『~共鳴協奏曲~ Concerto resonance』


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窓ガラスも入れられてない吹き抜けの廃墟。
其処へ、『立ち入り禁止』の看板を無視して立ち入る人影があった。
アート気取りの落書きに目もくれず、奥へと進んで行く。

まるでここに踏み入った経験があるように本来エレベーターがあるはずの空洞の
脇をすり抜け、階段を踏みつけるように登りだす。
息を切らしながら、それでも人影は上へ上へと一心不乱に登って行く。

空高くあった太陽はすでに傾き、目に染みる色の夕焼けが、街を、この廃墟を包み込む。
人影、彼はその姿を、ただ見つめている。

最上階のフロアは何も無い。
在るのは、数年前に自殺した少年に手向けられたと思しき枯れた花が一つ。

 「僕は…」

この世界に残した爪痕。
誰かの心に残した傷は、今此処に立つ彼の心にも爪を立てる。

 「僕が居ても世界が変わらないなら、居る必要なんてない」

彼は呟く。
生唾を呑み、じっくりと一歩を踏み出し、ガラスの入っていない大きな窓枠へ。
其処から見えるのは、まるで街が、世界が、太陽に焼かれている風景。

 「だから僕は…」

決心をもう一度、口の中で繰り返そうとした。

 「――― ふうん、飛ぶんだ」

声が鳴る。
突然のできごとに彼の喉は奇妙な音を立てた。
この場所には他に誰も居ない。登って来たのなら気付くはず。
背中にゾワリと嫌な震えが走る。

 「……なっ!?…」

彼は飛び跳ねるように窓から離れる。
勢いで、みっともなく尻餅を付いた。

 「あ、ごめん。びっくりした?」

窓から射し込む夕陽を背に、女の子が小さく笑った。
…気がしただけだ。
彼は、喉にたまった泡のような空気と共に大きく飲み込む。
乾ききっている口内、それでも彼は、少女から視線を離せなかった。

否、少女なのかどうかも分からない。
直前まで身体を支配していた恐怖が薄れて行き――― 見惚れていた。

強い意志を秘めた大きな瞳に長い睫毛。
紅い唇と透き通るような淡く白い肌。
陽が沈み始めた薄暗い世界に浮かび上がる、白黒を併せ持つ其の姿に。

 「飛ぶならもっとええ天気の方がええと思うけどね。
 こんな日に飛ぶなんて――― 死ぬ気だった?」

彼女が言葉を弾く。
もしかしたら大人のなのかもしれないが、子供っぽいその声が不思議と鼓膜を刺激する。
ゆっくりと近づいてくる彼女。
膝を抱えるように屈むと、首をやや傾けて彼の顔をじっと見つめた。

「でもこんな所で飛んでも、けっこー痛いかもね。それでも死にたいの?」
 「……ぼ、僕は、死にたいんだ。こんな世界に居たって何もいいことなんてない、だから」
 「そっか……」

彼女がため息のように零す。
酷く哀しく、やけに大きく響き、彼の心が揺れる。

他人の筈の自分を嘆いてくれているのか?
自分のことのように哀しんでくれているのか?

彼は彼女に見惚れていた。
そして…。

 「それなら――― あーしがやってあげるやよ」
 「……へ?」
 「だから、あーしが、"殺ってあげる"んよ」

指を交互に指し示す彼女。

 「………な、何を…っ!…」

彼の喉から悲鳴が漏れる。
パチンと乾いた音、フィンガースナップが鳴り響いた。

最期に見たのは彼女の笑顔。
こんな状況で無ければ一発で彼は彼女への恋に落ちていただろう。
だが、それは仮定の話だ。

恋に落ちる前に、どうやら自分自身が堕ちてしまうらしい。
地上へまっしぐら。
気付けば、彼は外に放り出されていた。
しかも先ほどまで居た廃墟よりも高い、手を伸ばせば空を掴めそうな、そんな場所へ。

 「うわあああああああああああああああああああっっっ!」

何故自分がそんな場所に居るのかなどという疑問など吹っ飛んでいた。
彼は喉が痛くなるほどの叫びを上げる。浮遊感の後の落下する時に包む不気味な風。
ただひたすらに、死ぬ恐怖を取り払うように両手を振り回す。
一瞬前まで、死にたいと言っていた自分が、こうして死ぬ事を拒否している。
だが頭に浮かぶのは、自分がこのまま地面に叩きつけられるという事実のみ。
だからこそ彼は叫んだ。
生まれて初めて想った。

 「し、死にたくないいぃぃぃぃ!!!」
 "――― なら、軽々しく死にたいなんて言ったらあかんよ。君の世界はこれからなんやから"

先ほどの彼女の声がまるで頭の内側から聞こえて来た。
瞬間、彼の身体は廃墟の室内の床にドサリと転がる。
溜まった埃を舞い上げ、彼女が手で払い、「ぶぇっくしょい」とおっさんのような咳をした。

 「見つかった?愛ちゃ……なにしたの?」
 「ん?やぁ、この子の"意志"がどんなもんなんかちょっと気になってね」
 「気絶させるほどってどんだけよ」

階段から上がってきたのは彼女と同じくらいの少女。
強い意志を秘めた大きな瞳に長い睫毛。
その上にある凛々しい眉がひそまる。
気絶してしまった彼の安否を確かめながら、彼女に文句を言った。

 「というか、この子を気絶させちゃったら"コレ"を何処で手に入れたのか分かんないじゃないの」
 「あ、ごめん」
 「ごめんじゃないでしょ、全く愛ちゃんはー」

愛と呼ばれた彼女は反射的にペロッと舌を出して謝罪し
少女はそんな彼女の言動に慣れているのか諦めたようにがっくりと頭を垂らしながら言う。

 「ま、まぁほら、こうして"コレ"も回収できたし、今日はこれで、な?」
 「あーはいはい。分かったから。にしても、最近この子みたいなのが増えて困るよね。
 愛ちゃんが見つけてくれなかったらって思うと」
 「それってあーしのおかげってこと?珍しい、ガキさんがあーしを褒めた」
 「ねぇ、それって自覚か無自覚か突っ込んでほしいの?」
 「よーし、これからもやるよあーしはっ」
 「聞いてよねぇってば」

ハリキる愛を少女が止める。
沈みかけの夕陽が最期の光を発して、二人を照らしていた。

 「あーしはいくらでも見つけたげるよ。やってあーしらは『リゾナンター』やからな」

"意志"を持つ不思議な魔石、ダークネス。
ダークネスが持ち主と認めた人間は、その意志に触れる事により
特別なチカラを得るとされてきた。

だがその代償として人間はダークネスに意志を呑まれる。
その存在と出来事はこの世界の何処かで人知れず起こっていた。

 いつしか、そのダークネスを回収する任務を請け負う少女が現れた。
 その少女は白と黒を併せ持つ姿をし、周りには8人の少女達が集まる様になる。

現在、少女はダークネスが起こす不思議な事件を解決する日々を過ごしている。
何処から出現しているのかを調査しながら世界を救うために立ちあがる少女達。

その9人を見たある者はこう呼んだ。
蒼き意志と共鳴する者達、『リゾナンター』と。