『夢の欠片』


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「ねぇ、さゆ」


覚醒と微睡みの間。薬がの作用か先ほどから意識がはっきりしない。
絵里は目が醒める度さゆみの名を呼び、そして何言か喋り、また眠るのを繰り返していた。

つい30分前に起きた時には、リンゴが食べたい、と口にしたので
さゆみは病院の売店でリンゴを買い、不器用な手つきで皮を剥いている。

「なに?絵里」

リンゴを剥く手を止め絵里を見やる。
視線は定まっておらず、また今にも眠ってしまいそうだった。

「絵里ね、元気になったら喫茶店で働きたいな…」

ドクン、と一つ鼓動が跳ねる。
さゆみはリンゴをテーブルに置き、絵里のめくれた布団をかけなおしてやる。
平静を装えているだろうか。震えてしまいそうな指先で絵里の前髪を整える。

「喫茶店?」

「絵里ね、夢を見たの。さゆとねぇ…あとは、誰だかわかんなかったけど、…みんなでね、喫茶店で働いてたんだよ」

「うん」

「それがね…」


絵里の瞼がぱたんと閉じる。さゆみは何も言わず言葉の続きを待った。
あの日からいくつかの季節が過ぎた。いつの間にか伸びた絵里の髪の毛が枕の下で跳ねている。

「なんだかね、すっごく懐かしい感じがして…すごく、楽しそう、だったの」

「うん」

大きく息を吐いて重い瞼を上げる。覗き込むさゆみと目が合い、絵里はふわりと微笑んだ。

「ねぇさゆ」

「なに?」

「さっき見た夢みたいに、…絵里にも友達、できる…かなぁ…?」 

言い終わるのが早かったか、再び眠りにつくのが早かったか、刹那、絵里は穏やかに寝息を立てていた。
鼻の奥がツンとして、さゆみは眉間に力を入れる。


里沙に書き換えられた記憶。
さゆみはあの日からいつも、絵里が目覚めた時に全てを思い出していればいいと思っていた。
たとえ病気が絵里の身体を蝕んでも。起き上がれないほどの傷を負っても
絵里が全てを思い出し、そして仲間達と再び戦える日が来ればいいと願っていた。


――― 絵里は今、ひとりぼっちだ。


不意にさゆみと初めて屋上で出会った、あの時のような顔をする。
目を離すとふわりと、今度こそそこから飛び立ってしまうような気がする。

耐え切れずに溢れた涙が絵里の頬に落ちた。ぽたぽたと途絶えることなく絵里の頬に、シーツに流れ落ちる。
さゆみは涙で濡れたシーツを痛いくらいに握り締め、構うことなく眠る絵里に向かって喚いた。
知っている。再び眠ってしまうと暫くは起きれない。季節が移り行くたび、絵里に投与される薬は強くなっている。


「ばかっ!絵里にはね、友達よりももっとずっとすっごい仲間がいるんだからっ!!!!」


起きる度にさゆみの名前を呼ばないで。不安になんないで。あの頃はひとりでも平気だったじゃん
一人で入院して、一人で退院して、自分の足でリゾナントへ来てたじゃない
ねぇ、絵里。早く見つけてよ。ガキさんが残してくれた小さな欠片を拾ってよ
全部い思い出してよ、ねぇ、絵里。絵里はひとりじゃないんだよ、絵里…




「あー…なんか絵里、めっちゃ寝てた?」

「寝てた寝てた。たまに起きてたけど」

「うっそぉ。全然覚えてないや。あれ、リンゴ?」

「寝ぼけてリンゴ食べたいって言ってたから買ってきてあげたよ。なかなか起きないからちょっと色変わっちゃった」

「ほんと?絵里そんなこと言ってたっけか」

「言ってたよー。せっかく剥いたんだから食べてよね?」

「食べるよ!ありがと。ね、絵里他になんか言ってた?」

「…ううん、何も言わなかったよ」





 共鳴してよ、絵里。絵里の場所は、ココにあるのに。