連続音とともに秒間十数発の弾丸が和田彩花の顔面へと殺到する。
はずだった。
居ない。先ほどまでそこにいたはずの和田彩花は引き金が引かれるコンマ何秒前から
実に緩慢にその位置を変えていた。
ゆらり。ゆらり。
当たらない。どれだけ撃っても当たらない。
悪夢だ。
先ほどの戦闘で、充分思い知っていたはずの現実。

「ぎゃはは!なにそれー?彩には『そういうの』全然当たんないんさぁ☆」

逃げきれない。

力なく矢口はへたり込んだ。
逆さまのまま少女は矢口の目の前、空中でぴたりと静止した。

「そうだ…お前…、思い出した…、思い出したぞ…お前。」
だが矢口の記憶の中の和田彩花は…あの和田彩花は…
「お前の能力は…、ただの、ただの【浮遊(レビテーション)】だったはずだ!
それも地面すれすれをふわふわと漂うだけの…くらげみたいな役立たず、
それだけの能力だったはずだ!
なのに…なのに『さっきのアレ』はなんだったんだ?『今のコレ』も
なんであんな…、なんで『あんなことが』出来るんだよ!」

少女はくるりと回転し、地上へと降り立った。

「彩の話もう聞いてくれないんだぁ?じゃあ矢口さんもいらない子だぁ☆」

和田彩花の両目が見開かれる。
鼠を弄ぶ子猫のような、羽虫の羽をもぐ赤子のような、
好奇心に満ちあふれた、狂気をはらんだ歓喜の笑み。
ああ、殺される。

「だめよ彩花ちゃん」

矢口の背後から、幼子がぐずついたような甘い声。
振り向いた矢口は息をのむ。誰も、いない。

「お久しぶりです、矢口さん。きっと私のことも全然覚えてないんでしょうけど。」

空間が揺らぐ…、抜けるように白い肌、艶やかな黒髪…。
和田彩花同様の、純白のワンピースを着た、可憐な美少女が浮かび上がる。

「彩花ちゃん。矢口さんは殺さなくていいよ。
花音ちゃんも言ってたでしょ?矢口さんは『話せばわかってくれる人』だって。」

「えーでも矢口さん彩の話聞いてくれないの。だからぁ。」
「だめ、彩花ちゃん。いいからおいで。」

はーい。和田彩花は小走りに駆け寄り、前田憂佳に抱きついた。
ぴったりと頬を寄せ合う。
二人の少女は抱き合ったまま、美しくも冷たい視線を…。
みじめにへたり込み、がくがくと震える矢口へと向けた。

「安心してください。矢口さんは助けてあげます。
今夜のことは、どなたにでも、矢口さんのお好きなように、お話してくださって結構ですが…
ただ、後藤さんの件については、組織とはすでに話が付いていることなので、あしからず。」

「なっ!組織が後藤を売ったとでもいうのかよ?でたらめいうんじゃ」

「そう思うのでしたら、ぜひご自分でお確かめくださればいいと思いますよ。
組織にはこういう情報がもう上がっているはずです。
後藤さんは何ものかと交戦し死亡。詳細一切不明、と。
今日、矢口さんが後藤さんと一緒にいたという記録も全て消されていると思いますけど。」

「そ、そんなことが…」

「矢口さんだって、味方を見捨てて敵前逃亡なんていう恥ずかしい失態を報告するのなんてお嫌でしょ?」

「そーだ☆そーだ☆恥ずかしいぞぉ☆」

和田彩花がすっとんきょうなテンションのヤジを飛ばす。

「あ、彩花ちゃん…。もうちょっと静かにしていようね。」

「はぁーい☆」

「うん…、いいこいいこ…。
さて、矢口さん、いつもご自分がなされていることを他人にされてみたご感想はいかがですか?」

そう、矢口は確かに【能力阻害】を使った。使ったはずだった。だが…

「【二重能力者(デュアルアビリティ)】…?いや、それじゃつじつまが合わねぇ…」

確かに、希少例ではあるが【二重能力者】は存在する。
リゾネイターの高橋もその一人だ。
だが、矢口は別に能力一つづつを封じるわけでは無かった。
相手が一人である限り、複数の能力を持っていようが根こそぎ封じ込める力を持っている。
しかし、コイツの場合は…

「彩花ちゃんにはどんな能力者も絶対に勝てない。
そして、どれだけの銃弾も、彩花ちゃんには無意味…。
現実に体感した矢口さんにはもう充分おわかりですよね?」

この力と引き換えに、彩花ちゃんの時間は、あの日のまま止まってしまったけれど…
前田憂佳は最後の言葉を飲み込んだ。

そして別の言葉をつなげる。

「どうしても死ぬまで戦いたいとおっしゃるのでしたら、強くは止めません。
このまま続けましょう。
でも矢口さんはそこまで聞き分けのない人じゃないですよね?」

完全に上からの物言い。こんなガキに。
だが矢口はすでに戦意は喪失していた。
こいつらの言いなりになるしかない。

「オイラはこのあと、どうすればいい?」

「なにも。
矢口さんは今まで通りの毎日を。
なにかあればその時はこちらから、あらためて接触します。
変な気を起こさないでください、なんて野暮なことも言いません。
もともと矢口さんを縛るつもりもありませんしお好きなように。」

下手なことをすれば『警告なしに消す…。』そう言っているに等しい、最大限の脅迫。

矢口は首を縦に振るしかなかった。

「よかった。
願わくば今後も『平和的な関係で』ありたいものですね。」

少女たちは虚空へ消えた。
揺らぐ陽炎のように、忽然と。


夜の闇は静寂を取り戻していた。




以下補足情報。

補足1.組織側登場人物の能力設定。
後藤真希:【暗黒物質(ダークマター;dark matter)】
  • 詳細不明。実際には物質というよりは異空間の一種と推測されている。
天文の分野でよく耳にする実在の暗黒物質とは別物。
視認される現象としては一切光を反射しないマットで漆黒の不定形の『なにか』を出現させ
自在に形状変化させ攻撃や防御に利用する。
翼と化して飛行する等の使用も可能。
高硬度の物質を斬り裂く、銃弾や爆風、超高熱や超低温を防ぐなど、
物理的には最強の攻撃能力と無敵の防御能力を持つ。
極端な話、全身を【暗黒物質】で覆ってしまえば、文字通り悪魔のごとき人外の戦闘能力を発揮するはずで
後藤相手に勝つことなど、まして殺すことなど不可能に近いはずなのだが…

矢口真里:【能力阻害(インぺディメント;impediment)】
能力を妨害し事実上完全に封じ込めることが可能。
通常は距離にして数十メートル圏内の一人の能力を封じ込める。
またわざと妨害の威力を弱め、『がんばれば能力が使える』ようにすることも可能。
この場合、対象者は普段より威力の落ちた能力、かつ激しい体力気力の消耗を強いられる状態となる。
そんな相手をいたぶって楽しむのだ。
なお、エネルギー弾~という設定は当作品では割愛されており、
実際に相手を倒すのは部下やコンビを組んだ他の能力者となる。
一人で戦う場合は、銃器に頼ることになる。




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